「民生委員って何する人?」「困ったときに相談していいの?」
地域の回覧板や自治会の名簿で名前を見るものの、実際の姿がなかなか見えない存在——それが“民生委員・児童委員”です。
しかし近年、ひとり暮らし高齢者の増加、8050問題、ヤングケアラー、孤育て(ワンオペ育児)、生活困窮など、地域の課題は複雑化。行政だけではキャッチしきれない“日常の小さな変化”を最前線で拾い上げるのが民生委員です。
この記事では、歴史・法律・活動内容といった制度面はもちろん、
「実際、民生委員ってどんな人?」「頼っていいラインは?」など、一般の方が本当に知りたい視点から、深く・やさしく解説します。
1.民生委員とは? ― “地域の相談役”であり、行政と住民の橋渡し役
民生委員は、「地域の住民に寄り添って相談を受け、必要な支援につなぐ」役割を担う、特別職の地方公務員(非常勤)です。
ただし 給与はゼロ、完全ボランティア。
報酬はありませんが、必要経費(交通費・通信費など)は活動費として支給されます。
さらに、すべての民生委員は 児童委員 を兼務しており、子どもや子育て家庭の見守りも担当します。
児童福祉法第16条 市町村の区域に児童委員を置く。
② 民生委員法(昭和二十三年法律第百九十八号)による民生委員は、児童委員に充てられたものとする。
③ 厚生労働大臣は、児童委員のうちから、主任児童委員を指名する。
④ 前項の規定による厚生労働大臣の指名は、民生委員法第五条の規定による推薦によつて行う
民生委員の本質は、「住民の生活の変化に最初に気づき、つなぐ人」です。
行政ではなく、地域の“顔の見える人”だからこそ気づけることがあります。
2.民生委員の歴史は100年以上 ― 日本版“地域ソーシャルワーカー”の草創期から
民生委員の源流は、1917年(大正6年)・岡山県で誕生した「済世顧問制度」にあります。
生活に困る人の相談に乗り、行政とつなぐ仕組みは当時として画期的なものでした。
そこから
➡ 1918年 大阪「方面委員制度」
➡ 1928年 全国へ拡大
➡ 1946年 「民生委員」に改称
と形を変え、100年以上続く制度となりました。
日本の地域福祉の基盤として存続してきた理由は、“地域の困りごとは地域で気づく”という普遍性にあります。
3.民生委員はどうやって選ばれる? ― 自薦ではなく「推薦」で決まる
民生委員は、「なりたい!」と手を挙げる“立候補制”ではありません。
■ 選任の流れ(法律で定められている)
- 地域の事情を知る 民生委員推薦会 が候補者を推薦
- 都道府県知事が推薦
- 最終的に 厚生労働大臣が委嘱
民生委員には、地域に信頼され、人格識見が高く、社会福祉に熱意のある人が選ばれる仕組みです。(民生委員法第6条)
4.民生委員の活動内容 ― 実は“見守り”だけではない
民生委員の仕事は多岐にわたりますが、一言でいうと…
「小さな変化に気づき、支援につなぐ地域のハブ」
具体的には以下のような活動を行っています。
① 住民の状況把握(見守り)
- 一人暮らし高齢者の訪問
- 子育て中の家庭への声かけ
- 虐待の兆候の早期発見
- 引っ越してきた家庭の把握
② 生活・福祉の相談対応
- 生活費が足りない
- 近所の高齢者が心配
- 子育てがつらい
- DV・虐待の相談
- 介護サービスの利用相談
③ 行政や専門機関とのつなぎ役
- 地域包括支援センター
- 社会福祉協議会
- 福祉事務所
- 医療機関
- 子育て支援センター
など、多職種と連携する“地域ネットワーカー”の役割も。
④ 児童委員としての活動
児童委員は、児童・妊産婦の状況把握、相談支援、児童相談所との連携を担います。
⑤ 地域福祉活動・イベントの企画運営
- 子ども食堂
- ひとり暮らし高齢者の会食会
- 地域サロン
- 防災訓練
- 地域パトロール
実は近年、最も多いのは「地域福祉活動」だと調査で明らかになっています。
5.民生委員は無報酬? ― 意外と知られていないリアルな負担
■ 給与:一切なし
民生委員法第10条 民生委員には、給与を支給しないものとし、その任期は、三年とする。ただし、補欠の民生委員の任期は、前任者の残任期間とする。
■ 活動費:年間 60,200円
交通費や電話代など実費のみ。
多くの方が、“仕事・家事・介護”と両立しながら活動しています。
近年は担い手不足が深刻で、75歳以上の民生委員の割合が増加し続けています(平均年齢66歳)。
6.民生委員に相談していいの? ― 実は“もっと気軽に頼っていい”
民生委員は「困りごとの総合窓口」です。
相談内容が“正解”かどうかは問題ではありません。
■ 相談してよい例
- 近所の独居高齢者の様子が気になる
- 生活費に不安がある
- 子育てで気持ちがつらい
- 家庭内のトラブル
- 障がいのある家族の支援
- 行政手続きがわからない
■ 守秘義務があるから安心
民生委員には法律上の厳格な守秘義務があります。
民生委員法第15条 民生委員は、その職務を遂行するに当つては、個人の人格を尊重し、その身上に関する秘密を守り、人種、信条、性別、社会的身分又は門地によつて、差別的又は優先的な取扱をすることなく、且つ、その処理は、実情に即して合理的にこれを行わなければならない。
7.民生委員制度はなぜ今“転換期”なのか
■ 課題
- 担い手不足(充足率93.7%)
- 高齢化(70歳以上が増加)
- 業務量の増加
- 個人情報保護の壁
- 住民の民生委員への理解不足
(担い手確保調査データより)
■ 国が進める新しい取組
実はいま、制度は大きく進化し始めています。
【例】
- 民生委員協力員制度(新潟市) → 活動のサポート役を配置
- ICT導入(オンライン会議・タブレット活用)
- こども民生委員(小学生)による体験参加
- SNSを使った若い世代への周知
民生委員は“孤独・孤立の時代”に必要不可欠な社会資源として、新しい形に再編されています。
8.民生委員に相談するには?
あなたの住む地域の民生委員は、市区町村の福祉課に問い合わせると教えてもらえます。
- 役所の福祉課
- 自治会の広報誌
- 回覧板
- 地域包括支援センター
- 社会福祉協議会
などにも掲載されていることがあります。
「こんなことで相談していいのかな?」は不要です。
話を聞き、必要な支援につなぐのが民生委員の役目です。
9.おわりに ― 民生委員は“地域の無名ヒーロー”
民生委員は、名前も顔も知られないことの多い「縁の下の力持ち」です。
しかし、あなたの地域の安全・安心は、こうした方々の目に見えない努力によって支えられています。
孤独・孤立が問題となる今、「誰かが気にかけてくれる社会」を守るために、民生委員の存在は欠かせません。
もし困ったことがあれば、遠慮なく民生委員に相談してみてください。
あなたの地域には、必ず支えてくれる人がいます。

