はじめに
「自分が先に亡くなったら、この子はどうなるのだろう」
──そんな不安を抱える飼い主の方は年々増えています。
ペットは家族の一員ですが、法律上は「物」として扱われ、相続人にはなれません。
しかし、工夫次第で「ペットのために財産を使ってもらう仕組み」を作ることができます。
今回は、司法書士の立場から、家族信託(ペット信託)を中心に、ペットを法的に守る方法を紹介します。
1. ペットは「相続人」になれない
民法上、動物は「物」(民法85条)とされています。
そのため、ペットは法律上の権利能力を持たず、
相続人や遺言の受取人(受遺者)になることはできません。
「ペットに財産を遺したい」という気持ちはあっても、
そのままでは遺言の内容として無効になってしまいます。
では、どうすればペットを守れるのでしょうか。
2. 遺言を使う方法 ― 条件付き遺贈
一つの方法は、ペットの世話をしてくれる人に財産を渡すことです。
たとえば、
「私の死亡後、愛犬ポチを飼育する条件で、Aに300万円を遺贈する。」
といった「条件付き遺贈」をすることが可能です。
ただしこの方法では、
- 飼育者が途中で世話を放棄した場合の対応
- 使い込みの防止
- 飼育状況の確認方法
などを管理する仕組みがありません。
長期にわたってペットの生活を守るには、より安定的な制度設計が求められます。
3. 家族信託(ペット信託)という新しい選択肢
ペットのために財産を管理する仕組みとして、近年注目されているのが家族信託(ペット信託)です。
🔹 仕組みの概要
- 飼い主(委託者)が、生前に信頼できる人(受託者)と信託契約を結ぶ。
- 飼い主の財産(預金など)を信託財産として預ける。
- 飼い主の死亡後、受託者が信託財産を使ってペットの飼育費や医療費を支出する。
- ペットが亡くなった時点で信託を終了し、残余財産を指定の人や団体に帰属させる。
このように設定すれば、
飼い主が亡くなった後も、信託財産をもとにペットの生活を継続的に支えることができます。
4. 信託設計のポイント
ペット信託は自由度が高い制度ですが、正確な設計が不可欠です。
- 受託者の選定:ペットの飼育ができる信頼できる人を選ぶ。
- 信託監督人や受益者代理人の設置:使い込み防止・飼育状況の確認に重要。
- 支出ルールの明確化:月額上限、医療費、緊急支出などを信託契約書に明記。
- 残余財産の帰属権利者を指定:動物保護団体や親族などをあらかじめ定めておく。
- 生前契約が原則:遺言信託の形で死後発効させる方法もあるが、管理が複雑で実務的には推奨されない。
また、信託法上、ペット自身を受益者に指定することはできません。
そのため、形式的には「ペットの飼育を目的とする目的信託」として構成します。
5. 実務の運用イメージ
【例】
飼い主Aさんは、愛猫2匹のために500万円を信託。
受託者を妹Bさん、信託監督人を司法書士に指定。BさんはAさんの死後、信託口座から飼育費・医療費を支出。
猫が亡くなった時点で信託終了。残余財産は動物保護団体へ。
このようにすれば、「飼育の継続」と「財産の透明管理」が両立します。
6. 司法書士の役割
ペット信託の設計には、法律・税務・契約実務の知識が必要です。
信託監督人や契約書の作成支援を司法書士が担うことで、
飼い主の想いを確実に形にすることができます。
「ペットは相続人ではないが、家族として守れる。」
それを実現できるのが、司法書士による家族信託です。
7. まとめ ― ペットも“家族”として守る時代へ
- ペットは法律上「物」だが、家族信託で財産を使って守ることができる。
- 遺言だけでは不十分。生前に信託契約を作成するのが安全。
- 信託監督人・残余財産の帰属先を明確にしておく。
- 司法書士の関与により、安心・透明・継続的な支援が実現できる。
家族の形が変わっても、「想いを守る仕組み」は作れます。
ペットもまた、“大切な家族の一員”として法律で守る時代です。

