私が「依頼者の困りごとを自分事にする」と決めている理由|司法書士の仕事と「自己責任」という言葉の受け止め方

※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて書いています。

「自己責任」という言葉に、どんな印象をお持ちでしょうか。

「自分のことは自分で決めて、その結果も自分で引き受ける」。多くの方は、そんなイメージを持っているのではないかと思います。私も長いあいだ、そう理解していました。

ただ、司法書士として仕事を続けるなかで、この言葉の意味を少し広げて考えるようになりました。今回は、そのことについて書いてみます。事務所としての方針の話というより、私自身が仕事に向き合うときの考え方の話です。

目次

この記事でお伝えしたいこと

  • 「自分の担当範囲をやり切った」だけでは、依頼者の困りごとが解決していないことがあります。
  • そんなときは「担当外だから」と待つより、「自分にできることはないか」と考えて動くほうが、問題の解決につながりやすいと考えています。
  • ほかの人や状況のせいにせず、まず自分事として問い直すと、次に打てる手が見えてきます。
  • 一方で、決めるのは依頼者ご本人であること、司法書士にできる業務には法律上の範囲があることなど、守るべき線引きもあります。
  • 司法書士法は、司法書士の使命を「国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与すること」と定めています。

1. 「自己責任」という言葉を考え直す

辞書的に言えば、自己責任とは「自分の行動や判断の結果を、自分で引き受けること」です。この意味自体は、正しいと思います。

けれども、この定義をそのまま仕事に当てはめると、少し物足りなさを感じるようになりました。

「自分の担当範囲には責任を持つ」という考え方は、裏を返せば「それ以外は自分のせいではない」という考え方と隣り合わせです。担当がはっきりしていることは、仕事を進めるうえで大切です。それでも、担当の線を引いたところで考えるのをやめてしまうと、線と線のあいだに落ちてしまう困りごとが出てきます。

2. 「担当範囲をやり切った」だけでは、何かが足りない

相続の手続きを例に考えてみます。

相続の手続きに関わる人は、ご依頼くださった方おひとりではありません。相続人が何人もいれば、それぞれに連絡をとる必要があります。場合によっては、税理士や弁護士と連携することもあります。

書類を整え、必要な説明もした。自分の担当範囲はやり切った。そう言える状況でも、依頼者がまだ困っていることがあります。手続きが前に進んでいないこともあります。

そうした場面で「ここから先は担当外なので」と待っているより、「自分に何かできることはないか」と考えて動くほうが、結果として依頼者の役に立てます。

これは「サービスがよい」とか「がんばっている」という話ではありません。単純に、そう動いたほうが問題が解決するから、そうしているのです。

3. まわりの人や状況のことも、まず自分事として考える

私が日ごろ心がけているのは、関わる人や状況を、なるべく自分事として捉えることです。

  • 連絡がうまく届いていないなら、自分の伝え方に工夫の余地があるのかもしれない。
  • 手続きが滞っているなら、もっと早く動けたタイミングがあったのかもしれない。

そう問い直すことで、次の手が見えてきます。

ほかの人や状況のせいにすると、その瞬間は気持ちが楽になります。けれども、問題そのものは残ったままです。自分事として考えると、少し重たくはなりますが、動ける選択肢が増えます。

「だれのせいか」を決めることよりも、「いま、ここから何ができるか」を考えること。それが、私にとっての責任の引き受け方です。

4. 好きな言葉:「自由と責任はトレードオフ」

「自由と責任はトレードオフ」という言葉が好きです。

引き受ける責任の範囲が広がるほど、自分の判断で動ける幅も広がる、という意味です。担当範囲だけに責任を持つなら、動ける範囲もその中だけになります。依頼者の困りごと全体を自分事として引き受ければ、そのぶん、どう動くかを自分で考え、選べる場面が増えていきます。

司法書士という仕事は、依頼者の人生の大きな節目に関わります。相続、不動産の取得、会社の設立。どれも、その方やご家族にとって、何度も経験することではない出来事です。そういう仕事だからこそ、「書類を作って終わり」ではなく、「依頼者が安心して次へ進めるまで」を自分の仕事として考えたいと思っています。

5. 自分事にすることと、守るべき線引き

「依頼者の困りごとを自分事にする」といっても、何でも引き受ける、何でも代わりに決める、という意味ではありません。むしろ、線引きをはっきりさせておくことが、依頼者のためになると考えています。

決めるのは、依頼者ご本人

相続の分け方、不動産をどうするか、遺言に何を書くか。こうしたことを決めるのは、依頼者ご本人やご家族です。私の役目は、選べる道とそれぞれの注意点を分かりやすくお伝えし、ご本人が納得して決められるようにお手伝いすることです。自分事として考えることは、ご本人に代わって決めることとは違います。

司法書士にできることには、法律上の範囲がある

司法書士が業として行える仕事は、司法書士法3条で定められています。登記や供託の手続きの代理、法務局や裁判所などに出す書類の作成などです。例えば、相続人どうしの話し合いがこじれて、相手方との交渉の代理が必要になった場合は、弁護士に相談していただくことになります。

「自分にできることはないか」と考えるときも、この範囲の中で何ができるかを考えます。範囲の外にあることは、ほかの専門家につなぐことが、自分事として引き受けるということだと考えています。

秘密を守ること

司法書士法24条は、司法書士が業務上取り扱った事件について知った秘密を、正当な事由がなければ漏らしてはならないと定めています。ほかの専門家と連携するときも、依頼者の了解をいただいたうえで、必要な範囲で情報をやりとりすることになります。

6. 司法書士法が定める「使命」と「職責」

司法書士法1条は、司法書士の使命を次のように定めています。

「司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする。」

また、同法2条は、司法書士の職責として「常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない」と定めています。

「依頼者の困りごとを自分事にする」という考え方は、私なりに、この「誠実に」という言葉を日々の仕事に置きかえたものなのかもしれません。法律の言葉は短いですが、その中身をどう実践するかは、一人ひとりの司法書士に委ねられているように感じます。

7. ご依頼くださる方へ

この記事を読んで、「こんなことまで相談してよいのだろうか」と感じた方がいらっしゃれば、どうか遠慮なさらないでください。

  • 手続きの途中で、ほかの相続人と連絡がとれなくなった
  • 書類はそろったが、次に何をすればよいか分からない
  • 税金のことや、相手方とのやりとりで困っている

司法書士の業務の範囲でお手伝いできることはお手伝いし、範囲の外のことは、どこに相談すればよいかを一緒に考えます。困っていることを言葉にしていただくことが、解決への最初の一歩になります。

言った・言わないの行き違いを防ぐために、記録を残すことの大切さについては、次の記事で書いています。

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よくある質問

司法書士に、ほかの相続人との連絡をお願いすることはできますか。

手続きに必要なご案内や書類のやりとりなど、司法書士の業務の範囲でお手伝いできることがあります。一方で、相続人どうしの意見が対立していて、相手方との交渉の代理が必要な場合は、弁護士への相談が必要になります。どこまでお手伝いできるかは、事情をうかがったうえでご説明します。

手続きの方針は、司法書士が決めてくれるのですか。

最終的に決めるのは、依頼者ご本人やご家族です。司法書士は、選べる方法とそれぞれの注意点を分かりやすくお伝えし、納得して決められるようにお手伝いします。

税金のことも相談できますか。

相続税の申告など税金の具体的な相談は、税理士の業務です。司法書士にご相談いただいた場合は、手続きの流れのなかで税理士への相談が必要かどうかを一緒に整理し、必要に応じて税理士との連携をご相談します。

相談した内容がほかの人に伝わることはありませんか。

司法書士には、業務上知った秘密を守る義務があります(司法書士法24条)。ほかの専門家と連携する場合も、ご本人の了解をいただいたうえで、必要な範囲でのみ情報をやりとりします。

「こんなことを聞いてよいのか」と迷うような小さなことでも相談できますか。

はい。小さな疑問のうちにお話しいただくほうが、手続きが滞る前に手を打てることがあります。司法書士の業務の範囲外であれば、どこに相談すればよいかを一緒に考えます。

おわりに

これは私個人のスタンスの話で、「こうあるべきだ」と言いたいわけではありません。担当の範囲をきちんと守ることにも、大切な意味があります。

  • 担当範囲をやり切っても、依頼者の困りごとが残っていれば、自分にできることを考える
  • だれかのせいにする前に、まず自分事として問い直す
  • 責任を広く引き受けるほど、自分で考えて動ける幅も広がる
  • その一方で、決めるのはご本人であること、法律上の業務の範囲、秘密を守ることは守る

ただ、シアエスト司法書士・行政書士事務所にご相談くださる方には、こういう気持ちで向き合っています、ということをお伝えしたくて書きました。相続・遺言・不動産や会社の登記のことで困っていることがあれば、西宮北口の事務所で、お話をうかがいます。

出典・参考

代表司法書士・行政書士 今井 康介

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