名字が違っても家族です|事実婚・夫婦別姓・同性カップルを守る法律の備え【司法書士が解説】

目次

はじめに

「名字が違っても、私たちは家族です」
この言葉に、どんなイメージを持ちますか?

近年、夫婦別姓や事実婚、再婚家庭、同性カップルなど、
“家族のかたち”が多様化しています。

しかし、法律の世界ではまだ「戸籍上の家族」しか認められない部分が多く、
現実とのズレが生まれています。

今回は、司法書士の立場から、
「名字が違う家族」と法律のギャップ、そして今できる備え方をわかりやすく解説します。

1. 増える「名字が違う家族」たち

大阪司法書士会・家族法研究会の報告によると、
日本では次のような家族のかたちが急増しています。

  • 夫婦別姓を希望して婚姻届を出さない「事実婚」カップル
  • 再婚家庭で、親と子の名字が異なるケース
  • 同性カップルが自治体のパートナーシップ制度を利用しているケース
  • 高齢単身者が親族以外と支え合う「擬似家族」的同居

家族はもはや“同じ名字の人たち”ではない。
“共に暮らし、支え合う関係”が家族なのです。
——(大阪大学名誉教授・床谷文雄先生 講演より)

一方、法律はまだこの現実に追いついていません。

2. 民法の壁 ― 「夫婦同姓」のルール

日本の民法第750条にはこうあります。

「夫婦は、婚姻の際に定めた氏を称する。」

つまり、結婚するには必ずどちらかが名字を変えなければならないのです。

この制度をめぐっては、
最高裁平成27年12月16日判決で「合憲」とされましたが、
社会的には「時代に合わない」「個人の尊厳を侵害している」との声が根強くあります。

その結果、
「姓を変えたくないから婚姻届を出さない」=事実婚を選ぶカップルが増加。
しかし事実婚では、相続権が発生しないという別の壁が立ちはだかります。

3. 戸籍にない家族は「法律上の他人」?

現行の戸籍制度は、婚姻や血縁を基本に作られています。
そのため、以下のような関係は「法律上の家族」にはなりません。

  • 同性カップル
  • 内縁(事実婚)関係
  • 再婚家庭で養子縁組していない継子
  • 親族ではないが長年同居している同居者

これにより、実務では次のような不都合が生じます。

  • 医療現場での同意権がない
  • 相続財産を受け取れない
  • 年金や保険金の受給資格がない

司法書士の現場でも、「一緒に暮らしてきたのに、他人扱い」という悲しいケースが少なくありません。

4. 判例が示す「多様な家族」の現実

裁判所も、時代の流れを少しずつ受け止め始めています。

▪️ 同性婚訴訟(札幌地裁令和3年3月17日)

「同性カップルに婚姻を認めないのは、法の下の平等に反する」
—— 日本で初めて同性婚を違憲と判断した判決。

▪️ 同性婚訴訟(名古屋高裁令和5年5月30日)

「同性婚を認めない民法・戸籍法は違憲」
—— 高裁レベルでも違憲判断が示され、立法化への動きが加速。

▪️ 性別変更後の親子関係(最高裁令和5年7月11日)

性別変更した男性と、妻が第三者の精子で出産した子との親子関係を否定。
—— 生殖補助医療・性別変更・親子法制の限界を浮き彫りに。
法が追いついていない部分を、裁判が少しずつ“ほころび”として示している状況です。

5. 現実の「名字が違う家族」が直面する課題

司法書士実務で多いケースには、次のようなものがあります。

  • 夫婦別姓の事実婚カップル
     → 相続権がないため、遺言や信託で財産を残す必要。
  • 再婚家庭の継子問題
     → 養子縁組をしていないと法定相続人になれない。
  • 名字の違う親子
     → 学校や医療機関で親子関係の証明を求められることがある。
  • 親族ではない同居者との生活
     → 医療や葬儀の同意権がなく、死後事務に支障が出る。

6. 今できる法的な備え ― 司法書士が提案する4つの方法

名字が違っても、法律で守る方法はあります。
司法書士が実務で提案している代表的な手段は次のとおりです。

① 公正証書遺言

相続権がなくても、遺言によって財産を残すことができます。
「事実婚の妻(夫)に自宅を遺贈する」と明記すれば、法的に有効。

② 家族信託

自宅や預金を信託財産として管理し、内縁のパートナーを受益者に設定。
死亡後もその居住や生活を守ることができます。

③ 死後事務委任契約

葬儀・納骨・遺品整理などを任せたい人(たとえ親族でなくても)を指定できる契約。
「血縁に頼れない」時代の必須ツールです。

④ 任意後見契約

高齢期や認知症対策として、「信頼できる人」に財産管理や医療手続きを任せておく制度。
名字が違っても、契約でしっかり法的権限を与えられます。

7. 家族法の未来へ ― 床谷文雄先生の提言

「家族法は、“婚姻”を中心に設計された時代から、“生活共同体”を中心に再設計する段階にある。」

「姓・性別・血縁・婚姻の枠にとらわれず、“共に生きる人”をどう支えるかが次の法のテーマ。」
——(大阪大学名誉教授 床谷文雄)

この考え方は、司法書士の仕事そのものと重なります。
つまり、司法書士は、現行法の中で家族を守る“橋渡し役”です。

8. まとめ ― 名字が違っても「家族」は守れる

名字が違っても、戸籍に入っていなくても、
共に暮らし、支え合っているなら、それは確かに“家族”です。

法律はまだ追いついていないかもしれません。
でも、

  • 遺言で想いを残す
  • 信託で生活を守る
  • 委任契約でつながりを保証する

といった形で、司法書士が法のすき間を埋めることはできるのです。

「名字が違っても、あなたは私の家族です。」

その想いを法律の形に変える——
それが、これからの司法書士の使命です。

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