令和5年 不動産登記法改正のポイント|相続登記が「単独申請」で可能に【司法書士が解説】

こんにちは。
シアエスト司法書士・行政書士事務所の今井康介です。

2023年(令和5年)の不動産登記法改正は、
相続登記の迅速化と手続の柔軟化を目的に、大きく変わりました。

この記事では、司法書士の視点から、
特に実務に直結する4つの改正ポイントをわかりやすく解説します。

相続人への遺贈登記が「単独申請」で可能に

これまで、遺言で「この家を妻に遺贈する」と書かれていても、
登記は相続人全員による共同申請が必要でした。

しかし令和5年改正により、相続人が遺贈によって財産を受け取る場合には、
受遺者本人が単独で登記申請できるようになりました。

不動産登記法第63条第3項 遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、第60条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。

他の相続人の協力を待たずに遺言どおりの登記を進められるため、
登記の遅延やトラブルを防ぎやすくなります。

ただし、相続人以外の第三者への遺贈は、これまでと同じく共同申請が必要です。

この仕組みは、たとえば他の相続人が遠方に住んでいる場合や、
連絡が取りにくいケースで非常に有効です。
公正証書遺言など、内容が明確な遺言であれば、よりスムーズに手続きを進められます。

法定相続分の登記も「単独で修正」できるように

相続が発生した直後、遺産分割がまとまらないときは、
とりあえず法定相続分で登記しておくことがよくあります。

これまでは、その後に遺産分割が成立したり、
相続放棄があった場合でも、全員で再度登記し直さなければなりませんでした。

改正後は、不動産登記法第63条第2項によって、
相続登記の更正を単独で申請できる制度が導入されました。

これにより、法定相続分で登記した相続人が、
後から遺産分割や遺言の内容に基づいて、単独で登記内容を修正できるようになりました。

「相続登記の義務化」が進む中で、
まず仮に法定相続分で登記を済ませ、のちに話し合いの結果を反映する――
そんな柔軟な運用が可能になります。

胎児の相続登記の扱いが明確に

民法第886条には「胎児は相続については、すでに生まれたものとみなす」と定められています。

これまでは登記上の扱いが不明確でしたが、
法務省の通達によって登記事務の取扱いが明確化されました。

胎児が相続人となる場合、登記申請では次のように記載します。

「〇〇(母の氏名)胎児」

出生後には、その子の名義へ更正登記を行います。

なお、相続開始時にすでに受胎していた胎児のみが相続人となり、
亡くなった後に受胎した「死後受精児」は相続人にはなりません(民法886条2項)。

この明確化により、相続登記の際の表記・処理が全国的に統一されました。

附属書類の閲覧が「正当な理由」基準に変更

不動産登記の申請時に提出する、
遺産分割協議書や遺言書、戸籍などの附属書類は、
以前は「利害関係を有する者」にしか閲覧が認められていませんでした。

しかし令和5年の不動産登記規則改正で、閲覧基準が緩和されました。
これからは「正当な理由がある者」であれば閲覧が認められるようになります(不動産登記規則第19条)。

たとえば、

  • 相続人が自分の登記済み書類を確認したい場合
  • 所有者不明土地の調査を行う場合
    など、登記簿上の利害関係がなくても、正当な理由があれば閲覧できるようになります。

ただし、代理人が閲覧する場合には個別の委任状が必要で、
職務上請求や包括的な委任では認められません。

相続登記の義務化に備えよう(令和6年4月施行)

2024年(令和6年)4月1日から、
相続による所有権登記が義務化されました(不動産登記法第76条の2)。

相続開始を知った日から3年以内に登記を行わなければ、
10万円以下の過料が科される可能性があります。

今回の2023年改正は、この義務化に向けた実務の簡素化・合理化を目的としており、
相続登記のスピードアップに大きく寄与します。

まとめ:登記実務は「柔軟化」と「明確化」の時代へ

令和5年の不動産登記法改正は、
相続登記に関わる現場の課題を解決するための実務的な改革です。

相続人への遺贈登記が単独でできるようになったことで、
遺言書に基づく登記が迅速に進みやすくなりました。

また、法定相続分からの修正が単独で行えるようになったことで、
「まず登記をしてから調整する」という柔軟な手続が可能になりました。

さらに、胎児の扱いや附属書類の閲覧基準も明確化され、
登記の透明性が高まっています。

これからは、「登記をしない」ことがリスクになる時代です。
相続が発生したら、早めに関係資料を整理し、登記の準備を進めましょう。
ご不明な点や複雑な事例は、司法書士にご相談ください。

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