※本記事は2026年10月時点の情報に基づいて解説しています。
成年後見人に選ばれると、ご本人(成年被後見人)に代わって、契約書や銀行の届出書などに署名・押印する場面がたくさん出てきます。そのたびに「名前はどう書けばいいの?」「どの印鑑を押すの?」「印鑑証明書を出してと言われたけれど、誰のものを出せばいいの?」と迷われる方は少なくありません。
この記事では、成年後見人の署名の書き方、使う印鑑、印鑑証明書の扱い、賃貸借契約書に署名するときの注意点を、順を追ってご説明します。あわせて、金融機関や取引先から「ご本人の印鑑を押してください」と言われたときの対応もまとめました。
【法改正の予定】2026年6月に成立した「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号、2026年6月24日公布)により、成年後見制度が見直され、現在の「後見」「保佐」は廃止して「補助」に一元化されることになりました。施行日は「公布の日から2年6月以内の政令で定める日」とされており、2026年10月時点ではまだ決まっていません。施行されるまでは現行の成年後見制度で手続きを行いますので、本記事は現行制度を前提に解説しています(法務省の案内)。
まず結論:成年後見人の署名・押印のポイント
- 署名は「ご本人の氏名+成年後見人+後見人ご自身の氏名」の形で書きます
- 押す印鑑は、後見人ご自身の印鑑です。ご本人の実印や銀行印は使いません
- 印鑑証明書を求められたら、基本は「後見人ご自身の印鑑証明書」と、後見人であることを示す「登記事項証明書」を組み合わせて出します
- 賃貸借契約書などに署名するときも同じ書き方です。成年後見人は法律で定められた代理人なので、委任状は要りません
- ご本人の自宅を売る、貸す、ご本人が借りている家を解約するといった場合は、事前に家庭裁判所の許可が必要です
以下、ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
成年後見人の署名の書き方
基本の形は「本人の氏名 成年後見人 後見人の氏名」
成年後見人がご本人に代わって署名するときは、次のように書きます。
〇〇〇〇(ご本人の氏名) 成年後見人 △△△△(後見人の氏名)
たとえば、ご本人が山田太郎さん、成年後見人が佐藤一郎さんの場合は、次のようになります。
山田太郎 成年後見人 佐藤一郎 ㊞
書類の署名欄が2行に分かれている場合は、1行目にご本人、2行目に後見人を書く形でもかまいません。
山田太郎
上記成年後見人 佐藤一郎 ㊞
このように書くと、「後見人が、ご本人のために、代理人として手続きをしている」ことが書面の上ではっきりします。民法では、代理人が「本人のためにする」ことを示してした行為は、本人に対して直接効力が生じるとされています(民法99条)。そして成年後見人は、ご本人の財産を管理し、財産に関する法律行為についてご本人を代表する立場にあります(民法859条)。肩書きとして「成年後見人」と書き添えるのは、このしくみを書面に表すためなのです。
住所の欄があるときは
住所の欄がある書類では、ご本人の住所と後見人の住所の両方を書くよう求められることが多いです。ただ、書式によって欄の作り方はさまざまですので、提出先の書式や記入例に従ってください。迷ったときは、提出先に「成年後見人が代理で記入する場合の書き方」を確認するのが確実です。
やってはいけない書き方
後見人が、ご本人の名前だけを書いて(代筆して)、ご本人の印鑑を押すのは避けてください。書面の上では、ご本人が自分で契約したように見えてしまい、誰がどの立場で手続きしたのかが分からなくなります。後で説明するとおり、ご本人が自分でした契約は取消しの対象になりうるため、相手方とのトラブルのもとにもなります。
押す印鑑は「後見人ご自身の印鑑」
署名の横に押すのは、成年後見人ご自身の印鑑です。ご本人の印鑑(実印・銀行印・認印)を、成年後見人としての手続きに使うことはありません。
成年後見人として手続きするときに使わない印鑑
- ご本人の実印
- ご本人の銀行印
- ご本人の認印
成年後見人として使う印鑑
- 後見人ご自身の実印(印鑑証明書の提出を求められる手続き)
- 金融機関に届け出た印鑑(預貯金の手続き)
- 後見人ご自身の認印(簡易な手続きで、提出先が認めている場合)
どの印鑑が必要かは、手続きの重さと提出先の決まりによって変わります。おおまかな目安は次のとおりです。
| 場面 | 使う印鑑の目安 | あわせて求められることが多い書類 |
|---|---|---|
| 不動産の売却・登記 | 後見人の実印(家庭裁判所に届け出た印鑑を使う方法もあります) | 後見人の印鑑証明書、登記事項証明書、自宅の場合は居住用不動産の処分許可の審判書 |
| 預貯金の届出・払戻し | 金融機関に届け出た後見人の印鑑 | 登記事項証明書、後見人の本人確認書類(届出のときに実印と印鑑証明書を求められることもあります) |
| 施設・介護・賃貸借などの契約 | 提出先の指定による(認印でよい場合も、実印を求められる場合もあります) | 登記事項証明書 |
金融機関では、後見の届出をするときに、後見人が今後の取引で使う印鑑を届け出る取扱いが一般的です。必要な書類は金融機関ごとに異なりますので、事前に窓口へ確認してから行くと安心です。
印鑑証明書を求められたら、誰のものを出す?
基本は「後見人の印鑑証明書」+「登記事項証明書」
成年後見人が手続きをするときは、ご本人ではなく後見人が署名・押印します。そのため、印鑑証明書を求められたときに出すのも、原則として後見人ご自身の印鑑証明書です。後見人がお住まいの市区町村で印鑑登録をしていれば、通常どおり取得できます。
ただ、後見人個人の印鑑証明書だけでは、その人が「成年後見人であること」までは分かりません。そこで、法務局が発行する「登記事項証明書」をあわせて出します。登記事項証明書は、ご本人と成年後見人の氏名・住所などが記載された、いわば「後見人であることの証明書」です。法務局・地方法務局の本局の窓口で取得でき、郵送の場合は東京法務局の後見登録課に申請します。
たとえば不動産登記の手続きでは、押印した人の印鑑証明書は、住所地の市区町村長または登記官が作成したもので、作成後3か月以内のものに限るとされています(不動産登記令16条2項・3項、18条2項・3項)。印鑑証明書や登記事項証明書の「発行から何か月以内」という期限は、提出先によって3か月だったり6か月だったりしますので、取得する前に確認しておくと二度手間を防げます。
家庭裁判所の「成年後見人の印鑑証明書」とは
成年後見人の印鑑については、家庭裁判所に印鑑を届け出て、裁判所書記官が作成する印鑑証明書の交付を受けるという方法もあります。
不動産登記規則では、裁判所によって選任された人(成年後見人もこれにあたります)が職務として登記を申請する場合、裁判所書記官が作成した印鑑に関する証明書を添付すれば、市区町村の印鑑証明書を添付しなくてよいとされています(不動産登記規則48条1項3号、49条2項3号)。
この印鑑証明書は、現在も家庭裁判所で取り扱われています。交付を申請するときは、印鑑届とあわせて後見登記の登記事項証明書(作成から3か月以内のもの)などを出すのが一般的で、主に不動産登記で使うための証明書という位置づけです。必要書類や手数料は、管轄の家庭裁判所で確認しておくと安心です。
実際には、後見人ご自身の市区町村の印鑑証明書と登記事項証明書の組み合わせで足りる場面も多くあります。家庭裁判所の印鑑証明書を使うかどうかは、手続きを依頼する司法書士や、管轄の家庭裁判所に確認してください。
賃貸借契約書に署名するときの注意点
ご本人が部屋を借りるとき
ご本人が住むアパートや施設の契約で、ご本人が「借主(賃借人)」になる場合も、署名の書き方は同じです。
賃借人 山田太郎 成年後見人 佐藤一郎 ㊞
「成年後見人が賃貸借契約書に署名するときは、委任状が必要ですか」というご質問をいただくことがありますが、委任状は必要ありません。成年後見人は、家庭裁判所の審判によって選ばれた、法律上の代理人(法定代理人)だからです。代理する権限は委任状ではなく、登記事項証明書で示します。管理会社や貸主から求められたら、登記事項証明書を提出しましょう。
なお、契約の際に、後見人ご自身に連帯保証人や緊急連絡先になってほしいと頼まれることもあります。連帯保証は、ご本人の代理としてではなく、後見人ご自身が個人として責任を負う別の契約です。引き受けるかどうかは慎重にご判断ください。
ご本人の自宅を貸す・ご本人の借家を解約するとき
ご本人が住んでいる(または住んでいた)建物やその敷地について、成年後見人が売却、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定などをするには、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。たとえば、施設に入所するためにご本人が借りていた部屋を解約する場合も、これにあたります。
家庭裁判所の案内でも、許可を受けずに居住用不動産を処分した場合、その契約は無効になると説明されています。賃貸借契約に関わるときは、署名の前に、許可が必要な場面かどうかを必ず確認してください。
また、後見監督人が選ばれている場合は、不動産の売買や、民法602条の期間を超える賃貸借など一定の行為について、後見監督人の同意が必要です(民法864条、13条1項)。
「本人の印鑑を押してください」と言われたときの対応
金融機関や取引先の担当者が成年後見制度に詳しくなく、「ご本人の印鑑が必要です」と言われることがあります。そのようなときは、次の順に落ち着いて説明してみてください。
1. 成年後見制度のしくみを説明する
まず、成年後見人がご本人の代わりに署名・押印するしくみであることを、簡単に伝えます。
説明例:
「本人は家庭裁判所で後見開始の審判を受けており、財産に関する契約などは、日用品の購入など日常生活に関する行為を除いて、成年後見人が代理して行うことになっています。そのため、書類には本人の印鑑ではなく、成年後見人の署名・押印で手続きを進めさせていただけますでしょうか。」
2. ご本人の名前と印鑑は使えないことを伝える
成年後見制度では、ご本人がした契約は、日用品の購入など日常生活に関する行為を除いて取り消すことができるとされており(民法9条)、財産に関する契約は成年後見人が代理して行うのが基本です(民法859条)。そのため、後見人がご本人の実印や銀行印を使って、ご本人名義だけで手続きを進めるのは適切ではありません。誰がどの立場で手続きしたのかが分からなくなり、後のトラブルのもとになります。
説明例:
「成年後見人は本人の代理人ですが、本人の印鑑を代わりに押して本人名義で手続きするのは適切ではありません。成年後見人として、私の署名と押印で手続きを進めていただく必要があります。」
3. 登記事項証明書を見せ、上席者に確認してもらう
相手方が納得されない場合は、登記事項証明書を見せて、成年後見人であることと、その権限を確認してもらいましょう。担当者の判断が難しいようであれば、上席者や本部の担当部署に確認してもらうのもよい方法です。
説明例:
「こちらが成年後見人であることを示す登記事項証明書です。成年後見制度のもとでは、成年後見人の署名・押印で手続きを進めるのが正しい方法ですので、恐れ入りますが、ご担当部署にご確認をお願いいたします。」
4. ご本人が署名した契約は「後から取り消されうる」ことを伝える
ご本人に署名・押印してもらえばよいのでは、と考える方もいらっしゃいます。しかし、成年被後見人ご本人がした契約は、日用品の購入など日常生活に関する行為を除き、取り消すことができます(民法9条)。取り消すことができるのは、ご本人や成年後見人などです(民法120条1項)。取り消された契約は、初めから無効だったものとみなされます(民法121条)。
ここで大切なのは、「当然に無効」ではなく「取り消すことができる」という点です。取り消されるまでは一応有効ですが、いつ取り消されるか分からない不安定な状態になります。
これとは別に、契約をした時点で、ご本人が自分のしていることの意味を理解できない状態(意思能力がない状態)だった場合には、その契約は無効とされます(民法3条の2)。
いずれにしても、ご本人の署名・押印では、相手方にとっても契約が不安定になるおそれがあります。成年後見人が権限の範囲内で代理して署名・押印すれば、こうした心配を避けられます。
説明例:
「本人が署名・押印した契約は、日用品の購入などを除いて、後から取り消すことができるものとされています。取り消されると、契約は初めからなかったことになります。成年後見人が代理して署名・押印したほうが、御社にとっても確実かと思います。」
成年後見人として心がけたいポイント
成年後見人は、ご本人の財産や権利を守る立場にあります。誤解やトラブルを防ぐために、次のような点を心がけましょう。
- 成年後見制度のしくみを知っておく:制度を理解しておけば、相手方にも落ち着いて説明できます
- 冷静に、丁寧に説明する:相手が制度に詳しくないことを前提に、根気よく伝えましょう
- 登記事項証明書を手元に用意しておく:権限を示す一番の書類です。期限切れに注意しましょう
- 必要に応じて上席者に確認を依頼する:担当者だけでは判断できないこともあります
- 取消しのリスクを伝える:ご本人の署名・押印では、契約が後から取り消されるおそれがあることを伝えます
よくある質問
- 成年後見人の署名は、どう書けばいいですか?
-
「山田太郎 成年後見人 佐藤一郎」のように、ご本人の氏名、「成年後見人」という肩書き、後見人ご自身の氏名の順に書き、後見人ご自身の印鑑を押します。署名欄が2行ある場合は、1行目にご本人の氏名、2行目に「上記成年後見人 〇〇〇〇」と書く形でもかまいません。
- 成年後見人が賃貸借契約書に署名するとき、委任状は必要ですか?
-
必要ありません。成年後見人は家庭裁判所の審判で選ばれた法定代理人なので、権限は委任状ではなく、法務局の登記事項証明書で示します。ただし、ご本人の自宅を貸す場合や、ご本人の借家を解約する場合は、事前に家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。
- 印鑑証明書を求められました。誰の印鑑証明書を出せばいいですか?
-
原則として、後見人ご自身の印鑑証明書(お住まいの市区町村で取得)と、後見人であることを示す登記事項証明書(法務局で取得)を組み合わせて出します。不動産登記では、家庭裁判所の書記官が作成する成年後見人の印鑑証明書を使う方法もあります。どちらを使うかは提出先や司法書士に確認してください。
- 成年被後見人ご本人は、印鑑登録できますか?
-
市区町村によっては、成年後見人が同行し、窓口でご本人の申請の意思を確認できる場合に限って、ご本人の印鑑登録を受け付けています。条件や必要書類は市区町村ごとに異なりますので、事前に確認が必要です。なお、成年後見人が代理で手続きをする場面では、ご本人の印鑑証明書ではなく、後見人の印鑑証明書と登記事項証明書を使うのが基本です。
- 成年後見人が交代したら、署名や印鑑はどうなりますか?
-
交代後は、新しい成年後見人が自分の氏名で署名し、自分の印鑑を押します。新しい後見人の氏名が記載された登記事項証明書を取得して、金融機関など取引のある先に届出をし直しましょう。
まとめ
成年後見人がご本人に代わって署名・押印するときは、「ご本人の氏名 成年後見人 後見人の氏名」の形で署名し、後見人ご自身の印鑑を押すのが基本です。ご本人の印鑑は使いません。印鑑証明書を求められたら、後見人ご自身の印鑑証明書と登記事項証明書を組み合わせて出すのが原則で、不動産登記では家庭裁判所の書記官が作成する印鑑証明書を使う方法もあります。
賃貸借契約でも書き方は同じで、委任状は必要ありません。ただし、ご本人の自宅を貸したり、ご本人の借家を解約したりする場合は、家庭裁判所の許可が必要です。また、ご本人が自分で署名した契約は、無効とは限らないものの、後から取り消されうる不安定なものになります。取引先から本人の印鑑を求められたときは、制度のしくみを落ち着いて説明しましょう。
成年後見人の役割を正しく理解して手続きを進めることが、ご本人の権利を守り、取引を円滑に進めることにつながります。
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