抵当権の抹消登記はまとめてできる?一括申請の条件と注意点を司法書士が解説

住宅ローンを完済したとき、土地や建物に設定されている「抵当権」を抹消する登記が必要になります。
ところが、土地と建物にそれぞれ複数の抵当権が付いている場合、一括で抹消登記ができるかどうかが問題になります。

この記事では、登記研究・法務省通達を参照しながら、抵当権の一括抹消登記のルールを整理します。
司法書士・登記実務者の方だけでなく、不動産オーナーや住宅ローンを完済された方にも分かりやすく解説します。

目次

一括申請とは?法的な根拠

登記は原則として「1つの不動産ごと、1件の登記事件ごと」に申請する必要があります(不動産登記令第4条本文)。
しかし、同条ただし書で例外が認められています。

「同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるとき、その他法務省令で定めるときは、この限りでない。」

この「その他法務省令」とは、不動産登記規則第35条を指します。
同条第10号には次のような規定があります。

「同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記が、同一の債権を担保する先取特権、質権又は抵当権に関する登記であって、登記の目的が同一であるとき。」

つまり、同一の債権を担保する抵当権・根抵当権であれば、複数の不動産にまたがっていても一つの申請書で登記できるという仕組みです。
これが、実務でいう「一括申請」の法的根拠です。

抵当権・根抵当権の一括抹消に関する先例

参考となるのが、以下の先例です。

同一不動産上に設定された債権者を同じくする数個の抵当権の登記の抹消を申請する場合、登記原因及びその日付が同一であるときは、同一の申請書ですることができる。(登研401号)

同じ抵当権者が設定した抵当権が「1番抵当」「2番抵当」など、順位が異なっていても問題ありません。ただし、この場合、「完済した日(抹消原因の日付)」と「抹消の原因」がすべて同一であることが条件となります。

また、同じ債権者が同一不動産に抵当権と根抵当権を設定しており、同日に解除した場合にも、一件の申請で両方をまとめて抹消することができます。

一個の不動産につき同一の権利者のためにされた数個の抵当権および根抵当権の設定の登記を抹消する場合において、抹消の原因およびその日付が同一であれば、同一の申請書で抹消の登記を申請することができる。(登記研究434号)

債権者が異なる場合は、抵当権抹消の登記原因や日付が同一であっても、まとめて抹消することはできません。

同一不動産上に設定された、債務者を同じくし、抵当権者を異にする数個の抵当権の登記の抹消を申請する場合、登記原因及びその日付が同一であっても、同一の申請書ですることはできない。(登研421号107頁)

住宅金融支援機構と銀行の両方で借り入れがあるようなケースでは、別々に申請する必要があります。

所有者が異なる場合の例外的な一括抹消

一方、所有者(設定者)が異なる場合には、原則として一括申請はできません。
しかし、例外が存在します。

登記研究558号は次のように示しています。

甲所有のA・B物件を共同担保として抵当権設定登記をした後、B物件につき乙に所有権移転がされている場合であっても、同一原因による当該抵当権の抹消は、甲及び乙を登記権利者として同一申請書で申請することができる。

つまり、同一の債権を担保している場合に限り、所有者が異なっていても一括抹消が可能です。
ただし、申請人は全所有者を登記権利者として連名で記載する必要があります。

なお、根抵当権の設定仮登記についてはこの例外は適用されません。
登記研究594号では次のようにされています。

設定者を異にする根抵当権設定仮登記の抹消の申請は、根抵当権者及び抹消の原因が同一であっても、同一の申請書で申請することはできない。

抵当権抹消登記の登録免許税

住宅ローンを借り換えた場合や、複数のローンを完済した際、不動産には複数の抵当権が設定されていることがあります。この場合、「2つの抵当権を1回の申請でまとめて抹消できるか?」というご質問をよくいただきます。

結論から申し上げますと、一括して抹消申請を行うことが可能です。

別々に申請することもできますが、1件にまとめることで登録免許税(印紙代)を節約できるというメリットがあります。 抵当権抹消の登録免許税は「不動産1個につき1,000円」です。例えば、土地と建物の計2個を抹消する場合の費用は以下のようになります。

  • 一括申請の場合: 2,000円(申請1件×不動産2個)
  • 別々に申請する場合: 4,000円(申請2件×不動産2個)

差額は2,000円ですが、手間も費用も抑えられる「一括申請」が断然おすすめです。申請書の作成枚数も減り、手続きがスムーズに進みます。

実務での判断ポイントとまとめ

抵当権の一括抹消が可能かどうかを判断するには、次の3つの要素を確認することが大切です。

  1. 登記原因が同一であるか
  2. 登記の日付が同一であるか
  3. 抵当権者が同一であるか

この三つが一致すれば、原則として一括抹消登記が可能です。
逆に、債権者が異なる場合などは、別々の申請が必要になります。

まとめ

抵当権や抹消登記は、原則として「1不動産=1申請」ですが、原因・日付・当事者・債権が同一であれば、一括申請が認められます。

登記研究や通達の解釈を踏まえると、同一銀行が同日付で解除した抵当権は、一件で抹消申請できるのが実務上の運用です。
登録免許税も節約でき、手続きの効率化につながります。

一方で、抵当権者が異なるケースなどでは、一括申請はできません。
個別に判断が必要な場合は、登記研究や法務省通達を確認するか、司法書士に相談するのが安心です。

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代表司法書士・行政書士 今井 康介

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