「土地や建物が複数あるのですが、同じ売買(または相続)なら一枚の申請書でまとめて登記できますか?」
――現場で頻出するご相談です。結論から言うと、一定の条件がそろえば可能です。根拠は、不動産登記令の“例外規定”。ただし、条件が少しでもズレると不可(分割申請に)となるため、通達・先例に沿った設計がカギになります。根拠と実務ポイントを、順番に見ていきましょう。
1|法令の芯:一物件一申請情報の原則と「例外」
不動産登記は原則として一物件ごとに申請情報を作るのが基本(いわゆる「一件一申請情報主義」)。
ただし、不動産登記令4条ただし書が例外を認めています。
同一登記所の管轄内にある二以上の不動産で、登記の目的・登記原因・その日付が同一のとき は、一の申請情報で可(ほか、省令が定める場合も)。
この「ただし書」を実務に落とし込んだのが、各種の通達・先例です。
2|実務での要件整理(所有権関係)
一括申請が通るかどうかは、次の5点がそろうかでまず判断します。
- 登記の目的が同じであること
例:「所有権移転」や「持分全部移転」など、目的名が統一されている。 - 登記原因とその日付が同じであること
例:同じ契約日付の売買、同じ起因日の相続など。 - 申請人(権利者・義務者)が同じであること
名義・住所等が整合しているか。 - 同一登記所の管轄内であること
管轄がまたがると不可。 - 第三者の権利関係が邪魔しないこと
先順位の権利や仮登記等が物件ごとにバラつくと、分離を求められやすい。
この枠組みは、実務解説でも繰り返し整理される基本線です。
3|「できる」を後押しする通達・先例(年月日・番号つき)
① 共有名義の不動産をまとめて売る場合
たとえば、兄弟が共有する二筆の土地を、同じ日に同じ相手に売却した場合。
このようなときは、一枚の申請書で所有権移転登記ができるとする先例があります。
数人共有の不動産の所有権を第三者に移転する場合には、同一の申請書によって申請することができる。また、共有者の一人が他の共有者数人の持分を取得する場合も同様である。
(昭和35年5月18日 民甲第1186号 法務省民事局長回答)
この回答は、所有権関係における一括申請の「礎」となる通達で、以後の登記研究でも繰り返し引用されています。
甲・乙共有の不動産を丙が単独で買受けた場合、登記の目的を「共有者全員持分全部移転」として一括申請ができます。
② 売買契約が複数に分かれていても、日付・当事者が同じならOK
一方、二筆の土地について別々の売買契約書を作成していたとしても、当事者と日付が同じであれば、一括申請を認めた登記研究があります。
二個の不動産について、それぞれ別個に売渡証書が作成されている場合であっても、売渡人・買受人が同一であり、売渡日付が同一であるときは、一の登記申請書により申請することができる。(登記研究342号)
実務では「契約書が二通あるから分けなきゃいけない」と誤解されがちですが、
この先例により、当事者・原因・日付が一致していればまとめても良いことが確認されています。
③ 複数の相続不動産をまとめて登記するケース
被相続人名義の土地・建物など複数の不動産を、同一の相続原因で相続する場合も、一括申請が可能です。
被相続人名義の土地・建物その他複数の不動産について、相続を原因として所有権移転登記をする場合には、同一の登記申請書によって一括申請することができる。(登記研究353号)
このように、登記目的・登記原因・相続人がすべて同じであれば、土地・建物を問わずまとめて相続登記ができるという運用が確立しています。
④ 持分割合が異なっても一括できることがある
共有物件のうち、持分が異なる複数の物件を同時に移転する場合でも、登記原因や当事者が一致していれば、一括申請を認めた先例があります。
共有者の一人が、他の共有者数人の持分を取得する場合において、その登記原因および日付が同一であり、かつ登記の目的が同一であるときは、同一の申請書により申請することができる。(登記研究437号)
この場合、登記の目的を「持分全部移転」と統一し、物件ごとの持分割合を申請書の「物件目録」に明記する形で整理します。
登記研究
所有権移転
同一の被相続人名義となっている不動産の共有持分と他の不動産所有権は、同一の申請書をもって相続を登記原因として登記申請をすることができ、この場合の登記目的は、「何某持分全部移転・所有権移転」とし、持分の表示は申請書の不動産の表示中に記載すればたりる。(登記研究第353号115頁)
持分の異なる2個の不動産(A物件持分4分の1、B物件持分4分の2)について、登記原因、当事者が同一である持分全部移転の登記は、同一の申請書でできる。(登記研究第430号)
甲が4分の1、乙が4分の1、丙が4分の2を共有する物件について、乙が持分全部、丙が持分4分の1を甲に移転する場合、登記の目的を「乙持分全部、丙持分4分の1移転」として、一括申請できる。(登記研究第437号)
登記権利者・登記義務者・登記原因が同一であり、かつ、持分の移転について第三者の権利に関する登記(処分制限の登記及び予告登記を含む。)がなされていない限り、所有権移転登記と共有持分全部移転登記は、同一の申請書で申請することができる。(登記研究第470号97頁)
甲、乙、丙各3分の1の共有となっている場合、各共有者の持分のうち各6分の1を同一契約でA、B、Cに各6分の1移転する場合、登記の目的は、「共有者全員持分一部移転」とするべきではなく、「甲持分6分の1、乙持分6分の1、丙持分6分の1移転」とするのが相当である。(登記研究第546号152頁)