【司法書士が解説】死因贈与とは?遺贈との違い・不動産登記・相続税・契約書作成の注意点

「自宅は長年面倒を見てくれた子に渡したい」「内縁の配偶者やお世話になった人に財産を残したい」と考えたとき、候補に挙がるのが死因贈与です。

相続対策や不動産承継の場面で耳にする制度ですが、遺言や生前贈与と混同されやすく、契約書の作り方や登記、税金の扱いを誤ると、かえって相続トラブルを招くことがあります。

死因贈与は、贈与者が亡くなったときに効力が生じる贈与であり、民法554条は「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」と定めています。つまり、契約でありながら、死後の財産承継という点で、遺贈に近い性格を持つ制度です。

この記事では、司法書士の実務目線から、死因贈与とは何か、遺贈との違い、死因贈与契約書の作成ポイント、不動産登記、相続税・登録免許税・不動産取得税、遺留分の注意点まで、できるだけ網羅的に解説します。

目次

まず押さえたい、死因贈与の基本

民法549条によれば、贈与は「財産を無償で与える意思表示」と「相手方の受諾」によって成立します。

民法第549条(贈与)

贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

つまり、贈与は当事者双方の合意によって成立する契約です。そのうえで、民法554条は、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与、すなわち死因贈与について、遺贈に関する規定を準用すると定めています。この点が、死因贈与を理解するうえで最も重要です。

死因贈与は「契約」であるため、受け取る側の承諾が必要です。一方で、効力が生じるのは贈与者の死亡時であり、財産承継のタイミングは遺贈に近くなります。そのため、相続対策では「遺言で対応すべきか」「死因贈与契約にすべきか」を慎重に比較する必要があります。

死因贈与と遺贈、生前贈与の違い

死因贈与とよく比較されるのが、遺贈生前贈与です。違いを端的にいうと、死因贈与は「生前に契約して、死亡時に効力が生じる方法」、遺贈は「遺言によって一方的に財産を与える方法」、生前贈与は「生前に効力が生じる贈与」です。

比較項目死因贈与遺贈生前贈与
法的性質契約遺言による処分契約
相手方の承諾必要原則不要必要
効力発生時期贈与者の死亡時遺言者の死亡時契約時・履行時
主な活用場面特定の人へ確実に承継したい場合相続全体の設計をしたい場合早めに財産移転したい場合

実務上は、「相手方の承諾を取っておきたいなら死因贈与」「自分の最終意思として柔軟に設計したいなら遺言」という整理が分かりやすいです。

なお、不動産承継では、相続人に対する遺贈について、令和5年4月1日から受遺者が単独で所有権移転登記を申請できるようになっており、承継方法の選択には登記実務も影響します。

死因贈与が向いているケース

死因贈与が検討されやすいのは、誰に何を渡すかを生前に明確に合意しておきたいケースです。たとえば、同居して介護を担っている親族に自宅を承継させたい場合、事業や家業に関わっている子に特定の不動産を渡したい場合、あるいは法定相続人ではない人に財産を残したい場合などです。

特に不動産では、「将来この不動産をこの人に渡したい」という意思が明確な一方、通常の生前贈与のように今すぐ名義を変えるのは避けたい、という相談が少なくありません。そのような場面で、不動産の死因贈与という選択肢が現実的な検討対象になります。

死因贈与のメリット

死因贈与の大きなメリットは、受贈者の承諾を得たうえで承継内容を明確にできることです。遺言と違って相手方との合意があるため、承継対象や条件、負担の内容を具体的に定めやすく、後日の「聞いていない」「そんな話は知らない」といった争いを減らしやすくなります。

また、死因贈与契約書において、対象不動産の表示、負担条項、費用負担、引渡しや登記協力に関する条項などを丁寧に定めておけば、相続開始後の手続きを進めやすくなります。死因贈与契約書の精度が、紛争予防の成否を左右するといっても過言ではありません。

死因贈与のデメリットと注意点

一方で、死因贈与には注意点もあります。まず、死因贈与は契約である以上、内容が曖昧だと契約の成否や対象財産の特定が争われやすいという問題があります。特に不動産では、地番・家屋番号・持分・附属建物の記載漏れなどがあると、実務上の支障が生じやすくなります。

また、死因贈与は「死亡時に効力が生じる」という点で相続や遺贈に近い一方、税務や登記では必ずしも相続と同じ扱いにはなりません。ここを誤解して「相続と同じだろう」と進めてしまうと、登録免許税や不動産取得税の負担が想定より大きくなることがあります。

死因贈与契約書はなぜ重要なのか

民法550条は、書面によらない贈与は各当事者が解除できると定めています。少なくとも一般の贈与契約において、口頭の約束は法的に不安定です。死因贈与でも、口約束のままでは立証が難しく、後日相続人との間で深刻な争いになりやすいため、実務では死因贈与契約書の作成が極めて重要です。

司法書士の立場からは、死因贈与契約書には少なくとも次の視点を入れるべきです。

対象財産を正確に特定すること、誰が費用を負担するかを決めること、負担付死因贈与であればその内容と履行時期を明確にすること、相続開始後の登記手続で必要な協力事項を整理することです。可能であれば、公正証書化も有力な選択肢になります。

不動産の死因贈与で特に気をつけたいこと

死因贈与の相談で最も多いのは、やはり不動産です。現金と違い、不動産は名義変更が必要であり、登記が絡むからです。対象物件の表示に誤りがあると、せっかく死因贈与契約を作っても、後の登記実務で苦労します。そのため、登記事項証明書や固定資産税納税通知書を確認しながら、物件を正確に特定する作業が不可欠です。

また、不動産の承継では「誰に承継させるか」だけでなく、その不動産に住宅ローン、抵当権、共有関係、賃借人、管理費滞納などの問題がないかも事前に見ておく必要があります。死因贈与は、契約を作って終わりではなく、後で確実に実行できる状態にしておくことが重要です。

死因贈与と登記のポイント

不動産の死因贈与では、相続開始後に所有権移転登記が必要になります。登記を見据えると、契約書の記載の仕方、添付書類の準備、相続人との関係整理が非常に重要です。死因贈与登記で手間取る原因の多くは、契約書の不備か、当事者・相続人間の認識のズレです。

さらに、承継方法を比較するうえでは、相続人に対する遺贈については令和5年4月1日以降、受遺者の単独申請が可能になった点も見逃せません。つまり、死因贈与と遺贈は、同じ「死亡後の財産移転」でも、登記実務の見通しが必ずしも同じではないということです。

死因贈与にかかる税金

死因贈与で見落とされやすいのが税金です。まず、国税庁は、相続税は死亡した人の財産を相続や遺贈(死因贈与を含む)によって取得した場合に課されると案内しています。したがって、死因贈与で取得した財産には、原則として贈与税ではなく相続税が問題になります。

ただし、登記にかかる登録免許税は別の整理です。国税庁の登録免許税の税額表では、不動産の所有権移転登記について、相続は1000分の4、贈与等の「その他」は1000分の20とされています。死因贈与による不動産登記は、一般にこの「贈与等」の区分が意識されるため、相続登記より税負担が重くなりやすい点に注意が必要です。

さらに、不動産取得税についても注意が必要です。東京都主税局の案内では、不動産取得税が非課税となる「相続」には包括遺贈や相続人に対する遺贈が含まれる一方で、「ただし、死因贈与は相続に含まれません」と明記されています。したがって、不動産では、不動産取得税の負担も含めて事前に試算しておくべきです。

生前贈与との税務上の違いも理解しておく

生前贈与を検討している方は、「それなら今のうちに贈与してしまえばよいのでは」と考えるかもしれません。しかし、生前贈与では贈与税の問題が生じ得る一方、死因贈与では相続税として整理される点が大きく異なります。

なお、一般の生前贈与では、相続開始前の一定期間内に行われた贈与が相続税の課税価格に加算されるルールがあります。国税庁は、令和6年1月1日以後の暦年課税贈与について、相続開始日に応じて加算対象期間が段階的に延長され、最終的に7年以内まで拡大することを案内しています。生前贈与と死因贈与のどちらを選ぶかは、税制も含めた比較が必要です。

遺留分にも注意が必要

死因贈与は、契約であるからといって、他の相続人との関係を無視できるわけではありません。相続人に遺留分がある事案では、遺留分の問題が生じる可能性があります。特に「自宅だけを一人に渡す」「ほぼ全財産を特定の人に集める」といった内容では、後から不満が噴き出しやすくなります。

そのため、死因贈与を設計する際は、契約書を作ることだけで満足せず、他の相続人の遺留分に配慮した全体設計が欠かせません。必要に応じて、遺言、家族への説明、生命保険の活用、代償金の準備などを組み合わせることが、実務上はとても重要です。

司法書士から見た、失敗しにくい進め方

死因贈与を成功させるコツは、単に「契約書を作る」ことではなく、実行時点まで見据えて設計することです。具体的には、誰に何を渡すのかを明確にし、対象財産を正確に特定し、相続人構成を確認し、遺留分の問題を洗い出し、登記と税金を試算したうえで、文案を固めるという順番が望ましいです。

とくに不動産が絡む場合は、契約文言の一字一句が、後の登記可否や紛争の有無に直結します。死因贈与について情報収集している方には、相続開始後に困らないよう、初期段階から司法書士・税理士などの専門家と連携して進めることをおすすめします。

よくある質問

死因贈与と遺言は、どちらがよいですか?

一概にどちらがよいとはいえません。受贈者の承諾を取って内容を具体的に固めたいなら死因贈与、柔軟に最終意思を示したいなら遺言が向くことが多いです。不動産の名義変更まで見据えるなら、登記実務も踏まえた比較が必要です。

死因贈与に相続税はかかりますか?

はい。国税庁は、死因贈与を含む遺贈によって取得した財産に相続税が課されると案内しています。

死因贈与で不動産をもらったら、不動産取得税はかかりますか?

相続とは扱いが異なるため、注意が必要です。東京都主税局は、不動産取得税の非課税となる相続の説明において、「死因贈与は相続に含まれません」と明記しています。

口約束でも死因贈与は有効ですか?

贈与は合意で成立し得ますが、口約束は立証面で極めて不安定です。加えて、民法550条は書面によらない贈与の解除を認めています。死因贈与は、少なくとも書面化を前提に考えるべきです。

まとめ

死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力が生じる贈与契約です。遺贈に似た機能を持ちながら、法的には契約であるため、受贈者の承諾が必要になります。相続対策として有効な場面はあるものの、契約書、登記、相続税、不動産取得税、遺留分など、検討すべき論点は多く、決して簡単な制度ではありません。

だからこそ、死因贈与を使うかどうかは、「契約を作れるか」ではなく、相続開始後にきちんと実現できるかという視点で考えるべきです。不動産承継や相続対策で死因贈与を検討している方は、遺言との違い、税務、登記、遺留分まで含めて、事前に専門家へ相談することをおすすめします。

代表司法書士・行政書士 今井 康介

西宮・芦屋・宝塚・尼崎エリアで司法書士・行政書士をお探しなら、シアエスト司法書士・行政書士事務所へお任せください。

相続・遺言・成年後見から不動産登記まで、幅広く対応いたします。 お客様の想いに寄り添い、わかりやすく丁寧なサポートをご提供します。

よかったらシェアしてください!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次