第1章 一般社団法人という法人のかたち
一般社団法人は、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づいて設立される非営利法人です。
ここでいう「非営利」とは、利益を上げてはいけないという意味ではなく、利益を構成員(社員)に分配してはいけない、ということを指します。
つまり、法人が得た利益は法人自体の目的達成のために再投資し、社会的・公共的な活動の継続に使われます。
一方で、事業を行うことは制限されていません。
一般社団法人は、商品販売、サービス提供、コンサルティング、教育、イベントなど、事業活動を通じて収益を得ることができます。
その収益を社員に配当することができないという点を除けば、営利法人と同様の経済活動が可能です。
第2章 他の法人との違い
日本の法人制度には、株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人・一般財団法人など、いくつかの選択肢があります。
その中で、一般社団法人は、株式会社のような自由度と、NPO法人のような社会性を併せ持つ中間的な存在です。
株式会社は、出資者である株主の利益を追求する営利法人です。利益が生じれば配当を行い、経営者と所有者が分離しています。
NPO法人は、公益性の高い活動を行う非営利法人で、設立には行政庁の認証が必要です。
これに対して一般社団法人は、行政の認可や監督を受けることなく、社員2名以上がいれば自由に設立でき、目的にも大きな制限がありません。
そのため、業界団体、研究会、協会、福祉団体、教育支援団体、さらには地域のまちづくり組織など、幅広い分野で利用されています。
第3章 一般社団法人の特徴
一般社団法人の大きな特徴は三つあります。
ひとつ目は、設立の簡便さです。資本金は不要で、社員2名以上が集まれば登記だけで法人格を取得できます。
ふたつ目は、非営利性と柔軟性の両立です。利益を分配しない一方で、事業を行う自由度が高く、株式会社よりも理念型の活動に適しています。
三つ目は、信頼性の高さです。法人格を持つことで、契約締結や銀行口座の開設が容易になり、社会的信用が格段に上がります。
ただし、社員に利益を還元できないという構造上、資金繰りやモチベーション設計をしっかり考えておく必要があります。
第4章 メリットとデメリット
一般社団法人の最大の利点は、設立が容易であることと、活動の自由度が高いことにあります。
行政庁の認可は不要で、最短数週間で法人格を取得できます。資本金も不要で、設立時のコストを最小限に抑えられます。
また、非営利型として認められれば、法人税がかからない範囲の事業も多く、税務上のメリットも大きいといえます。
一方で、社員に配当ができないため、資金を投下した個人が経済的なリターンを得にくいという側面もあります。
また、定款の不備や目的の曖昧さから、銀行口座開設が拒否されるケースや、理事間の意見対立で運営が滞るケースもあります。
非営利型を維持するためには、理事構成や残余財産の扱いなど、法律上の要件を継続的に守らなければなりません。
第5章 税制と「非営利型」法人
税務上、一般社団法人は「普通型」と「非営利型」に分かれます。
非営利型と認められると、会費や寄附金など、公益的な活動収入には法人税が課税されません。
非営利型の要件は、次のように整理できます。
第一に、剰余金の分配を行わないこと。
第二に、解散時の残余財産を国・地方公共団体・他の非営利法人などに帰属させること。
第三に、理事を3名以上置き、そのうち親族関係者が理事の3分の1を超えないことです。
これらを満たすことで、法人税法上の「人格のない社団等」と区別され、非課税部分が広がります。
ただし、物販や有料講座など、収益事業を行う場合には、その部分に限って課税されます。
第6章 設立の流れと登記
一般社団法人は、登記によって成立します。行政庁の認可は不要です。
設立の基本的な流れは、定款の作成、公証人の認証、設立時役員の選任、登記申請という順序で進みます。
定款が完成したら、公証役場で認証を受けます。
このとき、目的が曖昧だと公証人から修正を求められる場合があります。
「社会貢献」や「交流促進」といった抽象的な表現ではなく、「地域高齢者の見守り活動」「成年後見に関する相談事業」「市民向けセミナーの開催」など、具体的な事業内容を盛り込むのが望ましいです。
認証後、設立時社員が理事を選任し、代表理事を決定します。
必要書類を整えて、主たる事務所所在地の法務局に登記を申請すれば、法人が誕生します。
第7章 定款づくりの実務と文例
〜設立後に困らないための「生きた定款」〜
一般社団法人を設立するうえで、もっとも重要なのが「定款」です。
定款は法人の設計図であり、将来の活動範囲・役員構成・税務上の扱いまでも左右します。
後から変更することも可能ですが、公証人の認証や登記が必要になるため、最初にしっかり作り込むことが大切です。
定款には法律上必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」と、任意で定める「相対的記載事項」があります。
ここでは、実務上必要な内容をすべて含めたモデル構成を紹介します。
(第1条)名称
この法人は、「一般社団法人〇〇協会」と称する。
英文表記を用いる場合は「The 〇〇 Association」とすることができる。
解説
法人名は自由に決められますが、「一般社団法人」という語を名称の前に付す必要があります。
略称や英語表記を併記しておくと、名刺・契約書・ホームページなどで統一が取れます。
(第2条)主たる事務所
本法人は、主たる事務所を〇〇県〇〇市〇〇町〇番地に置く。
必要に応じて、理事会の決議により、従たる事務所を設置または移転することができる。
解説
事務所の所在地は登記事項になります。ビル名・部屋番号まで書いても構いませんが、引っ越し時の柔軟性を考え、「市町村まで」の表記にとどめるのが一般的です。
(第3条)目的
本法人は、地域社会の活性化及び市民の生活向上に寄与することを目的とし、次の事業を行う。
(第4条)事業
1 本法人は、前条の目的を達成するために、次の事業を行う。
(1)地域活動・福祉・教育・文化・まちづくりに関する事業
(2)講演会・研修会・イベント・セミナー等の企画および運営
(3)出版、広報、情報発信、調査研究、コンサルティング業務
(4)関連団体や行政との協働・連携に関する事業
(5)寄附金・会費・助成金等の受け入れおよび管理運用
(6)目的を達成するために必要なその他の事業
2 前項の事業は、主として日本国内で行うものとする。
解説
「目的」と「事業」は最も重要な部分です。
目的は理念的に、事業は具体的に書くのがポイントです。
あまりに抽象的だと、公証人認証や銀行口座開設で差し戻されることがあります。
今すぐ行わない活動も、将来的に予定している内容は入れておくと安心です。
(第5条)公告の方法
本法人の公告は、主たる事務所に掲示して行う。
ただし、理事会の決議により、法人のウェブサイト上で行うことができる。
解説
公告とは「法人の決算や重要事項を社会に公示すること」です。
官報公告にすると毎年の費用がかかるため、「掲示」または「ウェブサイト」が実務的です。
(第6条)社員の資格
本法人の目的に賛同し、所定の入会手続を経て承認を受けた個人または団体をもって社員とする。
(第7条)社員の入会・退会
社員として入会を希望する者は、所定の申込書を提出し、理事会の承認を得なければならない。
社員は、いつでも退会することができる。ただし、退会した場合も既に負担した義務を免れない。
解説
ここでの「社員」は株式会社の従業員ではなく、「法人の構成員」です。
会員制度を別に設ける場合は、「社員」と「会員」を区別して定義する必要があります。
(第8条)除名
本法人の名誉を著しく傷つけた者、または目的に反する行為をした者は、社員総会の特別決議により除名することができる。
(第9条)社員総会
社員総会は、すべての社員をもって構成し、法人の最高意思決定機関とする。
定時社員総会を毎事業年度終了後三か月以内に開催し、必要に応じて臨時社員総会を開くことができる。
議事は、社員の過半数の出席により成立し、出席社員の過半数の賛成をもって決する。
解説
総会は年1回必ず開催します。
通知期間は法律で1週間前と定められていますが、実務では2週間前の発送が安心です。
(第10条)理事および代表理事
本法人に、三名以上の理事を置く。
理事のうち一名を代表理事とし、理事の互選によって選任する。
理事の任期は二年とし、再任を妨げない。
解説
非営利型法人の条件として、理事三名以上が必要です。
代表理事の選定は理事会の互選で決定します。
(第11条)監事
本法人に監事を一名以上置くことができる。
監事は、理事の職務執行を監査する。
解説
監事は任意設置ですが、ガバナンスを強化したい場合や助成金を受ける法人では設置が望ましいです。
(第12条)役員の職務
代表理事は法人を代表し、業務を統括する。
理事は理事会の決議に基づき法人の業務を執行する。
監事は理事の職務執行を監査し、不正を発見した場合は社員総会に報告する。
(第13条)理事会
理事会は、すべての理事をもって構成し、代表理事がこれを招集する。
理事会の議事は、出席理事の過半数で決する。
理事が全員同意したときは、会議を開かず書面または電子的方法で決議できる。
(第14条)事業年度
本法人の事業年度は、毎年〇月一日に始まり、翌年〇月三十一日に終わる。
解説
事業年度は自由に設定できます。補助金を利用する場合、会計年度(4月〜3月)に合わせると便利です。
(第15条)剰余金の分配の禁止
本法人は、いかなる場合も社員に剰余金の分配を行わない。
(第16条)残余財産の帰属
本法人が解散したときは、残余財産を社員に分配せず、社員総会の決議を経て、国、地方公共団体、又は公益目的を有する法人に帰属させる。
解説
この二つの条文が「非営利型」要件の核心部分です。
公証人認証時にも確認され、税務上もこの規定がないと非営利型と認められません。
(第17条)基金
本法人は、社員または第三者から基金を受け入れることができる。
基金の拠出者は、理事会が定める条件に従い、将来返還を受けることができる。
(第18条)定款の変更
この定款を変更するには、社員総会の特別決議を要する。
(第19条)附則
この定款は、法務局に設立登記をした日から施行する。
最初の事業年度は、設立の日から令和〇年〇月三十一日までとする。
定款作成時の実務的注意点
定款は電子定款としてPDF化し、公証人の電子署名を受けると、印紙代(4万円)を節約できます。
定款の認証は、社員の一人が委任状をもって行うことも可能です。
目的や事業内容は「法人税法上の非営利型要件」に直結するため、慎重に確認しましょう。
また、公告方法や役員数などは後から登記変更することも可能ですが、手数料と時間がかかるため、設立時に実態に合った内容にしておくのが望ましいです。。
第8章 登記申請の準備と雛形
登記には、定款(公証人認証済み)、設立登記申請書、役員就任承諾書、印鑑届書、登録免許税納付書などが必要です。
申請書の雛形は次のとおりです。
設立登記申請書
登記の事由 設立の登記
登記すべき事項 別紙のとおり
添付書類 定款、公証人認証書、設立時役員就任承諾書、代表理事選定書、本店所在地決議書、印鑑届書、登録免許税領収書
登録免許税 金六万円
令和○年○月○日
申請人 一般社団法人○○(設立中)
主たる事務所 ○県○市○町○番地
設立時代表理事 ○○ 印
○○法務局 御中
第9章 税務・社会保険など設立後の手続
登記が完了したら、税務署・都道府県税事務所・市区町村に「法人設立届出書」を提出します。
青色申告を希望する場合は、設立後3か月以内または最初の決算期末日までに「青色申告の承認申請書」を提出します。
理事1名のみの法人でも、原則として社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務があります。
従業員を雇用する場合には、雇用保険や労災保険の届出も行います。
この段階で事業計画書や活動計画書を整備しておくと、金融機関口座の開設がスムーズになります。
第10章 銀行口座開設の実務
銀行は、法人の実在性・目的・資金の出所を重視します。
登記事項証明書、印鑑証明書、定款、代表者の本人確認書類に加え、事業計画書やパンフレット、ホームページのコピーなどを添付すると審査が通りやすくなります。
「目的が抽象的」「活動実績がない」「資金の流れが不明確」といった場合は口座開設を断られることもあります。
設立当初から事業の内容と収支の見通しを具体的に説明できるようにしておきましょう。
第11章 決算と公告のしかた
一般社団法人は、毎事業年度終了後に貸借対照表を公告する義務があります。
定款で「主たる事務所の掲示」と定めていれば、事務所内の見やすい場所に掲示するだけで足ります。
ウェブサイト上にPDF形式で掲載しても構いません。
また、毎年1回は定時社員総会を開き、事業報告と決算書の承認、役員の選任を行います。
議事録は必ず残し、代表理事と出席理事が署名押印します。
第12章 基金制度と契約の作り方
基金とは、社員や第三者が法人に資金を拠出し、将来的に返還を受ける制度です。
出資とは異なり、利息はつかず、法人の財政基盤を支える「融資に近い制度」といえます。
契約書は次のようにシンプルで構いません。
基金拠出契約書
甲(拠出者)○○と乙(当法人)一般社団法人○○は、次のとおり合意する。
甲は乙に対し、金○○円を基金として拠出する。乙は本基金を事業の用に供し、原則として○年後に無利息で返還する。返還時期は理事会の決議で延期できる。甲は中途解約を請求しない。
令和○年○月○日
甲 住所・氏名・印
乙 代表理事 氏名・印
第13章 一般社団法人が向いているケース
一般社団法人は、営利法人ほど収益を重視せず、NPO法人ほど制約が厳しくないため、幅広い場面で活用されています。
業界団体や協会、研究会、福祉・教育・地域活動のほか、家族信託・財産管理・成年後見支援などにも適しています。
個人事業や任意団体の活動を法人化して信用を高めたい場合にも最適です。
第14章 まとめ
一般社団法人は、柔軟で設立しやすく、社会的信用も得られる法人形態です。
理念を形にしながらも、事業活動によって自立した運営が可能です。
非営利型の要件を守ることで税制上の優遇を受けることもでき、営利と公益のバランスをとりたい人にとって理想的な選択肢といえるでしょう。
設立の手順を正しく踏み、定款と登記を丁寧に行えば、あなたの理念を支える法人基盤を確立することができます。
次の一歩として、目的・事業内容・運営体制を明確にし、定款のドラフトづくりから始めてみてください。
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