こんにちは。 シアエスト司法書士・行政書士事務所の代表、今井康介です。
相続の場面でよく耳にする「遺留分(いりゅうぶん)」という言葉。 皆様は、その意味を正確にご存知でしょうか?
「法定相続分(ほうていそうぞくぶん)」と混同されがちですが、この二つは法的な役割が全く異なる「別の権利」です。 この違いを正しく理解していないと、遺言書を作成する際や、遺産分割の話し合いで思わぬトラブルに巻き込まれてしまう可能性があります。
今回は、遺留分の基本的な仕組みから、認められる人と認められない人、そして権利を主張できなくなるケースまで、図解を交えて分かりやすく解説します。
1. ズバリ解説!「遺留分」と「法定相続分」の違い
「法定相続分」と「遺留分」。
どちらも「法律で決められた遺産の取り分」という意味では似ていますが、その役割は全く違います。
一言で言うと、以下のようになります。
- 法定相続分=「目安」遺産分けの話し合い(遺産分割協議)で揉めないための、あくまで「基準」です。相続人全員が納得すれば、この割合を無視して自由に分けても構いません。
- 遺留分=「最低保障」遺言書などで、どんなに不公平な分け方をされたとしても、「これだけは絶対に貰える」と法律で強力に守られた最低限の取り分です。
| 項目 | 法定相続分 | 遺留分 |
| 役割 | 遺産分割の「目安」 | 生活を守る「最低保障」 |
| 変更できるか | 全員の合意があれば 自由に変えられる | 遺言でも侵害できない (請求すれば取り戻せる) |
| 割合のイメージ | ■ 配偶者のみ 配偶者:100%(すべて) ■ 配偶者 + 子 配偶者:1/2 子:1/2(人数で均等) ■ 配偶者 + 親(直系尊属) 配偶者:2/3 親:1/3(人数で均等) ■ 配偶者 + 兄弟姉妹 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4(人数で均等) | 法定相続分の2分の1 |
つまり、遺留分とは「遺言書があっても奪うことのできない、相続人の最後の砦」と言える権利なのです。
2. 遺留分が「ある人」と「ない人」の境界線
実は、相続人なら誰でも遺留分があるわけではありません。 ここに「明確な線引き」があります。
遺留分がある人(最低保障がある)
- 配偶者(夫・妻)
- 子、孫(直系卑属)
- 親、祖父母(直系尊属)
遺留分がない人
- 兄弟姉妹
- 甥・姪
「兄弟姉妹には遺留分がない」
これは相続対策のキーポイントです。
もし、あなたに子供がおらず、相続人が「配偶者と兄弟」の場合、遺言書で「全財産を妻に相続させる」と書いておけば、兄弟からの遺留分請求は100%防げます。
兄弟が相続人になるケースでは、遺言書が絶大な効果を発揮するのです。
3. 遺留分を請求できなくなる5つのパターン
「遺留分がある人」であっても、以下のケースに当てはまる場合は、請求権が消滅してしまいます。 もし請求する側であれば、特に「時効」には注意が必要です。
① 時効(1年)
遺留分には非常に短い期限があります。 「相続の開始(死亡)」と「遺留分を侵害する贈与や遺言があること」を知った時から1年経つと、時効により権利が消滅します。 (※知らなくても、相続開始から10年経つと除斥期間により消滅します)
② 放棄(遺留分の放棄)
生前または死後に、自らの意思で「遺留分はいらない」と放棄した場合です。 ただし、生前の放棄には「家庭裁判所の許可」が必要であり、単に口約束しただけでは無効です。
③ 相続放棄
「相続放棄」をすると、その人は最初から相続人ではなかったものとみなされます。 相続人でなくなる以上、当然ながら遺留分の権利もなくなります。
④ 相続欠格・廃除
被相続人を殺害しようとしたり、遺言書を偽造したり(欠格)、被相続人を虐待したり(廃除)して相続権を剥奪された場合は、遺留分も主張できません。
⑤ 遺産分割協議の成立後
一度、遺産分割協議書に実印を押して合意した後で、「やっぱり遺留分が足りないから返してくれ」と言うことはできません。 合意した時点で、権利を放棄したとみなされるからです。
まとめ:権利を知った上で、どう対策するか
遺留分は、法律で強力に守られた相続人の権利ですが、これまで見てきたように「時効」や「条件」によって請求できなくなるケースもあります。
逆に言えば、遺言書を作成する側(財産を残す側)にとっては、これらのルールを逆手に取って、「遺留分トラブルを未然に防ぐための対策」を講じることが可能です。
遺言書を作る側の視点に立ち、「全財産を長男に譲りたい」といった希望を叶えつつ、トラブルを最小限に抑えるための具体的な書き方や生前対策については、以下の記事で詳しく解説しています。
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