
※本記事は2026年10月時点の情報に基づいて解説しています。
「兄が、父の家とアパートの受託者になる予定です。管理は大変なので、兄に毎月いくらか渡したいと父は言っています。でも、それって税金はどうなるんでしょう。それに、正直に言うと、妹の私は少しもやもやしていて……。」
家族信託のご相談では、このように「受託者になるお子さんに、お礼をしたほうがいいのか」というお話がよく出てきます。
管理を引き受けるお子さんの負担を考えれば、何かしら報いたいと思うのは自然なことです。一方で、ほかのお子さんの気持ちも、無視はできません。
先に結論をお伝えします。
- 受託者への報酬は、信託契約に「報酬を受け取れる」と書いておけば、払うことができます。 書いていなければ、原則として受け取れません。
- 受け取ったお子さんには、所得税がかかる可能性があります。 金額やお子さんの働き方によっては、確定申告が必要です。
- 「いくらが妥当か」に、決まった相場はありません。 大切なのは、仕事の中身に見合った金額を、きょうだい皆が納得できる形で契約に書いておくことです。
なお、この記事でお話しするのは、受託者になるご家族への報酬です。家族信託を始めるときに司法書士などの専門家へお支払いする費用とは、別のお話です。
報酬は「契約に書いてあるとき」だけ受け取れます
信託法のルール
家族信託では、親(委託者)が財産をお子さん(受託者)に託し、お子さんがその財産を管理します。家の修繕の手配、入居者とのやりとり、預金の出し入れ、記録づくり。続けていくと、思った以上に手間がかかります。
それでも、受託者が信託財産から報酬を受け取れるのは、信託契約に「受託者は報酬を受けることができる」という定めがある場合に限られます(信託法54条1項)。
つまり、何も書いていなければ、受託者は「無報酬」が原則です。あとから「大変だったから」と、信託の財産から自分にお金を払うことはできません。
「報酬」と「かかった費用」は別もの
ここで混同しやすいのが、費用です。
固定資産税や修繕費、実家へ通う交通費など、信託の管理に必要なお金を受託者が立て替えた場合は、報酬の定めがなくても、信託財産から返してもらうことができます(信託法48条1項。契約で別の定めをしている場合を除きます)。
報酬は「手間に対するお礼」、費用は「実際に出ていったお金の精算」。この2つは分けて考えてください。
そもそも、報酬は払ったほうがいいのでしょうか
答えは、ご家族によって違います。
報酬を考えたほうがよい場面
- 賃貸アパートなど、管理の手間がかかる財産を信託する
- 信託の期間が、10年、20年と長くなりそう
- 受託者のお子さんが、遠方から通って管理する
- ほかのきょうだいは、管理にほとんど関わらない
こうした場合、無報酬のままだと、受託者の負担感が年々ふくらみ、「自分ばかりが苦労している」という気持ちが積もっていきがちです。
報酬なしでもよい場面
- 信託するのは、自宅と、生活費のための預金くらい
- 受託者のお子さんが親と同居していて、日常の延長で管理できる
- 将来の相続で、受託者のお子さんが多めに受け取ることが決まっている
報酬があってもなくても、責任は同じ
誤解されやすいのですが、報酬をもらわないからといって、受託者の責任が軽くなるわけではありません。 信託法は、受託者に「善良な管理者の注意」をもって信託事務を処理するよう求めていますが、報酬の有無でこの義務を分けてはいません(信託法29条2項。契約で別に定めた場合を除きます)。
「無報酬だから、多少いいかげんでもいい」ということにはならない点は、受託者になるお子さんにも知っておいていただきたいところです。
報酬を受け取った子どもに、税金はかかる?
所得税の対象になります
受託者のお子さんが受け取った報酬は、お子さんの所得として、所得税の対象になります。
所得の種類については、国税庁の資料で「家族の受託者が受け取る報酬」を名指しで説明したものは、確認できた範囲では見当たりませんでした。弁護士による解説では、雑所得として扱われると説明されています。
国税庁の通達では、ある活動が「事業所得」になるかどうかは、社会通念上「事業」と呼べる程度で行っているかどうかで判定するとされています(所得税基本通達35-2の注)。親の財産を一家族分だけ管理するという家族信託の受託者であれば、通常は事業とまではいえず、雑所得と考えるのが自然でしょう。ただし、最終的な判断は個別の事情によりますので、税理士にご確認ください。
確定申告がいらない場合もあります
お子さんが会社員で、勤め先1か所から給与を受け取り、年末調整を受けている場合は、給与以外の所得の合計が年20万円以下なら、所得税の確定申告は不要です(所得税法121条1項1号)。
ここでいう「所得」は、受け取った報酬から、その仕事のためにかかった経費を引いた金額です。
ただし、所得税の確定申告が不要でも、住民税については別に申告が必要になる場合があります。お住まいの市区町村にご確認ください。
報酬を払う親の側は?
報酬は、信託財産、つまり親の財産から支払われます。
アパートなど家賃収入のある財産を信託している場合、「報酬を親の不動産収入の経費にできるのでは」と考える方もいらっしゃいます。ただ、受託者の仕事には、賃貸の管理だけでなく、親御さんの生活のためのお金の管理なども含まれることが多く、報酬をそのまま経費にできるとは限りません。 経費にしたい場合は、契約の段階から税理士に相談しておく必要があります。
さらに、受託者のお子さんが親と生計を一にしている(同居して家計が同じなど)場合は、親族に払う対価についての所得税の特別なルール(所得税法56条)が関係して、扱いが変わる可能性があります。税理士にご確認ください。
高すぎる報酬は、別の問題を生みます
仕事の中身に比べて明らかに高い報酬は、「実質的には親から子への贈与ではないか」と見られるおそれがあると指摘されています。金額は、仕事に見合った範囲にしておくのが安心です。
本当に気をつけたいのは「きょうだいの気持ち」です
税金以上に大切なのが、ほかのお子さんの気持ちです。
報酬は親の財産から出ていきます。ということは、将来、きょうだいで分ける財産が、その分だけ減るということです。
月3万円でも、10年続けば360万円です。ほかのお子さんから見ると、「お兄ちゃんだけ、毎月お金を受け取っている」と映ることがあります。毎月の細かな手間は、そばで見ていないと分かりにくいものです。
このもやもやが、親が亡くなった後の相続の話し合いで、一気に表に出てくることがあります。「あの報酬は高すぎた」「本当にそれだけ働いていたのか」。そうなると、話し合いは難しくなります。
争いを防ぐための3つの工夫
① 決めるときに、きょうだい皆に知ってもらう
報酬を払うかどうか、いくらにするかは、親御さんが元気なうちに、きょうだいがそろった場で話しておくのがいちばんです。親御さんご自身の口から「お兄ちゃんにはこれだけ手間をかけるから」と伝えてもらうと、受け止め方がまったく違います。
② 金額の「理由」も残しておく
「なぜこの金額なのか」を、契約書や話し合いのメモに残しておきます。後から見返したときの説明になります。
③ 管理の様子を、定期的に報告する
受託者には、信託財産の状況を記録し、報告する義務があります。報酬を受け取るなら、なおのこと、ほかのきょうだいにも見える形で報告しておくと、信頼につながります。
報酬の決め方:契約書に何を書くか
金額か、計算のしかたを書く
信託法では、契約に報酬の額や計算方法が書いてあればそれに従い、書いていなければ「相当の額」になるとされています(信託法54条2項)。そして、額の定めがない場合、受託者は受益者に、報酬の額とその根拠を知らせなければなりません(同条3項)。
「相当の額」は人によって受け止め方が違い、もめごとの種になりがちです。契約の中で、金額か計算のしかたまで決めておくことをお勧めします。
決め方には、たとえば次のような形があります。
- 毎月(毎年)決まった金額
- 家賃収入など、信託から入るお金の一定割合
- 売却や大きな修繕など、特別な仕事があったときに、その都度いくら
「いくらが妥当か」の考え方
家族の受託者の報酬に、法律や公的な基準で決まった相場はありません。考える目安としては、次のような点があります。
- どのくらいの手間がかかるか(月に何時間くらいか)
- 同じ仕事を、管理会社などに頼んだらいくらかかるか
- 信託財産から、無理なく払い続けられる額か
- ほかのきょうだいが「それなら仕方ない」と思える額か
金額そのものより、「この金額で、皆が納得している」状態をつくることのほうが、ずっと大切です。
あとから変えるのは、簡単ではありません
契約の内容を変えることを「信託の変更」といい、原則として、委託者・受託者・受益者の合意で行います(信託法149条1項)。親御さんが委託者と受益者を兼ねている場合、親御さんの判断能力が衰えてしまうと、この合意ができなくなるおそれがあります。
ですから、報酬のことは最初の契約の段階で決めておくか、事情が変わったときに誰がどう変更できるかを、契約に書いておくことが大切です。
成年後見との違い
法定後見の場合、後見人の報酬は家庭裁判所が決めます。家族信託では、報酬をご家族で決められる一方、決める責任もご家族にあります。
なお、成年後見制度は、2026年6月に成立した改正法(民法等の一部を改正する法律、令和8年法律第45号。6月24日公布)で大きく見直されることになりました。成年後見に関する部分は、公布の日から2年6か月以内に施行される予定です。
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「報酬を受け取ると、信託の仕事を商売にしたことになる?」
信託の引受けを「営業」として行うには、国の免許などが必要です(信託業法2条1項・3条)。家族の中で、親の信託を一度引き受けて報酬を受け取る、という形であれば、通常は営業には当たらないと考えられています。ただ、この点は整理されていない部分もあるため、高額な報酬や、複数の家族の受託者を引き受けるような形は避けたほうが安全です。
当事務所で受託者の報酬をご相談いただくとき
当事務所では、家族信託の設計をお手伝いする中で、受託者の報酬についても次のような点を一緒に確認しています。
- 信託する財産の種類と、管理にどのくらい手間がかかりそうか
- 受託者になるお子さんと、ほかのお子さんの関わり方
- 報酬を払う場合、払わない場合、それぞれの将来の相続への影響
- 報酬の決め方(金額か、割合か)と、変更が必要になったときの方法
- 税金について、税理士への確認が必要な点
税金の具体的な計算や申告については、税理士と連携してご案内しています。
まとめ
- 受託者への報酬は、信託契約に定めがある場合に限り受け取れます(信託法54条)。立て替えた費用の精算とは別です
- 報酬は受託者のお子さんの所得として、所得税の対象になります。会社員で給与以外の所得が年20万円以下なら、所得税の確定申告は不要です
- 報酬を親の不動産収入の経費にできるとは限りません。親と生計を一にするお子さんの場合は、扱いがさらに変わることがあるため、税理士に確認を
- 相場はありません。仕事の中身に見合った金額か計算方法を、最初の契約で決めておくことが大切です
- いちばんの落とし穴は、きょうだいの不公平感です。決めるときに皆で話し、管理の様子を報告し続けることが、争いの予防になります
「うちの場合、報酬は払ったほうがいいのか」「ほかの子どもたちにどう説明すればいいのか」。そうしたご相談を、西宮市・阪神間の皆さまからお受けしています。どうぞお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
- 家族信託の受託者は、報酬をもらえますか?
-
信託契約に「受託者は報酬を受けることができる」という定めがあれば、もらえます。定めがなければ、原則として無報酬です(信託法54条1項)。
- 受託者がもらった報酬に、税金はかかりますか?
-
受託者の所得として、所得税の対象になります。会社員で、勤め先1か所から給与を受けて年末調整を受けている方は、給与以外の所得が年20万円以下なら所得税の確定申告は不要です。住民税は別に申告が必要な場合があります。
- 報酬の相場はいくらですか?
-
家族の受託者の報酬に、決まった相場はありません。管理の手間、同じ仕事を外部に頼んだ場合の費用、信託財産から払い続けられるか、ほかのご家族が納得できるか、といった点から考えます。
- 報酬を払わないと、受託者の責任は軽くなりますか?
-
いいえ。信託法は、報酬の有無にかかわらず、原則として受託者に善良な管理者の注意をもって管理することを求めています。
- 信託を始めた後から、報酬を決めることはできますか?
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信託の変更によって可能ですが、原則として委託者・受託者・受益者の合意が必要です。親御さんの判断能力が衰えると合意が難しくなるため、最初の契約で決めておくことをお勧めします。
西宮・阪神間の家族信託は、シアエスト司法書士・行政書士事務所へ
当事務所は阪急西宮北口駅から徒歩3分。西宮市を中心に、芦屋市・宝塚市・尼崎市・神戸市など阪神間で、家族信託・相続・遺言・成年後見のご相談を承っています。
「受託者になる子どもに、報酬を払ったほうがいいのか」「きょうだいに不公平だと思われない決め方は」。そう思われたときが、ご相談のタイミングです。まずはお気軽にお問い合わせください(TEL 0798-31-5930)。
出典・参考
- 信託法29条・48条・54条・149条
- 所得税法56条・121条
- 所得税基本通達35-2(業務に係る雑所得の例示)
- 信託業法2条・3条
- 法務省「「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」

