同性カップルにも“相続の備え”が必要な理由|司法書士が教える法的対策【2025年最新版】

目次

はじめに

「一緒に暮らして十年以上。でも、もし自分に何かあったら──」

同性カップルの方から、そんな不安を相談されることがあります。
日本では、自治体のパートナーシップ制度が広がりつつありますが、
現行法では同性カップルに相続権が認められていません。

今回は、同性カップルが直面する「相続の壁」と、
司法書士としてできる法的な備えをわかりやすく解説します。

1. 同性パートナーには「法定相続権」がない現実

民法では、相続人を「配偶者、子、直系尊属(親など)、兄弟姉妹」と定めています(民法890条以下)。
このうち「配偶者」は戸籍上の婚姻を前提としているため、
同性パートナーには法定相続権がありません。

仮にパートナーに子どもがいない場合、
その財産は親、兄弟姉妹、または兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合には甥や姪に引き継がれます。

つまり、どれほど長年連れ添っていても、
同性パートナーは「法定相続人」ではなく、財産を引き継ぐ権利がないのが現実です。

「一緒に暮らしていた家から、相手の親族に退去を求められた」
「葬儀にも参列できなかった」
といった相談は、実際に全国で多く寄せられています。

2. パートナーシップ制度の広がりと限界

2025年現在、全国の9割以上の自治体が「パートナーシップ宣誓制度」を導入しています。
しかし、この制度は法的効力を持たない行政的な仕組みです。

▪️ できること

  • 病院での面会や医療説明を受けやすくなる
  • 公営住宅への入居が認められる
  • 一部企業や保険でのパートナー登録が可能になる

⚠️ できないこと

  • 相続権の取得
  • 相続税の配偶者控除の適用
  • 法定後見人・親族としての法的地位

つまり、「生活上の配慮」はあっても、
財産・権利関係では完全に“他人”扱いのままなのです。

3. 裁判所も動き始めている ― 同性婚訴訟の流れ

同性婚の法的承認を求める訴訟は、全国で次々と提起されています。

  • 札幌地裁(令和3年3月17日)
     → 「同性婚を認めないのは憲法違反」と判断(初の違憲判決)
  • 大阪地裁(令和4年6月20日)
     → 「違憲ではない」と判断(真っ向からの反対)
  • 名古屋高裁(令和5年5月30日)
     → 「同性婚を認めない民法・戸籍法は違憲」

司法の現場では、“同性カップルも家族として保護されるべき”という流れが確実に強まっています。

大阪大学名誉教授・床谷文雄先生も、

「家族法は“婚姻中心”から“共同生活中心”へ」
と講演で強調しており、同性カップル支援はその象徴的テーマです。

4. よくあるトラブル事例

同性カップルが「備え」をしていなかった場合、
次のようなトラブルが生じることがあります。

  • 同居していた自宅が亡くなった側の名義で、相続人(親・兄弟)に譲渡を求められる
  • 預金口座が凍結され、生活費が引き出せない
  • 遺品整理や葬儀に関われない
  • 相続税控除が使えず、税負担が大きくなる

「相続権がない」という一言で、
それまで築いた“人生そのもの”が失われてしまうリスクがあるのです。

5. 同性カップルが今できる法的備え ― 司法書士が提案する4つの方法

同性婚が法制化される前にできる、最も現実的な備えをご紹介します。

① 公正証書遺言

パートナーに財産を遺すための最も確実な方法です。
「○○に自宅を遺贈する」と明記すれば法的に有効になります。

⚠️ 他の法定相続人(親・兄弟)には「遺留分」があるため、
事前の説明や信託と組み合わせるのが望ましいです。

② 任意後見契約

将来、認知症などで判断能力が低下したときに、
パートナーを「後見人」に指定しておく契約です。

法定後見では選任されにくい同性パートナーを、
任意後見で確実に指定できるのが大きな利点です。

③ 死後事務委任契約

葬儀・納骨・遺品整理など、
死後の手続きをパートナーに正式に任せる契約です。

これがないと、血縁家族にすべての権限が移り、
「葬儀に参加できない」「遺骨を引き取れない」というケースが起こります。

④ 家族信託(民事信託)

自宅や預金を信託財産として管理し、
死亡後にパートナーが引き続き住めるよう設計できます。

例:

「私が亡くなった後も、○○がこの家に住み続けることを認める」

信託を使えば、生活の安心と財産承継を両立できます。

6. 司法書士の役割 ― “法が追いつく前”に守る支援を

同性婚の法制化はまだ時間がかかります。
しかし、司法書士が関わることで、現行法の中でも十分に“守る”ことは可能です。

遺言・任意後見・家族信託・死後事務委任——
これらを組み合わせることで、法律上「他人」でも、実質的に「家族」を守る仕組みを作ることができます。

床谷文雄先生も指摘しています。

「家族法の再設計は、専門職の実務が先に進めるもの。」

まさに司法書士がその“橋渡し役”なのです。

7. まとめ ― 愛を守るのは「想い」+「法律」

同性カップルは、現行法では家族と認められません。
しかし、契約と遺言を整えれば、「守れる関係」に変えることができます。

  • 遺言で想いを残す
  • 後見契約で老後を支える
  • 信託で生活を守る
  • 委任契約で死後もつながる

「愛している」だけでは守れない。
でも、司法書士の手で、“守れる愛”に変えることができます。

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