障害福祉サービスの基礎知識――対象になる人・サービスの種類・利用の流れを、家族目線で整理――

「障害福祉サービス」という言葉はよく聞くのに、実際には「名前だけ知っていて中身はよく分からない」という方は少なくありません。

手帳が必要なのか、どんなサービスがあるのか、費用はいくらなのか。
調べ始めると専門用語が多くて、読むのもつらくなってしまいます。

この記事では、

  • そもそも障害福祉サービスとは何か
  • 誰が対象になるのか(手帳がない場合も含めて)
  • どんなサービスがあるのか
  • どうやって利用を始めるのか
  • 費用の考え方

といったポイントを、できるだけやわらかい言葉でお伝えします。
細かい条文を暗記する必要はありません。
「こういう仕組みなんだな」と全体像をつかんでいただければ十分です。

目次

1. 障害福祉サービスとは「その人らしい生活」を支える仕組み

日本には、障害のある人やその子どもが、地域でその人らしく暮らしていけるようにするための仕組みが用意されています。
18歳以上の方については「障害者総合支援法」、18歳未満の子どもについては「児童福祉法」が、その土台です。

障害者総合支援法に基づく仕組みは、大きく二つに分かれます。

ひとつは「障害福祉サービス」と呼ばれるものです。
これは、市区町村が一人ひとりの状態や生活状況をふまえて、「この人には、このサービスを、これくらい」と量を決めて支給決定を行うタイプです。
介護が中心の「介護給付」と、訓練や就労・住まいの支援が中心の「訓練等給付」に分かれます。

もうひとつは「地域生活支援事業」です。
これは、市区町村が地域の実情に合わせて、日中の居場所や短時間の預かり、移動の支援などを柔軟に行うものです。
同じ「障害福祉のサービス」でも、こちらは自治体ごとに内容や対象が少しずつ異なります。

共通しているのは、「障害があるから一律にこうする」と決めつけるのではなく、
障害の程度、家族の状況、住まい方、仕事や学校との関係など、個別の事情を見ながら支援の具体的な中身を決めていくという点です。

2. 誰が対象になる?手帳がないとダメなのか

一般的には、次のような方が障害福祉サービスの対象としてイメージされています。

身体障害者手帳を持っている方、療育手帳を持っている方、精神障害者保健福祉手帳を持っている方、あるいは難病などで障害者総合支援法の対象とされている方などです。
多くのサービスでは、これらの手帳や、医師の意見書・診断書などが前提となります。

一方で、自立支援医療(精神通院医療)や、一部の日中一時支援などの地域生活支援事業は、手帳がなくても、医師の診断書や自治体の判断によって対象となる場合があります。

ただし「このサービスは手帳がなくても必ず使える」と言い切れるものではありません。
どこまでを対象とするか、どんな書類を求めるかは、市区町村ごとに裁量があり、運用が異なるためです。

そのため、「手帳がないからうちは無理だろう」と決めつけてしまうのは、少し早すぎることもあります。
発達障害のグレーゾーンといわれている方や、診断名はついたものの手帳は取得していない方でも、利用できる制度が見つかることは珍しくありません。

気になるサービスがあれば、まずはお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に、「こういう状態ですが、対象になる制度はありますか?」と率直に聞いてみることをおすすめします。

3. 利用者負担はどう決まる?「1割負担」と「月ごとの上限額」

次に、費用の考え方です。ここが不安で心配されている方は多くいらっしゃいます。

障害福祉サービスの利用者負担は、基本的に「サービスにかかった費用の原則1割」です。
ただし、この「1割」を、無制限に払わなければならないわけではありません。
世帯の所得に応じて、1か月あたりの「負担上限月額」が決められ、その額を超えて負担しなくてよい仕組みになっています。

たとえば18歳以上の方の場合、生活保護を受けている世帯や、市町村民税が非課税の世帯では、上限が0円になることがあります。
それ以外の世帯でも、比較的所得が少ない場合は月9,300円、それより高い場合は月37,200円といった具合に、いくつかの区分が定められています(細かな基準は自治体でご確認ください)。

18歳未満のお子さまの場合も、基本的な考え方は同じです。判定の基準となるのは保護者の世帯の所得で、自己負担の上限月額は“0円”“4,600円”“9,300円”“37,200円”等の区分に分かれています(通所・入所・利用形態により異なります)。

この「上限月額」は、あくまで障害福祉サービスの自己負担分に対するものであり、食費や光熱費、交通費などは別途本人負担になることが多い点には注意が必要です。

さらに、自立支援医療(精神通院医療・更生医療・育成医療)や難病医療費助成制度、市区町村独自の障害者医療費助成(「障害者医療費受給者証」など)が組み合わさることで、実際の医療費・サービス利用料の負担がぐっと抑えられるケースもあります。

「うちの場合、具体的にいくらくらいになりそうか」は、自治体の窓口で概算を試算してもらうのが一番確実です。
制度ごとに判定基準や対象範囲が異なりますので、早い段階で相談されると安心です。

4. 大人向けのサービス(介護給付・訓練等給付)のイメージ

ここからは、18歳以上の方向けのサービスについて、代表的なものだけイメージしやすくご説明します。
全部覚える必要はなく、「こんな種類があるんだな」という感覚で読んでいただければ十分です。

4-1. 生活そのものを支える「介護給付」

介護給付は、日常生活の介護や見守りを中心としたサービスです。

たとえば、自宅での入浴や排せつ、食事、着替えの介助、掃除や洗濯、調理といった家事援助、生活相談などをヘルパーが行う「居宅介護(ホームヘルプ)」があります。
一人暮らしの方や、高齢の家族と暮らしている方にとって、在宅生活を続けるうえで欠かせないサービスです。

重い肢体不自由や知的障害・精神障害があり、ほぼ常に介護を必要とする方の場合には、「重度訪問介護」が使われます。
自宅での介護に加え、外出時の移動の支援や、入院中の意思疎通支援などを含めて、生活全般を通して支えるサービスです。

視覚障害があり一人での移動が難しい方には、外出時にガイドヘルパーが付き添う「同行援護」があります。
危険な場所の回避や、案内表示の読み上げ、乗り換えのサポートなどを行い、安心して外出できるようにするものです。

知的障害や精神障害によって行動上の困難が強く、一人で行動することに危険が伴う場合には、「行動援護」が利用されます。
危険を予防する視点を持ちながら、外出や日常生活を支えていくタイプの支援です。

日中の居場所としては「生活介護」が代表的です。
常時介護が必要な方を対象に、入浴や排せつ、食事などの介護に加え、創作活動や軽作業などの機会を提供します。
地域の中で、昼間安心して過ごせる場所を確保する役割を担っています。

介護を担っている家族が体調を崩したときや、どうしても家を空けなければならないときには、「短期入所(ショートステイ)」という選択肢もあります。
数日間施設に泊まり、そこで入浴・食事・排せつなどの支援を受けるもので、家族の休息(レスパイト)の意味合いも大きいサービスです。

そのほか、医療的ケアと介護が両方必要な方のための「療養介護」や、複数のサービスを一体的に提供する「重度障害者等包括支援」、夜間を中心に施設での生活を支える「施設入所支援」など、状態や暮らし方に応じたメニューが用意されています。

4-2. 「できること」を増やし、働き方や住まいを支える訓練等給付

訓練等給付は、自立や就労、地域での暮らしを広げる方向の支援が中心です。

退院・退所後の生活に向けて、身体機能や生活能力を維持・向上させるための「自立訓練(機能訓練・生活訓練)」というサービスがあります。
病院や施設から地域生活に移る前の準備期間として位置づけられ、一人暮らしに向けた生活リズムづくりや家事の練習なども行われます。

「宿泊型自立訓練」は、一定期間住まいも提供してもらいながら、実際に生活しつつ家事や対人関係などの訓練を受けるタイプのサービスです。
将来的に一人暮らしやグループホームへの移行を目指す方が利用されることが多いです。

就職については、一般企業への就労を目指す人のための「就労移行支援」があります。
ビジネスマナーや職業スキルの訓練、職場体験、求人探し、面接練習、就職後の職場定着支援など、就労までの道のりを一緒に伴走してくれるイメージです。

一般就労が難しい場合には、「就労継続支援A型・B型」という選択肢があります。
A型は事業所と雇用契約を結んで働く形で、給料が支払われます。
B型は雇用契約ではなく、作業に応じた工賃が支払われる形で、それぞれ働ける時間やペースに合わせた支援が受けられます。

一度就職したあとも、仕事と生活の両立でつまずく場面はどうしても出てきます。
そうしたときに、企業や医療機関、福祉サービス事業所との調整を行い、生活面や職場での困りごとについて相談に乗るのが「就労定着支援」です。

住まいに関するサービスとしては、グループホームでの共同生活を支える「共同生活援助(グループホーム)」がよく利用されています。
少人数で暮らしながら、夜間を中心に生活上の相談や必要な介助を受ける形で、「いきなり一人暮らしは不安だけれど、家族以外の場所で暮らしたい」というニーズに応えています。

また、施設やグループホームを出て一人暮らしを始めた方を対象に、定期的な訪問や緊急時の連絡対応を行う「自立生活援助」というサービスもあります。
生活のトラブルや不安を、誰かと一緒に整理しながら、自立した暮らしを続けていくための支援です。

5. 子ども(障害児)向けサービスのイメージ

18歳未満の子どもについては、「障害児通所支援」と「障害児入所支援」という枠組みがあります。

未就学の子どもを対象とした「児童発達支援」では、日常生活の基本的な動作やコミュニケーション、対人関係などについて、個別や集団での療育が行われます。
保護者への相談支援も含めて、就学前の時期を支える役割があります。

小学生から高校生までの子どもが放課後や長期休暇中に利用する「放課後等デイサービス」は、生活スキルの練習や学習支援、社会経験、遊びや余暇活動を通じて、学校生活と家庭生活の間をつなぐ場として機能しています。

より重い障害がある場合には、施設に入所して生活全般の支援を受ける「障害児入所支援」があります。
入所期間は長期の場合もあれば、ショートステイのように短期間の場合もあり、子どもの状態や家庭の事情に応じて利用方法が選ばれます。
医療的ケアの必要性の有無に応じて、「福祉型」「医療型」という区分があります。

こうした子ども向けのサービスも、大人と同じように「原則1割負担+月ごとの上限額」という考え方で自己負担が決まります。
3〜5歳の一部のサービスについては、幼児教育・保育の無償化の流れのなかで負担が軽くなっている部分もありますので、具体的な金額は自治体の窓口で確認されると安心です。

6. 地域生活支援事業と、「手帳がなくても相談してよい」支援

ここまでご紹介してきたのは、いわゆる「障害福祉サービス(自立支援給付)」が中心でしたが、もう一つの柱が「地域生活支援事業」です。

たとえば、家族の就労や病気などで一時的に介護が難しいときに、日中の一定時間、施設などで見守りや活動の場を提供する「日中一時支援」という仕組みがあります。
本人にとっては日中の居場所になり、家族にとってはほっと一息つける時間を確保するための制度です。

「地域活動支援センター」は、創作活動や軽作業、交流、相談などを通じて、「居場所」として機能する施設です。
毎日通う人もいれば、週に数回だけ顔を出す人もいて、その人のペースに合わせた利用ができます。

屋外の移動が難しい方が通院や外出をするときに、付き添いを受けられる「移動支援」、手話通訳や要約筆記などの「意思疎通支援」も、地域生活支援事業の中で位置づけられています。

これらの事業は、市区町村ごとに中身や対象者の基準が異なります。
なかには、障害者手帳がなくても、医師の診断書や専門職の意見にもとづき、「支援が必要」と市区町村が判断すれば利用できるケースもあります。

発達障害のグレーゾーンと言われている方、診断はあるけれど手帳までは取得していない方などは、まずこの地域生活支援事業や自立支援医療の対象になり得るかどうかを、自治体に尋ねてみると良いかもしれません。

7. 医療費を軽くする制度と障害福祉サービスの関係

障害福祉サービスと並行して、医療費そのものを軽くするための制度もあります。

精神科や心療内科への通院が続いている場合には、自立支援医療(精神通院医療)が代表的です。
うつ病や双極性障害、統合失調症、てんかん、発達障害などの診断があり、通院が継続して必要とされる場合、精神科の診察料や薬局での薬代、精神科デイケア、精神科訪問看護などの自己負担が、原則1割に軽減されます。
さらに、所得に応じて月ごとの負担上限額が決められるため、医療費が高額になりやすい方にとっては、とても重要な制度です。多くの自治体で、障害者手帳がなくても、医師の診断書などを添えて申請する形になっています。

身体障害がある方やお子さんの手術などについては、自立支援医療(更生医療・育成医療)が使える場合があります。
こちらも、障害を軽くするための医療に限って自己負担を抑える仕組みです。

指定難病の診断を受けた方については、難病医療費助成制度があり、こちらも所得や病状に応じて、月ごとの自己負担上限額が設定されます。

加えて、市区町村が独自に行っている「障害者医療費助成制度」(名称は自治体によってさまざま)もあります。
対象となる障害の程度や所得制限、助成の範囲(外来のみか、入院も含むかなど)は自治体ごとに違いますが、対象になれば、健康保険での自己負担の一部を市区町村が肩代わりしてくれます。

これらの制度と障害福祉サービスの自己負担は、それぞれ別の仕組みで動いています。
実際には、複数の制度を組み合わせることで負担がかなり軽くなるケースもありますので、「どこまで利用できるのか」「どう組み合わせられるのか」は、自治体の窓口やソーシャルワーカーと一緒に確認していくと安心です。

8. 利用までの大まかな流れ

実際にサービスを使ってみたいと思ったとき、手続きの全体像は次のようなイメージです。

最初の一歩は、市区町村の障害福祉課などへの相談です。
電話で予約を入れ、本人や家族の状況を伝えたうえで、窓口で面談を行います。
すでに病院やクリニックに通っている場合は、主治医や医療ソーシャルワーカーから紹介してもらうことも多いです。

面談では、日常生活で困っていること、家族の状況、これからどうしていきたいかなどを整理していきます。
必要に応じて、医師の意見書や診断書の提出を依頼されることもあります。

多くのサービスでは、「障害支援区分」と呼ばれる支援の必要度の認定を受ける必要があります。
調査員による聞き取りや観察、医師の意見をもとに、区分1〜6(必要度が高くなるほど数字も大きくなります)のいずれかが判定されます。

そのうえで、「どのサービスを、どの程度利用するか」をまとめた「サービス等利用計画」が作られます。
これは、障害者の場合は指定特定相談支援事業所、障害児の場合は指定障害児相談支援事業所が作成します。
近くに相談支援事業所がない場合などには、家族が自分で計画(セルフプラン)を作成するケースもあります。

市区町村は、こうした情報をもとに支給内容を決定し、「障害福祉サービス受給者証」を交付します。
この受給者証に、利用できるサービスの種類や量、自己負担の上限額などが記載されます。

受給者証を受け取ったら、希望する事業所(デイサービス、就労支援事業所、グループホームなど)と個別に契約を結び、実際の利用が始まります。
利用開始後も、一定の期間ごとに計画の見直し(モニタリング)が行われ、生活状況の変化に合わせて、サービスの内容や量を調整していきます。

9. 迷ったときに踏み出したい、小さな一歩

ここまで読み進めていただくと、「あれもこれもあって余計に頭がいっぱいになった」という感想を持たれたかもしれません。

ただ、実際の手続きでは、これらをすべて自分だけで理解しておく必要はありません。
制度を使いこなしていくために、相談支援専門員や自治体の担当者、病院のソーシャルワーカーといった専門職が存在しています。

もし何か心当たりがあれば、次のどれか一つだけでも、動いてみてください。

  • 通院している病院やクリニックで、「障害福祉サービスや自立支援医療の対象になりますか?」と聞いてみる
  • 市区町村の障害福祉課に電話して、「○○という診断があるが、使える制度があるか知りたい」と相談してみる
  • 近くの相談支援事業所や基幹相談支援センターを探し、「まず話だけ聞いてほしい」と連絡してみる

障害福祉サービスは、制度として見るとたしかに複雑です。
ただ、その目的はシンプルで、「ご本人とご家族の生活が、少しでも楽になるように」という一点に尽きます。

この記事が、その制度に向き合うときの小さな道しるべになれば幸いです。
「わたしたちの場合はどう考えればいいのだろう」──そんな迷いが生まれたときには、状況を一緒に整理してくれる窓口や専門職が、必ずどこかにいます。

不安が少しでも軽くなるように、できる範囲から一歩だけ踏み出してみてください。
それでも難しいと感じるときは、どうぞ遠慮なくご相談ください。
今の状況に合わせて、落ち着きながら一緒に考えていけたらと思います。

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