会社の役員(取締役・監査役・代表取締役など)に動きがあったとき、避けて通れないのが「役員変更登記」です。
役員変更は会社法の手続きの中でも頻度が高く、かつ「うっかり放置」による罰金(過料)のリスクが非常に高い分野です。また、2024年10月から始まった「代表取締役等住所非表示措置」など、最新のルールを知らないと損をすることもあります。
この記事では、役員変更登記の基本から、必要書類、費用の目安、そして最新の法改正情報まで、司法書士の視点でわかりやすく解説します。
1. 役員変更登記とは?(期限とリスク)
役員変更登記とは、会社の経営陣(取締役、監査役、代表取締役など)に関する情報に変更が生じた際、法務局にある会社の戸籍(登記簿)を書き換える手続きのことです。
会社法では、変更が生じた日から「2週間以内」に登記申請をしなければならないと定められています(会社法第915条第1項)。
放置するとどうなる?2つのリスク
登記をサボったり、忘れていたりすると、以下のペナルティを受ける可能性があります。
- 過料(かりょう)の制裁
- 期限(2週間)を過ぎてから登記申請をすると、代表者個人に対して裁判所から「100万円以下の過料(罰金のようなもの)」が科される可能性があります(会社法第976条)。数ヶ月の遅れでも数万円の通知が来ることがあるため注意が必要です。
- みなし解散
- 株式会社で12年(一般社団法人は5年)以上、何の登記もされていないと、「活動していない会社」とみなされ、登記官の職権で強制的に解散させられてしまう制度があります。
2. 登記が必要になる5つのパターン(重任に注意)
「人が入れ替わった時だけ」ではありません。以下の5つのケースで登記が必要です。
① 就任(新任)
新しく役員を選任する場合です。社内の昇進や、外部からの招聘などが該当します。
② 重任(じゅうにん)★要注意
最も忘れやすいのがこれです。
役員には任期(原則2年または4年、最長10年)があります。任期満了時に、同じ人が再選されて続投する場合でも、「任期満了退任」→「就任」という手続きが必要であり、登記義務が発生します。
③ 退任・辞任
- 退任: 任期満了で再選されなかった場合。
- 辞任: 任期の途中で自ら辞める場合。
④ 解任
不正行為などを理由に、会社側(株主総会決議など)で役員を辞めさせる場合。
⑤ 死亡
役員が亡くなられた場合。
3. 自分でやる?専門家?申請方法と費用の目安
申請の方法
申請方法は主に3つあります。
- 窓口申請: 管轄の法務局へ書類を持参する。
- 郵送申請: 書類を郵送する(書留やレターパック)。
- オンライン申請: 専用ソフトやマイナンバーカードを使って申請する。
費用の目安
役員変更登記にかかる費用は、「実費(登録免許税)」と「専門家報酬」の合計です。
| 項目 | 金額の目安 | 備考 |
| 登録免許税(実費) | 1万円 または 3万円 | 資本金1億円以下なら1万円 1億円超なら3万円 |
| 司法書士報酬 | 2万円 ~ 5万円 | 依頼する事務所や内容による |
※NPO法人など一部の法人は登録免許税がかかりません。
4. 【保存版】必要書類のチェックリスト
会社の形態(取締役会の有無など)や変更内容によって異なりますが、主な必要書類は以下の通りです。
共通してよく使う書類
- 登記申請書: 法務局HPの様式を使用。
- 株主総会議事録: 役員を選んだ証拠書類。
- 株主リスト: 議決権上位10名等のリスト(平成28年より必須)。
- 就任承諾書: 「就任します」という本人の承諾書。
- 委任状: 代理人に依頼する場合。
場合によって必要な書類
- 印鑑証明書
- 取締役会なしの会社で、取締役が就任する場合。
- 取締役会ありの会社で、代表取締役を選定する場合(出席役員分)。
- 本人確認証明書
- 印鑑証明書を添付しない取締役・監査役が就任する場合(免許証のコピーや住民票など)。
- 辞任届: 辞任する場合。
- 死亡の記載がある戸籍謄本等: 死亡した場合。
必ず作成が必要な「株主リスト」とは?
平成28年より、株主総会の決議が必要な登記には「株主リスト」の添付が必須となりました。これは、架空の株主総会議事録による不正登記を防ぐためのものです。
株主リストに記載すべき内容
以下の条件に当てはまる株主(原則として議決権数の上位10名)について、次の情報を記載します。
- 氏名(または名称)
- 住所
- 株式数(種類株式発行会社は種類ごとの数)
- 議決権の数
- 議決権数の割合(%)
※会社側で株主の正確な住所を把握できていない場合は、把握している範囲で記載し、「株主○○の住所については、株主名簿にも最小行政区画までしか記載されていない」といったように、その理由を注記することで足りるケースもあります。
5. 【重要】書類への「押印(ハンコ)」のルール
ご自身で申請される際に最もつまずきやすいのが「どのハンコを押せばいいのか?」という問題です。 令和3年の改正で一部の押印義務が見直されましたが、紙で申請する場合の実務上の基本ルールを押さえておきましょう。
① 登記申請書・委任状
- 会社の実印(法務局届出印)を押印します。
- 代理人(司法書士など)に依頼する場合の委任状にも、会社の実印が必要です。
② 株主総会議事録
- 原則として、議事録作成者や議長、出席取締役のハンコが必要です。
- 定款の定めや取締役会設置の有無によりますが、「会社の実印」を押すケースと、「個人の実印(または認印)」を押すケースに分かれます。
③ 就任承諾書
- 新しく代表取締役になる人: 原則として「個人の実印」を押印し、印鑑証明書を添付します(※既存の代表者が会社実印を議事録に押している場合など、例外あり)。
- 平取締役・監査役になる人: 取締役会設置会社であれば「認印」で構いませんが、本人確認証明書(免許証コピー等)の添付が必要です。
④ 辞任届
- 原則として「個人の実印」を押印し、印鑑証明書を添付するか、または「会社の実印」を押印します(※認印でも受理されるケースはありますが、トラブル防止のため実務上は実印を推奨します)。
押印ルールは「取締役会があるか」「誰が選ばれたか」の組み合わせで非常に複雑です。判断に迷う場合は、二度手間を防ぐためにも専門家への確認をおすすめします。
6. 【最新】役員の住所変更と「住所非表示措置」について
役員(特に代表取締役)が引越しをした場合も、2週間以内に住所変更登記が必要です。
令和6年10月開始「代表取締役等住所非表示措置」とは?
これまで、代表取締役の自宅住所は誰でも見られる状態(登記簿で公開)でしたが、プライバシー保護の観点から、一定の条件を満たせば住所の一部(市区町村まで)しか表示させないことができるようになりました。
利用の条件
- 登記申請と同時に申し出ること(住所非表示単独での申出は不可)。
- 設立、就任、重任、住所移転などのタイミングで申し出る必要があります。
- 上場会社以外の株式会社の場合、以下の書面等を添付すること
- 会社の実在性を証する書面(郵便物が届いた証明等)
- 代表者の本人確認書面(住民票等)
- 実質的支配者リストの写し(公証人認証等が必要な場合あり)
自宅住所が公開されないメリットがある一方、会社の印鑑証明書等で住所が証明できなくなるため、金融機関の融資や不動産取引等の際、追加の証明書類を求められるなど手続きが煩雑になる可能性があります。
7. よくある質問(FAQ)
- 「重任(再任)」の場合、いつ登記すればいいですか?
-
定時株主総会で選任された日から2週間以内です。 自動更新されるわけではないため、必ず議事録を作成し、登記申請を行う必要があります。
- 取締役の任期は何年ですか?
-
原則は2年ですが、多くの非公開会社(中小企業)では定款で「10年」に伸長しています。 ご自身の会社の定款を確認してみてください。もし定款が見当たらない場合は、司法書士にご相談ください。
- 結婚して名字が変わりましたが、旧姓のまま登記できますか?
-
はい、可能です。 戸籍上の氏名と一緒に「(旧氏 〇〇)」と併記する形で登記ができます。これにより、ビジネス上は旧姓を使い続ける際も証明がスムーズになります。
8. まとめ
役員変更登記は、会社の履歴書を最新に保つための重要な手続きです。
- 「2週間以内」の期限を厳守する。
- 人が変わらなくても「重任」の登記を忘れない。
- 「株主リスト」や「ハンコの種類」を間違えないよう確認する。
書類の作成や押印区分に不安がある場合や、本業が忙しく手続きの時間が取れない場合は、専門家である司法書士にお任せください。
シアエスト司法書士・行政書士事務所では、書類作成から申請まで、会社の状況に合わせてトータルでサポートいたします。


