3月決算会社の定時株主総会シーズンになると、役員変更や定款変更に伴う登記が一気に増えます。
その中で、意外と補正になりやすいのが「定款の添付」です。
- このケースは定款が必要なのか?
- 原本証明はどう書くべきか?
こうした疑問は、実務でもよく話題になります。
本記事では、
- 定款の添付が必要となる登記の種類
- 定款を添付するときの3つの基本ポイント
- 例外的に添付を省略できるケース
を、商業登記法・規則および法務局運用に基づいて整理しています。
商業登記に関わる方が判断に迷ったときの参考になれば幸いです。
1.定款添付が必要になる登記とは?
まずは「どのような登記で定款の提出が求められるのか」を押さえておきましょう。
1-1 そもそも、なぜ定款を添付するのか
会社法では、多くのルールが「定款に別段の定めがなければ、こう扱う」という“標準設定”になっています。
これに対応して商業登記規則61条1項は、次のように定めています。
つまり、
- 通常の会社法のルールとは違う運用をしている
- しかも、その違いが登記事項に関係している
という場合、「その根拠となる定款の条文を確認させてください」という意味で、定款の提出が必要になるわけです。
実務でよく出る「定款添付が必要な場面」
実際の実務で添付が求められることが多いのは、次のようなケースです。
■ 取締役会書面決議(会社法370条)で登記に関わる事項を決めたとき
- 例:代表取締役選定、支店移転 など
- 法務局は「定款に370条の規定があるか」を確認するため定款を要求します。
■ 取締役会非設置会社が、定款に基づき「互選」で代表取締役を選んだとき
- 定款どおりの方法で選んでいるかを確認するため。
■ 役員の任期満了退任で、議事録だけでは任期満了とわからないとき
- 任期に関する定款の規定を確認する必要があるため。
※実務上の例外があるため、後ほど詳しく説明します。
■ 解散・清算人・代表清算人の就任登記
- 清算人会の設置など、定款に規定があるため内容を確認。
■ 株主名簿管理人を設置したとき
- 定款に株主名簿管理人に関する条項があるか確認。
- あわせて「決定書面」「契約書」の添付も必要。
■ 定款で別段の定めをしているとき
- 代表取締役を株主総会で選任できる旨
- 株主割当ての募集事項を取締役会で決定できる旨
など、標準ルールと違う運用をしている場合。
■ 特別決議の定足数を定款で軽減している場合
- 例:定款で「議決権の3分の1で足りる」と定めている
- 実際の出席が3分の1しかない場合、軽減規定を証明するため添付が必要。
一方で、株主総会議事録の中で、定款変更の事実や、その定めに基づく決議が“直接わかる”場合には、定款添付を省略できる場面もあります。
2.定款を添付するときの3つのポイント(令和3年改正後版)
令和3年2月15日の改正で、商業登記における押印の扱いが大きく変わりました。
定款の原本証明は「代表取締役の氏名の記載」まで必要で、押印の有無は審査されません。
このため、従来の「契印必須」などの細かい形式が大幅に緩和されています。
以下では、改正後の運用に即した「3つのポイント」を整理します。
2-1 ポイント①:定款は「全文」を添付する(抜粋不可)
実務で特によくある勘違いが、
「今回の登記に関係する条文だけ付ければいいのでは?」
というものです。
しかし、定款を添付するときは“全文の定款” を提出する必要があり、関係部分だけの抜粋は認められません。
【 不可となる例】
- 目的変更のページだけコピーしたもの
- 本店所在地の条文だけを抜粋したもの
【可となる例】
- 最新の定款全文(原本または、原本と相違ない旨の証明を付した写し)
定款は「抜粋提出不可」が原則です。
2-2 ポイント②:原本か「原本証明した写し」を添付する
定款を添付する際の方式は次の2択です。
- 定款の原本
- 「原本と相違ない」旨を記載した写し(原本証明写し)
令和3年改正後は、原本証明に押印は不要(審査対象外)ですが、
✔ 代表取締役の氏名の記載は必須
✔ 原本証明の記載が定款最終ページにあることが必要
という点には注意が必要です。
● 原本証明の典型的な書き方(※押印はあってもなくてもよい)
以上の定款は原本と相違ありません。
令和○年○月○日
○○株式会社
代表取締役 ○○ ㊞
②-3 ポイント③:綴じ方は簡素化されたが「差し替え防止」が分かる状態にする
改正後は、次のような緩やかな運用です。
- ホチキス留めで1冊にまとめればOK
- 袋とじや契印は不要(審査対象外)
- 原本証明の記載が最終ページにあれば足りる
ただし、法務局によっては旧来の形式を好む傾向が残っているため、以下の形にしておくとより安全です。
✔ ホチキス留め
✔ 最終ページに原本証明の文言
✔ 必要に応じて「任意の割印」で外形上の整合性を示す
割印は法的に要求されませんが、「ページ抜き取りがないこと」を外形上確認することができます。
3.例外的に「定款添付が不要」になるパターン
ここまでが「原則:定款を添付する」場合の整理です。
一方で、定款の該当条項の存在が“他の書類から直接読み取れる”場合には、定款添付を省略できる場面があります。
3-1 株主総会で定款変更 → その場で条項に基づく決議をしたケース
典型例は次のパターンです。
- 第1号議案:定款を変更し「代表取締役は株主総会で選任できる」旨を追加
- 第2号議案:上記の新しい定款条項に基づき、代表取締役を選任
このように、同一の株主総会議事録の中で「定款変更」と「その定款に基づく決議」が一体として確認できる場合、
議事録そのものが定款規定の存在を“直接”証明しているため、定款の添付は不要になります。
▼ ただし、次のケースでは添付が必要
- 定款変更は過去の株主総会で行われている
- 今回の総会では「定款にその規定がある」と触れているだけ
→「直接証明」にはならないため、原則どおり定款の添付が必要
3-2 役員の任期満了退任は“例外の例外”として添付不要
役員の任期満了退任については、さらに特別な扱いがあります。
本来なら、
- 定時株主総会が終結したこと(議事録)
- 任期の定めが記載された定款
の両方で確認するのが筋ですが、任期満了退任に限っては、議事録に「任期満了により退任」と記載されていれば定款添付を省略できる運用です。
これは、役員任期満了の登記が件数の多い定型申請であることから、申請人・法務局双方の事務負担を減らすための“実務上の合理化”として扱われています。
4.まとめ:定款添付は「必要な場面」と「出し方」さえ押さえれば難しくない
商業登記において定款の添付が必要となる場面は多くありませんが、判断を誤ると補正になりやすいポイントです。
まず押さえるべきは、次の2つのステップだけです。
① 定款添付が必要かどうかを判断するポイント
次のいずれかに該当すれば、定款添付が必要になります。
- 会社法の標準ルールと異なる運用をしている
- その違いが登記事項に関わる
- 他の書類では、定款の該当条項を“直接”証明できない
② 添付する際の実務上の3つのポイント
- 定款は必ず全文を添付する(抜粋不可)
- 原本または「原本証明した写し」を使用する
- 最終ページに原本証明の文言+代表取締役の記名を入れる
この手順で準備すれば、法務局で補正になる可能性は大きく下がります。
定款の扱いは一見複雑に見えますが、「いつ必要か」と「どう添付するか」という仕組みさえ理解しておけば、実務では迷わず対応できます。
商業登記に携わる方の一助となれば幸いです。

