こんにちは。司法書士の今井です。
相続のご相談を受けていると、「相続人の中に成年被後見人の方がいる」というケースに出会うことが増えています。
このような場合、登記や遺産分割協議だけでなく、相続税の障害者控除にも注意が必要です。
成年被後見人となっている相続人は、要件を満たせば相続税から一定の金額を差し引くことができます。
ただし、控除の適用には法的・税務的な条件があり、後見登記や遺産分割の進め方にも関係してきます。
この記事では、司法書士の実務視点から、成年被後見人と障害者控除の関係をやさしく解説します。
成年被後見人は障害者控除を受けられるのか?
まず押さえておきたいのは、成年被後見人の方は原則として障害者控除の対象になるという点です。
国税庁が公表している見解によれば、家庭裁判所の審判を受けて後見が開始されている場合、その方は「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況」にあると判断され、相続税法上の「特別障害者」として扱うことに問題はないとされています。
つまり、障害者手帳を持っていなくても、後見開始の審判が出ていれば、障害者控除の適用対象となる可能性があります。
民法上の判断が、そのまま税法上でも認められているということです。
障害者控除の適用要件
成年被後見人が相続税の障害者控除を受けるには、次の4つの条件を満たす必要があります。
- 相続または遺贈により財産を取得していること
財産を実際に取得していることが前提です。遺言で一切財産をもらっていない場合には、控除の対象になりません。 - 相続開始時に日本国内に住所があること
国内居住が基本ですが、日本国籍を持ち、亡くなった方または相続人のどちらかが相続開始前10年以内に日本に住所を有していた場合は、国外居住でも対象になります。 - 法定相続人であること
法定相続人でなければ、障害者控除の適用は受けられません。
一方で、相続放棄をしていても、生命保険金などの「みなし相続財産」を取得している場合には、控除の対象となることがあります。 - 成年被後見人であること
家庭裁判所の後見開始審判を受けており、登記事項証明書で確認できることが条件です。
控除額の計算方法と具体例
成年被後見人は、税法上の「特別障害者」にあたります。
控除額は次の計算式で求めます。
20万円 ×(85歳 − 相続開始時の年齢)
計算の際、1年に満たない端数は切り上げて計算します。
たとえば、相続開始時におおむね60代半ばであれば、控除額は400万円前後になるケースが多く、年齢が若いほど控除額は大きくなります。
この控除によって、相続税額が全額消えることもあります。
控除しきれない分が出た場合には、その障害者を扶養している親族の相続税額から差し引くことが可能です。
また、障害者控除の結果、全員の相続税がゼロになる場合には、相続税申告そのものを省略できることがあります。
(配偶者控除や小規模宅地の特例と違い、申告義務がないのが特徴です。)
成年被後見人がいる場合の遺産分割と登記のポイント
成年被後見人が相続人の場合、遺産分割協議には成年後見人が代理人として参加します。
協議書には、「成年被後見人〇〇 成年後見人△△」と記載し、成年後見人が署名・押印します。
登記申請の際には、以下の書類が必要になります。
- 遺産分割協議書
- 成年後見人の印鑑証明書
- 後見登記事項証明書(資格を証する書面)
なお、成年後見人自身も相続人の一人である場合は、被後見人との間に利益相反が生じるため、特別代理人の選任が必要です。
後見監督人が選任されている場合は、その監督人が代理しますが、監督人も利益相反にあたる場合には、やはり特別代理人の選任手続が必要となります。
成年後見人でなく、補助人や保佐人が代理人として参加する場合は、肩書を「被補助人◯◯ 補助人△△」「被保佐人◯◯ 保佐人△△」といったように記載します。
ただし、補助人や保佐人が協議に加わるためには、家庭裁判所の審判で「遺産分割に関する代理権」が付与されていることが前提条件です。
代理権が与えられていない場合は、遺産分割協議に参加できません。
必要がある場合には、改めて代理権付与の審判申立てを行うことになります。
また、被補助人や被保佐人は、税法上の「障害者控除」の対象には含まれません。
障害者控除の適用対象は、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」(所得税法施行令第10条)に該当する方に限られます。
補助や保佐の審判を受けているだけでは、この要件を満たさないため、被補助人・被保佐人という理由のみで障害者控除を適用することはできません。
あわせて知っておきたい誤解と注意点
成年後見や障害者控除に関するご相談では、現場でいくつかの誤解が見られます。
なかには今回のテーマとは少し離れた内容もありますが、実務上はあわせて注意しておきたい論点です。
誤解①:障害者手帳がないと控除は受けられない
→ 成年後見制度の利用が始まり、家庭裁判所で「後見開始の審判」を受けていれば、障害者手帳を持っていなくても障害者控除の対象となる場合があります。
誤解②:相続放棄をしたら障害者控除は使えない
→ 相続放棄をしても、生命保険金など「みなし相続財産」を取得していれば、障害者控除を適用できるケースがあります。
誤解③:節税のために孫養子や障害者控除を積極的に使えばよい
→ 税金面のメリットだけを優先して制度を利用すると、相続後に本人が自分の財産を管理・処分できなくなる場合があります。
判断能力の低下や手続上の制約により、結果的に成年後見制度の利用を検討せざるを得なくなることもあります。
節税と実務負担の両面から、長期的な視点で判断することが大切です。
こうした誤解は、税金の仕組みと成年後見制度の目的を混同してしまうことが原因です。
税務上の控除や節税策は「税負担を軽くするための制度」ですが、成年後見制度は「判断能力が低下した方を法律的に保護するための制度」です。
それぞれの目的と適用条件を整理したうえで判断することが大切です。
まとめ
成年被後見人が相続人となるケースでは、障害者控除の適用によって相続税を大幅に減らせる可能性があります。
ただし、控除を受けるためには法定相続人であることや登記証明書の提出など、明確な要件を満たす必要があります。
税金の計算や申告は税理士の専門領域ですが、登記や遺産分割、特別代理人の選任など、成年後見制度に関わる実務は司法書士のサポートが欠かせません。
後見制度を正しく理解し、家族の権利と財産を守るために、専門家同士が連携して対応することが理想です。
ご家族の状況に合わせた手続きや制度の選択についてお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

