こんにちは。 シアエスト司法書士・行政書士事務所の代表、今井康介です。
昨今、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSにおいて、企業の投稿がきっかけで批判が殺到する、いわゆる「炎上」のニュースを目にする機会が増えました。
一部では、あえて過激な発言をして注目を集める「炎上マーケティング」という手法も語られます。 しかし、地域に根差した中小企業にとって、これは「百害あって一利なし」のリスクでしかありません。一度失った社会的信用を取り戻すには、膨大な時間と労力がかかるからです。
そこで今回は、「どうすればバズるか」というマーケティング論ではなく、「どうすれば会社と従業員を守れるか」という「法的なリスク管理(コンプライアンス)」の視点から、企業のSNS運用について解説いたします。
1. 「炎上」が企業に与える3つの法的・実務的ダメージ
SNSでの炎上は、単に「ネットで悪口を言われる」だけでは済みません。 企業経営において、具体的かつ深刻な法的・実務的ダメージをもたらします。
① 信用毀損と売上低下(ブランドイメージの失墜)
一度炎上し、ネガティブなイメージが定着してしまうと、顧客離れや取引停止に直結します。 特に地域密着型の中小企業の場合、「あそこはコンプライアンス意識が低い」という評判が立つことは、事業存続に関わる致命傷になりかねません。
② 法的責任の追及(法改正への対応)
炎上の内容によっては、単なる批判を超えて、法律違反として責任を追及されるケースが増えています。
- 景品表示法違反(ステマ規制): 2023年10月の法改正により、いわゆる「ステルスマーケティング(広告であることを隠した宣伝)」は違法行為となりました。インフルエンサーに依頼した投稿であっても、広告表示がなければ依頼主である企業が処罰の対象となります。
- 著作権侵害・肖像権侵害: ネット上の画像や音楽を無断で使用した投稿は、損害賠償請求のリスクがあります。
- 名誉毀損・侮辱: 他社や個人を貶めるような発言は、刑事・民事の両面で責任を問われます。
③ 対応コストの増大
炎上してしまった場合、その火消しには莫大なコストがかかります。
- 謝罪広告の掲載費用
- クレーム対応のためのコールセンター設置費用
- 危機管理広報や弁護士への相談費用
「無料で宣伝できる」と思って始めたSNSが、結果的に数百万円単位の損失を生むケースも珍しくありません。
2. 炎上を防ぐための「社内規定(ガイドライン)」の整備
多くの経営者様は、「うちはアルバイトが勝手にやったことだから…」と考えがちですが、炎上トラブルの多くは、個人の暴走ではなく「組織の管理不足」に起因しています。
「何をしてはいけないか」を具体的に教えずに、従業員の良識だけに頼ることは、会社として非常にリスクが高い状態です。
就業規則・SNS運用規定の重要性
トラブルを未然に防ぐためには、口頭での注意ではなく、「社内規定(ガイドライン)」として明文化しておくことが不可欠です。
具体的には、以下の項目を定めておく必要があります。
- 投稿禁止事項の明確化: 機密情報、顧客のプライバシー、誹謗中傷、政治・宗教的な内容など、投稿してはいけないラインを具体的に示します。
- 承認フローの確立: 「誰のチェックを受ければ投稿できるか」というルールを決め、担当者の独断を防ぎます。
- 炎上時の対応フロー: 万が一トラブルが起きた際、「誰に報告し、誰が対外的な発信を行うか」という初動対応を定めておきます。
私たち司法書士は、登記だけでなく、こうした「企業のリスク管理」に関わる定款や社内規定の整備もサポートしています。 「従業員を守るため、そして会社を守るため」のルール作りについても、ぜひご相談ください。
3. 万が一、炎上や誹謗中傷に遭った時の対処法
どれほど気をつけていても、SNS上でのトラブルや、根拠のない誹謗中傷を受けるリスクをゼロにすることはできません。 万が一、悪質な書き込みの被害に遭ってしまった場合、泣き寝入りするのではなく、法律に基づいた「対抗措置」をとることが可能です。
法的な対抗措置(プロバイダ責任制限法)
インターネット上の誹謗中傷に対しては、「プロバイダ責任制限法」という法律に基づき、以下の2つの請求を行うことができます。
- 削除請求: SNSの運営会社やサイト管理者に対して、問題となる投稿の削除を求めます。
- 発信者情報開示請求: 匿名で書き込んだ人物を特定するために、投稿者の住所や氏名などの情報を開示させます。特定できれば、損害賠償請求(慰謝料など)や刑事告訴も視野に入ります。
司法書士がお手伝いできること(弁護士への架け橋)
SNSでの誹謗中傷や炎上トラブルは、損害額の算定や権利侵害の立証が非常に複雑であり、多くの場合、地方裁判所での手続きが必要となります。そのため、これら具体的な紛争解決(削除請求や損害賠償請求)は弁護士の専門業務となります。
しかし、「いきなり弁護士に連絡するのはハードルが高い」「知っている弁護士がいない」とお悩みの場合も多いでしょう。
そんな時は、まず「身近な法務アドバイザー」である当事務所にご相談ください。 まずはお話を伺って状況を整理し、ITトラブルやネット法務に強い信頼できる弁護士をご紹介いたします。
被害を放置せず、まずは適切な専門家につながること。 それが、会社と従業員を守るための第一歩となります。
4. 経営者が持つべき「リーガルマインド(法的思考)」
SNS運用において、「どれだけ拡散されるか(バズるか)」を成果の指標にされている企業様も多いかと思います。 しかし、私たち法務の専門家から見れば、一時的な注目よりも優先すべきは、長年積み上げてきた「社会的信用」を守ることです。
「バズる」ことよりも「信頼を守る」こと
経営者が持つべき「リーガルマインド(法的思考)」とは、単に六法全書の条文を知っていることではありません。「その発信は、社会のルールや倫理に照らして公正か?」と、常に自問自答できるバランス感覚のことです。
たとえ法律に触れていなくても、誰かを傷つけたり、不快にさせたりする表現は、今の社会ではすぐにリスクとなります。 「数字」を追うあまり、企業として守るべき「一線」を見失っていないか。そのブレーキ役を果たすのが、経営者のリーガルマインドです。
誠実さこそが、最強のブランディング
炎上対策の技術やツールは数多く存在しますが、究極の対策はシンプルです。 それは、「誠実な企業姿勢」を貫くことです。
小手先のテクニックで炎上を回避するのではなく、「法律と倫理を遵守し、誠実に商売をする」という姿勢を見せること。 それこそが、最大の防御策であり、顧客や取引先から長く愛されるための最強のブランディングになります。
まとめ:攻めの発信は、守りの法務があってこそ
SNSは、顧客と直接つながり、ビジネスを加速させるための素晴らしいツールです。 しかし、その拡散力の強さは、一歩間違えれば「法的リスク」となって自社に牙をむく諸刃の剣でもあります。
「炎上してから慌てて対応する」のではなく、 「炎上しないためのルールを作り、万が一の時はすぐに相談できる専門家を持っておく」。
この「守りの法務」という土台があって初めて、安心して「攻めの発信」に取り組むことができます。
SNS運用に不安を感じている経営者様は、ぜひ一度、シアエスト司法書士事務所にご相談ください。 御社の信頼と未来を守るための「法務のパートナー」として、全力でサポートさせていただきます。

