こんにちは。 シアエスト司法書士・行政書士事務所の代表、今井康介です。
年齢を重ねるにつれて、「最近、文字が読みづらくなった」「視界がぼやける」といった目の不調を感じることはないでしょうか。
視力が落ちてくるということは、単に生活が不便になるだけではありません。 「大事な書類が読めない」「通帳の数字が確認できない」といった事態は、「自分の生活を自分でコントロールできなくなるかもしれない」という、深い心の不安を連れてきます。
しかし、その不安は、適切な準備をすることで「法的な安心」へと変えることができます。
今回は、視覚障害からの立ち直りという「心の回復」の視点と、私たち司法書士が提供できる「生活を守るための具体的な提案」の両面から、これからの暮らしについてお話ししたいと思います。
1. 視覚障害からの「立ち直り」を支えるもの
視覚を失うということは、人生の輪郭そのものが変わるような大きな喪失体験です。 直後は、否認や怒り、深い悲しみといった感情の波に襲われるのが、人として自然な反応です。
しかし、国内外の多くの研究が、「人はこの喪失から再び立ち上がり、新しい生活の意味を見出すことができる」と示しています。
回復を支える2つの力
科学的な知見によると、立ち直りのプロセスには以下の2つの要素が不可欠だとされています。
- 人とのつながり(回復力) 同じ境遇の仲間や、支援してくれる人たちとの関わりが、孤独感を和らげ、「もう一度社会に参加できる」という実感を生みます。
- 新しい生活の工夫(学習能力) 人間の脳には、失われた視覚の代わりに聴覚や触覚を発達させる「可塑性(かそせい)」という力があります。リハビリ等を通じて新しい生活スキルを身につけることで、自信と生活満足度が回復していきます。
逆境からの成長(PTG)
心理学には「ポストトラウマ成長(PTG)」という言葉があります。 これは、辛いトラウマを経た人が、それをきっかけに「人間関係が深まる」「自分の強さを知る」といった心理的な成長を遂げる現象を指します。
視覚を失うことは終わりではありません。 それは、新しい自分を発見し、新しい人生を歩み始めるための、苦しくも力強いスタートラインになり得るのです。
2. 【重要】視覚障害がもたらす「法的・実務的リスク」
心の回復が「再出発」のエンジンだとすれば、法律や制度は、その道を安全に進むための「ガードレール」です。
視力が低下し、文字や状況を目で確認することが難しくなると、日常生活の様々な場面で「法的な意思決定」が困難になるリスクが生じます。 これは単なる不便さの問題ではなく、財産や生活基盤そのものを脅かす問題でもあります。
具体的に、どのようなリスクがあるのかを見ていきましょう。
① 「契約書が読めない」というリスク
私たちは日々、無意識のうちに多くの契約を行っています。しかし、視覚に障害が生じると、契約書の細かい条項を読むことが極めて困難になります。
- 悪質商法の被害: 訪問販売などで、内容を十分に理解できないまま契約させられてしまうリスクが高まります。
- 意思確認の壁: 老人ホームへの入居や、保険の契約など、人生の重要な局面で「本当に本人が内容を理解して同意したのか?」が客観的に証明しづらくなり、契約自体がスムーズに進まないケースがあります。
② 「銀行手続き」の壁
最も身近で切実なのが、お金の管理の問題です。
- ATM操作の困難: タッチパネルの操作が難しくなり、自分でお金を引き出すことができなくなります。
- 窓口での負担: 払戻請求書の記入が難しくなります。銀行員による代筆も可能ですが、その都度、厳格な本人確認や意思確認が必要となり、日常的な支払いが大きなストレスとなります。
③ 「印鑑が見えない」ことの影響
日本では、不動産の売却や担保設定など、重要な手続きには「実印」の押印が求められます。
視力が低下すると、契約書の署名欄や押印の位置を正確に把握することが難しくなります。 もちろん、ご本人の意思がはっきりしていれば、司法書士や銀行員がサポートすることで手続きは可能です。
しかし、「本当にご本人の意思なのか」を確認するプロセスが通常よりも慎重に行われるため、手続きに時間がかかったり、ご家族の負担が増えたりするケースがあります。 スムーズな財産管理のために、あらかじめ「代理人」を立てておくことが、安心につながります。
こうしたリスクは、ご本人の能力の問題ではなく、「今の社会の仕組み」と「身体の状態」のミスマッチから生じるものです。 だからこそ、精神論で乗り切るのではなく、仕組み(法律)を使って解決する必要があります。
3. 「見えない不安」を解消する3つの法的アプローチ
心の回復を支えるためには、まず「生活の基盤(お金や契約)」の安心を確保することが不可欠です。 「いざという時は、この仕組みがあるから大丈夫」と思えることが、前向きに生きるための心の支えになります。
司法書士として提案できる具体的な解決策は、以下の3つです。
① 任意後見契約(目の代わり)
将来、判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ信頼できる人(家族や専門家)を後見人として選び、契約や手続きを代行してもらう権限を与えておく制度です。
- メリット: 「目が見えなくて契約書が読めない」という状況になっても、あなたの「目」の代わりとなって、後見人が契約内容を確認し、安全に手続きを進めてくれます。悪質商法などから財産を守るための強力な盾となります。
② 財産管理委任契約(手足の代わり)
判断能力はあるけれど、身体的な理由(視覚障害や足腰の衰えなど)で銀行に行くのが難しい場合に、預貯金の管理や支払いを代行してもらう契約です。
- メリット: 銀行に行けないあなたの「手足」の代わりとなって、受任者(任された人)が窓口で手続きを行います。 家族にお願いする場合でも、口約束ではなく契約書を交わしておくことで、銀行側もスムーズに対応してくれるようになります。
③ 公正証書遺言(想いの記録)
視覚に障害があると、全文を自筆で書かなければならない「自筆証書遺言」を作成するのは非常に困難です。
- メリット: 「公正証書遺言」であれば、公証人があなたの口述(話したこと)を筆記して作成してくれます。 字が書けなくても、公証人の代読を聞いて内容を確認し、署名ができれば作成可能です(署名が難しい場合も、公証人が理由を付記して代署することができます)。 あなたの想いを、確実な形で未来に残すことができます。
これらの制度は、単に財産を守るためだけのものではありません。 「目が見えなくなっても、自分の人生を自分でコントロールできる」という自信と尊厳を守るためのツールなのです。
4. 司法書士ができる「環境づくり」のサポート
私たち司法書士の仕事は、単に「手続きを代行すること」だけではありません。 お客様が抱える身体的なハンディキャップや不安を取り除き、「ご自身の意思で財産を守り、使うことができる環境」を整えることこそが、本来の使命だと考えています。
シアエスト司法書士事務所の取り組み
当事務所では、視覚に不安のある方でも安心してご相談いただけるよう、以下のような配慮を心がけています。
- 読み上げソフト対応データの提供: 契約書やご提案資料は、紙だけでなく、パソコンやスマホの音声読み上げ機能に対応したテキストデータ(WordやPDF)でもお渡し可能です。
- 対面での丁寧な読み上げ: ご面談の際は、重要事項を省略せず、納得いただけるまで何度でも丁寧に読み上げてご説明します。
- ご自宅への出張対応: 外出が難しい場合は、ご自宅や施設まで伺ってご相談をお受けします。
「目が見えないから、何もできない」と諦める必要はありません。 適切なサポート(環境)さえあれば、人は何度でも立ち上がり、自分らしい生活を送ることができます。
そのための「環境づくり」を、法律のプロとして全力でお手伝いさせていただきます。
まとめ:法的な備えが、再出発の「杖」になる
視覚を失うことは、人生の終わりではありません。 適切なサポートと環境さえ整えば、自分らしい生活は十分に続けていくことができます。
リハビリテーションが「身体と心」の回復を支えるものだとすれば、法律や制度は「日々の暮らしと財産」を守るための「転ばぬ先の杖」です。
医療・福祉と、法務。 この両輪で、あなたの新しいスタートを力強く応援します。
「将来が不安だ」「まずは話を聞いてみたい」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。 シアエスト司法書士事務所が、あなたの隣でしっかりと伴走いたします。

