
※本記事は2026年10月時点の情報に基づいて解説しています。
登記簿(登記事項証明書)を取ってみたら、何十年も前の「仮登記(かりとうき)」が残っていた。売却や融資の話が進んでから気づいて、あわてて調べている方も多いと思います。
仮登記の抹消は、原則として所有者と仮登記の名義人が一緒に申請しますが、法律には「1人で申請できる」方法も用意されています(不動産登記法110条)。この記事では、単独申請の2つの方法を中心に、必要な書類、申請書の書き方、名義人が亡くなっている場合や時効の考え方までを、順にお話しします。
古い仮登記は、まず「名義人やそのご家族に協力してもらえるか」で進め方が大きく変わります。私は、登記簿と当時の契約書を一緒に確認し、いちばん負担の少ない方法からご提案するようにしています。
この記事のポイント
- 仮登記の抹消は、仮登記の名義人が1人で申請できます(不動産登記法110条前段)。このときは名義人の登記識別情報(権利証)が必要です。
- 所有者などの利害関係人も、仮登記の名義人の「承諾書(実印+印鑑証明書)」があれば、1人で申請できます(同条後段)。権利証は要りません。
- 登録免許税は不動産1個につき1,000円です。時効で権利が消えていても、仮登記は自動的には消えないので、援用(えんよう)と登記の手続きが別に必要です。
仮登記とは?「順番の予約」と考えると分かりやすい
仮登記とは、将来する登記(本登記)の順番を、先に確保しておくための登記です。
仮登記には、大きく分けて2つのタイプがあります。
- 1号仮登記:権利はもう移っているのに、登記に必要な書類がそろっていないときにするもの(不動産登記法105条1号)
- 2号仮登記:「将来、所有権を移してもらう権利(請求権)」を守っておくためのもの(同条2号)。「所有権移転請求権仮登記」がこれにあたります。
たとえば、売買の予約をしたとき、農地法の許可を待っているとき、死因贈与(しいんぞうよ:亡くなったら贈与する約束)をしたときなどに使われます。あとで本登記をすると、仮登記をした時点の順番で権利を主張できます。
その一方で、役目を終えた仮登記がそのまま残っていると、買主や金融機関から「この権利はまだ生きているのでは」と心配され、売却や融資が止まる原因になります。
仮登記を抹消する3つの方法
結論からいうと、方法は次の3つです。
| 方法 | 申請する人 | 主な書類 |
|---|---|---|
| ① 共同申請(原則) | 所有者+仮登記の名義人 | 登記原因証明情報、名義人の登記識別情報、(所有権に関する仮登記なら)名義人の印鑑証明書 |
| ② 名義人の単独申請(110条前段) | 仮登記の名義人だけ | 登記原因証明情報、名義人の登記識別情報、(所有権に関する仮登記なら)名義人の印鑑証明書 |
| ③ 利害関係人の単独申請(110条後段) | 所有者など利害関係人だけ | 登記原因証明情報、名義人の承諾書(実印)+印鑑証明書 |
不動産登記法110条は、次のように定めています。
「仮登記の抹消は、第六十条の規定にかかわらず、仮登記の登記名義人が単独で申請することができる。仮登記の登記名義人の承諾がある場合における当該仮登記の登記上の利害関係人も、同様とする。」
ふつう、権利を消す登記は、得をする人(所有者)と損をする人(名義人)が一緒に申請します(不動産登記法60条)。仮登記は「本登記の前段階」なので、手続きを軽くして、1人でも消せるようにしているのです。
① 共同申請(原則)
所有者(登記権利者)と仮登記の名義人(登記義務者)が一緒に申請します。名義人の協力が得られるなら、基本の形です。
② 仮登記の名義人が1人で申請する(110条前段)
仮登記の名義人が「もうこの権利はいらない」という場合、名義人だけで申請できます。所有者の協力は要りません。
このときは、名義人の登記識別情報(昔の登記済証=権利証を含みます)を出す必要があります(不動産登記令8条1項9号)。所有権に関する仮登記(所有権移転請求権仮登記など)の場合は、名義人の印鑑証明書(作成後3か月以内)も必要です(不動産登記規則47条3号イ(5)・48条、不動産登記令16条)。
権利証をなくしている場合でも、法務局からの事前通知や、司法書士などによる本人確認情報で代えることができます(不動産登記法23条)。
③ 所有者などが、名義人の承諾書をもらって1人で申請する(110条後段)
所有者など、その仮登記について登記上の利害関係を持つ人は、仮登記の名義人の承諾があれば、1人で申請できます。
ここでいう利害関係人には、仮登記がされた不動産の所有者のほか、仮登記より後に所有権や抵当権の登記を受けた人なども含まれると解されています。
必要な書類は、不動産登記令の別表70項に定められています。
- 登記原因証明情報
- 仮登記の名義人が作成した承諾書(または、名義人に対抗できる裁判があったことを証する書面)
- 登記上の利害関係を持つ第三者がいるときは、その人の承諾書(または裁判の書面)
承諾書には名義人が実印を押し、印鑑証明書を付けます(不動産登記令19条)。この印鑑証明書には、申請書に付けるもののような「3か月以内」という期限の決まりはありません。
この方法なら、名義人の権利証(登記識別情報)は要りません。名義人に「署名と実印だけお願いします」と頼めるので、権利証が見つからない古い仮登記では、いちばん現実的な方法になることが多いです。
「登記上の利害関係を有する第三者」がいる場合
仮登記の権利そのものに、差押えなどの登記が付いている場合は、その人の承諾も必要です(不動産登記法68条)。①〜③のどの方法でも同じです。登記簿の「付記」の欄までよく確認してください。
必要書類の書き方(記載例)
以下は、所有権移転請求権仮登記を「合意解除」で抹消する場合の一例です。実際の案件では、登記簿の記載や原因に合わせて書き方を変えてください。
登記申請書(②名義人の単独申請の場合)
登記申請書
登記の目的 2番仮登記抹消
原 因 令和8年○月○日解除
権 利 者 西宮市○○町○番○号 甲野太郎(所有者)
義務者(申請人)○○市○○町○番○号 乙山次郎(仮登記の名義人)
添付情報 登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明書
令和8年○月○日申請 ○○法務局
登録免許税 金1,000円
不動産の表示 (登記簿のとおり記載)
登記申請書(③所有者が承諾書をもらって申請する場合)
登記の目的 2番仮登記抹消
原 因 令和8年○月○日解除
権利者(申請人)西宮市○○町○番○号 甲野太郎
義 務 者 ○○市○○町○番○号 乙山次郎
添付情報 登記原因証明情報 承諾証明情報
登録免許税 金1,000円
「2番」の部分には、登記簿の甲区(所有権に関する欄)に載っている仮登記の順位番号を書きます。代理人に頼むときは、委任状(代理権限証明情報)も付けます。申請人の書き方などは、提出先の法務局の案内もあわせてご確認ください。
登記原因証明情報の例
1 登記申請情報の要項(登記の目的、原因、当事者、不動産の表示)
2 登記の原因となる事実
(1) 平成○年○月○日、甲野太郎と乙山次郎は、本件不動産について売買予約を締結し、同月○日、所有権移転請求権仮登記をした。
(2) 令和8年○月○日、甲野太郎と乙山次郎は、(1)の売買予約を合意により解除した。
(3) よって、本件仮登記は抹消されるべきものである。
(日付・○○法務局御中・名義人の署名と押印)
承諾書の例(③の方法)
承諾書
下記不動産の甲区2番 平成○年○月○日受付第○○号 所有権移転請求権仮登記を抹消することを承諾します。
(日付・住所・氏名・実印)
(不動産の表示)
※名義人の印鑑証明書を付けます。
登録免許税は1個1,000円
登録免許税は、不動産1個につき1,000円です(登録免許税法別表第一1(15))。土地1筆と建物1棟なら2,000円です。同じ申請書で20個を超える不動産の抹消をするときは、1件2万円になります。
名義人の住所・氏名が変わっている場合
古い仮登記では、名義人の住所や氏名が登記簿と今とで違うことがよくあります。抹消の登記では、名義人の住所・氏名の変更登記を先にする必要はなく、住民票(除票)や戸籍の附票など、つながりが分かる書類を付ければ足りる扱いです。
名義人が亡くなっている場合
名義人の相続人が、名義人に代わって申請します(不動産登記法62条)。相続人が複数いれば、原則として相続人全員がかかわります。相続人の一部だけで申請できるかは、事案ごとに法務局への確認をおすすめします。
ここで大事なのは、「抹消の原因がいつ生じたか」です。
- 名義人が生きているうちに原因が生じていた場合(生前に合意解除していた、権利が消えていたなど):相続人が、相続による移転の登記をしないで、そのまま抹消を申請できます。戸籍などで相続人全員であることを示します。
- 名義人が亡くなったあとに、相続人との間で解除などをした場合:いったん相続人へ仮登記の権利を移す登記をしてから、抹消します。
混同(こんどう)で消える場合
仮登記の名義人が、別の売買や相続などで、その不動産の所有者になったときは、「所有権を移してもらう権利」を持っている意味がなくなります。この場合は「混同」を原因として抹消できます(民法520条)。
ただし、仮登記のあとに第三者の権利の登記が入っている場合などは、混同で消えないことがあります。登記簿の順番をよく確認してください。
名義人と連絡がとれない・協力してもらえない場合
名義人やその相続人が行方不明だったり、承諾書への押印を断られたりした場合は、裁判で解決します。
- 仮登記の抹消登記手続を求める訴訟を起こし、勝訴判決が確定すれば、所有者が1人で抹消を申請できます(不動産登記法63条1項)。相手の行方が分からないときは、公示送達という方法で裁判を進められます。
- 所在不明の場合には、公示催告・除権決定(じょけんけってい)という手続き(不動産登記法70条1項・3項)を使える場面もあります。仮登記でこの手続きが認められるかは、権利が消えていることをどう示せるかなど、事案ごとの検討が必要です。
なお、2023年4月の不動産登記法の改正で、存続期間が過ぎた地上権・賃借権や買戻しの特約は抹消しやすくなりましたが(同法69条の2・70条2項)、仮登記はこの対象に入っていません。
仮登記に時効はある?売買予約の仮登記と消滅時効
結論として、仮登記そのものに時効はありません。何十年たっても、登記簿から自動的に消えることはありません。
ただ、仮登記の土台になっている権利が、時効で消えていることはあります。
売買予約の「予約完結権」
売買予約の仮登記では、買主側が「買います」と言えば売買が成立する権利(予約完結権)を持っています。
予約完結権は、改正前の民法のもとでは、債権に準じて10年で時効にかかると解されてきました。2020年4月1日以降の契約では、債権と同じく「行使できると知った時から5年」または「行使できる時から10年」のいずれか早い方(民法166条1項)が目安になると考えられます。2020年3月31日以前の契約には、改正前の10年のルールが適用されます(改正法附則10条)。
農地の「許可を待つ」仮登記
農地の売買で、農地法の許可を条件にした仮登記の場合、買主は「許可の申請に協力してほしい」と求める権利を持っています。最高裁は、この権利も時効で消える債権だとしています(最高裁昭和50年判決)。
ただし、時効の期間が過ぎたあとでも、時効を援用する前に農地が宅地などに変わっていた(非農地化した)場合は、買主に所有権が移ってしまい、あとから援用しても効果がないとした判例があります(最高裁昭和61年3月17日判決)。起算点や援用のタイミングで結論が変わるので、「何年たったから大丈夫」と機械的に判断するのは危険です。
時効を理由に抹消するときの手順
時効は、援用(「時効で消えたので権利を主張しません」という意思表示)をして、はじめて確定的に効果が生じます(民法145条)。援用しても、仮登記が自動で消えるわけではなく、次のどれかの手続きが必要です。
1. 内容証明郵便などで時効を援用する
2. 名義人(または相続人)に協力を求め、共同申請するか、承諾書をもらって所有者が1人で申請する(110条後段)
3. 協力が得られなければ、抹消登記手続を求める訴訟を起こし、判決で申請する(63条1項)
よくある質問
- 仮登記の抹消は、所有者1人で申請できますか?
-
仮登記の名義人の承諾書(実印+印鑑証明書)があれば、所有者などの利害関係人が1人で申請できます(不動産登記法110条後段)。承諾が得られないときは、判決を得て申請します。
- 仮登記の名義人が1人で抹消するとき、何が必要ですか?
-
登記原因証明情報と、名義人の登記識別情報(権利証)が必要です。所有権に関する仮登記なら、名義人の印鑑証明書(3か月以内)も付けます。権利証がなければ、事前通知や本人確認情報で代えられます。
- 単独申請のときの登記原因証明情報は、誰が作りますか?
-
原因となった事実(合意解除など)を書き、通常は仮登記の名義人が署名・押印します。上の記載例を参考にしてください。
- 承諾書の印鑑証明書に期限はありますか?
-
承諾書に付ける印鑑証明書には、「3か月以内」という決まりはありません。申請書に付ける印鑑証明書(②の方法など)は、作成後3か月以内のものが必要です。
- 所有権移転請求権仮登記は、時効で消えますか?
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仮登記そのものは消えません。土台の権利が時効で消えていても、援用をしたうえで、共同申請・承諾書による単独申請・判決のいずれかで抹消する必要があります。
- 抹消の費用(登録免許税)はいくらですか?
-
不動産1個につき1,000円です。司法書士に頼む場合は、別に報酬がかかります。
まとめ
仮登記の抹消は、名義人1人でも、名義人の承諾書があれば所有者1人でも申請できます(不動産登記法110条)。どの方法でも、登録免許税は1個1,000円です。
いちばん難しいのは、書類よりも「名義人やその相続人を探し、協力してもらう」ところです。時効が関係する場合は、援用や裁判まで見すえて、早めに進め方を決めることが大切です。
古い仮登記は、「残すべきものか、消せるものか」を見きわめるところから始まります。登記簿に「仮登記」の文字を見つけたら、売却などの予定が決まる前に、一度ご相談ください。
シアエスト司法書士・行政書士事務所は、阪急西宮北口駅から徒歩3分。西宮市を中心に、芦屋・宝塚・尼崎・神戸など阪神間で、仮登記・抵当権の抹消、相続登記などの不動産登記を承っています(TEL 0798-31-5930)。費用の目安と流れは「不動産の登記・名義変更のご案内」(https://imai-homu.jp/service/fudousan/)をご覧ください。
本記事に関連して、実務の理解を深めるうえで参考となる書籍をいくつかご紹介します。
ご興味のある方は、ぜひ併せてご覧ください。
(参考)
- 不動産登記法60条・62条・63条・68条・70条・105条・110条(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123)
- 不動産登記令8条1項9号・16条・19条・別表70項(https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379)
- 不動産登記規則47条3号イ(5)・48条・50条(https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018)
- 登録免許税法 別表第一1(15)(https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035)
- 民法145条・166条・520条、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条
- 最高裁昭和50年4月11日判決(農地法の許可申請協力請求権の消滅時効)
- 最高裁昭和61年3月17日判決(時効の援用前の非農地化)

