相続した実家や土地の名義を、亡くなったご両親のままにしていませんか。「いつかやればいい」と後回しにしていると、過料(かりょう)という金銭的なペナルティの対象になる可能性があります。
まずは60秒の動画で全体像をご覧ください。
相続登記は2024年4月から「義務」になりました
これまで相続登記(不動産の名義変更)に期限はなく、長年放置されるケースが少なくありませんでした。所有者が分からない土地が全国で増え、公共事業や再開発の妨げになっていることから、法律が改正されました。
2024年(令和6年)4月1日以降、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請することが義務づけられています(不動産登記法76条の2)。正当な理由がないのに期限内に申請しなかった場合、10万円以下の過料の対象となります。
過料は前科がつくものではありませんが、行政上のペナルティです。実務上は、いきなり科されるわけではなく、法務局からの催告に応じない場合に裁判所へ通知される、という運用が想定されています。
見落としがち:法改正前の相続にもさかのぼって適用されます
「うちの相続はもっと前だから関係ない」と思われがちですが、そうではありません。2024年3月31日以前に発生していた相続で、まだ登記が済んでいない不動産も義務の対象です。
この場合の期限は、2027年(令和9年)3月31日です(不動産を相続したことを知ったのが2024年4月以降なら、その日から3年以内)。祖父母や親の名義のまま放置されている土地・建物がある方は、残り時間がわずかです。
放置すると何が起きるのか
1. 相続人がねずみ算式に増える
名義を放置している間に次の相続(数次相続)が起きると、遺産分割の話し合いに参加すべき人が一気に増えます。今なら兄弟3人で済む話が、10年後には甥・姪を含めた十数人になり、一人でも連絡が取れなくなると手続きが止まります。
2. 売却・担保設定ができない
名義が亡くなった方のままでは、その不動産を売ることも、担保に入れて融資を受けることもできません。いざ「介護費用のために実家を売りたい」というときに動けません。
3. 相続人の一人が認知症になると、話し合いが止まる
時間がたつうちに相続人の一人が認知症になると、その人は遺産分割の話し合いに加われません。家庭裁判所で成年後見人などを選んでもらう必要があり、時間も費用もかかります。また、共有のままだと、相続人の一人が自分の持分だけを他人に売ってしまうこともあり得ます。

4. 過料のリスク
前述のとおり、正当な理由なく期限を過ぎると10万円以下の過料の対象です。
連絡のつかない相続人がいるとき
相続人の中に、家を出たまま戻る見込みがなく、連絡もつかない人がいると、その人を抜きにして遺産分割の話し合いをまとめることはできません。この場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」を選んでもらい、その管理人が家庭裁判所の許可(権限外行為許可)を得たうえで、不在者に代わって遺産分割に加わります。
申立ては、不在者の従来の住所地(または居所地)の家庭裁判所に行います。費用は収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。財産の管理に必要な費用(管理人の報酬を含む)が足りなくなりそうなときは、申立てをした人が予納金を求められることもあります。
名義を放置している間に相続人が増えるほど、こうした人が含まれるおそれも高くなります。
空き家を売るなら、税金の特例の期限にも注意
亡くなった親が一人で住んでいた家を相続して売るときは、一定の要件を満たせば、売った利益(譲渡所得)から最高3,000万円を差し引ける特例があります。2024年(令和6年)1月1日以後の売却で、相続人が3人以上のときは2,000万円までです。主な要件は次のとおりです。
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建てられた家で、区分所有建物(マンションなど)の登記がされていないこと
- 相続の直前に、亡くなった人のほかに住んでいた人がいなかったこと
- 売った金額が1億円以下であること
- 耐震基準を満たすようにするか、取り壊して売ること(2024年1月1日以後の売却は、翌年2月15日までに買主が耐震改修や取壊しをした場合も対象)
売る期限は、相続の開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までです。また、この特例自体も、2026年10月時点では2027年(令和9年)12月31日までの売却が対象とされています。遺産分割や相続登記が長引くと、期限に間に合わないことがあります。
特例を受けるには、市区町村から「被相続人居住用家屋等確認書」をもらい、確定申告をする必要があります。使えるかどうかの判断や税額の計算は、税理士にご相談ください。

相続登記の進め方
大まかな流れは次のとおりです。
- 戸籍を集めて相続人を確定する … 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の現在戸籍などを収集します。ここが最も手間のかかる部分です。本籍地を何度も移している、養子縁組や離婚・再婚がある、といった場合は、相続人を確かめるのに時間がかかります。自宅のほかに私道の持分や小さな土地がないかも確かめます。2026年2月からは、亡くなった方の名義の不動産を一覧にした証明書(所有不動産記録証明書)を法務局で取れるようになりました(登記の住所・氏名が古いままだと出てこないことがあります)。
- 遺産分割協議、または法定相続分で分ける … 遺言があればそれに従います。なければ相続人全員で誰が不動産を取得するかを話し合い、遺産分割協議書を作成します。
- 登記を申請する … 法務局に必要書類を提出します。登録免許税は固定資産評価額の0.4%が原則です。ただし、価額100万円以下の土地は登録免許税が非課税となる措置があります(租税特別措置法84条の2の3第2項、2027年3月31日までの登記が対象)。
すぐに遺産分割がまとまらないとき:「相続人申告登記」
期限までに遺産分割の話し合いが終わりそうにない場合は、相続人申告登記(不動産登記法76条の3)という簡易な手続きがあります。「自分が相続人である」ことを法務局に申し出るもので、これをしておけば申請義務を果たしたものとして扱われ、過料を回避できます。手数料はかかりません。ただし、これは正式な名義変更ではないため、最終的には通常の相続登記が必要です。
また、相続人申告登記をしても、その不動産を売ったり、担保に入れて借入れをしたりはできません。申告登記のあとで遺産分割がまとまったら、その日から3年以内に、分割の内容どおりの相続登記をする必要があります(不動産登記法76条の3第4項)。
登記のあとで引っ越したら、住所の変更登記も必要です
2026年(令和8年)4月1日から、不動産の所有者として登記されている人は、住所や氏名が変わった日から2年以内に変更の登記をすることが義務になりました(不動産登記法76条の5)。正当な理由がないのに怠ると、5万円以下の過料の対象です(同法164条2項)。ただし、法務局からの催告に応じなかった場合に裁判所へ通知される扱いとされています。
2026年3月31日以前に住所などが変わり、まだ登記していないものは、2028年(令和10年)3月31日までに登記する必要があります。相続登記をしたあとで相続人が引っ越したときも、この義務がかかります。

相続税がかかる場合は、10か月の期限もあわせて
相続税の申告と納税の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、原則としてこの期限までに遺産分割がまとまっていることが前提です(間に合わないときは「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておき、あとで分割したときに適用を受ける方法があります)。誰が自宅を相続するかで特例が使えるかどうかが変わるため、登記の段取りは税理士とも相談しながら進めます。
よくある質問
- 相続登記は自分でできますか?
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できないわけではありませんが、戸籍の収集や遺産分割協議書の作成、登記申請書の作成には専門知識が必要です。相続人が多い、不動産が複数ある、遠方の戸籍が必要、といったケースでは司法書士へのご依頼をおすすめします。
- 費用はどれくらいかかりますか?
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登録免許税(原則、評価額の0.4%)+司法書士報酬+戸籍等の実費です。事案により幅がありますので、無料のお見積りをご利用ください。
- 相続放棄をした場合も登記義務はありますか?
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家庭裁判所で相続放棄が受理されれば、その不動産についての相続登記の義務はありません。ただし、放棄には「自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」という別の期限があります(民法915条)。
- 2027年3月末を過ぎたら必ず過料を取られますか?
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必ずではありません。「正当な理由」がある場合や、法務局の催告に応じて登記した場合は過料の対象外です。ただし放置は避け、早めにご相談ください。
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出典・参考
- 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 法務省「相続登記の登録免許税の免税措置について」
- 不動産登記法76条の2・76条の3/租税特別措置法84条の2の3
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