精神障害者手帳3級は本当に意味がない?メリット・デメリットと税金・割引・仕事で損しない使い方

目次

はじめに:「3級は意味ないのでは?」と感じている方へ

精神障害者保健福祉手帳(以下、精神障害者手帳)の3級について、
「ネットで『意味がない』と書かれているのを見た」
「1級・2級と比べてメリットが少なそう」

と、取得をためらっている方は少なくありません。

たしかに、受けられる制度の中には「1・2級のみ対象」「重度の方のみ対象」となっているものもあり、3級だと使えないサービスがあるのも事実です。

一方で、3級でも税金や日常生活、就労の場面などで「じわじわ効いてくる」支援がいくつもあります。制度を知らないまま「意味ない」と決めてしまうのは、もったいないケースも多いです。

この記事では、

  • 精神障害者手帳3級とはどの程度の状態を指すのか
  • なぜ「意味ない」と言われがちなのか
  • 実際にはどんなメリット・支援があるのか
  • 障害年金との関係、申請の流れ
  • それでも迷うとき、どう考えればいいか

を、できるだけやさしい言葉で整理していきます。

精神障害者手帳3級とは?対象と等級のイメージ

手帳制度の目的と対象になる疾患

精神障害者手帳は、精神疾患によって日常生活や社会生活に一定の支障がある人について、その状態を公的に確認し、各種支援につなげるための制度です。制度の根拠は「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」にあります。

対象となる代表的な疾患としては、次のようなものがあります(あくまで一例です)。

  • 統合失調症
  • うつ病・双極性障害などの気分障害
  • 不安障害・強迫症、PTSD などの神経症性障害
  • てんかん
  • 発達障害(ASD・ADHD・学習障害など)
  • 高次脳機能障害
  • アルコール・薬物依存症 など

診断名だけで決まるわけではなく、「その病気が生活にどのくらい影響しているか」を、医師の診断書などをもとに総合的に判断します。

1〜3級の違いと「3級」のイメージ

精神障害者手帳には1〜3級があり、数字が小さいほど状態が重いと考えます。厚生労働省の基準をざっくり言うと、次のようなイメージです。

  • 1級:日常生活のほとんどに常時援助が必要で、自力で生活を送るのが難しい状態
  • 2級:日常生活に著しい制限があり、身の回りのこともかなり援助が必要な状態
  • 3級:日常生活や社会生活に「制限はある」が、工夫や支援があればある程度こなせる状態

3級は、

  • 休み休みなら家事はできる
  • 短時間・簡単な仕事ならなんとかこなせる
  • ただし、ストレスが強い場面や環境の変化に弱く、調子を崩しやすい

といった「いちおう動けるが、無理をするとすぐ限界が来る」ような状況をイメージすると、近いかもしれません。

申請できるのは、初めてその精神疾患で受診した日からおおむね6か月以上経過していることが原則です。

なぜ「3級は意味ない」と言われがちなのか

ネット上で「3級は意味ない」といった声が出やすい背景としては、次のような事情があります(ここはあえて簡単に触れます)。

1つめは、上位等級と比較したときの差です。
たとえば医療費助成や交通費の助成、公営住宅の優遇などは、「1・2級のみ」「重度の人のみ対象」という自治体も少なくありません。

2つめは、申請の手間や心理的なハードルです。
診断書の作成には時間も費用もかかりますし、「自分は障害者なんだ」と改めて突き付けられるように感じてしまう方もいます。

3つめは、情報の分かりづらさです。
「3級で使える制度」が自治体や事業者ごとにバラバラで、一覧性がなく、調べるのが大変です。そのため、たまたま自分の自治体でメリットが見えにくいと、「やっぱり意味ない」と感じやすくなります。

こういった事情から、実際にはメリットがあっても「体感として分かりにくい」というギャップが生まれやすい、という側面があります。

精神障害者手帳3級で受けられる主なメリット

ここからは、「意味ない」で終わらせる前に知っておきたい、代表的なメリットを整理していきます。

1. 税金の控除・減税(障害者控除)

精神障害者手帳3級を持っていると、所得税・住民税で「障害者控除」という優遇を受けられます。

金額の目安は、

  • 所得税:所得から27万円を差し引いて計算
  • 住民税:所得から26万円を差し引いて計算

というイメージです(「一般の障害者」としての控除額)。

たとえば、もともとの課税所得が同じでも、障害者控除がある人とない人では、実際に払う税金の額が変わります。年収や家族構成によって効果の大きさは違いますが、毎年じわじわ効いてくる節税効果です。

手続きの場面としては、

  • 会社員なら年末調整時に「障害者控除あり」として申告する
  • 申告し忘れたときや個人事業主は、確定申告で申告する

という流れになります。

「職場に知られたくない」という場合、年末調整では申告せず、自分で確定申告だけ行うという方法を選ぶ方もいます(その場合、会社には知られにくくなります)。

このほか、相続税や贈与税、預貯金の利子の非課税制度などでも、障害者向けの優遇が用意されています。内容は細かく変わることもあるので、実際に検討する際には税務署や税理士に確認すると安心です。

2. 交通機関・公共料金・レジャー等の割引

精神障害者手帳3級でも、地域や事業者によって、さまざまな割引の対象になります。代表的なものを、「こういう方向の制度が多いです」という形で紹介します。

  • 公共交通機関の割引
    バス・私鉄・地下鉄・一部の航空会社・タクシーなどで、運賃の一部が割引になることがあります。
    「本人のみ割引」「本人と介助者の両方が割引」など、条件は事業者ごとに異なります。
  • 携帯電話・インターネット料金の割引
    大手キャリアでは、障害者手帳を持つ方を対象にした割引プランを用意していることが多く、基本料金やオプション料金が安くなる場合があります。
  • NHK受信料の減免
    世帯全員が住民税非課税など一定の条件を満たす場合、受信料が減免される制度あります。具体的な対象範囲・条件は、最新のNHKの案内で確認してください。
  • 美術館・博物館・動物園・テーマパークなどの割引
    精神障害者手帳を提示すると、入場料が無料・半額になる施設が多くあります。施設によっては同伴者も割引になることがあります。

こうした割引は、自治体・事業者・施設ごとに内容がまったく違うのがややこしいところです。

「住んでいる市区町村名 + 精神障害者手帳 割引」などで検索するか、市役所の障害福祉課に「3級で使える主な割引制度の一覧はありますか?」と聞いてみると、手っ取り早く情報にたどりつけます。

3. 障害者雇用枠での就職・転職

精神障害者手帳を持っていると、障害者雇用枠の求人に応募できるようになります。これは、3級でも同じです。

障害者雇用枠の特徴としては、

  • 精神疾患・障害があることを前提に採用される
  • 通院や体調に合わせた働き方(勤務日数・時間・仕事内容など)の調整が期待しやすい
  • 就労移行支援事業所やハローワークの専門窓口と連携して、職場定着の支援を受けやすい

といった点が挙げられます。

「一般枠(クローズ)」で頑張ろうとして何度も体調を崩してしまう場合、「手帳を取って障害者雇用も視野に入れる」という選択肢が増えるだけでも、心理的な逃げ道・安全弁になります。

もちろん、手帳を持っていても一般枠で働くことは可能です。
どのタイミングで「オープン(障害を開示する)」に切り替えるか、そもそも開示するかどうか――このあたりはキャリア相談のできる支援機関(就労移行支援、障害者専門エージェントなど)と一緒に考えると、だいぶ整理しやすくなります。

4. 医療費や福祉サービスとの連携

精神障害者手帳そのものには「医療費が自動的に安くなる」機能はありませんが、関連する福祉制度との相性が良いのが特徴です。

代表的なものが、自立支援医療(精神通院医療)です。
これは、精神科・心療内科の通院医療費(診察・薬・デイケアなど)の自己負担を原則1割にする制度で、月ごとの負担上限額も所得に応じて決まります。

自立支援医療は手帳がなくても申請できますが、

  • 手帳申請と同時に診断書をまとめて作成してもらえることがある
  • 自治体での手続きが一緒に案内されやすい

など、一緒に動かすと手間が少なくてすむ場面も多いです。

また、精神障害のある方は、状況に応じて

  • ホームヘルパーによる家事援助や通院付き添い(居宅介護・行動援護)
  • 自立訓練(生活訓練)
  • 就労移行支援・就労継続支援
  • グループホーム(共同生活援助)

といった障害福祉サービスを利用できる可能性があります。

これらのサービスは「手帳がなくても利用できる場合」もありますが、

  • 相談窓口で事情を説明するときに、状態の目安として使える
  • 申請の際に手帳の写し提出が求められるケースもある

など、やはり持っていると話がスムーズな場面が多い印象です。

5. 生活全体を支える「見えにくいメリット」

最後に、数字には出づらいけれど大きいと感じるのが、

  • 制度上「精神障害があり、生活・社会生活に制限がある人」として公式に認められる
  • 家族や職場、支援機関、福祉窓口などに説明するときの「共通言語」になる

という点です。

「怠けている」ではなく、「疾患があり、3級相当の困難がある」と公的に示されることで、周囲の理解や配慮が得やすくなることもあります。

もちろん、手帳を見せるかどうかはその都度自分で選べます。
必要なときにだけ、「カード」として切れる状態にしておく――そんなイメージで持っておく方も少なくありません。

障害年金との違いと、「3級でも年金はもらえる?」

よくある誤解のひとつに、

精神障害者手帳3級を取れば、障害年金3級がもらえる

というイメージがありますが、これは別々の制度です。

  • 精神障害者手帳
    • 窓口:市区町村(障害福祉担当)
    • 基準:日常生活・社会生活への制限の程度
    • 目的:福祉サービス・税控除・割引などへの橋渡し
  • 障害年金
    • 窓口:年金事務所・年金相談センター
    • 基準:労働能力・日常生活能力への影響、保険料納付要件など
    • 目的:収入が減った・働けなくなった人への所得保障

精神障害で障害年金3級が認められるのは、厚生年金(会社員など)に加入していた期間に初診日がある場合の「障害厚生年金3級」です。国民年金のみの方には3級はなく、1・2級のみです。

手帳3級でも、状態が重ければ年金2級相当と判断されることもありますし、逆に手帳を持っていなくても年金が認められるケースもあります。

「自分の状態なら年金の可能性があるのか?」
「どのタイミングで申請するのがよいか?」

といった具体的な判断は、年金事務所や、障害年金に詳しい専門職(社会保険労務士など)に相談するのがおすすめです。

精神障害者手帳3級の申請から交付までの流れ

自治体によって細かな違いはありますが、おおまかな流れは次のようになります。

  1. まずは主治医に相談する
    「手帳の申請を考えている」と伝え、今の状態で申請が妥当かどうか、診断書を書けるかどうかを相談します。
  2. 市区町村の障害福祉窓口で、申請書類をもらう
    「精神障害者保健福祉手帳の申請をしたい」と伝えると、
    • 申請書
    • 診断書の様式(または障害年金証書の写しで代用できる場合あり)
    • 必要書類の案内
      をもらえます。
  3. 医師に診断書を作成してもらう
    指定の様式に沿って、病名・病状・日常生活の状況などを記載してもらいます。文書料がかかることが多く、数千円〜1万円程度が目安です。
  4. 写真・本人確認書類などを用意し、窓口で申請する
    顔写真(縦4cm×横3cm程度)、マイナンバーに関する書類、本人確認書類(運転免許証など)をそろえて申請します。代理人申請も可能です。
  5. 審査
    提出された診断書などをもとに、都道府県等の審査会で等級が決まります。結果が出るまで、ふつう1〜3か月程度かかります。
  6. 交付・受け取り
    交付が決まると、郵送で届くか、窓口で受け取る案内が来ます。手帳の有効期間は原則2年で、継続利用には更新手続きが必要です。

もし不支給や等級に納得がいかない場合は、不服申立ての制度もあります。

取るか迷っているときの考え方

ここまで読んでみて、

  • 自分の状態だと、実際にどれくらいメリットがあるのか見えにくい
  • 職場に知られることや、「障害者」とラベルを貼られることが怖い

といった気持ちが残る方もいると思います。

そのうえで、考えるときのヒントを少しだけ挙げておきます。

1つは、「今すぐフル活用するかどうか」と「持っておける状態にしておくか」は別の話だということです。

  • 今は一般枠で働き続けたいけれど、将来体調を崩したときに障害者雇用も選べるようにしておきたい
  • 今は家族の扶養に入っていて収入がないけれど、今後働き始めたときに税控除を利用したい

こういう場合、

使うかどうかは後で決めるとして、
「いつでも使える状態(=手帳を持っている)」だけは作っておく

という選択もあります。

もう1つは、1回取ってみて、不要なら返還することもできるという点です。
手帳を返したからといって、すぐに何か不利益が生じるわけではありません(障害年金の受給の可否とは、基本的に別問題です)。

「一度も取らないか・ずっと持ち続けるか」の二択ではなく、

  • いま必要だと思うから取ってみる
  • 数年後、不要になったと感じたら返す

といった柔らかいスタンスで考えてみるのも一案です。

迷ったときは、

  • 主治医
  • 自治体の障害福祉窓口
  • 就労移行支援・相談支援専門員・医療ソーシャルワーカー

など、第三者と一緒にメリット・デメリットを整理してみると、自分の中の優先順位が見えやすくなります。

まとめ:精神障害者手帳3級は、「意味があるかどうか」より「どう使うか」

精神障害者手帳3級は、

  • 上位等級に比べて利用できない制度がある
  • 手帳を見せるかどうか、自分で選べる分、使い方に悩みやすい

といった難しさがある一方で、

  • 税金の控除や各種割引で、生活コストの負担を軽くできる
  • 障害者雇用という働き方の選択肢が増える
  • 医療・福祉サービスとの連携がしやすくなる
  • 「困っていることがある」という事実を、公的に支えてもらえる

という意味で、決して「意味がない」ものではありません。
大事なのは、手帳を取ることそのものより、取ったあとに「どんな支えとして使いたいか」を考えることです。

「自分の場合はどう考えればいいのか」を整理したいときは、

  • 主治医
  • 市区町村の障害福祉窓口
  • 就労移行支援や相談支援の事業所

など、制度に詳しい専門職と一緒に考えてみることをおすすめします。

シアエスト司法書士・行政書士事務所へのご相談について

精神障害者手帳や障害福祉サービスそのものの審査・認定は、市区町村や年金事務所などの行政機関が行いますが、

  • 将来の生活設計やお金の管理をどうするか
  • 相続や遺言、家族に負担をかけないための備えをどう考えるか
  • 成年後見など、法的なサポートが必要になりそうなとき

といった場面では、法律・手続きの専門家が関わることで、選択肢が広がることがあります。

シアエスト司法書士・行政書士事務所では、兵庫県西宮市を中心に、精神疾患や障害のあるご本人・ご家族からの法的なご相談をお受けしています。

「制度の全体像を整理したい」
「うちの場合、どこから手をつければよいか一緒に考えてほしい」

と感じられたときは、どうぞ無理のない範囲でご相談ください。
今の状況とご希望をうかがいながら、落ち着いて整理するお手伝いができればと思います。

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