「相続の手続き、ChatGPTに聞いたらけっこう詳しく教えてくれた。これ、わざわざ司法書士さんにお願いする必要あるのかな……」
最近、そんな声をよく耳にします。たしかにAIに聞けば、登記に必要な書類の一覧も、相続の基本的な流れも、驚くほどわかりやすく説明してくれます。無料で、24時間いつでも、何度聞いても嫌な顔ひとつしません。
正直に言うと、それ自体はとても良いことだと思っています。制度の仕組みを自分の言葉で理解しようとする姿勢は、専門家に相談するうえでもプラスになるからです。
ただ、AIで「調べて理解すること」と、AIで「実際に手続きが終わること」の間には、案外大きな距離があります。この記事では、AIと司法書士は何が違うのか、そして失敗しないためにはどう使い分ければいいのかを、できるだけ具体的にお伝えしていきます。
AIが得意なこと
まず正直にお伝えすると、AIには「本当に便利だな」と思う場面がたくさんあります。
たとえば、「相続登記って何をすればいいの?」と聞けば、必要な書類の一般的なリストや、大まかな手続きの流れをすぐに教えてくれます。「遺言書には種類があるの?」といった専門用語の意味も、噛み砕いてわかりやすく説明してくれるでしょう。契約書や委任状の一般的なひな形も、それらしい形で出してくれます。
何より、時間や場所を選ばないのが大きな強みです。夜中に急に不安になって調べたくなったときも、休日にふと疑問が浮かんだときも、AIならすぐに答えてくれます。相談する前に「まず自分の状況を整理する」「わからない言葉を調べる」という使い方であれば、AIは非常に優秀な下調べの相棒になります。
実際、当事務所にご相談にいらっしゃる方の中にも、事前にAIである程度調べてから来られる方が増えてきました。基本的な用語を理解した状態で相談してもらえると、話が早く進むというメリットも、正直あります。
問題は、この「便利さ」がどこまで通用するか、という点です。次の章では、AIだけでは対応しきれない部分について見ていきます。
結局、何が違うのか?
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。AIと司法書士の違いは、大きく分けて3つあります。
①個別事情への対応力
AIが答えてくれるのは、あくまで「一般論」です。「相続人が3人いて、うち1人が認知症の場合はどうすればいいか」「離婚歴があり、前の配偶者との間に子どもがいる場合の相続関係は」といった、少し複雑な個別の事情になると、AIの回答はとたんに曖昧になったり、実は間違っていたりします。ご家族の状況は一つひとつ違うので、「あなたの場合はこう」という判断は、資格を持つ人間にしかできません。
②実務の実行力
AIは情報を教えてくれますが、実際に戸籍を集めたり、法務局に申請書を提出したりすることはできません。書類に一つでも不備があれば、法務局から「補正」や「却下」の連絡が来て、また一からやり直しになります。慣れない方が自分で進めると、この往復だけで数週間、数ヶ月かかることも珍しくありません。司法書士は、こうした実際の手続きを最後までやりきる「実行部隊」でもあります。
③責任の所在
これがいちばん大きな違いかもしれません。AIの回答が間違っていて、それによって損をしてしまっても、AIは責任を取ってくれません。一方、司法書士には資格者としての法的な責任があります。何かあったときに「専門家として責任を持って対応してくれる人がいる」という安心感は、AIには代えられない価値です。
失敗しない使い分け方
実際にご相談を受ける中で、「先に自分で進めてしまって、かえって大変になった」というケースにも出会います。たとえば、こんな例です。
- AIに遺産分割協議の進め方を聞き、教わった通りに相続人全員で合意書を作ろうとしたところ、相続人の一人が認知症で判断能力が十分でないことが後から問題に。判断能力がない人が交わした合意は法律上無効になるため、先に家庭裁判所で成年後見人を選任してもらう必要があるとわかり、一からやり直しになった
- AIに教わった一般的な流れをもとに、相続した土地を自分で調べて売却しようとしたところ、登記簿には現れない「公衆用道路」(敷地に含まれる私道部分)の存在を見逃してしまい、買主側の調査で指摘されて契約直前でトラブルに。測量や権利関係の整理に追われることになった
どちらにも共通しているのは、AIは「聞かれたことには正しく答える」けれど、「聞かれていない、けれど重要な事情」までは拾ってくれない、という点です。本人が「重要だ」と気づいていない部分にこそ、落とし穴があります。
そこで、失敗しないための簡単な目安をご紹介します。
AIで十分なケース
- 制度の名前や仕組みをざっくり理解したいとき
- 相談前に、自分の状況を言葉にして整理しておきたいとき
- 一般的な流れや必要書類の「だいたい」を知りたいとき
司法書士に相談すべきケース
- 相続人に高齢の方・判断能力に不安がある方がいる
- 家族関係が複雑(離婚歴、認知していない子、疎遠な親族、数次相続の可能性など)
- 実際に書類を作成・提出する段階に入った
- 「これで本当に合っているか」を誰かに保証してほしい
迷ったときの合い言葉は、「調べるのはAI、決めて動くのは専門家」です。
まとめ ― 使い分けの結論
ここまでの内容を整理すると、AIと司法書士の違いは、シンプルに言えばこうなります。
AIは「知る」ための道具、司法書士は「実行し、責任を持つ」専門家です。
AIは、制度を理解したり、自分の状況を整理したりする最初の一歩としては、とても優秀なパートナーです。ここを飛ばして、いきなり専門家に「何もわからないまま」相談するより、むしろ効率的なことも多いでしょう。
ただし、家族関係が複雑だったり、判断能力に不安のある方がいたり、実際に書類を作成・提出する段階に入ったりしたら、そこから先はAIの一般論だけでは対応しきれません。「聞かれていないけれど重要な事情」を拾い上げ、責任を持って手続きを最後まで進めるのは、今のところ人間の専門家にしかできない仕事です。
AIか司法書士か、ではなく、AIも司法書士も。それが、いちばん失敗の少ない選び方だと思います。
おわりに ― ご相談のご案内
ここまで読んでいただいた方の中には、「じゃあ、うちの場合はどっちなんだろう」と思われた方もいるかもしれません。
その答え合わせこそ、専門家の出番です。
もちろん、いきなり相談するのが不安な方は、まずAIで気になることを調べてみるところから始めていただいて構いません。そのうえで、「これって自分のケースでも本当に大丈夫?」と少しでも引っかかることがあれば、そこだけ気軽にご相談ください。すべてを一から説明する必要はありません。すでに調べた内容をもとに、「じゃあ次に何をすればいいか」を一緒に整理するところからで大丈夫です。
当事務所では、そうした「ここだけ確認したい」というご相談も承っております。お気軽にお問い合わせください。

