こうした相談は、実務の現場でも珍しくありません。そんなときの制度として知られているのが成年後見制度です。
一方で、成年後見には「始めたら原則としてやめにくい(終わりが見えにくい)」というイメージがあり、利用をためらう方も多いのが実情です。
そこで現在、国の審議会で成年後見制度の“見直し”が議論されています。今回は、見直し議論のポイントを、一般の方向けにできるだけ平易に整理し、家族が今からできる備えも併せてお伝えします。
1. 成年後見制度のいま:家族がつまずきやすいポイント
成年後見制度は、判断能力が十分でない方について、家庭裁判所が選任した成年後見人等が、財産管理や契約などの法律行為をサポートする仕組みです。理念としては「本人の保護」と「本人の意思の尊重」を両立しようとする制度です。
ただ、実際にご家族が制度を検討する段階になると、次のような“つまずきポイント”が出てきます。
(1)「必要なときに、必要な範囲だけ」が難しい
相談で多いのは、「入所契約だけ整えたい」「当面の支払いの道筋だけ付けたい」といった“限定的な困りごと”です。ところが、現行制度では一度スタートすると、本人の財産全体や継続的な支援が視野に入ってきやすく、「この場面だけスポットで使いたい」という感覚と噛み合いにくいことがあります。制度としては当然の面もあるのですが、生活実感としては負担に感じられがちです。
(2)家族の「善意の管理」から、制度としての「説明責任のある管理」へ
例えば、家族が通帳を預かって生活費を支出していた場合、家族の中では「必要な支払いをしてきた」という感覚で動いています。しかし制度を使うと、支出の整理や説明、記録の整備といった要素が一気に重要になります。これは悪いことではなく、本人の財産を守るための当然の仕組みなのですが、「いままでのやり方が通らなくなる」と感じる方もいます。
(3)「やめ時」が見えにくい(終わりの設計が難しい)
成年後見に関する相談で、最も重たいテーマの一つがここです。本人の判断能力が回復するケースもゼロではありませんが、多くの場合は“改善が見込みにくい”状況を前提に制度が続きます。また、本人の生活環境が変わって「当初ほどの支援が要らなくなった」と感じても、制度をやめるためのハードルが高いと受け止められてきました。
こうした課題意識が、現在の見直し議論の土台になっています。
2. 見直し議論の方向性:キーワードは「柔軟化」「必要性」「終了」
見直し議論は、法務省の法制審議会(民法〔成年後見等関係〕部会)で積み重ねられており、その検討の途中経過として「中間試案」や、内容理解のための「補足説明」「参考資料」などが公表されています。パブリックコメントが実施されたことも、議論が相当程度具体化していることを示す材料です。
一般の方向けに、議論の方向性を一言でまとめると、次のイメージです。
- いまの制度は「一度始めたら、広く・長く支える」設計になりやすい
- これを「本人にとって必要な範囲・必要な期間で、適切に支える」方向に寄せたい
- そのために、「開始」だけでなく「終了(終わらせ方)」も制度として整理したい
ここから、もう少し具体的に見ていきます。
2-1. 「必要な範囲・期間だけ」支援する方向(柔軟化)
現場の感覚として、成年後見を検討する場面は本当に多様です。入所・入院・介護サービス契約、医療費の支払い、生活費の整理、相続手続の前段階の整理など、困りごとは“点”で発生します。
見直し議論では、こうした現実に合わせて「本人にとって必要な支援を、必要な形で提供する」方向が強く意識されています。制度を“硬い枠”としてではなく、本人の暮らしに合わせて使えるようにする、という発想です。
もちろん、柔軟にするほど濫用のリスクや監督の難しさも出ますから、そこをどう設計するかが議論の肝になります。こうした論点整理の入口として、中間試案や補足説明が公開されています。
2-2. 「終わらせられる」仕組みがテーマになっている(終了の制度化)
報道でも「やめられない制度が変わるのでは」という点が注目されました。NHKでも、見直しの要綱案の話題として、「必要がなくなったと裁判所が認めた場合に終了できる」方向が報じられています。
ここは、誤解が生まれやすいポイントなので、司法書士として一言補足します。
「終了できるようにする」というのは、成年後見を“気軽に解除できる”制度にする、という意味ではありません。本人の権利保護の観点から、終了が本人に不利益にならないよう、一定の要件や手続が必要になるはずです。ただ、現行制度が抱えていた「終わりが設計しにくい」という悩みに対して、制度側が正面から向き合っていること自体は、大きな転換点になり得ます。
また、実務的に見ると「終了」の議論は、単に後見を終わらせる話だけではありません。終わらせた後に、地域・家族・関係機関がどう支えるのか、本人の生活をどう途切れさせないのか、といった支援体制の話にもつながります。このあたりは、制度だけで完結しない難しさがあり、今後も議論が続く部分だと思います。
2-3. 類型の整理(分かりやすさの改善の議論)
報道では「補助人に一元化」といった表現も見られました。これは、現行の複数類型(後見・保佐・補助)を、より分かりやすい形に整理する方向の議論として取り上げられているものです。
ただし、ここも断定は禁物です。制度設計は、本人の保護と自己決定のバランス、家裁の運用、専門職・親族の役割分担など多くの要素が絡みます。見直し議論は、まさにそのバランスをどう取り直すか、という作業です。
3. 家族が「今すぐ」できる備え:改正を待たずに整える3点
制度が見直されるかもしれない、と聞くと「じゃあ改正を待ったほうがいいの?」と感じる方もいます。けれど、生活上の困りごとは待ってくれませんし、意思確認ができる時間は限られていることも多いです。見直し議論の行方に注目しつつ、家族として“今できること”を3つ挙げます。
(1)困っていることを「具体化」する(お金?契約?相続?)
成年後見を含む判断能力支援の検討は、最初の整理が半分です。
たとえば次のように言語化してみてください。
- 何に困っているのか(入所契約/銀行/医療費の支払い/不動産の管理 など)
- いつまでに必要か(来月入所/今週中に支払い/相続で凍結が怖い など)
- 財産の規模や内容(預貯金/年金/不動産/借入の有無)
- 本人の状態(意思疎通は可能か/波があるか/医師の見立てはあるか)
この整理ができると、「成年後見が必要か」「他の方法があり得るか」「一部の手当てで足りるか」が見えやすくなります。
(2)本人の意思が確認できるうちに、“将来の段取り”をつくる
制度の選択肢は、成年後見だけではありません。任意後見、見守り契約、財産管理等の委任、死後事務委任など、本人の意思をベースに組み立てられる仕組みもあります(ここでは詳細説明は割愛しますが、重要なのは「本人の意思がはっきりしている時期ほど、選択肢が広い」という点です)。
ご家族の「もっと早く動けばよかった」という言葉を、私は何度も聞いてきました。もちろん、早く動くことが常に正解とは限りません。ただ、少なくとも“選択肢を知ったうえで、何もしない”のと、“知らずに時間が過ぎる”のとでは、後悔の質が違います。
(3)家族だけで抱えない:専門職に相談する価値は「整理」にある
司法書士の相談というと、「申立書類を作る人」と思われがちですが、実務ではその前段階の「整理」に価値が出ることが多いです。
- そもそも後見相当か(緊急性・代替手段の有無)
- 申立てをするなら、どんな支援範囲が本人に適切か
- 財産の棚卸し、支出の把握、家族間の役割分担
- 必要書類や医師の診断書の取り方の段取り
こうした“交通整理”を早めにしておくと、いざ制度を使う場面で迷いが減りますし、結果として本人の生活の混乱も小さくできます。
4. まとめ:制度は「本人の暮らし」のため。だからこそ見直し議論に注目する
成年後見制度の見直し議論は、「使いにくいからやめる」ではなく、「本人中心に、必要な支援を必要な形で届ける」ための改善として進められています。その中で特に注目されているのが、柔軟化(必要な範囲・期間)と、終了(終わりの設計)です。議論の途中経過として法務省から中間試案等が公表され、パブリックコメントも実施されてきました。
一方で、制度が確定的に変わるまで待つことが、常に得策とは限りません。いま困っていることを具体化し、本人の意思確認ができるうちに段取りを考える。それだけでも、将来の選択肢は広がります。
もし、情報を集めても「うちの場合は何から手を付けるべきか分からない」と感じたら、地域の相談窓口や専門職に一度話してみてください。相談の目的は、いきなり手続を始めることではなく、状況を整理して“選択肢を持つこと”にあります。
成年後見制度の見直し議論は、「本人にとって必要な支援を、必要な形で届ける」ための改善として進められています。とはいえ、ご家庭ごとの事情は千差万別で、「うちは後見が必要?」「任意後見で足りる?」「いま優先すべきは何?」と迷うのは当然です。状況を一緒に整理するだけでも、次の一手が見えやすくなりますので、気になる点があればお気軽にご相談ください。

