後見人・遺言執行者の「選び方」で失敗しないために。実務能力以上に大切な「第3の知性(SQ)」とは

こんにちは。 シアエスト司法書士・行政書士事務所の代表、今井康介です。

将来のご自身やご家族の財産管理、あるいは遺言の執行。 これらを託す「パートナー」を誰にするか考えるとき、皆様は何を基準に選ばれているでしょうか。

「難関資格を持っているから」 「高学歴で頭が良さそうだから」 「事務処理が早そうだから」

……といった、いわゆる『能力(スペック)』や『頭の良さ』だけで選んではいないでしょうか。

もちろん、法律家として正確な知識や事務能力(IQ的な知性)は不可欠です。これがないと、皆様の大切な財産を守ることはできません。

しかし、それだけでは不十分なケースがあるのも事実です。 「法律的に正しいこと」だけを優先する事務的な対応は、時に「冷たい管理」となり、ご本人の幸福度を下げてしまうことがあるからです。

今回は、後見人や専門家選びで後悔しないための、もう一つの重要な基準――「第3の知性(SQ)」という視点についてお話しします。

目次

1. 「事務的な後見人」が招く不幸とは?

IQ(知能)偏重のリスク:正しさが幸せとは限らない

成年後見制度における「後見人」の主な役割は、ご本人の財産管理です。 そのため、法律知識や計算能力といった「IQ的な能力」が高い専門家が選ばれがちです。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。 法律的に「正しい判断」と、ご本人にとって「幸せな判断」は、必ずしも一致しないからです。

例えば、認知症のご本人が「かわいい孫に入学祝いをあげたい」と願ったとします。 IQ的な判断だけで動く事務的な後見人は、即座にこう答えるかもしれません。

「財産が減る行為は、ご本人の利益になりません。認められません」

法的には正解です。しかし、孫の成長を祝う喜びを奪われたご本人は、その瞬間、深く傷つき、生きる活力を失ってしまうかもしれません。

必要なのは「人生の意味」を理解する力

財産を守ることは、あくまでご本人が安心して暮らすための「手段」に過ぎません。 本当の目的は、「その人らしい人生を守ること」のはずです。

手段と目的を履き違えず、「なぜそのお金を使いたいのか?」「それはご本人の人生にとってどんな意味があるのか?」を深く洞察する能力。 それこそが、私たちが後見業務において最も大切にすべき「心の知性」なのです。

2. 法律家にこそ必要な「第3の知性(SQ)」

SQ(Spiritual Intelligence)とは

「SQ」という言葉は、少し耳慣れないかもしれません。 直訳すると「霊的知性」となりますが、決してオカルトや宗教的な話ではありません。

ここでは、「人生の意味や価値を問う力」、そして「深い倫理観と利他性」と定義します。

弁護士や司法書士などの専門家には、当然ながら高い「IQ(知識・事務処理能力)」が求められます。また、お気持ちに寄り添う「EQ(共感力)」も大切です。 しかし、そのさらに奥にある人間としての「深み」こそが、人生の最終段階を支える後見業務には不可欠なのです。

【後見業務におけるSQの現れ方】

  • IQ型(事務処理優先): 「法律上、問題ないか」「財産が減らないか」だけで判断する。
  • SQ型(人生の統合): 「その判断は、ご本人の人生哲学に沿っているか」「その人らしい生き方か」まで深めて判断する。

3. 成年後見の現場で見る「SQが高い人」の特徴

私たちが目指すべき「SQが高い後見人(専門家)」とは、具体的にどのような人物なのでしょうか。 日々の現場で目にする、具体的な行動特性を3つご紹介します。

① 表面的な言葉の奥にある「願い」を聴く力

例えば、認知症の方が施設で「家に帰りたい」と繰り返されることがあります。 事務的な後見人は、これを単なる「徘徊の予兆」や「問題行動」として処理し、行動を制限しようとするかもしれません。

しかし、SQの高い後見人は、その言葉の奥にある「不安」や「居場所がないという寂しさ」に耳を傾けます。 そして、その不安を取り除くために、施設スタッフと連携して部屋の環境を変えたり、ご家族との面会を調整したりと、「心が落ち着く環境づくり」に尽力します。

② 「正しさ」と「優しさ」のバランス感覚

財産管理において、無駄遣いを防ぐことは大切です。しかし、「それはダメです」と否定するだけでは、ご本人の尊厳を傷つけてしまいます。

SQの高い専門家は、「法的には難しいですが、代わりにこういう形なら実現できますよ」と、必ず代替案を必死に考えます。 「孫に100万円はあげられないけれど、一緒にお祝いの食事に行く費用なら出せますよ」 このように、「正しさ」を守りつつ、「優しさ(願い)」も叶えるバランス感覚を持っています。

③ 逆境に動じず、静かに寄り添う力

後見業務は、時に厳しい現実に直面します。ご本人の病状悪化、ご家族の疲弊、そして看取りの瞬間。 そんな混乱の中でも、動揺せずに静かに寄り添い、ご家族を支える「精神的支柱」になれるかどうかも、SQの高さが表れる部分です。

法律知識だけでなく、こうした「人間としての器」を持った専門家を選ぶことが、ご本人とご家族の幸せな時間を守ることにつながります。

4. 「あなた」を守るために、誰を選びますか?

将来の安心のために、最も重要なのは「誰に任せるか」という人選です。 ご家族に任せる場合と、専門家に任せる場合、それぞれの視点で「SQ(心の知性)」を見極めるポイントをお伝えします。

家族に任せる場合:計算よりも「共感」を

もし、ご家族の中に候補者が複数いらっしゃるなら、単に「計算が得意だから」「しっかりしているから」という理由だけで選ぶのは少し危険かもしれません。

もちろん事務処理能力は大切ですが、それ以上に重要なのは、「あなたの価値観や生き方を、深く理解してくれているか」という点です。

  • IQ重視の選び方: 「長男は銀行員だから安心だろう」
  • SQ重視の選び方: 「次女は昔から私の趣味や考え方をよく分かってくれているから、きっと私の望むようにお金を使ってくれるだろう」

統計的にも、価値観を共有できている親族に任せた方が、ご本人の精神的な満足度や幸福感は高くなる傾向にあります。

専門家に任せる場合:面談での「質問」に注目する

司法書士や弁護士などの専門家に依頼する場合は、初回の面談でその人の資質を見極めることができます。 その際、専門家が「あなたに何を質問してくるか」に注目してください。

  • 要注意な専門家: 開口一番、「財産はいくらありますか?」「不動産の評価額は?」と、数字(財産額)のことばかり聞いてくる。 → 業務を「事務処理」としてしか見ていない可能性があります。
  • 信頼できる専門家(SQが高い): 「これまでどんなお仕事をされてきたのですか?」 「趣味や、大切にされていることは何ですか?」 と、あなたの人生(物語)そのものに興味を持って聞いてくれる。

財産を守るだけでなく、あなたの「人生」を守ろうとしてくれる人かどうか。 契約を結ぶ前に、ぜひこの視点で相手を見定めてください。

5. 司法書士として、私が大切にしていること

私は、ご相談に来られるお客様を単なる「案件」としては見ていません。 一人ひとりに独自の歴史があり、想いがある「一人の人生」として向き合っています。

法律上の手続き(IQ)を正確に進めるのは当然です。 不安なお気持ちに寄り添う(EQ)ことも大切にしています。

しかし、私が最も大切にしているのは、その奥にある「お客様の人生の意味(SQ)」に深く寄り添うことです。

  • 「なぜ、この財産を残したいのか」
  • 「最期をどう迎えたいのか」

その「意味」を共有し、法的な形にするお手伝いをすること。 それこそが、当事務所の名前「シアエスト(Shiaest=最上級の幸せ)」に込めた理念の実践だと信じているからです。

まとめ:人生の伴走者選びは「心の知性」を見て

成年後見や遺言などの制度は、皆様の人生を守るための大切なツールです。 しかし、いざという時にあなたを守るのは、制度そのものではなく、それを運用する「人(後見人や専門家)」です。

パートナーを選ぶ際は、ぜひ「知識(IQ)」だけでなく、あなたの人生の物語を大切にしてくれる「心の知性(SQ)」を持っているかどうかを見てください。

これからの人生を安心して歩むための伴走者として、私たちがその候補の一人になれれば、これほど嬉しいことはありません。

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代表司法書士・行政書士 今井 康介

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