※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。
「毎年110万円ずつ、子や孫に贈与すれば相続税の対策になる」。長く定番とされてきたこの方法は、令和5年度の税制改正で前提が変わりました。まずは動画で要点をご覧ください。
「親が80代になったので、そろそろ贈与を始めたい」「何年も前から子の口座に振り込んでいるけれど、このままでよいのか」。生前対策のご相談では、こうした声がよく聞かれます。この記事では、国税庁の案内にもとづいて、2024年からの新しいルール(生前贈与加算の7年への延長と、相続時精算課税の年110万円の基礎控除)を、計算例と表で整理します。
なお、相続税・贈与税がいくらになるか、どの方法が有利かの判断は税理士の業務です。この記事は制度のしくみをお伝えするもので、個別の判断は税理士にご相談ください。
先に結論:2024年からの生前贈与で押さえておきたいこと
- 亡くなる前の贈与を相続財産に足し戻す期間(生前贈与加算)は、2024年1月1日以後の贈与から「3年」→「7年」に延びました
- ただし、すぐに7年になるわけではありません。2026年12月31日までの相続は3年のまま、2027年から2030年の相続は「2024年1月1日から亡くなった日まで」、7年になるのは2031年1月1日以後の相続からです
- 延びた4年分(亡くなる前3年より前の分)は、合計100万円までは足し戻されません
- 相続時精算課税には、2024年から年110万円の基礎控除ができました。この110万円の部分は、贈与税がかからず、相続のときにも足し戻されません
- どちらの方法でも、贈与は「あげた・もらった」の記録と、もらった人が自分で管理していることが大切です。どちらを選ぶかは税理士に試算してもらってから決めると安心です
1. 「暦年贈与」のしくみと、これまでのルール
年110万円までの基礎控除
贈与税には、1年間(1月1日から12月31日まで)にもらった財産の合計が110万円までなら贈与税がかからない基礎控除があります(暦年課税。相続税法21条の5、租税特別措置法70条の2の4)。これを使って毎年少しずつ財産を移し、相続のときの財産を減らしていくのが「暦年贈与」です。
110万円を超えると、超えた部分に贈与税がかかります。父母や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与は「特例税率」、それ以外は「一般税率」で計算します。
| 1年間にもらった額 | 基礎控除後の額 | 特例税率の贈与税 | 一般税率の贈与税 |
|---|---|---|---|
| 110万円 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 200万円 | 90万円 | 9万円 | 9万円 |
| 300万円 | 190万円 | 19万円 | 19万円 |
| 500万円 | 390万円 | 48万5,000円 | 53万円 |
(国税庁タックスアンサーNo.4408の速算表で計算した例です。)
「生前贈与加算」という例外
ただし、暦年贈与には「生前贈与加算」という例外があります。相続や遺贈で財産をもらう人が、亡くなった方から亡くなる前の一定期間に受けた贈与は、相続財産に足し戻して相続税を計算する、というルールです(相続税法19条)。この期間が、これまでは「3年」でした。
足し戻された贈与について、すでに払った贈与税があれば、その分は相続税から差し引かれます。二重に税金がかかるわけではありません。
2. 令和5年度改正で「3年」から「7年」へ
改正の内容
令和5年度の税制改正で、2024年(令和6年)1月1日以後の贈与について、足し戻す期間が「亡くなる前7年以内」に延びました。現在の相続税法19条も「相続の開始前七年以内」と定めています。
延びた4年分(亡くなる前3年より前に受けた贈与)については、その合計額から100万円を差し引いた残りだけを足し戻します。つまり、延びた4年分は、合計100万円までは足し戻されません。
経過措置:実際に7年になるのは2031年から
改正は2024年1月1日以後の贈与から適用されるため、足し戻す期間は少しずつ延びていきます。国税庁の案内(タックスアンサーNo.4161)では、次のように整理されています。
| 亡くなった日(相続開始日) | 足し戻す期間 |
|---|---|
| 2026年12月31日まで | 亡くなる前3年以内 |
| 2027年1月1日〜2030年12月31日 | 2024年1月1日から亡くなった日まで |
| 2031年1月1日以後 | 亡くなる前7年以内 |
「100万円を差し引く」扱いは、亡くなった日が2027年1月2日以後の場合に使われます。
対象になる人・ならない人
足し戻しの対象になるのは、「相続や遺贈で財産を取得した人」が受けた贈与です。相続で何も受け取らない孫への贈与は、原則として足し戻されません。ただし、孫が遺言で財産をもらう場合や、生命保険金の受取人になっている場合など、相続や遺贈で財産を取得したとされるときは対象になることがあります。
3. 計算例:毎年1月に110万円ずつ贈与した場合
父が長男に、2024年から毎年1月に110万円ずつ贈与していた例で考えます(長男は相続で財産を受け取るものとします)。
例1:父が2029年6月に亡くなった場合
2027年から2030年の相続にあたるため、「2024年1月1日から亡くなった日まで」の贈与を足し戻します。
| 贈与の時期 | 区分 | 足し戻す額 |
|---|---|---|
| 2027年1月・2028年1月・2029年1月 | 亡くなる前3年以内 | 330万円(全額) |
| 2024年1月・2025年1月・2026年1月 | 3年より前の延長分 | 330万円−100万円=230万円 |
| 合計 | 560万円 |
例2:父が2032年3月に亡くなった場合
2031年以後の相続なので、「亡くなる前7年以内」(2025年3月以後)の贈与を足し戻します。
| 贈与の時期 | 区分 | 足し戻す額 |
|---|---|---|
| 2030年1月・2031年1月・2032年1月 | 亡くなる前3年以内 | 330万円(全額) |
| 2026年1月〜2029年1月の4回 | 3年より前の延長分 | 440万円−100万円=340万円 |
| 2024年1月・2025年1月 | 7年より前 | 足し戻さない |
| 合計 | 670万円 |
このように、亡くなる直前の数年に慌てて贈与しても、その分はほぼ足し戻されます。短期間での節税策としての効果は小さくなりました。一方で、7年より前に終えた贈与は足し戻されません。「早く始めるほど効果が出る」という基本は変わっていません。
なお、相続税がかかるかどうかは、財産の合計が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかどうかで決まります。そもそも相続税がかからないご家庭では、足し戻しがあっても税額には影響しないこともあります。
4. もう一つの選択肢:相続時精算課税と年110万円の基礎控除
相続時精算課税のしくみ
相続時精算課税は、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫への贈与で選べる制度です。累計2,500万円(特別控除)までは贈与税がかからず、超えた部分には一律20%の贈与税がかかります。そのかわり、この制度で受けた贈与は、相続のときに相続財産に足し戻して相続税を計算します。
2024年から「年110万円の基礎控除」
2024年1月1日以後の贈与からは、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除ができました(相続税法21条の11の2、租税特別措置法70条の3の2)。
- 年110万円までの部分は、贈与税がかかりません
- この110万円の部分は、相続のときにも足し戻されません
- 暦年贈与のような「7年の足し戻し」もありません
暦年贈与と相続時精算課税のちがい
| 項目 | 暦年贈与 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 年ごとの非課税 | 110万円(基礎控除) | 110万円(基礎控除)+累計2,500万円(特別控除) |
| 超えた部分の税率 | 10〜55%(累進) | 一律20% |
| 相続のときの足し戻し | 亡くなる前7年以内(経過措置あり) | 基礎控除を超えた部分は期間を問わず全部 |
| 基礎控除内の分の足し戻し | 7年以内なら足し戻す | 足し戻さない |
| 選べる相手 | 誰からでも | 60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫 |
| やめられるか | いつでも | 一度選ぶとその贈与者からは暦年課税に戻れない |
気をつけたい点
- 相続時精算課税を選ぶときは、最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を税務署に出します
- 一度選ぶと、その贈与者(たとえば父)からの贈与は、ずっと相続時精算課税になり、暦年課税に戻すことはできません
- 選ぶのは贈与者ごとです。父からは相続時精算課税、母からは暦年贈与、という使い分けもできます
- 年110万円を超える贈与を受けた年は、贈与税の申告が要ります
どちらが合うかは、贈与する方の年齢や健康状態、財産の種類(現金か、値上がりが見込まれる不動産や株式か)、相続人の数などで変わります。一般的には、相続までの期間が短いと見込まれる場合は足し戻しのない精算課税の110万円が検討しやすく、長い期間をかけて贈与できる場合は暦年贈与にも意味がある、と言われます。ただ、個別の有利・不利は試算してみないと分かりません。選ぶ前に税理士に試算してもらうことをおすすめします。
5. 贈与を「贈与」として認めてもらうために
どちらの制度を使う場合でも、贈与が本当にあったと言えることが前提です。民法では、贈与は「あげます」「もらいます」という双方の合意で成立します(民法549条)。親が子の名義の口座を作り、親が通帳を管理していた場合などは、贈与ではなく親の財産(名義預金)として相続税の対象になることがあります。
記録の残し方の例
- 贈与のたびに贈与契約書を作り、日付・金額・双方の署名を残す
- 現金の手渡しではなく、親の口座から子の口座へ振り込む
- 通帳・キャッシュカード・印鑑は、もらった本人が管理する
- 110万円を超えたら、翌年3月15日までに贈与税の申告をする
- 毎年同じ日に同じ金額を贈与する場合は、その都度の合意であることが分かるように契約書を分けておく
名義預金と判断される目安や、税務調査でどう見られるかは、下の記事でお話ししています。

不動産を贈与するときは登記も
不動産を贈与した場合は、所有権移転の登記をします。西宮市内の不動産であれば、管轄は神戸地方法務局西宮支局です。贈与による登記の登録免許税は、相続による登記より高い税率になります。また、贈与税がかかるかどうかは評価額で決まるため、登記の前に税理士と相談しておくと安心です。
6. 贈与のほかに考えておきたいこと
特別受益として遺産分割で問題になることも
相続税とは別に、民法の上でも、生前の贈与は「特別受益」として遺産分割で考慮されることがあります。税金の足し戻し(7年)と、遺産分割での持ち戻しは、別のルールです。特定の子に多く贈与する場合は、ほかの子との公平もあわせて考えておきたいところです。

遺言・家族信託・生命保険と組み合わせる
贈与は「今、渡す」方法です。これに対して、遺言は「亡くなったときに渡す」、家族信託は「認知症などに備えて管理を任せる」、生命保険は「特定の人にお金を渡す」方法です。誰に何をどの順番で渡すかを先に決め、そのうえで贈与の方法を選ぶと、全体がちぐはぐになりにくくなります。


認知症になると贈与はできない
贈与は契約なので、贈与する方に判断能力があることが前提です。認知症が進むと、贈与そのものができなくなります。贈与を考えている方は、元気なうちに始めることが大切です。

よくある質問
- すでに何年も暦年贈与をしています。やめたほうがいいですか。
-
やめなければならないわけではありません。改正後も、亡くなる前7年(経過措置の期間中はそれより短い期間)より前の贈与は足し戻されません。今後の分について、相続時精算課税への切り替えが合うかどうかは、税理士に試算してもらうと判断しやすくなります。
- 孫への贈与も7年の足し戻しの対象ですか。
-
足し戻しの対象は、相続や遺贈で財産を取得した人が受けた贈与です。相続で財産を受け取らない孫への贈与は、原則として対象になりません。ただし、孫が遺言で財産をもらう場合や、生命保険金の受取人になっている場合などは、対象になることがあります。
- 「110万円まで非課税」なら申告はいらないのですか。
-
暦年課税で1年間の贈与が110万円以下なら、贈与税の申告は要りません。相続時精算課税の110万円の基礎控除の範囲内であれば、こちらも申告は要りません。ただし、相続時精算課税を選ぶ最初の年には「相続時精算課税選択届出書」を出す必要があります。
- 2026年中に親が亡くなった場合、足し戻しは何年分ですか。
-
2026年12月31日までに亡くなった場合は、これまでどおり亡くなる前3年以内の贈与が足し戻しの対象です。2027年以後の相続から、少しずつ期間が延びていきます。
- 贈与の相談は、司法書士と税理士のどちらにすればよいですか。
-
贈与税・相続税の計算や申告、どの方法が有利かの判断は税理士の業務です。司法書士は、不動産を贈与するときの登記、贈与契約書の作成、遺言や家族信託など「財産をどう引き継ぐか」の手続きをお手伝いします。両方が関わる場合は、早めに情報を共有しておくと進めやすくなります。
まとめ
暦年贈与の生前贈与加算は、2024年1月1日以後の贈与から3年→7年に延びました。ただし、実際に7年になるのは2031年1月1日以後の相続からで、2027年から2030年の相続は「2024年1月1日から亡くなった日まで」が対象です。延びた4年分は、合計100万円までは足し戻されません。
一方、相続時精算課税には年110万円の基礎控除ができ、この部分は贈与税がかからず、相続のときにも足し戻されません。ただし、一度選ぶと暦年課税に戻れない点には注意が必要です。
どちらの方法でも、贈与契約書や振込の記録を残し、もらった人が自分で管理することが前提です。どちらが有利かは税理士に試算してもらい、遺言や家族信託もあわせて、全体を見ながら進めると安心です。
生前贈与にともなう不動産の登記、贈与契約書の作成、遺言・家族信託など生前対策のご相談は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。
出典・参考
- 国税庁 タックスアンサー No.4161「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」(令和8年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4103「相続時精算課税の選択」(令和8年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4408「贈与税の計算と税率(暦年課税)」(令和8年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
- 相続税法19条・21条の11の2(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 租税特別措置法70条の2の4・70条の3の2(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 民法549条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

