契約をしたあとに、「この契約を続けて大丈夫だろうか」と不安になることは珍しくありません。
そんなときに、消費者を守るための制度として設けられているのが クーリング・オフ制度 です。
本記事では、クーリング・オフのやり方(通知方法)や期間の数え方、はがき・メールでの書き方を、司法書士・行政書士の立場からわかりやすく解説します。
また、「クーリング・オフできる契約とできない契約」「期限を過ぎてしまったときの対応」についても整理しています。
※本記事は一般的な解説です。個別の契約内容や事情により結果が異なる場合があります。
不安なときは消費生活センター(局番なし188)や専門家にご相談ください。
クーリング・オフとは?制度の基本と仕組み
クーリング・オフとは、消費者が契約後に一定期間内であれば無条件で契約を解除できる制度のことです。
強引な勧誘や冷静に判断できなかった契約を「なかったこと」に戻す、いわば“再考のための安全弁”です。
制度の根拠は主に「特定商取引法」にあり、契約を結んでから8日または20日以内に、書面または電子的手段(メールやウェブフォーム)で通知すれば、契約は無条件で解除されます。
2022年(令和4年)6月以降は、特定商取引法の改正により、電子メール・専用フォーム・USB・FAXなどの電磁的記録による通知でも有効になりました。
クーリング・オフできる契約と期間
クーリング・オフは、すべての契約に使えるわけではなく、法律で定められた「特定の取引」に限られます。
訪問販売(キャッチセールス・アポセールスを含む)
自宅や職場などに業者が訪問し、その場で契約を結ぶケースが該当します。
また、街中で声をかけて店舗や事務所に連れて行く「キャッチセールス」や、電話で約束を取り付けて訪問する「アポイントメントセールス」も含まれます。
たとえば、次のようなケースです。
- 自宅に来た業者に勧められて、外壁塗装やリフォームを契約した
- 街中で「無料点検」と声をかけられ、高額な浄水器を契約した
このような場合、契約書を受け取った日の翌日から8日以内であれば、クーリング・オフの通知を行うことで契約を解除できます。
電話勧誘販売
電話で商品の購入やサービス契約を勧められ、そのまま電話口で承諾した場合が該当します。
たとえば、
- 健康食品の定期購入を電話で勧められた
- 「光回線の料金が安くなる」と言われて電話で契約した
といったケースです。
この場合も、契約書を受け取った日の翌日から8日以内であれば、クーリング・オフによって契約を解除することができます。
特定継続的役務提供
エステティック、語学教室、結婚相手紹介サービス、学習塾、パーソナルトレーニングなど、長期間にわたってサービスを提供する契約が対象になります。
契約期間中に「思っていた内容と違った」「続けるのが難しい」と感じた場合でも、契約書を受け取った日の翌日から8日以内であれば、クーリング・オフを行うことができます。
訪問購入(自宅への買取)
自宅に業者が訪問し、「不要品を買い取ります」などと持ちかけてくる取引です。
たとえば、
- 「金や宝石を高く買い取ります」と言われた
- 「査定だけ」と言われたのに商品を持ち帰られた
といった場合が該当します。
契約書を受け取った日の翌日から8日以内であれば、クーリング・オフにより契約を取り消すことができます。まだ商品を渡していない場合は、引き渡しを拒むことも可能です。
連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)
「商品を販売すれば報酬が得られる」「会員を増やせば収入が増える」といった仕組みの取引です。
健康食品や化粧品、副業教材などで見られる形態です。
契約書を受け取った日の翌日から20日以内であれば、クーリング・オフによって契約を解除することができます。
業務提供誘引販売取引(内職・モニター商法など)
「自宅でできる簡単な仕事」「高収入の副業」などの誘い文句で契約を結ばせ、教材や機材の購入を求める取引です。
たとえば、
- 「在宅ワークを始めるにはこのソフトが必要」と言われた
- 「モニター登録料が必要」として高額な支払いを求められた
といった場合が該当します。
契約書を受け取った日の翌日から20日以内であれば、クーリング・オフによって契約を解除できます。
クーリング・オフできない契約
クーリング・オフは、すべての契約に使えるわけではありません。
法律で定められた「特定の取引」に限られており、次のようなケースでは原則として対象外になります。
通信販売(ネット通販・カタログ販売など)
インターネット通販やカタログ販売、テレビショッピングなどの通信販売は、特定商取引法のクーリング・オフ制度の対象外です。
その代わりに、通信販売では「返品特約(へんぴんとくやく)」という仕組みがあります。
これは、販売事業者が「返品できるか」「できるとすればどんな条件か」を、サイトやカタログにあらかじめ分かりやすく表示しておくルールです。
販売ページに「返品不可」や「未開封に限り7日以内返品可(送料お客様負担)」などの記載がある場合は、その内容に従うことになります。
一方で、返品についての説明がどこにも見当たらない場合には、消費者に不利にならないよう、法律で次のように定められています。
つまり、通信販売にはクーリング・オフの制度はありませんが、返品特約の表示がない場合には、8日以内なら返品できるというルールがあります。
購入前に、販売ページの「返品・交換について」などの欄を一度チェックしておくと安心です。
通信販売の事業者には、返品の可否や条件、送料負担などを、 購入画面など消費者がすぐに確認できる場所に分かりやすく表示する義務があります(特定商取引法第15条の2・施行規則第9条)。
3,000円未満の現金取引
店頭や訪問販売などで、その場で現金払いをして3,000円未満の商品を受け取った場合は、消費者保護の必要性が低いとされ、クーリング・オフの対象外となります。
使用した消耗品(化粧品・健康食品など)
一度でも使用した化粧品や健康食品などの消耗品は、再販売が難しいため、原則としてクーリング・オフできません。
ただし、販売時の説明が不十分だった場合など、状況によっては例外的に認められることもあります。
営業目的・事業用の契約
事業活動の一環として結んだ契約(店舗設備や備品の購入など)は、消費者契約にあたらないため、クーリング・オフの対象外です。
ただし、実際の契約内容や使用目的によっては、個人契約として扱われるケースもあります。
クーリング・オフは「消費者が冷静に判断できなかった契約」を守るための制度です。
日常の買い物や、事業目的で自ら選んで行う契約には適用されません。
クーリング・オフの起算日はいつ?数え方の注意点
クーリング・オフの期間は、「契約をした日」ではなく、契約内容がすべて書かれた書面(いわゆる法定書面)を実際に受け取った日を1日目として数えます。
たとえ契約をその場で結んでいても、契約書が後日郵送で届いた場合には、届いた日からカウントが始まります。
ここで注意したいのは、クーリング・オフでは民法と異なり、受け取った日も1日目として数えるという点です。
たとえば、11月1日(月)に契約書を受け取った場合、その日が1日目。
8日以内の契約であれば、11月8日(月)までが期限になります。
「8日間」といっても、実際にはおよそ1週間ほどの猶予しかないことになります。
また、クーリング・オフには「発信主義」というルールがあります。
これは、通知が業者に届いた日ではなく、あなたが送った日(発信日)に効力が生じるという考え方です。
郵便なら消印の日付、メールなら送信した日時、ウェブフォームなら送信完了画面のスクリーンショットなどが証拠になります。
さらに、もし業者が契約書を交付していなかったり、内容に不備がある場合、あるいは虚偽の説明や強引な勧誘によって冷静に判断できなかった場合は、クーリング・オフ期間が進行しないとされます。
この場合、期限を過ぎていてもクーリング・オフが認められることがあります。
クーリング・オフの期間は、「いつから数えるか」「どの時点で有効になるか」で結果が変わることがあります。
少しでも迷ったときは、消費生活センターや専門家へ早めに相談すると安心です。
クーリング・オフのやり方と手続きの流れ
- 契約書などの証拠を保管する
契約書、パンフレット、領収書などをすべて写真に撮ります。 - 通知書(またはメール)を作成する
契約日・商品名・金額・販売会社名・契約を解除する旨を明記します。 - 証拠が残る方法で送付する
郵便なら「特定記録郵便」「簡易書留」「内容証明(配達証明つき)」が確実です。
メールの場合は、自分宛てにBCCを入れ、送信履歴と受信確認を保存します。 - 信販会社が関わる場合は、両方に送る
販売会社と信販会社の双方へ同時に通知します。 - 控えを必ず保存する
通知文・郵便控え・送信履歴・スクリーンショットを1セットにして5年間保管しましょう。
クーリング・オフ通知の書き方・文例(はがき・メール)
以下の例文をそのまま使えます。
書面でもメールでも有効です。
はがき・書面の文例
通知書
次の契約をクーリング・オフにより解除します。
契約年月日:2025年11月10日
商品名:○○○○
契約金額:150,000円
販売会社名:株式会社△△△
支払済みの代金を返金し、商品を貴社負担で引き取ってください。
2025年11月12日
住所:兵庫県西宮市○○
氏名:山田太郎(自署)
※ 投函前に宛先・本文の両面をコピーし、封書なら差出日をメモしておくと安心です。
信販会社あての文例
通知書
下記販売契約をクーリング・オフにより解除しましたので通知します。
契約年月日:2025年11月10日
商品名:○○○○
契約金額:150,000円
販売会社名:株式会社△△△
信販会社名:株式会社□□□
2025年11月12日
住所:兵庫県西宮市○○
氏名:山田太郎
訪問買取契約の文例
通知書
下記の訪問購入契約をクーリング・オフにより解除します。
契約年月日:2025年11月10日
買取物品名:貴金属ネックレス(2点)
買取価格:50,000円
買取業者名:株式会社△△△
引き渡した物品を、貴社負担で返還してください。
2025年11月12日
住所:兵庫県西宮市○○
氏名:山田太郎
メールの文例
件名:クーリング・オフ通知(契約日:2025年11月10日 山田太郎)
本文:
株式会社△△△ 御中
下記契約について、特定商取引法に基づきクーリング・オフを行います。
契約年月日:2025年11月10日
商品名:○○○○
契約金額:150,000円
信販会社名:株式会社□□□(利用時のみ)
支払済み代金を返金し、商品を貴社負担で引き取ってください。
本メール送信をもって通知とします。受領の返信をお願いします。
住所:兵庫県西宮市○○
氏名:山田太郎
電話番号:090-xxxx-xxxx
2025年11月12日
※ 自分宛てにBCCを入れ、送信後にスクリーンショットを残しましょう。
クーリング・オフ後の流れと返金
クーリング・オフの通知を出した時点で、契約はその場で無条件に解除されたことになります。
支払った代金はすべて返金され、商品を返す際の送料や手数料などは業者側の負担です。
エステや語学教室などのサービス契約でも、期間内であれば受けていない分の料金は支払う必要がありません。
また、リフォームなどで工事が始まっていても、原状回復にかかる費用は業者の負担となります。
クーリング・オフを理由に、違約金や損害賠償を求められることはありません。
よくある質問(Q&A)|クーリング・オフでよくある悩みと回答
- 口頭で「解約したい」と伝えただけでも、クーリング・オフになりますか?
-
いいえ。口頭では証拠が残らないため、書面やメールなど記録が残る方法で通知する必要があります。
郵便なら特定記録・簡易書留・内容証明が確実です。メールなら送信履歴やスクリーンショットを必ず保存しましょう。 - 契約から8日を過ぎてしまいました。もう無理ですか?
-
諦めるのは早いです。
業者が契約書を渡さなかったり、虚偽説明や威圧的な勧誘をした場合は「クーリング・オフ妨害」となり、期間経過後でも有効になることがあります。
また、「消費者契約法」による取消しや中途解約が可能な場合もあるため、早めに消費生活センターや専門家へ相談を。 - 通信販売でもクーリング・オフできますか?
-
原則として通信販売は対象外です。
ただし「返品特約」の表示がなければ、商品到着日を含めて8日以内に消費者負担で返品できます。
返品条件の表示を必ず確認しましょう。 - 支払いはクレジット(分割)です。どこに通知すればいいですか?
-
販売会社だけでなく、信販会社(クレジット会社)にも同時に通知してください。
どちらか片方だけだと手続きが止まることがあります。
販売会社・信販会社の名称は契約書面に記載されています。 - 商品を使ってしまいました。返品できますか?
-
未使用なら問題ありませんが、化粧品・健康食品など消耗品で使用済みの場合は対象外になることがあります。
ただし、業者の説明不足や虚偽があったときは適用できる場合もあるため、状況を整理して相談を。 - 工事やリフォームをもう始めてしまいました。どうなりますか?
-
期間内の通知であれば、工事済みでもクーリング・オフ可能です。
この場合、原状回復費用は業者負担になります。
業者側は、違約金や損害賠償も請求できません。 - 勧誘の電話がしつこくて、つい契約してしまいました。
-
「電話勧誘販売」に該当します。
契約書を受け取った翌日から8日以内なら、クーリング・オフで解除可能です。
相手方の強引な勧誘を録音している場合は、妨害の証拠にもなります。 - クーリング・オフ通知を送ったのに、業者が無視しています。
-
通知は「発信時点で効力」が発生します。
相手が無視しても契約は解除済みです。
受取拒否された場合も受取拒否の記録を保管し、消費生活センターへ報告を。 - 家族(高齢の親)が契約したのですが、私が代わりにできますか?
-
原則として本人通知が原則ですが、家族代理人としての通知も有効になる場合があります。
事情を書面に添えておくとよいでしょう。
心配な場合は、専門家が代理作成も可能です。 - どんな専門家に相談すればいいですか?
-
最初は消費生活センター(局番なし188)へ。無料で相談できます。
行政指導やあっせんが行われることもあります。法的な書面の作成や返金請求の準備を進めたい場合は、司法書士・行政書士・弁護士のいずれかにご相談ください。
- 司法書士は、140万円以下の民事トラブルに限って、交渉や簡易裁判所での代理が認められています。
- 行政書士は、通知書や内容証明郵便などの文書作成支援が可能です。
- 弁護士は、金額や内容に制限なく、交渉・訴訟対応が可能です。
書類のチェックや文案確認だけでも、結果が大きく変わることがあります。
早めに専門家へご相談ください。
専門家からのアドバイス
クーリング・オフはシンプルに見えて、実際には判断が難しい部分もあります。
契約の種類や関連商品、支払い方法によって取扱いが変わるため、「本当に対象になるのか」「この書き方で大丈夫か」など、不安を感じる方も多いでしょう。
そんなときは、迷わず専門家に相談してください。
書面の確認だけでも、結果が大きく変わることがあります。
安心して前へ進むために、正しい情報と冷静な対応が何より大切です。

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ご興味のある方は、ぜひ併せてご覧ください。

