※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。
「うちは子どもがいないから、私が亡くなったら財産は全部、妻(夫)にいく。」そう考えている方は少なくありません。ところが法律では、子どもがいないご夫婦の場合、亡くなった方の親や兄弟姉妹、場合によっては甥・姪も相続人になります。
この記事では、子どものいないご夫婦の相続人と取り分、兄弟姉妹が相続人になると何が大変か、そして遺言でどこまで備えられるかを順にお話しします。
先に結論:子どものいない夫婦の相続で押さえておきたいこと
- 配偶者は常に相続人です。子どもがいなければ、亡くなった方の親(親がいなければ祖父母)、親も祖父母もいなければ兄弟姉妹が、配偶者と一緒に相続人になります
- 配偶者と兄弟姉妹が相続人なら、法定相続分は配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1です。兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥・姪が代わりに相続人になります(代襲は甥・姪まで)
- 兄弟姉妹と甥・姪には遺留分がありません。「配偶者に全部」の遺言があれば、そのとおりに引き継げます
- 親が存命なら、親には遺留分があります。「配偶者に全部」の遺言でも、親から遺留分を請求される可能性は残ります
- どちらが先に亡くなるか分からないため、夫婦それぞれが遺言を作り、相手が先に亡くなった場合の「予備」も書いておくと安心です
1. 子どもがいない夫婦の相続人は誰か
相続人の順位
配偶者は常に相続人になり、次の順位の人と一緒に相続します(民法890条)。
| 順位 | 相続人 | いない場合 |
|---|---|---|
| 第1順位 | 子 | 孫など(代襲相続) |
| 第2順位 | 親などの直系尊属 | 親がいなければ祖父母 |
| 第3順位 | 兄弟姉妹 | 甥・姪(代襲相続) |
子どもがいなければ第2順位の親、親も祖父母もすでに亡くなっていれば第3順位の兄弟姉妹が、配偶者と一緒に相続人になります(民法889条)。
法定相続分
| 相続人の組み合わせ | 配偶者 | ほかの相続人 |
|---|---|---|
| 配偶者と親 | 3分の2 | 3分の1(親が2人なら頭割り) |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 4分の3 | 4分の1(兄弟姉妹が複数なら頭割り) |
兄弟姉妹の中に、父母の一方だけが同じ兄弟姉妹(いわゆる半血の兄弟姉妹)がいる場合、その人の相続分は、父母の両方が同じ兄弟姉妹の2分の1です(民法900条4号)。
たとえば、夫の佐藤一郎さんが亡くなり、妻と、夫の兄・妹の2人が相続人になったとします。財産が4,000万円なら、法定相続分では妻が3,000万円、兄と妹が500万円ずつです。
2. 兄弟姉妹が亡くなっていると甥・姪が相続人に
代襲は甥・姪まで
相続人になるはずの兄弟姉妹が先に亡くなっている場合、その子である甥・姪が代わりに相続人になります(代襲相続。民法889条2項)。子どもの系統では孫、ひ孫と何代でも代襲が続きますが、兄弟姉妹の系統では、代襲は甥・姪までで、甥・姪の子(兄弟姉妹の孫)は相続人になりません。
疎遠な親族との話し合いになりやすい
遺言がなければ、残された配偶者は、甥・姪を含む相続人全員と遺産分割の話し合いをすることになります。
- 兄弟姉妹や甥・姪が多く、全国に散らばっている
- 何十年も会っていない、連絡先が分からない
- 高齢の兄弟姉妹が認知症で、話し合いができない
こうした事情があると、全員の署名・実印・印鑑証明書がそろうまでに長い時間がかかります。そのあいだ、亡くなった方名義の預金の解約や自宅の名義変更が進まず、配偶者の生活に影響することもあります。相続人を確かめるために、亡くなった方の両親の出生までさかのぼる戸籍や、亡くなった兄弟姉妹の戸籍も集める必要があり、戸籍の量も多くなりがちです。

3. 兄弟姉妹・甥姪には遺留分がない
遺留分とは
遺留分は、一定の相続人に法律で保障された最低限の取り分です。遺言で取り分をゼロにされても、遺留分にあたる額はお金で請求できます。
民法は「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として…」と定めていて(民法1042条)、兄弟姉妹には遺留分がありません。兄弟姉妹の代わりに相続人になる甥・姪にもありません。

「配偶者に全部」の遺言があれば、そのとおりに
そのため、相続人が配偶者と兄弟姉妹(甥・姪)だけになる場合、「妻(夫)に全ての財産を相続させる」という遺言を正しい形で作っておけば、兄弟姉妹や甥・姪から遺留分を請求されることはありません。遺産分割の話し合いも要らなくなります。
ただし、遺言の形が整っていない、作ったときに判断能力がなかったなどの理由で、遺言そのものの有効性が争われることはありえます。形の不備が起きにくい公正証書遺言にしておくと、こうした心配を小さくできます。
親が存命なら、親には遺留分がある
注意したいのは、亡くなった方の親が存命の場合です。親(直系尊属)には遺留分があります。配偶者と親が相続人のときの遺留分は全体で2分の1で、これに親の法定相続分3分の1をかけた、財産の6分の1が親の遺留分になります(民法1042条)。
「配偶者に全部」の遺言があっても、親から遺留分の請求を受ける可能性は残ります。親御さんがご健在のうちは、親御さんの理解を得ておく、生命保険で配偶者が払うお金を用意しておくなどの工夫も考えられます。
4. 夫婦それぞれが遺言を書く
どちらが先かは分からない
夫が先に亡くなるとは限りません。ご夫婦それぞれが「配偶者に全ての財産を相続させる」遺言を作っておくのが基本です。2人以上の人が同じ書面で遺言をすることはできないため(民法975条)、1人1通ずつ作ります。
相手が先に亡くなったときの「予備」を書く
「妻に全部」の遺言を書いていても、妻が先に亡くなると、その部分は原則として効力を生じないと考えられています。そのままでは、夫の財産は夫の兄弟姉妹・甥姪が相続することになります。
そこで、「妻が遺言者より先に亡くなっていた場合は、○○に遺贈する(相続させる)」という予備の書き方(予備的遺言)をしておくと安心です。予備の受け取り手には、兄弟姉妹や甥・姪のほか、お世話になった方や団体を選ぶこともできます。
二次相続まで考える
夫から妻に全部が引き継がれたあと、妻が亡くなると、その財産は妻の相続人(妻の親や兄弟姉妹・甥姪)が相続します。もともと夫の家から受け継いだ実家や財産が、夫の親族ではなく妻の親族に渡ることになります。
「最終的には夫の家の土地は夫の甥に戻したい」といった希望がある場合は、妻の遺言にもそれを書いておく、家族信託で受け継ぐ順番を決めておくなどの方法を検討します。
遺言執行者を決めておく
遺言で遺言執行者を決めておくことができます(民法1006条)。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権限を持ちます(民法1012条)。配偶者を遺言執行者にしておくと、預金の解約などの手続きを進めやすくなります。ただし、手続きの細かな扱いは金融機関によって違います。
文例
- 「遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の妻 佐藤花子(昭和○年○月○日生)に相続させる。」
- 「遺言者の妻 佐藤花子が遺言者より先に、又は遺言者と同時に死亡したときは、前条により妻に相続させるとした財産を、遺言者の甥 鈴木太郎(平成○年○月○日生)に遺贈する。」
- 「遺言者は、この遺言の遺言執行者として、妻 佐藤花子を指定する。」
実際の書き方は、財産の内容や家族の事情によって変わります。
5. 自筆証書遺言か、公正証書遺言か
| 項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 作り方 | 全文・日付・氏名を自分で書いて押印する(財産目録はパソコンでもよい) | 公証人が作る。証人2人以上が立ち会う |
| 費用 | 紙とペン。法務局に預けるなら1通3,900円 | 公証人の手数料がかかる |
| 形の不備 | 起こりうる | 起こりにくい |
| 検認 | 必要。法務局に預けた場合は不要 | 不要 |
| 保管 | 自宅、または法務局 | 原本は公証役場など |
自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を自分で書き、印を押す必要があります(民法968条)。法務局の自筆証書遺言書保管制度を使うと、亡くなったあとの家庭裁判所の検認が要らなくなります。
公正証書遺言は、公証人が内容を整えて作るため、形の不備で無効になる心配が小さく、検認も要りません。なお、推定相続人やその配偶者は証人になれません(民法974条)。配偶者や兄弟姉妹は証人になれないため、証人は公証役場で紹介してもらうこともできます。
子どものいないご夫婦のように、遺言が無効になると兄弟姉妹・甥姪との話し合いが必要になる場合には、公正証書遺言が向いていることが多いと考えます。


2026年の遺言の改正
2026年6月に成立した「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)で、自筆証書遺言などの押印を任意にすること、パソコンなどで作った遺言を法務局に保管する「保管証書遺言」を新しく設けることが決まりました。施行は、押印の任意化が公布から1年以内、保管証書遺言が公布から3年以内の政令で定める日です。2026年10月の時点では施行日はまだ決まっていません。施行までは、今のとおり押印が必要です。
6. 遺言とあわせて考えたい備え
- 生命保険:受取人を配偶者に指定した死亡保険金は、受取人の固有の財産として受け取れ、遺産分割の話し合いを経ずに手元に入ります

- 夫婦間の自宅の贈与:婚姻期間20年以上の夫婦の間で自宅(居住用不動産)やその購入資金を贈与したときは、贈与税の配偶者控除として、基礎控除110万円とあわせて最高2,110万円まで控除できます(国税庁)。また、婚姻20年以上の夫婦の一方が自宅を遺贈・贈与したときは、遺産分割で持ち戻さない意思があったものと推定されます(民法903条4項)
- 配偶者居住権:自宅の所有権はほかの相続人に渡っても、配偶者が住み続けられる権利です(民法1028条)

- 相続税の配偶者の税額軽減:配偶者が取得した遺産は、1億6千万円か配偶者の法定相続分相当額の多いほうまで相続税がかかりません。ただし、相続税の申告が必要です(国税庁)
よくある質問
- 夫婦で財産を築いたのに、なぜ兄弟姉妹に相続の権利があるのですか。
-
民法がそのように相続人の順位を決めているためです。財産をどう築いたかは問われません。だからこそ、遺言で「配偶者に全部」と意思を示しておくことに大きな意味があります。
- 兄弟とは仲がいいので、揉めないと思うのですが。
-
ご本人同士の仲が良くても、相続が起きるのは何十年も先のことがあり、その頃には兄弟姉妹も高齢になっていたり、亡くなって甥・姪の世代に代わっていたりします。揉めなくても、全員の書類をそろえる手間は残ります。遺言はその手間を省く意味もあります。
- 夫の親がまだ元気です。「妻に全部」の遺言で大丈夫ですか。
-
遺言は有効ですが、親には遺留分(この場合、財産の6分の1)があるため、親から請求を受ける可能性があります。親御さんの理解を得ておく、請求されたときに払えるお金を生命保険などで用意しておくといった工夫を考えておくと安心です。
- 遺言以外に方法はありますか。
-
生命保険の受取人を配偶者にする、婚姻20年以上なら自宅を生前に贈与する(贈与税の配偶者控除)、配偶者居住権などを組み合わせられます。ただし、預金や不動産の全体を配偶者に引き継ぐには、遺言がもっとも分かりやすい方法です。
- すでに妻が認知症です。遺言は書けますか。
-
遺言を書くには、書く本人に判断能力が必要で(民法963条)、受け取る配偶者の判断能力は問われません。夫が元気なうちに作っておくことが大切です。ただ、認知症の妻が相続したあとの財産の管理や、妻が亡くなったあとの行き先まで考えると、予備の書き方や遺言執行者、任意後見などもあわせて検討したほうがよい場合があります。
まとめ
子どものいないご夫婦では、亡くなった方の親や兄弟姉妹、甥・姪も相続人になり、配偶者がすべてを受け継ぐとは限りません。兄弟姉妹や甥・姪には遺留分がないため、「配偶者に全部」の遺言を正しい形で作っておけば、そのとおりに引き継ぐことができます。親が存命なら親には遺留分がある点、相手が先に亡くなったときの予備、二次相続で財産が相手の親族に渡ることもあわせて考えておきましょう。
ご夫婦それぞれの遺言の作成や文案のご相談、公正証書遺言の準備、相続が起きたあとの相続登記は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。おふたりご一緒のご相談もお受けしています。
出典・参考
- e-Gov法令検索「民法」(887条・889条・890条・900条・903条・963条・968条・974条・975条・994条・1006条・1012条・1028条・1042条)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452.htm
- 国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm
- 法務省「09 手数料」(自筆証書遺言書保管制度)https://www.moj.go.jp/MINJI/09.html
- 日本公証人連合会「2 遺言」https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02
- 法務省「「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html

