法務局から「長期間相続登記等がされていないことの通知」が届いた方へ。国が作った「家系図」を無料で活用して、賢く相続手続きを終わらせる方法

「法務局から突然、茶封筒が届いて驚かれませんでしたか?」

ある日突然、法務局から「長期間相続登記等がされていないことの通知(お知らせ)」という書類が届き、不安に感じてこのブログにたどり着いた方もいらっしゃるかもしれません

また、実家の登記簿(登記事項証明書)を取得してみたら、甲区(所有権に関する事項)に『長期相続登記等未了土地』という見慣れない記載が入っていて、「これはいったい何?」と疑問に思った方もいるでしょう。

これは、国(法務局)が公共事業などの公益性の高い事業をスムーズに進めるために調査を行った結果、亡くなられてから10年以上、名義変更(相続登記)がされていない土地が見つかったというお知らせです

「国から目をつけられたのではないか」「何か罰金があるのではないか」とドキッとされるかもしれませんが、実はこれ、面倒な戸籍集めを省略して相続登記ができる「お得な切符」かもしれません。

この通知が持つ意味と、法務局が用意してくれた情報を活用して、賢く手続きを進める方法について、専門家の視点から分かりやすく解説します。

目次

1. なぜ、この通知が届いたのか?(調査の背景)

「心当たりがないのに、なぜ?」と思われるかもしれませんが、これは昨今ニュースでも話題になる「所有者不明土地問題」への対策の一環です。

■ 何の調査?:公共事業をスムーズに進めるため
道路の拡張や公園の整備、災害復旧工事など、私たちの生活に必要な公共事業を行う際、その土地の持ち主が分からないと工事が進みません。 そのため、国(法務局)が公共事業の起業者などからの求めに応じて、「持ち主がはっきりしない土地」について職権で調査を行っているのです。

■ 対象となる土地:亡くなってから10年以上放置された土地
すべての土地が調査されるわけではありません。 調査の対象となるのは、登記簿上の所有者が亡くなってから「10年以上」、相続登記(名義変更)がされずに放置されている土地です(法律上は「特定登記未了土地」と呼ばれます)。

■ 調査の方法:法務局が戸籍を調べてあなたを見つけました
「私の連絡先なんて知らないはずなのに…」と不思議に思うかもしれません。 実は、法務局は職権(法律上の権限)を使って、亡くなった方の戸籍を出生から死亡までさかのぼり、さらにその子供や孫の戸籍まで調査しています。 そうして家系図を読み解き、「あなたが相続人の一人である」と特定したうえで、今回の通知を送っているのです。

2. 「なぜ私に?」他にも相続人がいるはずなのに…(通知のルール)

「私には兄や姉がいるのに、どうして私宛てに届いたの?」「私が責任を持ってやれってこと?」と不安やプレッシャーを感じたかもしれません。

ここが一番多い疑問なのですが、実はこの通知、相続人全員に届くわけではありません。「相続人のうちのひとり(代表者)」を選んで、その一人だけに送られるルールになっています 。

法務局の運用ルールでは、以下の優先順位で通知する相手を選定しています

  1. 固定資産税を払っている人(課税台帳上の所有者又は納税義務者)
  2. その土地に住んでいる人
  3. 近くに住んでいる人(その土地と同じ都道府県内の居住者)
  4. その他の人

つまり、あなたが通知を受け取ったということは、他のご親族はこの事実をまだ知らない可能性が高いです。

決して「あなた一人ですべて解決しなければならない」という命令ではありません。この通知をきっかけに、「法務局からこんな手紙が来たんだけど…」と、ごきょうだい・ご親族に連絡を取るための「話のきっかけ」にしてみてください。

3. 登記簿に入れられた「長期相続登記等未了土地」という記載

今回の調査で「相続登記がされていない」と判明した土地の登記簿(甲区)には、法務局の登記官の権限(職権)で、「長期相続登記等未了土地」という文字が書き込まれます 。

これは「付記登記(ふきとうき)」と呼ばれる形式で、所有者の住所や氏名の下にメモ書きのように追加されます

「勝手に書き込まれてしまった!」と驚かれるかもしれませんが、この記載自体に何か罰則があるわけではありません 。 しかし、これは公の記録として「この土地は長年、相続の手続きが放置されていますよ」という状態が、誰の目にも明らかになってしまっていることを意味します 。

いわば、国から「権利関係が不明確な土地」という付箋を貼られた状態とも言えますので、やはり早めの対処が望ましいでしょう。

4. 【最大のメリット】国の調査結果「法定相続人情報」がタダでもらえる!

通常、相続手続きを行うには、亡くなった方の「生まれてから死ぬまでの全ての戸籍謄本」をはじめ、相続人全員の戸籍など、膨大な書類を集める必要があり、これが大変な手間と費用になります。

しかし、今回通知が届いた方(調査済みの案件)については、法務局が調査の過程ですでに作成した「法定相続人情報(相続人の一覧図)」という書類を利用することができるのです。

これを使えば、以下の3つの大きなメリットがあります。

■ メリット① 手間削減:戸籍の束を集める必要なし!
相続登記を申請する際、この情報の「作成番号」(通知書に記載されています)を提供すれば、通常必要となる戸籍謄本等の束を提出する必要がなくなります。 一番大変な「戸籍集め」の作業がパスできるため、手続きのハードルがグッと下がります。

■ メリット② 費用ゼロ:手数料はかかりません
この「法定相続人情報を出力した書面」は、行政サービスとして提供されるため、なんと無料でもらうことができます。 通常、自分で戸籍を集めると数千円~数万円かかることもザラですので、金銭的にも大きな助けになります。

■ メリット③ 遠方でもOK:最寄りの法務局で受け取れます
「実家が遠いから手続きに行けない…」という方もご安心ください。 令和4年10月から運用が変わり、対象の土地が遠方であっても、全国どこの法務局でも(お近くの法務局で)情報の書面を受け取れるようになりました。また、郵送での請求も可能です。

5. 【注意点】できないこと・やるべきこと

非常に便利な「法定相続人情報」ですが、万能ではありません。実務上、勘違いされやすいポイントが2つあります。

■ 注意点① 銀行の手続きには使えません
ここが一番の注意点です。今回もらえる「法定相続人情報」は、あくまで不動産登記の申請に利用することを想定して作られたものです 。 似たような名前で「法定相続情報証明制度(一覧図の写し)」という制度がありますが、それとは別物です。 そのため、現時点では銀行の預金解約や株式の名義変更などの手続きには、証明書として使えないケースがほとんどです 。預金の手続きには、別途戸籍謄本等が必要になる可能性があることを覚えておいてください。

■ 注意点② 「土地がどこにあるか分からない」場合
「通知におじいちゃんの名義の山林が書いてあるけど、見たことも行ったこともない…」 相続した土地が遠方や山林・農地で、場所さえ分からないというご相談も非常に多いです 。

その場合、通知書に記載されている「不動産所在事項」や「不動産番号」を手掛かりに調査をする必要があります 。 具体的には、以下のツールを使って場所を特定していきます。

  • 地図での調査:法務局の公図(地図)やブルーマップ、Googleマップなどのオンラインサービスなどを活用します 。
  • 資産価値の確認:場所だけでなく、市役所で「固定資産評価証明書」などを取得して、その土地にどれくらいの価値があるのか、固定資産税はいくらかかるのかを確認することも重要です 。

「自分では調べ方が分からない」という場合は、これらの調査も含めて司法書士にお任せいただくことが可能です。

6. 放置はNG!相続登記義務化との関係

「国が調べて通知をくれたんだから、これで一安心だ」 そう思ってしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、それは大きな間違いです。この通知は解決のお知らせではなく、あくまで「あなたの土地は、登記がされていない状態ですよ」という現状のお知らせに過ぎません。

通知を見て見ぬふりをして、そのまま放置してはいけない最大の理由。それは法律が変わったからです。

■ 令和6年4月から、相続登記は「義務」になりました
これまでは「やるもやらないも自由」だった相続登記ですが、令和6年(2024年)4月1日から法律上の義務となりました 。 もはや「知らなかった」「面倒だから」では済まされない時代になったのです。

■ 「3年以内」に手続きしないと罰則も…
具体的には、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません 。 もし、正当な理由なくこれを放置し続けると、10万円以下の過料(かりょう)という、いわゆる罰金のような金銭的なペナルティを科される可能性があります。

なお、この法律は「過去の相続」にも適用されます 。 今回の通知を受け取ったということは、「自分が相続人であること」や「登記がされていないこと」を明確に知ったことになります。「いつかやろう」と先延ばしにせず、この通知をきっかけに早めに手続きをスタートさせましょう。

まとめ・シアエスト司法書士事務所からのアドバイス

「役所からの通知」と聞くと、何か悪い知らせかと身構えてしまうかもしれません。 しかし、今回の通知は、本来ならご自身でやらなければならない大変な「戸籍集め」という工程を、国が代わりに済ませてくれた「手続きショートカット券」でもあります 。

お手元に届いた茶封筒(通知書)は、絶対に捨てずに保管してください

「何から手を付ければいいか分からない」「他の相続人と疎遠で連絡しづらい」という場合でも、その通知書をそのまま当事務所へお持ちいただければ大丈夫です。

面倒な「法定相続人情報」の取得手続き から、相続人皆様での話し合い(遺産分割協議書)の作成 、そして最後の名義変更(相続登記)まで、私が親身になってスムーズな解決をサポートいたします。

放置してしまうと、権利関係がさらに複雑になり、将来お子様の代に大きな負担を残すことになります 。

せっかくのこの機会に、肩の荷を下ろしてスッキリさせませんか?
まずはお気軽にご相談ください。

代表司法書士・行政書士 今井 康介

西宮・芦屋・宝塚・尼崎エリアで司法書士・行政書士をお探しなら、シアエスト司法書士・行政書士事務所へお任せください。

相続・遺言から不動産登記・会社設立まで、幅広く対応いたします。 お客様の想いに寄り添い、迅速・丁寧な法務サービスをご提供します。

よかったらシェアしてください!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次