司法書士の今井康介です。
一般的に、ビジネスや日常生活においては「コミュニケーション能力」が何より重要だと言われます。 相手の意図を汲み取り、その場の空気を円滑にする会話スキルは、確かに素晴らしいものです。
しかし、法律実務の現場に身を置く私は、時折ふと立ち止まって考えることがあります。「どれだけ言葉を尽くしても、形に残らなければ、それは『なかったこと』と同じではないか?」と。
今日は、会話の心地よさとは少し違う、もっと本質的で大切な「信用の話」をします。
◆ 「言葉」は、その場で消えてしまう
私たちは普段、多くのことを会話で進めています。 「任せてください」「約束します」――。 これらは相手を安心させる大切な言葉ですが、残念ながら空気中に放たれた瞬間、形を失ってしまいます。
その時は良くても、1年後、10年後に「あの時、確かにそう言った」と証明することは、誰にもできません。
私の仕事柄、この「消えてしまった言葉」が原因で、ご家族の間で認識のズレが生じてしまう場面を数多く見てきました。
おそらく、どちらも嘘ではないのでしょう。 しかし、どれだけ真実であったとしても、「記録」がない以上、それは社会的には「存在しない」のと同じことになってしまうのです。
◆ 「編集できない」からこそ、価値がある
一方で、私が専門とする「遺言書」や「登記」といった手続きは、一度完了すると簡単には修正できません。 作成の過程においても、単なる書き損じであっても修正液で消すことさえ許されない、非常に厳格なルールがあります。
「後から直せない」「間違えられない」というのは、怖いことです。 それを形にするには、勇気もいりますし、ある種の覚悟も必要です。
しかし、だからこそ、そこに本当の意味での「信用」が宿るのです。
いつでも訂正や言い直しができる言葉ではなく、後から編集がきかない「記録」として、自らの意思をあえて固定する。 その「覚悟」を持って記されたものだけが、相手に対する最大の誠意となり、ご自身の人生の揺るぎない証明になるのだと思います。
◆ あなたの人生を「作品」として残す
現代は、ブログやSNSなど、インターネット上に自分の考えを自由に記録できる素晴らしい時代です。 しかし、どれだけネット上に想いを綴っても、それだけではどうしても達成できないことがあります。
それが、「遺言」のような法的な効力を持つ手続きです。
もちろん、最近は契約や公証の手続きもデジタル化が進み、電子署名で行うケースも増えてきました。 しかし、ハンコが電子データに変わろうとも、本質は変わりません。 それは、「編集可能な状態を終わらせ、二度と書き換えられない『確定した意思』として世に出す」という重みです。
文章を作ったり、情報を整理したりすることは、AIや機械がやってくれるでしょう。 しかし、その内容に対して「これが私の本心であり、私が責任を持つ」と認め、サイン(署名)をする行為。 この「決断」だけは、どんなに技術が進歩しても、生身の人間だけに許された尊い営みなのです。
最後に
あなたは、いつか消えてしまう「言葉」だけに頼りますか? それとも、未来のご家族のために、残り続ける「記録」を残しますか?
もし、「そろそろ自分の人生をきちんとした形にしておきたい」と思われたなら、ぜひ一度、当事務所へお越しください。
法律の専門家として、あなたの想いが誤解なく伝わるよう、丁寧にお手伝いさせていただきます。 まずはお茶でも飲みながら、ゆっくりこれからのことを考えましょう。

