
※本記事は2026年10月時点の情報に基づいて解説しています。
「父のアパートを家族信託して、私が受託者になりました。登記の名義が私に変わったので、これからは家賃を私の収入として申告するんでしょうか。父の確定申告は、もういらないんですか。」
家族信託を始めた後、最初の年末が近づくと、こうしたご質問をいただくことがあります。名義が変わると、税金の手続きも全部変わるような気がしますよね。
先に結論をお伝えします。
- 家賃などの収入は、これまでどおり受益者(多くの場合は親御さん)の収入として、親御さんの名前で確定申告します。 受託者のお子さんの収入にはなりません。
- その代わり、受託者には、税務署へ出す書類が新しく加わります。 毎年1月31日までの「信託の計算書」と、受益者が変わったときなどに出す「受益者別調書」です。
- 固定資産税の通知は、受託者あてに届くようになります。
この記事では、家族信託を始めた後の「毎年の税金の手続き」を、1年の流れに沿ってお話しします。
結論:名義が変わっても、税金の上では「親の財産」のまま
家族信託をすると、不動産の登記簿には、受託者のお子さんの名前が所有者として載ります。
ところが所得税の上では、信託の財産は、受益者が持っているものとみなされます。 信託財産から生まれる家賃などの収入や、修繕費などの経費も、受益者のものとして扱われます(所得税法13条1項)。
親御さんが委託者と受益者を兼ねる、いちばんよくある形の家族信託なら、
- 家賃収入は、親御さんの不動産所得として
- 親御さんの名前で、親御さんが確定申告する
という点は、信託の前と変わりません。
「名義は子、税金は親」。まずはこの組み合わせを覚えておいてください。
親以外を受益者にして始めた場合は別です
一方、信託を始めるときから、親御さん以外の方(たとえばお子さん)を受益者にした場合は、話が変わります。対価を払わずに受益者になった方は、信託が始まった時点で、委託者から信託の権利を贈与で受け取ったものとみなされ、贈与税の対象になります(相続税法9条の2第1項)。
家族信託の多くは「親が委託者で、親が受益者」の形で始めます。この記事も、その形を前提にお話しします。
▶ あわせて読みたい:家族信託とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説
1年の流れを、カレンダーで見てみましょう
アパートなど家賃収入のある不動産を信託した場合の、1年の主な流れです。
| 時期 | すること | する人 |
|---|---|---|
| 1月1日 | 固定資産税の基準日(この日の登記名義人に課税) | − |
| 1月31日まで | 前年分の「信託の計算書」と「合計表」を税務署へ | 受託者 |
| 2月16日〜3月15日ごろ | 前年分の確定申告(不動産所得) | 受益者(親) |
| 4月〜6月ごろ | 固定資産税の納税通知書が届き、信託のお金から納める | 受託者 |
| 受益者が変わったときなど | 翌月末までに「受益者別調書」を税務署へ | 受託者 |
ここから、ひとつずつ見ていきます。
受託者がすること① 毎年1月31日までの「信託の計算書」
どんな書類?
受託者は、毎年1月31日までに、前の年の信託財産の状況を書いた「信託の計算書」を、税務署に出さなければなりません(所得税法227条)。一緒に、何通出すかをまとめた「信託の計算書合計表」も出します。
信託の計算書には、たとえば次のようなことを書きます(所得税法施行規則96条1項)。
- 委託者・受益者の氏名、住所、マイナンバー
- 信託の期間と目的
- 前年12月31日時点の、信託財産の中身と金額
- 前年中の、財産の動きと、収益・費用の金額
- 受託者の報酬に関すること
受託者のお子さんにとっては、生まれて初めて自分の名前で税務署に出す書類、ということも多いと思います。難しく感じるかもしれませんが、日ごろの記録がそろっていれば、書く内容そのものは1年間の「財産と収支のまとめ」です。
提出先は、受託者が信託の事務を行っている場所(個人の受託者なら、ふつうはご自宅)を管轄する税務署で、e-Taxでも、紙の書類でも出せます。紙の様式は2026年8月に新しくなっているので、国税庁のホームページで最新のものをお使いください。
出さなくてよい場合
受益者ごとに、前の年の信託財産から生じた収益の合計が3万円以下であれば、信託の計算書は出さなくてよいとされています(信託を始めた年など、計算の期間が1年未満のときは1万5千円以下。所得税法施行規則96条2項)。受益者が複数いるときは、受益者ごとに見ます。また、上場株式の配当や公募の投資信託の分配金などが含まれるときは、金額が少なくても省略できません(同条3項2号)。
ここでいう「収益」は、経費を引く前の、家賃などの収入の金額です。アパートを信託していれば、ほとんどの場合3万円を超えますので、毎年の提出が必要になります。
反対に、自宅だけを信託している場合など、家賃などの収入を生まない財産だけのときは、3万円以下に収まり、提出がいらない年が多いでしょう。ただし、預金の利息も信託財産から生じる収益です。また、上場株式の配当や公募の投資信託の分配金が入るときは、先ほどのとおり金額が少なくても省略できません。ただ、途中で実家を貸すことになった、といった変化もありえます。毎年、年が明けたら「去年の収益はいくらだったか」を一度確かめる習慣をつけておくと安心です。
受託者がすること② 節目に出す「受益者別調書」
どんなときに出す?
信託の計算書が「毎年」の書類なのに対し、「信託に関する受益者別調書」は、信託に大きな動きがあったときに出す書類です(相続税法59条3項)。
出す必要があるのは、次のようなときです。
- 信託が始まったとき
- 受益者が変わったとき(例:親御さんが亡くなり、お子さんが新しい受益者になった)
- 信託が終わったとき
- 受益者の権利の内容が変わったとき(受益者が1人の信託や、それぞれの受益者の権利の価額が変わらないときは不要です)
期限は、そのことが起きた月の翌月末日です。
始まったときは、出さなくてよいことが多い
ここがよく誤解されるところです。
委託者と受益者が同じ人の信託(親が委託者で、親が受益者)なら、信託が始まったときの受益者別調書は出さなくてよいとされています(相続税法施行規則30条7項5号イ(4))。いちばんよくある家族信託の形なら、始めたときには出さずに済むわけです。
また、受益者ごとに見た信託財産の評価額の合計が50万円以下の場合も、提出はいりません(同項1号)。
親御さんが亡くなったときは、忘れずに
一方で、親御さんが亡くなり、契約にしたがってお子さんなどが次の受益者になったときは、受益者が変わったことになりますので、受益者別調書が必要です。信託が終わり、最後の受益者以外の方が財産を受け取るときも、原則として必要です(最後の受益者がそのまま財産を受け取る場合などは不要とされています)。
ご家族が亡くなった直後は、葬儀や相続の手続きで慌ただしい時期です。「翌月末まで」の期限は意外に早くやってきます。 受託者のお子さんは、頭の片隅に置いておいてください。
なお、親御さんが亡くなって受益者が変わったときは、新しい受益者が、信託の権利を遺贈で取得したものとみなされ、相続税の対象になります(相続税法9条の2第2項)。
親(受益者)の確定申告で変わること
親御さんの確定申告は、信託の前と同じく不動産所得として行いますが、いくつか変わる点があります。
信託ごとに、収支を分けて書く
信託から生じる不動産所得がある方は、信託ごとに収支内訳書を作る必要があります(国税庁の通達「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」41の4の2-1)。青色申告の方も、信託ごとに損益計算書を分けます。
信託していない不動産も持っている場合は、「信託の分」と「信託以外の分」を分けて書くことになります。
明細書を付ける
その年に信託から生じる不動産所得がある方が確定申告をするときは、その不動産所得の計算に関する明細書を、申告書に添付することになっています(租税特別措置法施行令26条の6の2第6項)。
赤字は「なかったもの」に
信託した不動産の収支が赤字になっても、その赤字は税金の計算上「なかったもの」とされ、ほかの所得と差し引きすることができません(租税特別措置法41条の4の2)。大規模な修繕を予定している方などは、特に注意が必要です。このしくみは別の記事で詳しくお話しします。
親御さんの判断能力が衰えたら
家族信託をしていても、確定申告はあくまで親御さんご本人の申告です。親御さんの判断能力が大きく衰えた後、申告をどのように進めるかは、ご家族だけで判断せず、早めに税理士や税務署に相談しておくことをお勧めします。
固定資産税の通知は、受託者あてに届きます
固定資産税は、毎年1月1日時点で、登記簿に所有者として載っている人に課税されます(地方税法343条2項・359条)。
家族信託で登記の名義が受託者に変わると、翌年度からは、納税通知書が受託者のお子さんあてに届くようになります。
ここで気をつけたいのは、払うお金の出どころです。固定資産税は、信託した不動産にかかる費用ですので、信託のお金(信託口口座など)から払うのが基本です。受託者のお子さんの個人のお金から払ってしまうと、記録が分かりにくくなります。立て替えた場合は、記録を残したうえで信託財産から精算しましょう(信託法48条1項)。
「通知の名前が変わったのは、信託のせい?」と戸惑う方もいらっしゃいますが、これは家族信託をした結果として、自然に起きることです。
毎年の手続きで困らないための段取り
受託者のお子さんが、日ごろからしておきたいこと
- 家賃の入金、修繕費や税金の支払いを、信託口口座でまとめて管理する
- 領収書や契約書は、信託の分を別のファイルに分けて保管する
- 年に一度(年末ごろ)、信託財産の一覧と1年間の収支をまとめておく
これらは、受託者の記録・報告の義務を果たすことにもつながります。年末に一度まとめておけば、1月31日の信託の計算書も、3月の確定申告も、慌てずに済みます。
受託者に報酬を払う場合
受託者のお子さんが信託から報酬を受け取る場合は、その報酬はお子さん自身の所得になり、お子さんの側で申告が必要になることがあります。
▶ あわせて読みたい:家族信託で子どもに報酬を払うと税金がかかる?いくらが妥当?
当事務所でのお手伝い
当事務所では、家族信託の契約書づくりと信託の登記のあと、受託者になるお子さんに、毎年の手続きの流れ(信託の計算書の時期、受益者別調書が必要になる場面、固定資産税の通知など)をお伝えしています。確定申告や税額の計算については、税理士と連携してご案内しています。
まとめ
- 家族信託をしても、家賃などの収入は受益者(親)の収入。確定申告も親御さんの名前で行います(所得税法13条)
- 受託者は、毎年1月31日までに信託の計算書と合計表を税務署へ。ただし、収益が3万円以下なら原則不要です
- 受益者別調書は、受益者が変わったときなどに翌月末までに提出。親が委託者と受益者を兼ねる信託なら、始めたときは不要です
- 親御さんの確定申告では、信託ごとに収支を分け、明細書を付けます。信託した不動産の赤字は、ほかの所得と差し引きできません
- 固定資産税の通知は、受託者あてに届くようになります。支払いは信託のお金から
「うちの信託では、どの書類が必要なのか」「受託者になる子どもに、何を準備させればいいのか」。そうしたご相談を、西宮市・阪神間の皆さまからお受けしています。どうぞお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
- 家族信託をしたら、親の確定申告はいらなくなりますか?
-
いいえ。受益者が親御さんなら、信託財産から生じる家賃などは親御さんの収入として扱われます。確定申告も、これまでどおり親御さんの名前で行います。
- 受託者は、税務署に何か出す必要がありますか?
-
毎年1月31日までに、前年分の「信託の計算書」と「合計表」を出します。ただし、信託財産から生じた前年の収益が3万円以下なら、原則として出さなくてかまいません。
- 家族信託を始めたとき、税務署への届出は必要ですか?
-
親御さんが委託者と受益者を兼ねる信託なら、始めたときの「受益者別調書」は原則として不要です。受益者が親御さん以外の場合や、その後に受益者が変わったときは、翌月末までに提出が必要です。
- 固定資産税は誰に請求されますか?
-
毎年1月1日時点の登記簿上の所有者に課税されるため、信託の登記後は受託者あてに納税通知書が届きます。支払いは、信託口口座など信託のお金から行うのが基本です。
- 信託したアパートが赤字になったら、給与と差し引きできますか?
-
できません。信託から生じた不動産所得の赤字は、税金の計算上なかったものとされ、ほかの所得とも、信託以外の不動産所得とも差し引きできません。
西宮・阪神間の家族信託は、シアエスト司法書士・行政書士事務所へ
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出典・参考
- 所得税法13条・227条、所得税法施行規則96条
- 相続税法9条の2・59条3項、相続税法施行規則30条7項
- 租税特別措置法41条の4の2、同法施行令26条の6の2
- 地方税法343条・359条
- 信託法48条
- 国税庁「F1-33 信託の計算書(同合計表)」「F2-5 信託に関する受益者別(委託者別)調書(同合計表)」
- 国税庁「令和7年分 収支内訳書(不動産所得用)の書き方」「令和7年分 青色申告決算書(不動産所得用)の書き方」、通達「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」41の4の2-1

