災害のあと、まず最初に直面するのが「罹災証明書」です。
これは、住まいの被害状況を自治体が公式に証明する書面で、公的支援や税の減免、融資などを受けるための“入口”になります。
この記事では、被災者支援の全体像や申請の流れ、そして「被災証明」との違いを、司法書士がやさしく整理します。
罹災証明書とは(まず押さえたい基本)
罹災証明書は、主に「住家」の被害について、市区町村が認定・発行する証明書です。
被害の程度によって、「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「一部損壊」などの区分が付きます。
根拠となるのは、内閣府が示す「住家の被害認定に関する運用指針」です。
実務メモ:
急ぎで証明が必要な場合、区分を付さない「罹災届出証明書」を即日で発行してくれる自治体もあります。
ただし、多くの支援制度では区分付きの罹災証明書が前提となるため、後日あらためて本証明を取得しておきましょう。
「罹災証明」と「被災証明」はどう違う?
よく混同されるのが、「罹災証明」と「被災証明」です。
「罹災証明書」は、住家の被害を自治体が認定して証明するもので、公的支援や税の減免などで中心的に使われます。
一方、「被災証明書」は、車や家財など、住家以外の被害を証明する目的で発行されることがあります。名称や扱いは自治体によって異なります。
実務メモ:
火災保険などの保険金請求では、保険会社の現地調査が基本です。
罹災証明が必須でない契約もありますが、あると手続きがスムーズになることも。まずは「何に使うための証明か」を確認しておきましょう。
申請から発行までの流れ(スムーズに進めるコツ)
① 申請
市区町村の窓口で罹災証明書を申請します。本人が行うのが原則ですが、委任状があれば代理申請も可能です。
最近はオンライン申請や郵送対応が進み、避難先からでも手続きできる自治体が増えています。
② 被害認定調査
研修を受けた職員が現地で建物を確認します。外観調査が基本ですが、必要に応じて内部も確認します。
原則、写真記録は自治体側で行いますが、申請者が撮影した写真の提出も有効です(できれば片付け前・解体前に撮影を)。
③ 発行
被害の区分が確定すると、罹災証明書が交付されます。結果に不服がある場合は、再調査を申し出ることができます。
実務メモ:
片付けや解体を急ぐと、被害の痕跡が消えてしまうことがあります。
写真は、外観を四方向から撮影し、被害箇所の近くの写真や、物差しなどで浸水の高さが分かる写真も残しておくと、後の再調査で強い証拠になります。
申請期限と有効期間(意外と見落としやすい点)
罹災証明書の申請期限は、法律で一律に定められているわけではありません。
実際には、利用する支援制度ごとに申請期間が決まっており(たとえば「被災者生活再建支援金」は概ね13か月以内)、それに合わせて自治体が案内を出しています。
実務メモ:
罹災証明の有効期間も一律ではありません。減免・補助・貸付・控除など、使う制度ごとに期限が異なります。
どの制度を使うかを早めに決めて、そこから逆算して動くのがコツです。
似ているけれど役割が違う制度たち
災害後には、被害状況を調べるいくつかの制度があります。
たとえば、「罹災証明のための被害認定調査」のほかに、建物の安全性を判断する「応急危険度判定」、修復の要否を判断する「被災度区分判定」、宅地の地盤被害を確認する「被災宅地危険度判定」などがあります。
実務メモ:
「赤ステッカー(危険)」が貼られていても、必ずしも「全壊」とは限りません。
調査の目的が違うため、罹災証明の結果とは一致しないことがあります。
罹災証明で“入口が開く”主な公的支援
罹災証明書は、さまざまな支援の申請に必要になります。主なものは次のとおりです。
- 被災者生活再建支援金(全壊・大規模半壊・解体・長期避難などに応じて支給)
- 応急修理制度(住家の応急的修繕費を自治体が負担)
- 応急仮設住宅・みなし仮設住宅
- 公費解体制度(原則:全壊など)
- 税・社会保険料の減免・猶予
- 高額療養費の特例・各種料金の減免
- 雑損控除(確定申告での所得控除)
実務メモ:
支援額や対象条件は、災害や年度ごとに更新されます。
最新の情報は、内閣府などの公式サイトで確認してください。
区分に納得できないときは
「全壊ではないのか?」「半壊なのに修理費が足りない」など、区分に不服がある場合は、再調査(異議申出)を行うことができます。
写真や見積書、修理レポートなどを整理し、施工前の写真や産廃マニフェストなどがあれば、片付け後でも立証できることがあります。
証拠は「時系列が分かるように」整理して提出すると効果的です。
よくある質問(司法書士へのご相談から)
Q:罹災証明は保険請求に必須ですか?
A:保険会社の現地調査が原則です。罹災証明が不要な契約もありますが、特約によってはあった方が手続きが早くなる場合もあります。契約約款を確認しましょう。
Q:オンライン申請はどこでもできますか?
A:自治体によって異なります。避難先からの申請や郵送で受け付けているところも増えています。最新情報を自治体のホームページで確認しましょう。
Q:片付けを先にしても大丈夫?
A:できる限り、認定前の大規模な片付け・解体は避けましょう。
やむを得ず行う場合は、作業前・作業中・作業後の連続写真や見積書、領収書などを残しておくことが大切です。
まとめ(動く順番がカギです)
- まず「受けたい支援」を明確にする
- その制度の期限や必要書類を確認する
- 罹災証明書(区分付き)を適正に取得する
- 区分に不服があれば再調査を申し出る
- 証拠を残しながら、控除や減免などの手続きを進める
公式情報(根拠リンクまとめ)
- 内閣府 防災情報「住家の被害認定に関する運用指針(令和6年5月版)」
https://www.bousai.go.jp/taisaku/pdf/r605shishin_all.pdf - 内閣府「被災者生活再建支援制度」総合ページ
https://www.bousai.go.jp/taisaku/seikatsusaiken/index.html - 内閣府「被災者支援制度(総合案内)」
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/hokenkyousai/sienseido.html - 内閣府「被災者支援に関する施策・行政」
https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/index.html
日本政府の公式情報に基づいて整理しています。
被災後は心身ともに大変な時期ですが、手続きを一つずつ整えていくことで、必要な支援につながります。
焦らず、落ち着いて進めていきましょう。

