【2025最新】戸籍の広域交付とは?“取れるもの・取れないもの”を完全ガイド|相続手続きで損しないための実務ポイント

2024年3月1日にスタートした「戸籍の広域交付制度」。
窓口でよく聞かれるのが、

「これで、戸籍はもうどこでも全部取れるんですよね?」

…残念ながら “ほぼ” どこでも取れるようになっただけで、「全部」ではありません。
とくに相続・不動産登記では、広域交付制度では取れない書類がいくつかあります。

この記事では、

  • 広域交付で「できること」
  • 広域交付では「絶対に取れないもの」
  • 相続・登記で実際にどう使い分けるか

を、司法書士の実務目線でまとめます。
制度紹介だけでなく、「どこで詰まりやすいか」まで踏み込んでいるので、少し長いですが、相続関係の戸籍を集める前に一度読んでおいて損はありません。

目次

1. 戸籍の広域交付制度とは?

1-1. どこで何ができる制度か

広域交付制度とは、

「全国どこの市区町村役場の窓口でも、自分や親・子などの戸籍謄本等をまとめて請求できる制度」

のことです。
法務省の戸籍情報連携システムで全国の戸籍データをつなぎ、本籍地以外の役所でも戸籍証明書を出せるようにした仕組みです。

1-2. 広域交付で「取れる人」と「取れる戸籍」

請求できる人(請求者)と、証明の対象にできる人は、どちらも次の範囲に限定されています。

  • 本人
  • 配偶者
  • 直系尊属(父母・祖父母など)
  • 直系卑属(子・孫など)

つまり、

  • 兄弟姉妹
  • おじ・おば
  • 甥・姪
  • 離婚した元配偶者 など

の戸籍は 広域交付では請求できません。

取得できる証明書の種類は、原則次の3つです。

  • 戸籍全部事項証明書(いわゆる「戸籍謄本」)… 1通 450円
  • 除籍全部事項証明書(除籍謄本)… 1通 750円
  • 改製原戸籍謄本 … 1通 750円

※市区町村によって細かい名称の違いはありますが、手数料は従来の本籍地請求と同額です。

1-3. 広域交付の利用条件

主な利用条件は次のとおりです。

  • 窓口申請のみ
    • 郵送では広域交付は使えません。
  • 本人が来庁すること
    • 委任状を出して代理に行ってもらう方法は不可。
    • 弁護士・司法書士の「職務上請求」でも広域交付は使えません。
  • 顔写真付きの本人確認書類が必須
    • 運転免許証
    • マイナンバーカード
    • パスポート
    • 在留カード 等

健康保険証だけではNGという自治体がほとんどです。

※予約制にしている役所も多いので、行く前に各自治体サイトで「広域交付 戸籍」で検索しておくとスムーズです。

2. 広域交付で「どこまで楽になる」のか

相続手続きでは、原則として

被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までのすべての戸籍・除籍・改製原戸籍

が必要になります。

2-1. 従来の面倒くささ

今までは、

  1. 亡くなった時点の本籍地の役所に戸籍を請求
  2. そこに「前の本籍地」が書いてあるので、次はその役所に郵送請求
  3. さらにその前の本籍地があれば、また別の役所へ…

という 「戸籍リレー」 を、出生までひたすら繰り返す必要がありました。
数カ所に散らばっていると、平気で 1~2か月かかる ケースもあります。

2-2. 広域交付を使うとどう変わるか

広域交付を使うと、

  • 最寄りの市区町村役場で
  • 相続で必要な範囲(出生~死亡)の戸籍を
  • まとめて請求できる

ようになりました。

もちろん即日全部そろうとは限りませんが、「窓口の数」がぐっと減るのが最大のメリットです。

3. それでも広域交付では「絶対に取れないもの」

ここからが、このページの本題です。
広域交付は便利ですが、対象外の証明書を知らないと、相続や登記で必ずどこかで詰まります。

3-1. 戸籍の附票(住所の履歴)…広域交付“最大の盲点”

戸籍の附票の写しは、広域交付の対象外です。

  • 戸籍の附票:その本籍にいた期間の 住所の変遷(引っ越しの履歴) が載っている書類

なぜ相続・登記で重要か

相続登記では、

登記簿上の住所 = 亡くなった方本人であること

を証明するために、住所の「つながり」を書類で追いかける必要があります。

  • 亡くなった方の登記簿上の住所
    → 住民票や住民票除票だけではつながり切らないケースが多い
  • 住所が2回以上変わっているとき
    → 戸籍の附票でしかつながらない、というパターンがよくあります。

戸籍の附票を取る方法

戸籍の附票は、

  • 本籍地を管轄する役所で
    • 窓口
    • 郵送請求

という 従来どおりの方法でしか取れません。

広域交付で戸籍は最寄りの役所、戸籍の附票は本籍地の役所(郵送含む)

という 「二刀流」になる ことを意識しておいてください。

3-2. 戸籍抄本・除籍抄本(個人事項)も対象外

広域交付で取れるのは 「全部事項証明書(謄本)」だけ です。

  • 戸籍個人事項証明書(戸籍抄本)
  • 除籍個人事項証明書(除籍抄本)

は、広域交付では請求できません。

「自分の分だけでいいから抄本で」は、 広域交付では不可。
 本籍地の役所に従来どおり請求する必要があります。

相続では謄本で請求することがほとんどなので、実務上の影響はそこまで大きくありませんが、「抄本は広域不可」という点は押さえておきましょう。

3-3. 住民票・住民票除票は別ルート

よく混同されますが、

  • 戸籍:本籍地で管理(広域交付は法務省の戸籍システム)
  • 住民票:住所地で管理(マイナンバー・住基ネットの世界)

で、仕組みがまったく違います。

住民票・住民票除票は広域交付とは無関係で、

  • 住所地の市区町村役所で請求
  • マイナンバーカードがあればコンビニ交付も可(未対応自治体あり)

という従来どおりのルールです。

相続手続きでは、

  • 相続人の住民票
  • 被相続人の住民票除票(最後の住所)

が必要になるので、

戸籍(広域交付)+ 住民票(住所地)+ 戸籍の附票(本籍地)

という 三方向から集める イメージになります。

3-4. コンピュータ未整備の戸籍は広域不可

ほとんどの戸籍はコンピュータ化されていますが、
一部の古い戸籍など、事情があって 電子データに乗っていない戸籍 が残っています。

広域交付は 「戸籍のデータ連携」が前提 のため、

  • 電算化されていない戸籍
  • データに不整合がある戸籍

などは、広域交付の対象外です。

その場合、

「この戸籍は広域では取れません。本籍地の役所で請求してください」

と案内されるので、改めて本籍地に郵送または窓口で請求することになります。

3-5. 郵送請求・第三者請求・職務上請求は「別世界」

もう一度整理すると、

  • 広域交付は「本人が窓口に来る」ことが大前提 で、
    • 郵送不可
    • 代理人不可
    • 職務上請求不可
      という、かなり厳しめのルールです。

なので、

  • 高齢で役所に行くのが難しい方
  • 遠方に住んでいて地元の役所に行けない相続人
  • 海外在住の相続人

などは、結局

  • 本籍地への郵送請求
  • 弁護士・司法書士・行政書士等の職務上請求

を組み合わせることになります。

「広域交付があるから、専門家に頼む必要はなくなった?」
と聞かれることもありますが、実務的には 「選択肢が増えた」だけ という感覚に近いです。

4. よくある勘違いと、相続実務での「落とし穴」

勘違い①

「広域交付で、どこの役所でも全部オンラインで取れるようになった?」

なっていません。

  • オンラインで請求できる戸籍は、まだごく一部の自治体の電子証明書レベルに限られています。
  • 広域交付そのものは 「オンライン請求」ではなく、あくまで窓口交付 の仕組みです。

将来的にオンライン化が進む方向ではありますが、
2025年時点では、

「戸籍は基本、まだ役所に取りに行く時代」

と思っておいた方が現実的です。

勘違い②

「広域交付なら、兄弟の戸籍も見られますよね?」

見られません。

プライバシー保護の観点から、

  • 兄弟姉妹
  • おじ・おば
  • 甥・姪
  • 配偶者の親族 など

の戸籍は広域交付の対象外です。

相続関係で必要になることもありますが、その場合は

  • 本籍地の役所で
    • 相続の正当な理由を記載して請求
    • または、戸籍全部を通じて相続人であることを証明
      といった、従来型の手続きが必要です。

勘違い③

「広域交付で戸籍さえ全部そろえば、相続はだいたい何とかなる?」

ここで止まる方が一番多いです。

相続手続き全体で見ると、必要書類はざっくり次のような構成になります。

  • 被相続人・相続人の
    • 戸籍(+除籍・改製原) → 広域交付の出番
    • 住民票・住民票除票
    • 戸籍の附票(住所のつながり)
  • 不動産の評価証明書
  • 預貯金・株式の残高証明
  • 遺産分割協議書 等

つまり、広域交付で楽になるのは 「あくまで全体の一部分」 だけです。

5. 実務でのうまい使い方|自分でやる?専門家に任せる?

5-1. 自力でも比較的やりやすくなったケース

広域交付のおかげで、次のようなケースは ご自身だけで完結しやすくなりました。

  • 被相続人の本籍が、1〜2カ所しかない
  • 相続人が配偶者と子どもだけ
  • 相続財産が預貯金中心で、不動産は自宅1つだけ
  • 役所の窓口に行ける人が、家族の中にいる

この場合、

  1. 住所地の役所で広域交付を利用して、被相続人の出生〜死亡までの戸籍をまとめて請求
  2. 住民票・住民票除票は、住所地で取得
  3. 戸籍の附票が必要なら、本籍地の役所へ郵送請求

という流れで、書類集めまでは何とかなる ことが多いです。

5-2. 専門家に任せた方が結果的に早いケース

逆に、次のような場合は 広域交付を前提にしても、専門家に任せた方が早くて安全 なことが多いです。

  • 被相続人の本籍地が3カ所以上にまたがる
  • 戸籍をさかのぼると、
    • 再婚
    • 認知
    • 代襲相続(先に亡くなった子の子どもが相続人になるパターン)
      などが絡んでくる
  • 不動産が複数(遠方も含む)ある
  • 相続人の一部が海外在住、連絡がつきにくい
  • 銀行・証券・保険など、金融機関の数が多い

こういったケースでは、

  • 「どの戸籍が抜けているか」のチェック
  • 広域交付で取れるもの・本籍地に郵送すべきものの振り分け
  • 各種相続手続き(口座解約、名義変更、相続登記)

まで一気通貫でやってしまった方が、トータルコストも時間も小さくて済む ことが少なくありません。

6. まとめ|広域交付は「強力な道具」。でも、それだけでは足りない

最後に、この記事のポイントだけざっくり整理します。

  • 広域交付制度でできること
    • どこの役所でも、自分・配偶者・直系の戸籍謄本等(全部事項)が請求できる
    • 被相続人の出生〜死亡までの戸籍集めが、かなり楽になる
  • それでも広域交付では絶対に取れないもの
    • 戸籍の附票(住所の履歴)
    • 戸籍抄本・除籍抄本
    • 住民票・住民票除票
    • 一部の非電算化戸籍
    • 郵送請求・第三者請求・職務上請求による戸籍
  • 相続・登記の現場では
    • 広域交付(戸籍)
    • 本籍地への郵送請求(戸籍の附票など)
    • 住所地での住民票・評価証明など取得
      組み合わせて初めてゴールにたどり着く

広域交付は、うまく使えば 「戸籍集めのストレス」をかなり減らしてくれる道具 です。
ただし、それだけで相続手続きが完結するわけではない、という冷静な目線も大事です。

「うちのケースは、自分でやれるレベルなのか」
「どこから先を専門家に頼むのが効率いいのか」

と迷ったら、その判断のところから相談してもらって大丈夫です。
広域交付を前提にした 最短ルートの戸籍収集の組み立て から、相続登記・預貯金解約まで、一括で設計していきましょう。

📌 参考リンク(公的情報)

広域交付制度や郵送請求の制度面について、より詳しい情報を確認したい方は以下をご参照ください。

代表司法書士・行政書士 今井 康介

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