「介護を頑張ったから多くもらえる」は誤解?相続トラブルを防ぐ親子の話し合い

目次

1. なぜ「介護」が相続の重要課題なのか

相続対策と聞くと、多くの方は「税金をどう安くするか」や「不動産を誰に引き継ぐか」といった、いわゆる「お金や名義」の話を思い浮かべるのではないでしょうか。もちろん、それらは非常に大切な要素です 。

しかし、実務の現場で多くの相続トラブルを見てきた立場から申し上げますと、実は相続の成否を分ける「真の火種」は、それよりもずっと前段階の「介護」に隠れています 。

親御さんの介護が始まると、特定の家族に心身の負担が集中することが少なくありません。その終わりの見えない生活の中で、ふとした瞬間にこのような思いがよぎることはないでしょうか。

「これだけ介護を頑張っているのだから、将来は私が財産を多めにもらって当然だろう」

実はここに、大きな落とし穴があります。

多くの方が抱く「介護の貢献を評価してほしい」という切実な願い(理想)と、法律が定める「法定相続分」というルール(現実)の間には、驚くほど大きなズレが存在しているのです 。このギャップを放置したまま相続が発生してしまうと、感謝されるはずの介護が、皮肉にも親族間の争いの火種へと変わってしまいます

これからの相続対策は、亡くなった後のことだけでなく、まずは目の前の「介護」をどう乗り越えるかという視点から見直してみる必要があります

2. 数字で見る「理想と現実」のギャップ

「介護の苦労は、きっと相続のときに考慮してもらえるはず」という期待。しかし、現実はそう甘くはありません。ここに、ある興味深いデータがあります。

介護の貢献は報われるのか?

ある意識調査によると、「介護を行った人が相続財産を多めに取得すべき」と考えている人は、全体の約8割にものぼります 。一方で、「自分が介護を行った場合、実際にその貢献度に応じた配分を受けられる」と考えている人は約6割にとどまっており、理想と現実の間に明らかな温度差が生じています

このギャップこそが、司法書士の立場から見て最も危惧すべきポイントです。

介護の不満が「話し合い」をストップさせる

民法には「寄与分」という制度があり、特別な貢献をした相続人に配慮する仕組みは一応存在します。しかし、これが認められるハードルは非常に高く、単に「親と同居して身の回りの世話をした」という程度では、他の親族を納得させるだけの法的な根拠になりにくいのが実情です。

介護負担が特定の相続人に偏り、その不公平感が解消されないまま相続が開始すると、以下のようなリスクが生じます。

  • 遺産分割協議の長期化: 介護を担った側の「これだけやったのに」という思いと、他方の「法律通り分けるべきだ」という主張が真っ向から対立し、協議が全く進まなくなります 。
  • 納税資金の凍結: 話し合いがまとまらなければ、親御さんの預貯金を引き出すことも、不動産を売却することもできません。結果として、本来予定していた納税資金が準備できなくなるケースも少なくありません 。

「終わりの見えない介護」の後に待っているのが「終わりの見えない争い」であっては、あまりに報われません。このリスクを回避するためには、感情論だけでなく、客観的なデータや事実に基づいた事前の準備が必要不可欠なのです。

3. 「介護の話」から始めるスムーズな相続準備

相続の準備をしようとすると、どうしても「亡くなった後の財産分け」という重いテーマになりがちです 。しかし、いきなり「お金の話」を切り出すのは、親にとっても子にとっても抵抗があり、家族間でもタブー視されてしまいがちです

そこで、ハードルを下げる有効な方法が、まずは「これからの暮らし(介護)」について話し合うことです 。

話し合いのポイント

具体的かつ建設的な話し合いにするために、以下の2つのポイントを意識してみてください。

  • 介護方針と役割分担を明確にする 「住み慣れた自宅で介護を受けたい(家族が担う)」のか、あるいは「プロの手を借りて施設で過ごしたい(他者に委ねる)」のか、まずは親御さん本人の意向を確認しましょう 。その上で、もし自宅介護なら誰が主にサポートするのか、施設ならどのタイプを検討するのかといった役割分担を家族で共有しておくことが、将来の衝突を防ぐ鍵となります 。
  • 「誰の財産」から出すのかを共有する 介護には、月々の利用料や施設への入居一時金など、多額の費用がかかることがあります 。これらの費用を「親自身の財産」から支払うのか、あるいは「子供たちが分担」するのか、あらかじめ共通認識を持っておくことが重要です 。金銭的な分担が曖昧なままでは、将来の相続財産がいくら残るのかが不透明になり、適切な財産配分の設計も難しくなってしまいます 。

介護と相続は、切り離すことのできない連続したプロセスです 。親御さんの生活の質を守るための「介護プラン」を立てることは、実はそのまま「円満な相続対策」の確かな土台となるのです

4. 司法書士が提案する「安心のための法的備え」

介護方針や費用の話し合いができたら、次はその内容を「法的な形」にしておくことが大切です 。特に注意が必要なのが、認知症などによる判断能力の低下です

いざ介護が必要になったときに「本人名義の口座が凍結されて費用が引き出せない」「不動産の売却手続きができない」といった事態に陥ってからでは、選択できる対策は限られてしまいます 。そうなる前の、心身ともに元気なうちだからこそ検討できる「3つの備え」をご紹介します。

遺言書:感謝の気持ちを配分に込める

「介護を頑張ってくれた子に多めに残したい」という親御さんの思いは、口約束だけでは法的な力になりません 。 遺言書を作成することで、介護の貢献度に応じた具体的な財産配分をあらかじめ指定することができます 。これにより、亡くなった後の「遺産分割協議」という大きな関門をスムーズに通過し、親族間の争いを未然に防ぐことが可能になります

任意後見・家族信託:元気なうちに「管理のバトン」を渡す

もし認知症などで判断能力が不十分になった場合でも、本人の財産からスムーズに介護費用や施設入居費を出せるようにしておく仕組みです

  • 任意後見: 将来、判断能力が低下したときに備え、あらかじめ「誰に」「どのような公的・法的な手続きを任せるか」を契約で決めておく制度です 。
  • 家族信託: 信頼できる家族に財産の管理権を託す仕組みです。例えば、親御さんが施設に入ることになった際、受託者(子など)が親に代わって実家を売却し、その代金を施設費用に充てるといった柔軟な対応が可能になります。

これらの制度は、相続税の試算をするだけでは見えてこない「日常生活の安心」を支えるためのものです 。司法書士は、こうした法的な仕組みを組み合わせて、ご家族ごとに最適な「管理のカタチ」を設計するお手伝いをしています。

5. まとめ・結び

「介護」と「相続」は、決して切り離して考えることはできません。介護は相続が開始する前の一時的な出来事ではなく、その後の遺産分割や財産管理に直結する、いわば「地続きのプロセス」なのです

介護プランが曖昧なままでは、将来の相続財産がいくら残るのかが不透明になり、適切な財産配分の設計も難しくなってしまいます 。だからこそ、早い段階から親子で向き合い、将来を見据えた準備を始めることが、結果として家族全員の安心につながります。

相続対策を検討する際は、以下の「3つの目」を持つことが非常に大切です。

  • 鳥の目: 家族全体の状況を俯瞰的に見る 。
  • 虫の目: 手続きの期限や財産評価など、細部に注目する 。
  • 魚の目: 将来の介護生活や相続開始まで、物事の流れを読む 。

こうした多角的な視点を持つことは、家族だけで悩んでいては限界があるかもしれません。

私たち司法書士のような第三者の専門家を交えることで、親族間の心理的な衝突を和らげ、客観的で実効性のある対策を立てることが可能になります

「まだ早い」と思わず、まずは家族のこれからの暮らしについてお話ししてみませんか。当事務所では、法的な手続きはもちろん、ご家族に寄り添った最適なアドバイスをさせていただきます。

代表司法書士・行政書士 今井 康介

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