「してもらったこと」を数えると、人生の見え方が変わる — 日本生まれの振り返り法「内観」と終活

「してもらったこと」を数えると、人生の見え方が変わる — 日本生まれの振り返り法「内観」と終活

終活というと、財産の一覧を作ったり、身の回りの物を片付けたりすることを思い浮かべる方が多いと思います。

けれども、遺言のご相談をお受けしていると、財産の話より先に、ご自身の人生を振り返る時間が必要だと感じることがあります。誰に、何を、どんな気持ちで残したいのか。その答えは、財産の一覧からではなく、これまでの人生の中から見えてくるからです。

今回は、日本で生まれた振り返りの方法「内観(ないかん)」をご紹介します。

目次

「内観」とは

内観は、吉本伊信(よしもと いしん)という人が考え出した、自分を見つめ直す方法です。もともとは浄土真宗の一派に伝わる「身調べ(みしらべ)」という厳しい修行がもとになっていますが、吉本は、宗教を持たない人でも取り組めるように、その方法を誰にでもできる形に改めました。

現在では、心理療法の一つとして、医療や心のケアの場でも用いられています。1978年には、研究者や実践者による学会(日本内観学会)もできています。

3つの問い

内観の中心にあるのは、次の3つの問いです。

  • してもらったこと
  • して返したこと
  • 迷惑をかけたこと

まず、母親など身近な人を一人選び、小学校低学年のころ、高学年のころ、中学生のころ……と、時期を区切って、この3つを思い出していきます。

やってみると、多くの方が気づくことがあります。それは、「してもらったこと」に比べて、「して返したこと」がとても少ない、ということです。

「迷惑をかけられたこと」ではなく、「迷惑をかけたこと」を思い出す点も、この方法の特徴です。人はつい、自分がされて嫌だったことばかりを覚えています。けれども、立場を変えて思い出してみると、相手の苦労や、自分が受け取っていた支えが見えてきます。

家でできる、やさしい振り返り

本格的な内観は、研修所に1週間ほど泊まりこみ、指導者のもとで行います。ここでは、その考え方を借りて、家でできる形をご紹介します。

  • 静かな時間を30分ほどとり、紙とペンを用意する
  • 振り返る相手を一人決める(母親、父親、配偶者など)
  • 時期を区切って、「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」を、思い出せる範囲で書き出す
  • 無理に結論を出そうとせず、思い出したことをそのまま書く

つらい記憶が強くよみがえる場合は、無理に続けないでください。心の不調がある方は、専門の医療機関にご相談ください。

振り返りから、遺言が見えてくる

人生を振り返ってみると、「この人には、まだ感謝を伝えていない」「あの人に、迷惑をかけたままになっている」ということに気づくことがあります。

それが、遺言を考えるときの、大切な出発点になります。

  • 「してもらったこと」が多い人へ → 遺言で財産を残す、付言事項で感謝を伝える
  • 「迷惑をかけたこと」がある人へ → 元気なうちに謝る、手紙を書く、付言事項でおわびの気持ちを伝える
  • お世話になった地域や団体へ → 遺言で寄付をする

財産の分け方は、こうした気持ちが整理されてから考えたほうが、ずっと納得のいくものになります。

なお、振り返った内容をエンディングノートにまとめておくのもよい方法ですが、エンディングノートには法的な効力がありません。財産の行き先は、遺言で決めておく必要があります。くわしくはそのエンディングノート、相続では使えませんをご覧ください。

振り返りは、未来のためにある

振り返りというと、過去を悔やむことのように感じるかもしれません。けれども、内観の目的は、自分を責めることではありません。

自分がどれだけ多くの人に支えられてきたかに気づくと、自然と感謝の気持ちがわいてきます。そして、その感謝の気持ちが、「残りの人生をどう生きるか」「家族に何を残すか」を考える力になります。

よくあるご質問

内観は、宗教ではないのですか?

もとは浄土真宗の一派の修行から生まれましたが、考案した吉本伊信が宗教色を取り除き、誰でも取り組める方法に改めました。現在は心理療法として、医療の場などでも用いられています。

振り返りをしてから遺言を書くと、何が違うのですか?

財産の分け方に、ご自身の気持ちや理由がはっきり込められるようになります。理由がはっきりした遺言は、付言事項でその理由を家族に伝えやすく、家族の納得も得やすくなります。

遺言を書く前に、何を準備すればよいですか?

財産の一覧(預貯金、不動産、保険など)と、誰に何を残したいかのメモがあれば十分です。気持ちの整理がついていなくても、ご相談しながら一緒に考えることができます。

おわりに

これまでの人生で「してもらったこと」を数えてみると、自分が思っていたよりも、ずっと多くの人に支えられてきたことに気づきます。

その気づきを、感謝の言葉や遺言という形で残しておく。それは、支えてくれた人たちへの、何よりの「して返すこと」になるのではないでしょうか。

当事務所では、遺言の内容を決める前の、こうした気持ちの整理からお手伝いしています。

出典・参考

代表司法書士・行政書士 今井 康介

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