生命保険を活用した相続・遺留分対策―後継者に事業資産を円滑に承継するために―

将来の相続に際して、自宅や自社株などの事業資産を後継者に集中して承継させたいというご相談は多くあります。
一方で、「他の相続人に渡す代償資産が足りない」というお悩みもよく聞かれます。

このような場合に有効な選択肢のひとつが、「生命保険」を活用する方法です。
生命保険は、遺族の生活保障や相続税対策だけでなく、“争族”を防ぐための調整資金として機能することがあります。

目次

1. 生命保険金の「原則」と「例外」

まず押さえておきたいのは、生命保険金の法的な位置づけです。

原則として、特定の受取人が指定された生命保険金は、受取人固有の財産とされ、遺産分割の対象にはなりません。
裁判所の実務解説でも同様の整理が示されています。

ただし、例外があります。
保険金が著しく過大で、他の相続人に「到底是認できないほどの不公平」をもたらす場合には、
特別受益に準じて遺留分算定の基礎に算入されることがあるとされています。

したがって、生命保険を使った相続設計では、
「誰を受取人にするか」だけでなく、「保険金額が全体のバランスを欠かないか」も重要になります。

2. 受取人を後継者にして、代償金として支払う設計

実務的には、後継者を生命保険金の受取人に設定し、
相続発生後にその保険金を原資として他の相続人に代償金を支払う設計が有効です。

この場合、後継者が受け取る保険金は原則として後継者の固有財産となり、
遺留分算定の基礎には含まれません。
そのため、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けても、
自宅や自社株を手放さずに清算金を支払える可能性が高まります。

ただしここでも、保険金額が過大であったり、他の相続人に著しい不公平が生じるような場合には、
前述の「例外」として算入されるリスクがあります。
万能の方法ではないため、保険金額・遺産総額・家族構成を総合的に見て設計することが大切です。

3. 遺留分は「金銭での清算」に変わっています(2019年改正)

2019年の民法改正により、遺留分は金銭で清算する権利(遺留分侵害額請求)となりました。
以前のように「物を取り返す」権利ではなく、侵害額相当のお金を請求できる権利
です。

請求には期限があります。

  • 侵害を知った時から1年以内(時効)
  • 相続開始から10年で権利消滅(除斥期間)

請求の相手方は、遺贈や贈与で多く財産を得た側(たとえば後継者など)です。
このため、後継者側で支払原資を確保しておくことが現実的な対策になります。
生命保険をこの原資にする設計は、まさにここで効果を発揮します。

4. 税務上の副次的メリットも

生命保険金は、税務面でもメリットがあります。
相続税の計算では、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が適用されます。
(契約者・被保険者・受取人の関係によって課税関係が異なるため、設計段階で専門家に確認が必要です。)

この非課税枠を活用すれば、一定の金融資産を税負担を抑えつつ相続人に届けることができ、
争族対策と相続税対策を両立させることが可能です。

5. まとめ(早めの準備と設計がカギ)

生命保険金は原則として受取人固有の財産で、遺留分算定の基礎に含まれません。
しかし、保険金が過大で著しい不公平が生じる場合には、例外的に特別受益と同様に扱われることがあります。

したがって、

  • 保険金額の妥当性
  • 保険料負担者の明確化
  • 加入目的の整理
    を意識して設計し、公正証書遺言や家族間の合意形成とあわせて整備することが肝要です。

生命保険を利用した相続対策・遺留分対策は、早めの準備が何より大切です。
高齢や疾病によって保険契約が難しくなることもありますし、判断能力が低下すると対策自体が取れなくなります。
家族構成や生活環境の変化に合わせて、柔軟に見直していくことが理想的です。

参考リンク(公式情報・出典)

代表司法書士・行政書士 今井 康介

西宮・芦屋・宝塚・尼崎エリアで司法書士・行政書士をお探しなら、シアエスト司法書士・行政書士事務所へお任せください。

相続・遺言から不動産登記・会社設立まで、幅広く対応いたします。 お客様の想いに寄り添い、迅速・丁寧な法務サービスをご提供します。

よかったらシェアしてください!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次