合同会社の定款で“会社の未来”が変わる──登記実務で見える4つの盲点【司法書士が解説】

目次

はじめに

合同会社(LLC)は、柔軟でコストも低く、
家族経営の会社にも人気の法人形態です。

ただ、実務をしているとこう感じます。

「合同会社ほど、“定款の一文”で結果が変わる会社はない。」

相続が止まる、登記が補正になる、思わぬ解散扱いになる──。
原因の多くは、定款と登記の設計にあります。

この記事では、合同会社の運営・登記・承継でよくあるトラブルを、
実際の条文(会社法)と登記運用の現場感を交えて、4つの視点から解説します。

① 相続が起きたときの「608条」を見落とさない

合同会社(持分会社)で意外と見落とされやすいのが、
社員がいなくなった場合=自動的に解散する というルールです。

(会社法641条4号)
持分会社は、次に掲げる事由によって解散する。
四 社員が欠けたこと。

この規定により、社員が一人もいなくなった時点で、会社は法律上「解散事由が発生した」状態になります。

つまり、代表社員が死亡し、相続人がまだ社員として加入していない場合、
その時点で会社は「社員欠缺」により自動的に解散事由が生じることになります。

解散を防ぐ方法

この事態を防ぐ唯一の方法が、会社法608条に基づく「相続承継条項」を定款に置いておくことです。

定款に「社員が死亡した場合、その相続人が当該社員の地位を承継する」と定めておけば、
相続の瞬間に相続人が当然に社員となり、
「社員欠缺=解散」という状態を回避することができます。

この条項を置いておくことで、
代表社員の死亡後も業務を止めず、登記や銀行手続などの実務もスムーズに継続できます。

相続人が複数人いる場合

相続人が複数いる場合でも、遺産分割協議により持分を承継する相続人を一人に定めれば、
その者のみを社員として登記することが可能です(他の相続人全員が社員になる必要はありません)。

実務上は、遺産分割協議書において「〇〇が持分を単独で承継する」と定め、
その結果に基づいて登記申請を行うのが通例です。

このようにしておけば、合同会社においても代表社員の死亡後に会社が止まるリスクを最小化できます。

② 法人が社員の場合、「598条」の職務執行者を登記する

近年、「親会社が合同会社の社員」「グループ会社型合同会社」という設計が増えています。
この場合に注意すべきが、職務執行者(会社法598条)です。

(会社法598条)
業務を執行する社員が法人である場合には、
当該法人は、その職務を執行する者を定めなければならない。

この職務執行者のうち、登記が必要なのは「代表社員となる法人」の職務執行者のみです。
代表社員でない業務執行社員(法人)の職務執行者については、登記事項ではないため、登記簿には記載されません。

ただし、登記の要否にかかわらず、
会社法第598条第2項により、法人社員は選任した職務執行者の氏名及び住所を、他のすべての社員に通知する義務があります。

③ 一人合同会社でも「595条の利益相反条項」が鍵

「うちは社員が一人だけ。だから利益相反なんて関係ないですよね?」
──これもよくある誤解です。

(会社法595条)
業務を執行する社員が自己又は第三者のために会社と取引をする場合には、
当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならない。
ただし、定款に別段の定めがあるときは、この限りでない。

理屈の上では、社員が一人なら「他の社員」が存在しないため、承認不要。
しかし登記実務では、そう単純ではありません。

2007年、東京法務局が監修した
「登記インターネット第88号(合同会社の利益相反行為について)」では、
「一人合同会社で自己取引を行う場合、
会社法595条1項ただし書の定めがある定款を添付すべき」との見解が示されています。

つまり登記官は、
“条文上は不要でも、定款に明示されていなければ補正することがある”という立場。

法務局によっては定款にこの条項がなくても登記が通る場合もありますが、不動産売買や金銭貸借を伴う取引では、この条項を入れておくことで手続きがスムーズに進みます。

④ 業務執行社員の「報酬」は自由に見えて自由ではない──590条の実務と税務の落とし穴

合同会社の魅力のひとつに「自由な報酬設計」があります。
しかし、自由に決めていいという意味ではありません。

1.会社法590条──報酬の根拠は定款または社員の同意

会社法では、業務執行社員の報酬について次のように定めています。

会社法第590条第1項
業務を執行する社員の報酬その他職務の執行に関する事項は、
定款に定めるか、または社員の過半数の同意によって定める。

つまり、報酬は「いつ・いくら・誰が決めるか」を明文化しなければなりません。
口約束や慣習的な支給では、法的にも税務的にも不安定です。

定款でルールを定めておくことが、
将来の紛争・税務指摘を防ぐ第一歩です。

2.実務的な考え方──“決め方のルール”を残す

定款に金額まで書く必要はありません。
大切なのは「決め方のルール」です。

たとえば、

「業務執行社員の報酬は、社員の過半数の決議により定める」
「報酬の改定は、毎期開始後○か月以内に行うことができる」

このような条文を置いておくと、
毎期の報酬決定に根拠が生まれ、登記や税務の裏付けにもなります。

議事録を残しておけば、税務署にも説明しやすく、
合同会社ならではの“社員間の合意”を明確にできます。

3.報酬と利益分配は別もの

ここで混同されがちなのが「報酬」と「剰余金の分配(利益分配)」です。

  • 報酬=社員が業務を行ったことへの対価
  • 分配=出資者としてのリターン

この二つを明確に分けておかないと、
「報酬なのか、利益配分なのか」が曖昧になり、
税務上の取り扱いが不安定になります。

合同会社の定款では、
両者を別条項で定めるのが実務上の基本です。

4.税務上の考え方──「役員報酬」扱いになる場合がある

税務上、合同会社の業務執行社員は、
法人税法上の“役員”に該当するとされています。

したがって、支給する報酬は「役員報酬」として扱われ、
損金に算入されるには以下の条件を満たす必要があります。

  • 金額が毎月同じである(定期同額給与)
  • 期首から3か月以内に金額を決定している
  • 賞与など臨時の支給を行っていない

これらは税務上の実務ルールであり、
合同会社でも適用されると考えるのが安全です。

5.「使用人兼務」は原則できない

合同会社では、業務執行社員は出資者でもあります。
そのため、株式会社のように「役員でありながら従業員」という
“使用人兼務役員”の構成は、基本的に想定されていません。

報酬を給与として支払いたい場合でも、
業務執行社員である限り「役員報酬」扱いとなるのが原則です。

6.実態と定款を合わせることが何より大切

報酬の金額や決定方法が定款に定められていても、
実際にその決議をしていなければ意味がありません。

  • 社員決議をした日付・内容を議事録に残す
  • 実際の支給額と一致しているか確認
  • 定款・議事録・会計帳簿を整合させる

この3点を守っておけば、
登記官・税務署のどちらに対しても安心です。

“定款を守っているか”より、“実態が定款と合っているか”が問われる。
——これが、合同会社の報酬実務の本質です。

まとめ──合同会社の定款は“法令”と“運用”の間にある

合同会社は「自由設計」が魅力。
でもその自由の中には、登記官・取引先・相続人の“判断”が入り込む余地があります。

  • 相続承継条項(608条)で止まらない会社にする
  • 法人社員には職務執行者(598条)を登記
  • 一人会社でも利益相反条項(595条)で補正を防ぐ
  • 報酬(590条)はルールと実態の整合性を保つ

合同会社の定款は、法律の条文どおりに作るだけでは不十分。
「運用で止まらない」ことを意識して設計してこそ、“生きた会社法務”になります。

定款は、会社を守る最初の契約書であり、
司法書士が未来に備えるための設計図です。

代表司法書士・行政書士 今井 康介

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