人権は誰が決めた?「生まれながらの自由」と自然法の関係をわかりやすく解説

目次

はじめに

ニュースや社会問題の中で、よく耳にする言葉があります。

「すべての人は、生まれながらに自由で平等である」

これは、人権(Human Rights)の考え方の出発点であり、1948年に採択された世界人権宣言の冒頭にも書かれている有名な一文です。

でも、少し立ち止まって考えてみてください。 なぜ「生まれながらに」権利があると言えるのでしょうか? 誰がそれを「決めた」のでしょうか?

国でしょうか? 神様でしょうか? 実はこの考え方の背後には、自然法(Natural Law)という、古くて深い哲学の伝統があります。

この記事では、人権のルーツである「自然法」について、歴史から現代の日本国憲法とのつながりまで、専門家の視点でやさしく整理していきます。

第1章 「人権」とは何か

1. 人権の基本的な意味

「人権」とは、人間が人間であるというだけで持っている基本的な権利のことです。 国籍や性別、能力に関係なく、生まれた瞬間から誰もが持っている、譲り渡すことのできない権利。それが「基本的人権」です。

  • 生きる権利(生命の尊重)
  • 自由に意見を言う権利
  • 差別されない権利

重要なのは、これらの権利は「法律や国が与えてくれたもの(プレゼント)」ではないということです。「もともと人間にも備わっているもの」だという考え方が、人権の原点です。

2. 自然法と人権の関係

ここで登場するのが自然法です。 自然法とは、「人間の理性によって理解される、普遍的で変わらない正義のルール」のことです。

たとえば、「罪のない人を傷つけてはいけない」「約束は守るべきだ」といったルールは、法律に書いてあるから守るのではなく、人間として当然のこと(=自然の理)だと多くの人が感じます。 この「人間として当然の正義」こそが自然法であり、人権思想の土台となっています。

第2章 人権思想の歴史 ― 自然法から世界人権宣言へ

1. 古代から中世へ:理性の発見

自然法の源流は、古代ギリシャやローマにあります。 ローマの哲学者キケロは「真の法は正しい理性であり、自然と一致する」と述べました。 中世にはキリスト教と結びつき、「神が定めた普遍的な法」として発展しましたが、共通していたのは「王様の命令よりも上位にある法がある」という考え方でした。

2. 近代の自然権思想 ― ロックとルソー

17〜18世紀になると、宗教から離れ、「人間の理性」に基づく考え方が生まれます。

  • ジョン・ロック: 「人間は生まれながらに生命・自由・財産の権利(自然権)を持つ」と主張。
  • ルソー: 「人は自由な存在として生まれた」とし、社会契約論を提唱。

この思想が、革命の原動力となりました。 アメリカ独立宣言(1776年)やフランス人権宣言(1789年)に書かれた「天賦人権説(権利は天から与えられたもの)」は、まさに自然法思想が政治の形になった瞬間です。

3. 世界人権宣言(1948年) ― 「人間」への回帰

20世紀、二度の世界大戦とナチス・ドイツによる虐殺は、「国家が作った法律(実定法)が、正義に反して暴走する」恐ろしさを人類に突きつけました。

この反省から、1948年に国連で世界人権宣言が採択されます。 「すべての人間は、生まれながらにして自由であり…」という言葉は、法律よりも上位にある「人間の尊厳(自然法)」を世界中で再確認したものです。

第3章 日本国憲法と自然法のつながり

私たちにとって最も身近な「日本国憲法」も、実は自然法の強い影響を受けています。

1. 憲法第97条:人権の本質

憲法の中で、自然法の考え方が最も色濃く表れているのが第97条です。

日本国憲法 第97条 「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」

ここで「侵すことのできない永久の権利」と書かれているのは、人権が国によって与えられたものではなく、自然法に基づく普遍的な権利(前国家的な権利)であることを宣言しているのです。

2. 「根っこ」と「木」の関係

法律の構造を「木」に例えるとわかりやすいでしょう。

  • 自然法(根っこ): 地面の下にあって見えないが、正義や人権という養分を支えている普遍的な理念。
  • 実定法(幹や枝): 六法全書に載っている具体的な法律(憲法、民法、刑法など)。

自然法(根っこ)がしっかりしているからこそ、実定法(木)は枯れることなく、私たちを守る役割を果たせるのです。

第4章 現代の課題 ― 文化と人権のあいだで

21世紀の今日、自然法的な「普遍的な人権」という考え方は、新たな課題にも直面しています。

世界には多様な文化・宗教・価値観があります。 「個人の自由」を重視する欧米的な人権感覚と、「共同体の調和」や「宗教的規律」を重視する文化が衝突することがあります(ジェンダー平等と伝統的価値観の葛藤など)。

自然法は「人間共通の理性」を前提としますが、現代社会では、その共通性を信じつつも、互いの文化的多様性をどう尊重するかという調整も求められています。

第5章 まとめ ― 自然法は人権の“根拠”である

人権は、「誰かがくれた許可証」ではありません。 「人間であること」そのものから生まれる権利です。

その考え方を支えているのが自然法です。 自然法は、

  1. すべての人に共通する正義の原理
  2. 「悪い法律」を批判する最終的な基準
  3. 日本国憲法第97条に流れる基本精神

として、今も私たちの社会の根底に息づいています。 法律を学ぶということは、単に条文を覚えることではなく、その奥にある「なぜそれが正しいのか(自然法)」を考えることなのです。

  • 国際連合「世界人権宣言」(1948)
  • Stanford Encyclopedia of Philosophy: Natural Law Theories
  • Britannica: Human Rights & Natural Law
  • 日本国憲法 前文・第13条・第97条
  • 法務省:基本的人権に関する解説資料
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代表司法書士・行政書士 今井 康介

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