こんにちは。 シアエスト司法書士・行政書士事務所の代表、今井康介です。
連日、「円安」や「物価上昇」に関するニュースが報じられています。 これを「国の経済の話」や「企業の貿易の話」として、どこか遠い出来事のように感じてはいらっしゃらないでしょうか。
しかし、実務の現場から見ると、これは単なるニュースではなく、「個人の資産価値」に直結する切実な問題です。 円の価値が変動すれば、皆様が長年かけて築き上げ、大切なご家族に残そうとしている資産の「実質的な価値」も変わってしまうからです。
経済の動きそのものを、私たちがコントロールすることはできません。 ですが、どのような環境になっても資産と想いを守れるように、「法的な仕組み」を整えることは可能です。
今回は、経済変動の激しいこの時代において、ご自身とご家族を守るためにやっておくべき「法的な備え」について、司法書士の視点から解説いたします。
1. 円安が「相続・資産」に与える3つの影響
円安やインフレは、日々の買い物だけでなく、皆様の「資産」や「将来の相続」にも静かに、しかし確実に影響を及ぼしています。 ここでは、特に注意が必要な3つの法的・実務的な影響について整理します。
① インフレによる現預金の実質目減り
「元本保証だから安心」と、資産の大半を銀行預金にされている方は多いかと思います。 しかし、物価が上昇(インフレ)している局面では、お金の額面は減らなくても、「お金の価値」そのものが目減りしていきます。
何も対策をしないままでは、実質的な資産価値が下がり続けるリスクがあります。 これからの相続対策では、単に現金を残すだけでなく、資産価値を守るための分散や組み換えも視野に入れる必要があります。
② 外貨建て資産の評価額上昇(相続税のリスク)
「分散投資のために」と、外貨預金や外国株式、海外不動産をお持ちの方も増えています。 ここで盲点となるのが、「円安による評価額の上昇」です。
相続税の計算は、原則として「亡くなった日の為替レート」で円換算して行われます。 たとえ外貨ベースでの価値が変わっていなくても、急激な円安によって円換算額が跳ね上がり、予想以上に高額な相続税がかかるケースが出てきています。
「これくらいなら基礎控除内(非課税)だろう」と安心していた方が、円安の影響で課税対象になってしまうことも十分にあり得ます。
③ 海外資産の管理・手続きの複雑化
海外に資産をお持ちの場合、為替リスクだけでなく、「管理・承継の手続き」そのものが複雑化するリスクも高まっています。
各国の法制度や税制は頻繁に変更されます。また、金融機関の本人確認(マネーロンダリング対策)も年々厳格化しており、いざ相続が発生した際に、「口座が凍結されて解約できない」「現地の専門家を雇う費用が高騰している」といったトラブルが急増しています。
2. 経営者が考えるべき「円安局面」での事業承継
円安・物価高の影響は、個人の家計だけでなく、企業経営、とりわけ「事業承継」のタイミングにも大きな影を落としています。
経営者の皆様に知っておいていただきたいのは、経済環境の変化が「自社株の評価」や「後継者の負担」に直結するという事実です。
輸入コスト増と株価評価の関係
輸入に依存する企業や、原材料高騰の影響を受ける業種では、円安によって利益が圧迫され、一時的に業績が低下することがあります。 経営者としては苦しい局面ですが、事業承継の視点で見ると、これは「株価(自社株の評価額)が下がっているタイミング」であるとも言えます。
逆説的ですが、株価が下がっている時期は、後継者への株式譲渡や贈与を行うチャンスでもあります。 高い税金を払わずに、スムーズに経営権を移転できる可能性があるからです。
不安定な時期だからこそ「法的スキーム」で経営権を守る
しかし、先行きが不透明な中で、単純に株を渡して引退するのは不安が残るかもしれません。 そこで有効なのが、会社法や信託法を活用した「経営権を安定させる法的スキーム」です。
- 種類株式(しゅるいかぶしき)の活用: 「配当は受け取れるが、議決権(経営に参加する権利)は持たない」といった特殊な株式を発行することで、後継者に経営権を集中させつつ、他の親族には経済的利益のみを渡すことができます。
- 家族信託(事業承継信託)の活用: 自社株を信頼できる受託者に託し、「議決権の行使指図権(実質的な経営権)」は創業者が持ち続けるという設計が可能です。これにより、元気なうちは現役として采配を振るい、万が一認知症になった場合のみ、スムーズに後継者に権限を移行させることができます。
円安という逆風を、事業承継を進めるための「追い風」に変える。 そのためには、税理士による数字の判断だけでなく、司法書士による法的な「枠組み作り」が不可欠です。
3. 個人資産を守るための「法的な防波堤」
為替や株価が明日どうなるか、正確に予測することは専門家でも不可能です。 経済環境は、私たち個人の力では「コントロールできないもの」です。
しかし、その環境変化に対してどう備えるか、法的な対策をどう講じるかは、ご自身の意思で「コントロールできるもの」です。
不確実な時代だからこそ、資産と家族を守るために有効な、2つの「法的な防波堤」をご紹介します。
① 遺言書:資産価値が変わっても揉めない工夫
円安やインフレが進むと、資産の種類によって価値の変動幅が大きく異なります。 例えば、「不動産や外貨の価値は上がったが、日本円の預金の実質価値は下がった」という状況が起こり得ます。
ここで注意が必要なのが、遺言書の書き方です。
- リスクがある書き方(割合指定): 「全財産を長男と次男で2分の1ずつ分ける」 → 資産価値が変動した際、具体的にどの財産をどう分ければ「ちょうど半分」になるのかで揉める原因になります。
- 推奨する書き方(特定財産指定): 「不動産は長男に、預金は次男に相続させる」 → 「具体的財産」で指定しておくことで、評価額が変動しても、遺産分割協議で争うリスクを最小限に抑えることができます。
② 家族信託:認知症による「資産凍結」と「インフレ」の二重苦を防ぐ
インフレ局面では、現金を不動産や株式に組み替えるなど、資産を「動かす」ことが防御策になります。 しかし、もし資産の持ち主である親御さんが認知症になってしまうと、資産は「凍結」され、売ることも貸すことも、組み替えることもできなくなります。
- 何もしないと: 資産が凍結されたまま、インフレによって実質価値が目減りしていくのを座して待つしかありません。
- 家族信託を活用すると: 元気なうちに、信頼できるご家族に管理権限を託しておくことで、万が一本人の判断能力が低下しても、受託者(託された家族)の判断で、インフレ対策としての資産の組み換えや売却が可能になります。
「動かせる状態」を維持しておくこと。これが、変化の激しい時代における最強のリスクヘッジとなります。
4. 司法書士からの提案:数字だけでなく「想い」も守る
ここまで、円安やインフレといった「経済」や「数字」の側面から対策をお話ししてきました。
しかし、私たち司法書士が数多くの相続現場で実感している真実は、「数字(資産価値)」を守ること以上に、「家族の絆」を守ることの方が大切であり、難しいということです。
どれほど資産の目減りを防げたとしても、その相続をきっかけにご家族の仲が裂けてしまっては、元も子もありません。
経済環境がどう変化しようとも、 「家族が困らないように」 「これからも仲良く暮らせるように」 という皆様の「想い」を、遺言や家族信託という「法的な形」にしておくこと。
それが、どんな時代でも揺るがない安心を作る、最も確実な方法です。
4. 司法書士からの提案:数字だけでなく「想い」も守る
ここまで、円安やインフレといった「経済」や「数字」の側面から対策をお話ししてきました。
しかし、私たち司法書士が数多くの相続現場で実感している真実は、「数字(資産価値)」を守ること以上に、「家族の絆」を守ることの方が大切であり、難しいということです。
どれほど資産の目減りを防げたとしても、その相続をきっかけにご家族の仲が裂けてしまっては、元も子もありません。
経済環境がどう変化しようとも、 「家族が困らないように」 「これからも仲良く暮らせるように」 という皆様の「想い」を、遺言や家族信託という「法的な形」にしておくこと。
それが、どんな時代でも揺るがない安心を作る、最も確実な方法です。
まとめ:変化の激しい時代こそ、足元(法的準備)を固めよう
為替相場が明日どうなるか、正確に予測することは専門家でも困難です。 しかし、「何があっても家族を守れる法的な準備」は、今すぐ、ご自身の意思で始めることができます。
「どうなるか分からない未来」を憂うよりも、「自分で決められる足元」を固めておくことが、不安な時代を乗り切るための最短ルートです。
「円安で将来が心配だ」 「うちの資産状況で、今やるべき対策はあるか?」
そう思われたら、ぜひ一度、シアエスト司法書士事務所にご相談ください。 皆様の不安を解消し、大切な資産と想いを未来へつなぐパートナーとして、全力でサポートさせていただきます。


