建設業の世界には「一式工事」という言葉がありますが、はじめて耳にした方にとっては、どこかつかみどころがなく、少し身構えてしまう言葉かもしれません。
「専門工事とは何が違うの?」「うちの工事は一式になるの?」――そんな不安や戸惑いは、とても自然なことです。
この記事では、その一式工事の全体像を、できるだけやさしく、日常のイメージに近い言葉でお話ししていきます。
建設業許可のとり方で悩んでいる方も、これから工事の規模を広げていきたい方も、「なるほど、そういうことか」と肩の力が抜けるような、そんな理解の助けになれば幸いです。
第1章 一式工事とは?まず全体像をおさえよう
建設業許可のご相談を受けていると、最初によく出てくるのがこの言葉です。
「一式工事って、結局なんなんですか?」
土木一式、建築一式、と言われても、「土木工事」「建築工事」と何が違うのか、最初はピンとこないのが普通です。
でも、ここだけ覚えておいていただければ大丈夫です。
一式工事とは、複数の専門工事をまとめて、元請が全体を企画・指導・調整して仕上げる“まとめ役の工事”です。
つまり、「何でもできる工事」ではなく、いろいろな専門工事を束ねて、現場を総合的に動かしていく仕事だとイメージしていただくと、ぐっと分かりやすくなります。
ここからは、
- 一式工事の中身(総合的な企画・指導・調整とは?)
- 一式工事と専門工事の関係
を、できるだけやさしい言葉で整理していきます。
一式工事=「総合的な企画・指導・調整」が必要な工事
法律の言葉では、一式工事はこんなふうに説明されています。
「総合的な企画、指導、調整のもとに行う工事」
とても堅い表現ですが、もう少しかみ砕くと、こんなイメージです。
- どんな建物・構造物をつくるのか計画を立てる(企画)
- どの業者が、いつ、どこを施工するのか段取りを決める(指導)
- 大工・設備・電気・土工など、複数の業者の工事がぶつからないように調整する(調整)
たとえば、大きなマンションを一棟建てるとき。
基礎工事、鉄筋工事、型枠工事、電気工事、管工事、内装工事…と、本当にたくさんの工事が関わります。
この一つ一つは「専門工事」ですが、それらをまとめて、
- 設計どおりに
- 安全に
- 期限までに
きちんと完成させるために、全体を管理する「まとめ役」が必要になります。このまとめ役を担う工事が、一式工事です。
音楽でいえば、
- バイオリン(大工工事)
- トランペット(電気工事)
- ドラム(とび・土工工事)
など、いろいろなパートがあるオーケストラの中で、指揮者を務めるのが「一式工事」の役割だと思っていただくと、イメージしやすいかもしれません。
ですので、一式工事の現場では、
- 発注者との打ち合わせ
- 役所や近隣との調整
- 下請業者への指示
- 工程・品質・安全の管理
といった「総合マネジメント」が求められます。ここが、一つの工種だけを請け負う専門工事との大きな違いです。
一式工事と専門工事の関係(29業種のうち2つだけ)
建設業の許可は、全部で29の業種に分かれています。このうち、「一式工事」と呼ばれるのは、次の2つだけです。
- 土木一式工事(ダム・道路・トンネル・造成など)
- 建築一式工事(建物の新築・増改築・大規模改修など)
残りの27業種は、すべて専門工事です。
- 大工工事
- 左官工事
- とび・土工・コンクリート工事
- 電気工事
- 管工事
- 内装仕上工事
- 塗装工事 …など
では、一式工事と専門工事は、どういう関係なのでしょうか。
イメージとしては、こうです。
- 一式工事:建物や土木構造物を「丸ごと」完成させるための、総合的な工事
- 専門工事:その中に含まれる「パーツ」を担当する工事
マンションを一棟建てようと思えば、大工工事、鉄筋工事、コンクリート工事、電気工事、設備工事、内装工事…と、多くの専門工事が必要になります。
それらを組み合わせて、ひとつの建物として完成させる役割を持つのが「建築一式工事」。
同じように、道路や橋をつくるためには、とび・土工工事、舗装工事、鋼構造物工事、水道施設工事など、たくさんの専門工事が必要になります。
それらをまとめて、ひとつの土木工作物として仕上げるのが「土木一式工事」です。
ここで、よくある誤解がひとつあります。
「一式工事の許可があれば、専門工事は何でもできるんですよね?」
残念ながら、これはNOです。
- 一式工事として全体を元請で請け負うときに、その中身として専門工事をまとめることはできますが、
- 専門工事だけを単独で請け負う場合には、その専門工事の許可が別途必要になります。
この点は次の章以降で、「建築一式工事」「土木一式工事」のちがいとあわせて、もう少し具体的に整理していきます。
まずは、
- 一式工事は「まとめ役」
- 29業種のうち一式工事は2つだけ
- 残りは、全部「専門工事」
この3つだけ、頭の片隅に置いていただければ十分です。
第2章 土木一式工事とは?対象・金額・具体例
建設業許可の中でも、「土木一式工事」という言葉は少し抽象的で、掴みにくい部分があるかもしれません。
けれども、ポイントを順番に見ていくと、とても素直な仕組みで成り立っています。
土木一式工事は、道路・橋・トンネルなど、いわば“社会の基盤そのもの”をつくる工事を、総合的に取りまとめる役割を担います。
ここでは、工事の対象、許可が必要になる金額の目安、そして専門工事との関係を、できるだけ日常のイメージに近い表現で整理していきます。
土木一式工事の対象は「土木工作物」
まず押さえたいのは、“どんなものをつくる工事なのか”という点です。
土木一式工事の対象は、ひとことで言うと
土地に恒久的に設置される、大規模で公共性の高い構造物(=土木工作物)
です。例としては、
- 道路
- 河川の護岸
- 橋梁(橋)
- トンネル
- ダム
- 港湾や海岸の護岸
- 宅地造成(擁壁・排水・道路整備を含むもの)
などが挙げられます。
これらの工事は、掘削・盛土・舗装など単独の作業だけでは成り立ちません。
複数の専門工事が絡み、加えて安全管理・近隣調整・行政との協議などを総合的に行う必要があるため、現場全体をまとめる役割が欠かせません。
これが、土木一式工事の本質です。
専門工事(とび・土工・舗装など)との違いとよくある誤解
土木一式工事は“現場全体をまとめる工事”。
一方で、とび・土工・舗装などは“専門工事”です。
■ 一式工事は「複数工事を組み合わせた全体」を請け負う工事
たとえば宅地造成では、
- 切土・盛土
- 擁壁工事
- 排水工事
- 区画道路
- ガードレール
- 舗装
- 上下水道の引込み
といった工事がセットになって初めて宅地が成立します。
これらを“一式として”まとめて請け負うのが、土木一式工事です。
■ 専門工事は「部分だけ」を請け負う工事
- 「掘削だけ」=とび・土工工事
- 「舗装だけ」=舗装工事
- 「擁壁の型枠だけ」=型枠工事
- 「排水管の敷設だけ」=管工事
など、個別の作業を担当するのが専門工事です。
■ よくある勘違い
「土木一式があれば、土工や舗装も全部できるんでしょ?」
これは、半分だけ正解です。
- 一式工事として工事全体を請け負う場合
→ 専門工事の許可がなくてもよい場合があります(ただし主任技術者は必要) - 専門工事を“単独で請け負う場合”
→ 専門工事の許可が必ず必要
たとえば、舗装工事だけを600万円で請け負う場合、土木一式工事の許可だけでは不足となり、「舗装工事業」の許可が別途必要です。
第3章 建築一式工事とは?対象・金額・具体例
建設業法において、建築一式工事は、いわば「建物づくりの総合指揮」を担う工事です。
専門工事だけでは完結しない、大規模かつ複雑な建築物の施工において、全体を企画・指導・調整しながら完成させる“まとめ役”の位置づけとなります。
土木一式工事が「社会基盤」をつくる役割を担うのに対し、建築一式工事は「建物そのもの」を完成させる工事です。言葉として似ていますが、対象となるものがまったく異なります。
ここでは、建築一式工事の対象・許可が必要となる金額の目安・リフォームなどとの境界を、できるだけやさしく整理します。
建築一式工事の対象は「建築物そのもの」
建築一式工事の対象とは、建物という“人が住んだり働いたり集まったりする場所”を、総合的な企画・指導・調整のもとで建設する工事ということができます。
建物の規模が大きくなるほど、多数の専門工事が絡み合い、管理の必要性が高まります。例えば、
- 基礎工事
- 型枠・鉄筋工事
- コンクリート工事
- 電気工事
- 給排水設備工事
- 外壁工事
- 内装仕上工事
- 防水工事
などがまとめて動く現場では、それぞれの業者が「いつ入るか」「どこまで担当するか」を調整し、建物として成立させるための統括的な施工管理が必要です。こうした役割を担うのが建築一式工事です。
また、新築の建築確認申請が必要な工事や、大規模な改修工事では、ほぼ例外なく建築一式工事として扱われるケースが多くなります。
許可が必要になる目安(元請として請け負う場合)
建築一式工事を元請として請け負う際に、許可が必要になる目安として、一般に次の2つのうちいずれかに該当する場合が挙げられています。
- 1件の請負金額が 1,500万円以上(税込)
- 木造住宅で 延べ面積150㎡超 の工事
このどちらかに当てはまる場合は、建築一式工事の許可を取得しておく必要性が高いです。
たとえば、
- 店舗併用住宅の新築(施工費2,000万円)
- 分譲住宅の新築(木造・延べ170㎡)
- 大規模マンションの改修工事
- 介護施設・保育所の新築工事
などは、ほぼ確実に建築一式工事として許可が必要となるケースです。
反対に、請負金額が1,500万円未満で、かつ木造住宅の延べ面積が150㎡未満という小規模工事では、許可不要な「軽微な工事」とされる場合があります。ただし、用途(住宅/店舗併用など)や構造・規模によって判断が変わるため、慎重な確認が必要です。
リフォーム・解体工事との線引き
建築一式工事において最も迷いやすいのが、「リフォームや解体工事は一式にあたるのか?」という点です。ここでは、分かりやすく線引きを整理します。
■ 小規模リフォームは多くが「専門工事(内装仕上工事等)」
たとえば、
- クロスの張替え
- フローリングの貼替え
- ちょっとした間取り変更
- 和室を洋室に変更
こうした工事の多くは、建築一式工事ではなく“内装仕上工事”などの専門工事に分類されることが一般的です。請負金額が500万円未満である場合は、そもそも許可が不要となるケースもあります。
■ 建物の安全性に関わる大規模改修は「建築一式工事」へ
一方で、次のような工事では建築一式工事に該当する可能性が高まります。
- 建築確認申請を伴う増改築
- 耐震補強を含む大規模改修
- マンションなどすべての部屋・設備が関わる大規模修繕
- 構造壁を撤去するスケルトンリノベーション
工事の規模・構造・工程・専門工事の種類の多さ・近隣対応等が複雑であればあるほど、「総合的な企画・指導・調整」が求められ、建築一式工事の範疇に入ります。
■ 解体工事の扱い
解体工事についても、次のような分岐があります。
- 小規模な住宅の解体 → 解体工事業(専門工事)に該当することが多い
- 商業施設・大型ビル等の大規模解体 → 仮設工事・安全計画・周辺調整が必須となり、建築一式工事に該当するケースもあります
つまり、“総合的な企画・指導・調整の必要性”が、一式工事かどうかを見極める重要な分かれ目となります。
建築一式工事は、建物という“人が住み、働き、集まる場所”を生み出す極めて大切な工事です。
そのため、リフォームとの線引きや請負金額・工事規模・用途の判断などで迷われる方が多く、「この許可で足りているのか?」「この工事はどの業種で受けるべきか?」という不安もよく聞かれます。
第4章 建築一式工事と土木一式工事の主な違い
「建築一式」と「土木一式」。
名称はよく似ていますが、じつは“つくるもの”も“許可が必要になる場面”も大きく違います。
ここでは、その違いをシンプルに、日常のイメージに寄せて整理していきます。
まず押さえたいのは、「どんなものをつくる工事なのか」。
対象が違えば、求められる専門性も、どのタイミングで許可が必要になるかも自然と変わってきます。
「何をつくるか」の違い(建築物か土木工作物か)
一式工事の中で、両者の違いをもっとも分かりやすく説明すると、次のひとことに尽きます。
- 建築一式工事:人が住んだり働いたりする「建物」をつくる工事
- 土木一式工事:道路や橋などの「社会基盤」をつくる工事
身近な例で見ると、それぞれの特徴がよく分かります。
■ 建築一式工事で扱うもの(例)
- マンション
- オフィスビル
- 商業施設
- 学校・病院
- 住宅(木造・鉄骨・RC)
- 大規模なリフォームや改修
いわば、「建物そのものを生み出す仕事」です。
多くの専門工事が関わり、居住性・安全性・デザイン性など、さまざまな要素を総合的に判断・調整する必要があります。
■ 土木一式工事で扱うもの(例)
- 道路・歩道
- 橋梁(橋)
- トンネル
- ダム
- 河川・海岸の護岸
- 宅地造成
こちらは「土地を整え、社会インフラを形づくる仕事」。
地盤や水・風などの自然条件、地域環境、交通への影響など、建物とはまったく違う視点での管理が求められます。
建築と土木は、どちらも生活に欠かせない工事ですが、対象物の性質が全く違うため、求められる指揮・調整の内容も大きく変わる、という点がポイントです。
専門工事の許可が別途必要になるケース
最後に、もっとも誤解が多い重要ポイントです。
建築一式・土木一式の許可を持っていても、専門工事を単独で請け負う場合(500万円以上)は、その専門工事の許可が別途必要 です。
■ 一式工事の許可で「できること」
- 建物や土木構造物を「全体として」請け負う
- その中に含まれる専門工事を、自社で施工すること自体は可能(ただし、各工種ごとに主任技術者/専門技術者の配置が必要)
■ 一式工事の許可だけでは「できないこと」
- 専門工事を「単独で」請け負うこと(500万円以上の場合)
- 1件500万円以上の専門工事を、一式工事の許可だけで受注すること
たとえば――
- 内装工事だけを600万円で請け負う
→ 「内装仕上工事業」の許可が必要 - 舗装工事だけを700万円で受注する
→ 「舗装工事業」の許可が必要 - 電気工事だけを単体で担当する(700万円の工事)
→ 「電気工事業」の許可が必要
つまり、
一式工事の許可は“まとめる力”の証明であって、
専門工事そのものを自由に単独受注できる許可ではない
ということです。
一式工事と専門工事の関係は、よく「オーケストラの指揮者」と「それぞれの楽器担当」に例えられます。
どちらが欠けても工事は成り立ちませんし、どちらにも、それぞれの役割と責任があります。
次の章では、この違いを踏まえたうえで、「一式工事があれば何でもできる」と思われがちな誤解について、さらに深掘りしていきます。
第5章 「一式=何でもできる」ではない!よくある誤解と注意点
建設業許可の相談で最も多い誤解の一つが、
「一式工事の許可を持っていれば、建物や土木の工事は何でもできるんですよね?」
というものです。
しかし、実際には一式工事の許可は“万能の許可”ではありません。
あくまで 工事全体をまとめる能力を認める許可 であり、専門工事そのものを自由に単独で請け負える許可ではない のです。
ここでは、特に誤解されやすいポイントを、分かりやすく整理します。
一式工事の許可だけでは専門工事を単独で請け負えない
まず最も重要なポイントはこれです。
一式工事の許可では、専門工事を単独で請け負うことはできない(500万円以上の場合)
たとえば—
- 電気工事だけを700万円で受注したい
- 内装工事だけを600万円で請け負いたい
- 舗装工事だけを800万円で任されたい
こうした「部分だけの工事」を単独で請け負う場合は、一式工事の許可では不十分で、それぞれの専門工事の許可が必要 です。
つまり、一式工事の許可は
マネジメントの許可であって、専門技術の許可ではない
ということです。
この点を誤解したまま業務を行うと、「許可があると思っていたのに、実は許可不足だった」というトラブルにつながりかねません。
「一式工事」としてカウントされるのは“元請工事だけ”
次に大変重要なのが、
一式工事として扱われるのは、元請としての工事だけ
という点です。
下請として参加した工事は、一式工事の実務経験・経営経験としてカウントされません。
例として、土木一式工事の許可を取りたい場合には、
- 契約上、自社が元請であること
- 請負契約書に「元請」が明記されていること
が求められます。
造成工事に何十件も関わっていても、書類を見るとすべて“下請”だったというケースは非常に多く、その場合は 土木一式の経験としては認められません。
建設業法は 契約上の立場(元請/下請)を明確に区別 しており、ここは必ず押さえておきたい部分です。
一式工事の中で専門工事を自社施工する場合の注意点
「一式として工事全体を請け負い、その中の一部の専門工事を自社で施工する」というケースも多くあります。
この場合には、
専門工事の許可は不要
という例外があります。(※元請としての一式工事の一部として施工する場合に限る)
ただし—
施工する専門工事に対応した主任技術者(専門技術者)の配置が必須
という重要な条件があります。
つまり、
- 許可は不要でも、技術者は必要
ということです。
具体例でみると、イメージはさらに明確になります。
■ 例:建築一式工事の中で自社が電気工事を行う場合
- 電気工事業の許可 → 不要
- 電気工事の主任技術者 → 必要
■ 例:土木一式工事の中で自社が舗装工事を行う場合
- 舗装工事業の許可 → 不要
- 舗装工事に対応できる主任技術者 → 必要
このルールは、「許可の手続きは簡略化するが、品質と安全は確保すること」という建設業法の考え方に基づいています。
「一式=何でもできる」という誤解が多い理由
一式工事は 多くの専門工事を束ねる“指揮者”の役割 を持つため、
どうしても「全部できる許可」と誤解されがちです。
しかし実際の構造は、
- 一式工事:全体をまとめる工事
- 専門工事:各分野の専門作業を担う工事
という明確な分業で成り立っています。
そして、許可の必要性は
- 工事の 対象
- 工事の 金額
- 工事の 請負形態(元請/下請、単独/一式の一部)
の3つで決まります。
次の章では、こうした理解を踏まえ、誤解されやすい「軽微な建設工事(許可不要の工事)」について丁寧に整理していきます。
第6章 軽微な建設工事とは?許可がいらない工事の目安
建設業許可の相談では、
- 「うちの工事は本当に許可が必要なのか?」
- 「金額が小さいから、許可なしでできるのでは?」
といった声をよく耳にします。
この疑問に答えるうえで、まず押さえておきたいのが「軽微な建設工事」=許可が不要となる工事 の考え方です。
ここを理解しておくと、“許可が必要な工事”と“不要な工事”の境界が非常に明確になります。
建築一式工事で許可が不要となるケース
建築一式工事は、建物全体を扱うため金額が大きくなりやすく、基本的には許可が必要な場面が多い工種です。
しかし、国土交通省は次の2つの条件のどちらかに当てはまる場合、軽微な工事として許可不要 と定義しています。
■ 許可不要の目安(建築一式工事)
- 工事1件の請負代金が 1,500万円未満(税込)
- 木造住宅で延べ面積 150㎡未満
このどちらかに該当すれば、建築一式工事の許可は不要となります。
■ 要注意:住宅の定義によって判断が変わる
- 住宅
- 共同住宅
- 店舗併用住宅(※延べ面積の1/2以上が居住部分)
これらは「住宅」として扱われ、150㎡未満なら軽微扱いになります。
ただし、店舗併用住宅で 店舗部分が過半を占める場合 は住宅扱いにならず、建築一式の軽微基準を満たさない可能性があります。
同じ150㎡未満でも、用途によって許可が必要になるケースがある
→ 建築一式の軽微判定は慎重な確認が必要
専門工事(建築一式以外)は「500万円未満」で許可不要
専門工事については非常にシンプルです。
建築一式以外の工事は、1件の請負金額が 500万円未満(税込)なら許可不要(建設業法第3条)
対象となる27業種すべてに共通します。
■ 許可不要になる例
- 内装仕上工事:380万円
- 電気工事:420万円
- 舗装工事:300万円
- 塗装工事:80万円
いずれも 500万円未満のため許可不要。
■ 許可が必要になる例
- とび・土工工事:520万円 → 許可必要
- 電気工事:800万円 → 許可必要
- 管工事:600万円 → 許可必要
専門工事は 「500万円」が明確な境界線 だと覚えておくと判断しやすくなります。
分割契約しても“合計金額”で判断される点に注意
軽微な工事で最も誤解されやすい部分が「分割契約」です。
工事を複数に分けて契約しても、実態が1つの工事なら合計金額で判断される
国土交通省は明確にこの点を示しています。(関東地方整備局資料「建設業法の手引き」など)
■ 例
- 内装工事 450万円
- 設備工事 120万円
→ 別契約でも、「建物内の一連の工事」であれば450 + 120 = 570万円 → 許可が必要
■ よくある誤解
- 「500万円を超えないように分ければOK」 → 誤り
- 「内装と設備を別契約にしたから軽微」 → 誤り
- 「形式的に分割すればOK」 → 誤り(実態で判断)
■ 建設業法の原則
形式(契約の分割)ではなく“工事の実態”で判断する
軽微な工事は「金額だけ」で判断しそうになりますが、実は 用途・工事範囲・分割の意図 が大きく影響します。
次の章では、この「軽微な工事」「一式工事」「専門工事」の理解をもとに、自社がどの許可を取るべきかを判断するコツ を整理していきます。
第7章 とび・土工工事業と土木一式工事業の違い(よくある相談)
建設業許可の相談では、「とび・土工工事の経験が長いから、土木一式工事業も取れるはずですよね?」いう声を本当によく耳にします。
しかし実際には、とび・土工工事業 と 土木一式工事業 は、性質も役割もまったく異なる工種です。
見た目の作業内容が似ている場面があるため誤解されやすいのですが、許可を選び間違えると、
- 必要な現場で工事ができない
- 実務経験として認められない
といった深刻なトラブルにもつながります。
ここでは両者の違いを落ち着いて整理し、誤解しやすいポイントをわかりやすく説明します。
とび・土工工事業は「専門工事」
とび・土工工事業は、専門工事として、工事の一部分を担当する工種と理解するとわかりやすくなります。
代表的な作業には次のようなものがあります。
- 掘削
- 盛土
- 地盤改良
- くい打ち
- 足場
- コンクリート打設
- 法面保護
- 仮締切り
いずれも、建設工事の中で必要となる基礎的・準備的・部分的な作業 が中心です。
たとえば、
- 道路工事のうち「土工部分だけ」
- 造成工事のうち「掘削だけ」
- 建方だけの工事
といった“部分請負”が基本です。そして、専門工事を500万円以上で受注する場合には、とび・土工工事業の許可が必須 です。
土木一式工事業は「元請として総合マネジメント」
一方、土木一式工事業はとび・土工とはまったく異なる工種で、役割は次のひと言に集約できます。
複数の専門工事を束ね、工事全体を総合的に管理する工種
宅地造成を例にすると、
- 切土・盛土
- 擁壁工事
- 道路整備
- 舗装
- 上下水道工事
- 排水施設
- ガードレール等の附帯工
これらを全体としてまとめ、工程、安全、品質、近隣対応、役所協議なども含めて総合的に現場を動かすのが土木一式工事 です。
大きな違いは、元請として「まとめ役」を担えるかどうかという点です。
許可取得で間違いやすいポイント
次に、実務で特に重要となるポイントを整理します。
とび・土工の経験が豊富であっても、それがそのまま 土木一式工事の経験として認められるとは限りません。
許可申請では次の点が厳格に審査されます。
- 自社が元請で契約していたか
- 契約書に「元請」である旨が記載されているか
- 工事全体に対する総合的な管理を行っていたか
よくある誤解を整理すると、次のようになります。
■ よくある誤解
「造成現場にずっと入っていたから、土木一式の経験は十分ある」
→ 下請としての作業であれば、土木一式の経験には該当しない
「掘削・盛土を自社ですべて行ってきたから、一式工事が必要なのでは?」
→ 多くの場合は専門工事の範囲であり、土木一式とは別物
「役所との立会いにも参加していたから元請扱いだろう」
→ 建設業法では、契約上の立場(元請/下請)が最優先
■ 業種選択のチェックポイント
- 自社は工事の“どの部分”を担当しているか
- 元請として全体を引き受ける場面があるか
- 請負金額はどのくらいの規模か
- 今後どんな工事を中心にしていきたいか
とび・土工工事業と土木一式工事業は、作業現場では似て見えることがあるものの、求められる役割・技術・責任範囲が根本的に異なります。
許可は一度取得すると長期的に使うため、最初の業種選択を慎重に行うことがとても大切です。
次の章では、こうした違いを踏まえたうえで、建設業許可を取得する際に押さえるべき『業種選択のコツ』をまとめていきます。
第8章 実務で迷いやすい場面とチェックのコツ(西宮・阪神間の事例イメージ)
建設業許可の相談では、
- この工事は一式に当たるのか
- 専門工事で十分なのか
- 自社の仕事内容はどの許可でカバーできるのか
といった判断に迷われる場面が頻繁にあります。
特に西宮や阪神間のように、住宅地の造成、狭小地での建替え、小規模リフォーム、私道の舗装整備などが多い地域では、
工事内容が複雑で判断が分かれやすい傾向があります。
そこでここでは、実務で特によく迷われる3つの場面を取り上げ、「こう考えれば整理しやすい」という判断のコツをご紹介します。
宅地造成工事は「一式」か「とび・土工」か
判断のポイントは“工事範囲の広さ”
西宮・芦屋・宝塚エリアは斜面地や高低差のある土地が多く、造成工事の相談が非常に多い地域です。
しかし、造成工事は内容によって「専門工事」と「一式工事」のどちらにも該当する可能性があります。
とび・土工工事になるケース(専門工事扱い)
- 盛土・切土だけの作業
- 掘削+地盤改良だけの作業
- 擁壁を設置せず、土の形状を整える程度
- 排水・舗装など付帯工事を含まない部分的な造成
つまり、“土を動かす作業だけ”を請け負う場合はとび・土工工事業 が適切です。
西宮北口周辺の小区画や、甲東園・苦楽園の細長い敷地でよく見られます。
土木一式工事になるケース(工事全体を扱う場合)
- 擁壁工事を含む造成
- 区画内道路の整備
- 排水施設・側溝の整備
- 舗装やガードレール設置を含む造成
- 宅地として利用できるよう「一式で」整える工事
複数の専門工事を組み合わせ、造成全体をまとめて請け負う場合、
土木一式工事 が必要になります。
阪神間では斜面が多く「高低差の大きい造成」をまとめて任されるケースがよくあるため、
土木一式工事の許可が必要になる場面が比較的多めです。
小規模リフォームは「内装仕上工事」が多い
判断基準は“建物全体に影響するかどうか”
西宮・尼崎・伊丹では、マンションのリノベーションや小規模リフォームの依頼が多く、「これは建築一式工事になる? 内装仕上工事になる?」と迷われるケースがよくあります。
多くの小規模リフォームは「内装仕上工事」
- クロス・床の張替え
- キッチン・浴室の交換
- 建具の入れ替え
- 軽微な間仕切り変更
これらは 建築一式ではなく内装仕上工事に分類 されることがほとんどです。
金額が500万円未満であれば許可不要のケースもあります。
特に西宮北口・夙川・今津のマンションリフォームでよく見るパターンです。
建築一式工事になるのは「構造に影響する工事」
- 建築確認が必要な増改築
- 耐震補強を伴う工事
- 建物全体を扱う大規模改修
- 柱や耐力壁を動かすスケルトンリノベーション
建物の構造部分に手を入れる工事や、規模の大きい工事は建築一式工事の対象 になります。
阪神間の古い木造住宅で多い耐震補強工事は、建築一式になる典型的な例です。
自社の受注パターンから必要な許可を整理する
答えは“普段の受注内容”にある
建設業許可を考える際に最も重要なのは、自社が普段どのような受注をしているかという点です。
① 元請が多いのか、下請が多いのか
- 元請として工事全体を任される → 一式工事が必要
- 下請として専門工事を担う → 専門工事の許可が優先
西宮では独立直後の事業者が「とび・土工」「内装仕上工事」から始めるケースが多いです。
② 1件あたりの金額はいくらか
- 500万円未満が多い → 許可不要の可能性あり
- 500万円以上の受注が増えてきた → 専門工事の許可が必要
- 1,500万円以上を元請で受ける → 建築一式が必要
③ 今後伸ばしたい工事分野はどこか
- 宅地造成・インフラ整備 → 土木一式
- 建物の改修・新築 → 建築一式
- 専門分野に特化したい → とび土工、電気、設備などの専門工事
この3つの整理だけで、「許可を取りすぎる」「必要な許可が取れていない」というリスクを大きく減らせます。
阪神間は、斜面地・狭小地・古い住宅・私道などが混在する地域で、工事の内容が複雑になりやすいのが特徴です。
だからこそ、迷ったときは今回紹介したような“判断ポイント”で整理することで、許可選びが一気にラクになります。
次の章では、これまでの内容を踏まえて、建設業許可をスムーズに取得するためのチェックポイントをまとめていきます。
第9章 よくある質問(FAQ)
建設業許可の相談では、どれだけ丁寧に説明しても、実務の現場でふと迷いやすいポイントが必ず出てきます。
ここでは、特に質問が多い3つのテーマを取り上げ、誤解しやすい点をやさしく整理していきます。
建築一式の許可があれば、内装工事の500万円案件もできる?
非常に多い質問ですが、結論は次のひと言です。
できません。内装仕上工事を単独で請け負う場合は、内装仕上工事業の許可が必要です。
建築一式工事の許可は、あくまで 「建物全体をまとめる」ための許可 であり、専門工事を単体で受注するための許可ではありません。
例で見てみると
- 内装仕上工事だけを600万円で請け負う
→ 建築一式の許可では不可。内装仕上工事業の許可が必要 - 建築一式工事の中で、自社が内装部分を施工する
→ 許可は不要。ただし 主任技術者の配置は必須
ポイントは、“単体で請け負うかどうか” が許可の分岐点 だということです。
木造150㎡未満の住宅なら、許可は一切いらない?
ここもよくある誤解です。正しくは次の通りです。
建築一式工事としては許可不要ですが、専門工事が500万円を超える場合は許可が必要です。
「木造150㎡未満=すべて許可不要」ではありません。
注意点
- 木造150㎡未満 → 建築一式工事としては軽微扱い
- ただし、電気・設備・内装などの専門工事を「単体で」500万円以上請け負う場合は許可が必要
例
- 木造120㎡の新築 → 建築一式工事の許可は不要
- しかし電気工事だけで520万円かかる場合 → 電気工事業の許可が必要
このように、一式と専門工事では判断基準が異なるため、工事を「建築一式として請け負うのか」「専門工事として請け負うのか」を分けて判断することが大切です。
一式工事を分割して契約すれば、許可不要にできる?
こちらも実務で非常に多い誤解です。答えは明確です。
できません。分割契約でも、合計金額で判断されます。
たとえば、800万円のリフォーム工事を「400万円+400万円」に分けて契約しても、実態が同一の工事であれば 合計800万円 として扱われます。
国土交通省の基本方針
- 分割契約で軽微工事扱いにすることはできない
- 工事の実態で判断する
- 合計金額が基準(500万円・1,500万円)を超えれば許可が必要
よくあるケース
- 内装工事 450万円
- 設備工事 120万円
別契約にしても「建物内の一連のリフォーム工事」と判断されれば、450万円 + 120万円 = 570万円 → 許可が必要
建設業法は 形式ではなく実態を見る のが原則です。
金額の大きな工事ほど「許可の有無」は信用そのものに直結します。
迷ったときは、
- 合計いくらの工事なのか
- 単体で500万円を超える専門工事が含まれていないか
を確認することが大切です。
次の章では、この記事全体をふり返りながら、建設業許可を安全に取得・維持するためのポイントをまとめます。
第10章 まとめとご相談のご案内
建設業許可は、「仕組みを理解すればシンプル」ですが、最初はどうしても複雑に感じられるものです。
この記事では、一式工事と専門工事の違いを軸に、判断で迷いやすいポイントを順序立てて整理してきました。
ここで、肩の力を少し抜きながら、重要なポイントだけをおさらいしておきましょう。
本記事のポイントおさらい
まず押さえておきたいのは、次の4点です。
一式工事は「総合的な企画・指導・調整」が必要な大規模工事
建築一式・土木一式の2種類のみで、元請として工事全体をまとめる工事が対象です。
専門工事は“部分的な工事”を担う業種
29業種のうち27業種が専門工事で、500万円以上を単独で請け負う場合は、その専門工事の許可が必要です。
一式工事の許可があっても、専門工事を自由に単独請負できるわけではない
内装・電気・設備などの工事は、それぞれの許可が求められます。
軽微な工事でも、金額の“合算”には注意が必要
契約を分けても、実態が同一工事なら合計金額で判断されます。
とくに許可をこれから取得しようとしている事業者さまが悩みやすいのは、
「うちは一式を取るべきか?」
「専門工事だけで十分なのか?」
という点です。
結論として最も大きい判断基準は、“自社が元請として工事全体を管理する場面があるかどうか”この一点に集約されます。
西宮・阪神間のように、宅地造成や中規模リフォームが多い地域では、一式と専門工事の線引きがあいまいになりやすく、誤解が生じやすい分野でもあります。
だからこそ、早めに整理しておくことで「取るべき許可」が自然と明確になっていきます。
許可の取り方に迷ったときの相談先
建設業許可は、一度取得すると長期的に活用する“会社の資産”です。
だからこそ、最初の選択を正しく行うことが何より重要です。
とはいえ、
- 一式と専門工事のどちらを選べばいい?
- これまでの経験は実務経験として認められる?
- 追加で許可を取ったほうが良い?
- 自社の受注パターンでは何が最適?
こうした疑問は、書類を見ただけでは判断が難しいことも少なくありません。
そこで、もし迷われたときは、どうぞ気軽にご相談ください。
当事務所では、電話・メール・出張相談(西宮・阪神間)を随時受け付けています。
現場の状況、契約の形態、今後どの工事を増やしていきたいか——
こうした情報を丁寧に伺いながら、「いま取るべき許可」をご一緒に整理いたします。
建設業許可は、会社の未来を支える大切な基盤です。
その第一歩を、安心して踏み出していただけるように、静かに・確実にサポートいたします。
どうぞお気軽にお問い合わせください。

