自分で書いた遺言書を法務局に預けられる「自筆証書遺言書保管制度」。1件3,900円で使えて人気ですが、「預けたから安心」とは言い切れません。まずは動画をご覧ください。
自筆証書遺言書保管制度とは
2020年(令和2年)7月10日に始まった制度で、自分で書いた遺言書を法務局(遺言書保管所)に預けておくことができます。手数料は1件3,900円。預けておけば、自宅で保管する場合のような紛失・改ざん・相続人による隠匿のリスクがなくなり、家庭裁判所の検認も不要になります。
法務局がチェックするのは「形式」だけ
保管の申請をすると、担当者が遺言書の形式面を確認します。全文・日付・氏名が自書されているか、押印があるか、決められた余白がとられているか、といった外形的なチェックです。
しかし、法務省の案内にも明記されているとおり、この制度は遺言の内容が有効であることを保証するものではありません。「この内容で本当に狙いどおりになるか」「この書き方で相続人が困らないか」までは、誰も見てくれません。
保管制度では防げない、よくある失敗
日付を「令和7年5月吉日」と書いてしまう
遺言書の日付は、年月日を特定できるように書かなければなりません。「令和7年5月吉日」という書き方は、日が特定できないため遺言全体が無効になります(最高裁昭和54年5月31日判決)。形式チェックの範囲外なので、預けても指摘されないことがあります。
財産の書き方があいまいで、特定できない
「私の預金」「自宅」といった書き方では、どの口座か、どの不動産かを特定できず、金融機関や法務局での手続きが進まないことがあります。不動産は登記事項証明書のとおりに、預金は金融機関名・支店名・口座番号まで書くのが基本です。
「相続させる」と「遺贈する」を取り違える
相続人に財産を残すときは「相続させる」、相続人以外に残すときは「遺贈する」を使います。この使い分けを誤ると、登記手続きが複雑になったり、他の相続人の関与が必要になったりします(「相続させる」旨の遺言について最高裁平成3年4月19日判決)。
遺留分への配慮がない
特定の一人に全財産を相続させる内容にすると、他の相続人の遺留分(民法1042条。配偶者・子・直系尊属に保障された最低限の取り分)を侵害し、後から金銭の請求をめぐって争いになることがあります。
形式の不備で無効になりにくいのは「公正証書遺言」
公証人が関与して作成する公正証書遺言は、方式の不備で無効になる心配がほとんどありません。原本は公証役場が保管し、証人2名が立ち会います。費用はかかりますが、「確実に実現させたい」ケースでは公正証書遺言をおすすめしています。
自筆証書遺言でも、財産目録の部分はパソコンで作成できます(各ページに署名・押印が必要。民法968条2項)。本文は自書が必要です。
大切なのは、方式より「中身」
自筆でも公正証書でも、遺言の効果を左右するのは内容です。何を、誰に、どういう順序で渡すか。予備的な定め(先に亡くなった場合の取り扱い)や遺言執行者の指定があるか。これらを専門家と整理してから清書するのが安全です。
よくある質問
- すでに法務局に預けた遺言書があります。見直せますか?
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できます。保管の撤回や、内容を書き直して預け直すことが可能です。現在の遺言書に不安がある場合は、内容を確認してご提案します。
- 公正証書遺言はいくらかかりますか?
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公証人手数料は財産額と渡す相手の数で決まります。これに証人の手配や専門家のサポート費用が加わります。財産の内容をお聞きしてお見積りします。
- 自筆で書いて保管制度を使うのと、公正証書と、どちらがいいですか?
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財産の種類が少なくシンプルな内容なら、保管制度つきの自筆でも十分なことがあります。不動産が複数ある、事業がある、相続人以外に渡したい、遺留分の調整が必要、といったケースでは公正証書をおすすめします。
- 遺言書の内容は誰にも知られませんか?
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保管制度では、生前は本人以外が内容を確認することはできません。本人の死亡後、相続人などが「遺言書情報証明書」の交付を受けることで内容が分かるしくみです。
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出典・参考
- 法務局における遺言書の保管等に関する法律(2020年7月10日施行、保管申請手数料1件3,900円)
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度」(「本制度は遺言書の有効性を保証するものではありません」)
- 民法968条(自筆証書遺言の方式)、民法1042条(遺留分)
- 最高裁昭和54年5月31日判決(日付「吉日」の遺言は無効)、最高裁平成3年4月19日判決(「相続させる」旨の遺言)

