「親が認知症になったら、預金や家をどうしたらいいんだろう…」
そんな不安から、「家族信託」という言葉を一度は目にしたことがある方も多いと思います。
ただ、いざ調べてみると、
- 難しい専門用語ばかり
- メリットの話ばかりで、デメリットがよくわからない
- 自分たちのケースに合うのか判断できない
といった理由で、「結局どうしたらいいのか分からない」というご相談をよくいただきます。
そこでこの記事では、はじめて家族信託を知った方向けに、
- 家族信託とはそもそも何か
- 主なメリット
- 覚えておきたいデメリット・注意点
- 他の制度(成年後見・任意後見・生前贈与など)との使い分け
までを、できるだけ専門用語をかみくだいてお伝えします。
1.家族信託とは?まずはざっくりイメージから
家族信託(民事信託)は、かんたんに言うと、
「親の財産を、信頼できる家族に“託して”管理してもらう仕組み」
です。
認知症になると何が困るのか
高齢になると、誰にでも、認知症や判断力の低下のリスクがあります。
もし親名義のまま何も対策をしないでいると、
- 親が認知症と診断される
- 金融機関が「ご本人の判断能力に疑いあり」と判断
- 親名義の口座がほぼ動かせなくなる
- 自宅の売却や大きなお金の動きもできない
という「資産凍結」の状態になることがあります。
子どもであっても、法律的には勝手に代わりに売ったり解約したりできません。
そこで登場するのが家族信託です。
家族信託の「登場人物」は3人
家族信託には、基本的に3つの立場があります。
- 委託者:財産の持ち主(多くは親)
- 受託者:財産を託されて管理する人(多くは子ども)
- 受益者:その財産から利益を受ける人(多くは親)
典型的なのは
親が「委託者」兼「受益者」、子どもが「受託者」という形です。
親の名義のままでは将来動かしにくくなる財産を、「信託財産」として切り分け、子ども名義の“信託口座”や“信託登記”に移し、子どもが親のために管理・運用していくイメージです。
どんな財産を信託に入れられる?
代表的なものは次のような財産です。
- 自宅・賃貸アパート・駐車場などの不動産
- 預貯金、証券口座
- 自社株式(中小企業オーナーなど)
一方で、年金や一部の権利など、信託に向かない・できない財産もあります。
(この点はデメリットの章であらためて触れます)
2.家族信託の主なメリット
ここからは、家族信託の“いいところ”を、代表的な場面ごとにお話しします。
2-1 認知症になっても「資産凍結」を回避しやすい
いちばんイメージしやすいメリットが、認知症になっても、信託財産は子どもがスムーズに動かせるという点です。
親が認知症になっても、信託契約に基づいて、
- 信託口座から生活費や医療費を支払う
- 不動産を売却し、施設入居の費用にあてる
- 空き家になった家を賃貸に出す
といったことが、受託者の判断でできるようになります。
成年後見制度を利用する場合と比べると、「売却」「新たな購入」「建て替え」などの動きの幅が大きいのが特徴です。
2-2 成年後見制度よりも、財産の使い方が柔軟
成年後見制度は「財産を減らさないように守る」ことが重視されるため、
- 新しい投資
- 将来のための建築や大規模なリフォーム
- 子や孫への計画的な援助
など、攻めの資産活用はかなり難しいのが現実です。
家族信託であれば、
- 「この賃貸アパートは維持・修繕しながら運用する」
- 「状況によっては売却し、より小さい物件に買い替える」
- 「毎月◯万円を配偶者の生活費として渡す」
といった、家族それぞれの事情に合わせた細かいルールを、契約であらかじめ決めることができます。
2-3 遺言書のように「承継先」まで決めておける
家族信託は、生前の財産管理だけでなく、「亡くなった後に誰へどのように引き継ぐか」も決めておくことができます。
たとえば、
- 親が生きている間:親の生活費・介護費用に使う
- 親が亡くなった後:長男が受益者となり、賃料収入を受け取る
- 長男も亡くなった後:最終的には孫へ承継させる
といったように、二次相続・三次相続まで設計することも可能です。
遺言書では「一代先」までしか指定できませんが、家族信託なら「何代か先」まで視野に入れた設計もできます(もちろん要検討)。
2-4 不動産の“共有問題”や「争族」を防ぎやすい
相続でよくあるトラブルの一つが、不動産を子どもたちで共有してしまうことです。
共有名義だと、
- 売却や大きな修繕には、共有者全員の同意が必要
- 兄弟姉妹のうち一人が認知症になると、売却などが難しくなる
- 「売りたい人」と「残したい人」で対立しやすい
というリスクがあります。
家族信託を使うと、例えば
実家は受託者である長男が管理し、賃料や売却代金の分配ルールは「信託契約」で事前に決めておく
という形が取れます。
意思決定の窓口を一本化しつつ、取り分は公平に、という設計もしやすくなります。
結果として、将来の“争族”の火種を減らすことにつながります。
2-5 障がいのある家族・事業承継にも使える
家族信託は、次のようなケースでも力を発揮します。
- 障がいのある子どもの「親亡き後」の生活費・住まいを長期的に確保したい
- 中小企業のオーナーが、自社株の管理と承継をスムーズにしたい
たとえば障がいのあるお子さんについて、
親(委託者)が財産を信託財産にして、
信頼できるきょうだいを受託者とし、
お子さんを受益者として、生活費や住まいの費用を長期的に支給する
といった設計も可能です。
また、事業承継では、
- 自社株を信託財産とし、後継者が受託者として議決権を行使
- 親が元気なうちは親自身が受益者、将来は子どもを受益者にする
など、経営のバトンタッチをなめらかにするためのツールとして活用されることがあります。
3.家族信託のデメリット・注意点
メリットが多い一方で、家族信託には誤解されやすいポイントや弱点もあります。
ここを理解しておかないと、「こんなはずじゃなかった」と後悔しやすい部分です。
3-1 生活や医療の判断(身上保護)はできない
まず押さえておきたいのは、
家族信託はあくまで「財産管理」の仕組み
生活や医療の判断(身上保護/身上監護)は別の制度の役割
という点です。
具体的には、家族信託だけでは、
- 入院や手術の同意
- 介護サービスの契約
- 施設入所の契約
といったことを法的に代わりに行う権限はありません。
医療や介護の判断までしっかり任せたい場合は、任意後見制度や成年後見制度と組み合わせることが必要になります。
3-2 受託者の負担・責任が重い
信託財産を預かる受託者には、法律上の義務が課されています。
- 自分の財産と信託財産をきちんと分けて管理すること(分別管理義務)
- 受益者の利益のために、注意深く誠実に管理すること(善管注意義務・忠実義務)
これらを怠ると、
- 損害賠償の責任を負う
- 場合によっては自分の財産で穴埋めしなければならない
ということもあり得ます。
「家族だから大丈夫」と安易に引き受けてしまうと、後から想像以上の負担や家族間の不信感につながることもあります。
そのため、
- 無理のない人を受託者に選ぶ
- 必要に応じて専門職を共同受託者・信託監督人に入れる
- 報酬の有無や金額もあらかじめ決めておく
といった工夫が大切です。
3-3 まだ新しい仕組みで、判例や税務実務が少ない
家族信託は、ここ十数年で急速に広がってきた制度です。
そのため、
- 裁判例(判例)がまだ少ない
- 税務上の取り扱いにグレーゾーンが残っている部分もある
という「新しさゆえの不安定さ」があります。
設計の仕方によっては、
- 予期せぬ贈与税がかかってしまう
- 将来、法解釈が変わる可能性がある
といったリスクもゼロではありません。
この点は、経験のある専門家と一緒にスキームを組み立てることが必須と言ってよい部分です。
3-4 信託に向かない財産もある
すべての財産を家族信託でカバーできるわけではありません。例えば、
- 公的年金の受給権
- 農地(農地法の制限が厳しい)
- 借地権(地主の承諾が必要など)
などは、信託に組み込みにくかったり、実務上かなりハードルが高かったりします。
また、借金などのマイナスの財産は、基本的に信託の対象外です。
そのため、家族信託の検討にあたっては、
- 手持ちの財産を一度すべて洗い出す
- どれを信託に入れ、どれは別の方法で対応するかを整理する
というプロセスが欠かせません。
3-5 金融機関によって対応がまちまち
家族信託そのものは法律上認められていても、銀行などの実務対応は、金融機関ごとに大きく違うのが現状です。
- 信託専用口座を作れる銀行もあれば、対応していない銀行もある
- 信託口座ではローンが組めない、投資商品が利用できない場合もある
など、細かなルールがバラバラです。
ですから、
- どの銀行で信託口座を使うか
- すでにある口座をどう整理するか
といった運用面まで含めて、事前に確認しておく必要があります。
3-6 「節税のため」に使う制度ではない
家族信託は、「節税対策」として誤解されがちですが、基本的に、これだけで相続税や贈与税が劇的に安くなる制度ではありません。
- 信託財産からの収入には、通常どおり所得税がかかる
- 相続税も、基本的には信託を組んだからといって減るわけではない
というのが原則です。
もちろん、信託をうまく活用することで、
- 相続発生までに、時間をかけて少しずつ資産構成を整える
- 後継者への承継のタイミングや方法をコントロールする
といった「税務を考慮した設計」は可能です。
ただしこれは、あくまで資産管理の自由度が高いことの“副産物”であり、
「家族信託=節税商品」
ではない、という点はしっかり押さえておく必要があります。
また、遺留分(一定の相続人に保障される取り分)との関係もまだ判例が少なく、将来的にトラブルになるリスクをゼロにすることはできません。
この点も、専門家と慎重に検討する部分です。
4.家族信託だけで完結させない方がいいケース
ここまで読むと、
じゃあ、家族信託だけ組んでおけば安心?
と思われるかもしれませんが、実務上は他の制度と組み合わせるほうがうまくいくケースが多いです。
例として、よく検討されるものをごく簡単にご紹介します。
任意後見制度
- 将来、判断能力が低下したときに備えて
- 信頼できる人に「財産管理+身上保護(生活・医療・介護の契約など)」を任せる制度
家族信託:お金や不動産を柔軟に動かす枠組み
任意後見:家庭裁判所の監督下で財産を管理し、生活や医療の判断も託す枠組み
と役割が違うので、組み合わせて利用することで、よりトータルな安心につながることがあります。
成年後見制度
すでに認知症が進んでしまった場合など、家族信託をもう組めない状態になってからは、成年後見制度で支えることになります。
- 法定後見(後見・保佐・補助)のどの制度を利用するか
- 弁護士や司法書士などの専門職に後見人を任せるか
など、本人の状態に応じて選択されます。
生前贈与や代理人カードなど
場合によっては、
- シンプルな生前贈与
- 銀行の「代理人カード」制度
- 生命保険の活用
などと組み合わせることもあります。
「全部家族信託に詰め込む」発想ではなく、それぞれの制度の得意・不得意を理解し、バランスよく組み合わせることが大切です。
5.まとめ:家族信託は「魔法の道具」ではないけれど、うまく使えばとても心強い
最後に、ポイントを整理します。
- 家族信託は、「親の財産を信頼できる家族に託して管理してもらう」ための仕組み
- 認知症による資産凍結を防ぎつつ、成年後見よりも柔軟な資産運用がしやすい
- 遺言のように承継先を決められ、不動産の共有トラブルや“争族”対策にも役立つ
- ただし、生活や医療の判断(身上保護)はできないので、任意後見など他制度との併用が重要
- 受託者の責任は重く、税務や判例もまだ発展途上の分野であるため、設計には専門家の支援が欠かせない
家族信託は、「家族の状況・価値観・財産の種類」によって向き不向きが大きく変わる制度です。
ネット上の一般論だけでは判断しづらい部分こそ、一度、専門家と一緒に整理してみていただきたいなと思います。
西宮市で家族信託を検討中の方へ
シアエスト司法書士・行政書士事務所では、西宮市周辺を中心に、
- 認知症になる前の資産管理の備え
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「うちの親の場合、家族信託って本当に必要?」
「やるとしたら、どんな形が現実的?」
といった“最初のモヤモヤ段階”からで大丈夫です。
難しい言葉はできるだけ使わず、図や具体例を使いながら、一緒に整理していきます。
少しでも不安を感じたときが、検討を始めるタイミングです。
どうぞお気軽にご相談ください。

