認知症で口座凍結はなぜわかる?銀行にばれる理由と凍結後の対処・5つの備え

※本記事は2026年10月時点の情報に基づいて解説しています。

目次

はじめに

「親が認知症になったら、銀行口座はどうなるのか?」「そもそも、なぜ銀行に分かってしまうのか?」

親の介護が始まると、こうした疑問や不安が一気に出てきます。

先に結論をお伝えします。認知症と診断されたことが、病院や役所から銀行へ自動的に知らされる仕組みは、一般的にはありません。口座の取引が止まるきっかけは、窓口でのやりとり、ご家族からの申出、取引の様子など、銀行が「ご本人の判断能力に問題があるかもしれない」と気づいたときです。

「キャッシュカードがあるから、しばらくは大丈夫」と考えがちですが、実はこれがいちばんトラブルにつながりやすい考え方です。認知症と銀行口座の問題は、法律、銀行の内部の運用、ご家族の状況が重なり合うため、想像よりずっと早く、突然表に出てくることがあります。

この記事では、司法書士の立場から、「実際に何が起きるのか」「凍結されたらどうすればよいのか」「どうすれば困らずに済むのか」を、銀行口座に絞って整理しました。

【2026年の法改正について】2026年6月24日に、成年後見制度を見直す改正法(民法等の一部を改正する法律・令和8年法律第45号)が公布されました。施行後は、後見・保佐の制度が廃止されて「補助」に一本化され、本人に必要な範囲・期間に限って制度を使う仕組みに変わります。施行日は「公布から2年6か月以内の政令で定める日」で、2026年10月時点ではまだ決まっていません。施行までは今の制度のままですので、この記事は今の制度にもとづいて解説しています。

この記事でわかること

  • 認知症と診断されても、すぐに口座が凍結されるわけではない理由
  • なぜ銀行に分かるのか(「ばれる」きっかけ)
  • 家族がカードで引き出し続けることのリスク
  • 凍結されて「生活できない」ときの当面の対処
  • その前にできる5つの現実的な対策(任意後見/家族信託/代理人カード・代理人の指名/生前贈与/口座の整理)

口座凍結は「認知症と診断された瞬間」には起きません

まず、誤解されやすいポイントから確認しておきます。

誤解

「親が認知症と診断されたら、すぐに口座が凍結される」

実際

銀行が「ご本人の判断能力に問題がある」と認識した時点で、取引に制限がかかるという流れです。

つまり、引き金になるのは「診断書」そのものではなく、「銀行の認識」です。なお、「口座凍結」は法律上の用語ではなく、銀行が出金などの取引を止めたり、制限したりする状態を指す、一般的な言い方です。どこまで止まるか、どんな書類で解除や代理の手続きができるかは、銀行ごとに運用が異なります。

なぜ銀行に分かるのか ― 「ばれる」きっかけは主に3つ

銀行が判断能力の低下に気づくきっかけは、意外に身近なところにあります。

1. 窓口での会話や様子

  • 生年月日や住所を何度も言い間違える
  • 取引の内容や目的を説明できない
  • 定期預金を解約する理由があいまい
  • 通帳や印鑑、キャッシュカードの紛失・再発行が続く

窓口の担当者は、手続きのたびにご本人と会話をします。その中で、受け答えに不安があると、ご家族の同席や確認を求められることがあります。

2. 家族からの申出

  • 家族が窓口で「親が認知症で…」と話す
  • 家族が代わりに定期預金の解約や高額の出金をしようとする
  • 成年後見の利用について銀行に問い合わせる

見落としがちなのが、ご家族の「善意の一言」がきっかけになることです。ご家族が正直に事情を話すことで、銀行はご本人の意思確認ができない状態だと知り、取引を慎重にせざるを得なくなります。

3. 取引の様子

  • ATMで何度も暗証番号を間違える
  • ふだんと違う大きな金額の出金が続く
  • 詐欺被害を疑われるような出金・振込がある

高齢の方の高額な出金や振込は、特殊詐欺を防ぐために声かけや使い道の確認をされることがあります。そのやりとりの中で、判断能力の低下が分かることもあります。

銀行の預金は、あくまでご本人の財産です。全国銀行協会の資料でも、預金を払い出すにはご本人の意思確認が必要で、家族であっても預金を払い出すことはできない、という前提が示されています。そのため、ご本人の意思が確認できないと銀行が判断すると、取引が止められたり、厳しい制限がかかったりします。

凍結されると、何が起きるのか

取引が止まると、ご家族の生活にも次のような影響が出ます。

  • ATMでの引き出しができなくなる
  • 窓口での出金や定期預金の解約ができなくなる
  • 施設費や病院代を、家族が立て替えなければならなくなる
  • 生活費の支払いのめどが立たなくなる

公共料金などの口座引き落としや、年金の入金がどう扱われるかは、銀行や制限の内容によって違います。「全部止まる」とも「何も変わらない」とも言い切れないため、取引のある銀行に確認しておくと安心です。

銀行にとって、家族は原則として「代わりに引き出してよい人」ではありません。この点が、口座凍結の問題をむずかしくしています。

「ばれないように家族がカードで引き出す」はおすすめできません

「銀行にばれないように、家族が暗証番号を使ってATMで引き出し続ければいい」と考える方もいるかもしれません。目の前の生活費や介護費を払うための、切実な選択だと思います。

それでも、この方法はおすすめできません。理由は次のとおりです。

  • キャッシュカードは、本来ご本人が使うためのものです。銀行のカード規定に反するおそれがあります
  • ご本人の判断能力がない状態では、家族が「本人の了解を得た」と説明しても、その了解が有効だったとは言いにくくなります
  • 相続が始まったとき、ほかの相続人から「使い込んだのではないか」と疑われ、返還を求められるなど、家族間のトラブルの原因になります
  • 後に成年後見人が選ばれると、それまでのお金の流れの説明を求められることがあります
  • まとまった金額が動いていると、本当にご本人のために使ったのかを、後から証明するのが大変になります

やむを得ずご家族が立て替えたり、ご本人のお金で支払ったりした場合は、少なくとも領収書や請求書、何にいくら使ったかの記録を残しておきましょう。それが、ご自身を守ることにもつながります。

とはいえ、記録を残せば済むという話ではありません。次に紹介する「正しい手段」に、できるだけ早く切り替えることが大切です。

銀行に正直に相談したほうがよい理由 ― 全銀協の「金融取引の代理等に関する考え方」

全国銀行協会は、2021年2月18日に「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方」を公表しました。銀行が、高齢のお客さまやその代理の方と取引をする際の参考として、考え方を整理したものです。

この資料では、ご本人の状態と代理権の有無によって、対応を次のように分けて考えています。

ご本人の状態取引の相手主な内容
判断能力に問題がないご本人通常どおりの取引
判断能力が低下しているご本人成年後見などの利用を促すのが一般的。手続きが終わるまでの間など、やむを得ず取引するときは、本人のための支払いかを確認するなどして対応
判断能力がない(一部低下を含む)成年後見人など法的な代理人として、各銀行の手順で取引
判断能力がない(一部低下を含む)銀行に届け出た代理人(親族など)ご本人が元気なうちに有効に代理権を与え、銀行に届けていれば、その代理人と取引できる
判断能力がない(一部低下を含む)代理権のない親族など成年後見を使っていない(使えない)場合の、ごく限られた対応

いちばん下の「代理権のない親族など」について、資料は次のような考え方を示しています。

  • 成年後見制度の利用を求めることが基本であり、極めて限定的な対応であること
  • ご本人が判断能力を失っていることを、面談、診断書、担当医への確認などで確かめること
  • ご本人が元気なら自分で払っていたはずの医療費などの支払いを、親族が代わりに手続きするなど、本人の利益に合うことが明らかな場合に限って、依頼に応じることが考えられること
  • 成年後見人などが選ばれた後は、成年後見人などからの依頼で取引するのが基本であること

つまり、「家族はまったく何もできない」わけではありません。ご本人のための医療費や施設費の支払いであれば、銀行に事情を話すことで、親族による手続きに応じてもらえる余地があります。

ただし、この資料はあくまで参考となる考え方で、全国の銀行に一律の対応を求めるものではありません。資料の中でも、銀行がより厳しく対応することや、取引を断ることもあり得るとされています。どんな書類が必要か、いくらまで、どの支払いなら応じてもらえるかは、銀行ごとに違います。まずは取引のある銀行に確認してみてください。

口座が凍結されて「生活できない」ときの当面の対処

すでに取引が止まり、生活費や介護費の支払いに困っているときは、次の順に考えてみてください。

  • 取引のある銀行に事情を話し、本人のための支払いについて親族が代わりに手続きできないか相談する(施設や病院の請求書、ご本人との関係が分かる戸籍、ご家族の本人確認書類などを求められることがあります)
  • 支払い先の施設や病院に、事情を伝えて支払い方法を相談する
  • お住まいの地域包括支援センターや社会福祉協議会に相談する(地域の支援の窓口です)
  • ご家族が立て替えた分は、領収書と記録を残しておく
  • あわせて、成年後見(法定後見)の申立ての準備を始める

医療費などで急いで支払いが必要な場合には、後見の審判が出る前に、家庭裁判所に財産管理のための仮の措置(審判前の保全処分)を求める方法もあります。全銀協の資料でも、この方法の活用が触れられています。ただし、どんな場合に認められるかは事案によりますので、早めに専門家へご相談ください。

凍結後の本格的な解決は「成年後見(法定後見)」が基本です

ご本人の判断能力がすでに失われ、元気なうちの準備もしていなかった場合、預金を継続的に管理するための基本となる方法は、成年後見制度(法定後見)です。最高裁判所の統計でも、後見などの申立ての動機は「預貯金等の管理・解約」が最も多くなっています。

成年後見制度の特徴

  • 家庭裁判所が後見人を選ぶ
  • 後見人が、預金の管理や契約などをご本人に代わって行う
  • 生活費や医療費、施設費の支払いができるようになる

ただし、負担もあります

  • 申立ての準備に時間がかかるうえ、申立てから審判までにも一定の期間がかかります。最高裁判所の「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」では、2か月以内に終わったものが約71.1%、4か月以内が約93.8%です
  • 家庭裁判所への定期的な報告が必要になる
  • ご本人の財産は、ご本人のためにしか使えず、使い道に制限が多い
  • 司法書士・弁護士などの専門職が後見人になった場合は、報酬が発生する
  • 原則として、ご本人が亡くなるか判断能力が回復するまで続く(今の制度の場合)

このように、凍結された後では「負担の大きい制度」を使うしかないことが多いのが現実です。なお、成年後見制度は上の注記のとおり改正法が公布されており、施行後は使い方が変わる予定です。

実家などの不動産も含めた「凍結」の全体像は、こちらの記事で解説しています。

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口座凍結を防ぐための「現実的な5つの対策」

ここからは、ご本人が元気なうちにできる備えです。どれも「判断能力があるうちに、ご本人が手続きする」ことが前提になります。

① 任意後見制度

判断能力がしっかりあるうちに、将来の代理人(任意後見人)を、公正証書の契約で決めておく仕組みです。

▼できること

  • 生活費や医療費の支払い
  • 銀行の手続き
  • 施設入所や介護サービスの契約

法的な代理権があるため、銀行とのやりとりもスムーズになりやすい制度です。ただし、効力が生じるのは、判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選んでからです。それまでの間の財産管理に備えて、任意後見契約と一緒に、財産管理の委任契約を結んでおく方法もあります。

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② 家族信託(民事信託)

ご本人(委託者)の財産の管理を、信頼できる家族(受託者)に託す仕組みです。

▼できること

  • 信託したお金を、受託者が管理する専用の口座(信託口口座など)で管理し、ご本人のために使う
  • 不動産の管理
  • 売却や資金の確保を、状況に合わせて判断する

ご本人名義の口座そのものを信託することはできず、信託したいお金を、受託者が管理する口座に移して管理します。また、年金はご本人名義の口座に振り込まれるため、信託には入れられません。信託口口座を作れるかどうかや条件も、金融機関によって異なります。

「元気なうちに準備する」ことが前提ですが、口座凍結のリスクを大きく減らせる方法です。

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③ 代理人カード・代理人を指名しておく手続き(銀行の制度)

銀行によっては、家族がATMで引き出せる代理人カードを発行したり、将来に備えて代理人をあらかじめ指名しておける手続きを用意したりしています。

▼ただし注意

  • ご本人が元気なうちに、ご本人が申し込む必要がある
  • 使える取引や、代理人になれる家族の範囲が限られる
  • 信託や後見のような、法律上の仕組みとしての裏付けとは異なる
  • 名称や条件、手続きが銀行ごとに異なる

「最低限の対策」として有効ですので、取引のある銀行に、どんな手続きがあるかを確認してみてください。

④ 生前贈与の活用

あらかじめ、ご本人から家族へお金を渡しておく方法です。

▼メリット

  • 渡したお金は受け取った家族のものになるため、凍結後の生活費や介護費の不足に備えられる

▼注意点

  • 贈与も契約なので、ご本人に判断能力があるうちでなければできない
  • 暦年課税の贈与税の基礎控除は年110万円。これを超えると贈与税がかかることがある
  • 令和6年1月1日以後の贈与は、相続税の計算で足し戻す期間が相続開始前3年から7年へ、段階的に延びている
  • 特定の家族にだけ渡すと、ほかの家族の不公平感から、相続のときのトラブルにつながることもある

税務の判断が必要になるケースもあるため、計画的に、必要に応じて税理士にも相談しながら進めましょう。

⑤ 口座の整理と分散

意外と見落とされがちな、大切な備えです。

  • 年金の受け取り口座
  • 生活費用の口座
  • 貯蓄用の口座

どの銀行にどんな口座があり、何の引き落としがあるのかを整理し、家族で共有しておくだけでも、凍結されたときの影響を小さくできます。

どれを選べばよい?

ご家庭の状況によって合う方法は違いますが、次のように役割を分けて組み合わせる方法がよく検討されます。

対策主な役割
任意後見生活・契約・介護など、ご本人の身の回りに関わる手続き
家族信託預金や不動産など、信託した財産の管理
代理人カード・代理人の指名日常の少額の出し入れ(銀行の制度の範囲内)

役割を分けることで、口座凍結のリスクと、生活の困りごとを同時に防ぎやすくなります。どれも「元気なうちにしかできない」点は共通です。

よくある質問

認知症で口座が凍結されるのは、なぜ銀行にわかるのですか?

診断の情報が病院や役所から銀行に自動的に伝わる仕組みは、一般的にはありません。多くは、窓口での受け答え、ご家族からの「認知症で…」という申出、暗証番号の間違いや高額出金などの取引の様子から、銀行が判断能力の低下に気づきます。

家族がキャッシュカードで引き出しても、ばれなければ問題ありませんか?

おすすめできません。銀行のカード規定に反するおそれがあるうえ、相続のときにほかの相続人から使い込みを疑われるなど、家族間のトラブルの原因になります。やむを得ず支払った場合は記録を残し、早めに正しい手段へ切り替えましょう。

口座が凍結されたら、家族は一円も引き出せないのですか?

原則として、家族でも引き出すことはできません。ただ、全国銀行協会の考え方では、ご本人の医療費など、本人の利益に合うことが明らかな支払いに限り、親族の依頼に応じることが考えられるとされています。対応は銀行ごとに違うため、まずは取引のある銀行にご相談ください。

口座凍結で生活できないときは、まずどうすればよいですか?

銀行に事情を話して本人のための支払いができないか相談し、施設や病院、地域包括支援センターにも相談してください。あわせて成年後見の申立ての準備を始めましょう。急ぎの場合は、審判前の保全処分という方法もあります。

認知症による財産凍結を防ぐ方法は?

ご本人が元気なうちに、任意後見契約、家族信託、銀行の代理人カードや代理人の指名、生前贈与、口座の整理といった備えをしておくことです。どれも判断能力があるうちでなければできません。

まとめ

認知症による口座のトラブルは、ご家族の生活や介護を直撃する問題です。

  • 口座が止まるきっかけは「診断」ではなく「銀行の認識」
  • カードで引き出し続ける方法は、後のトラブルの原因になる
  • 凍結後も、本人のための支払いなら銀行に相談する余地がある。ただし本格的な解決は成年後見が基本
  • 元気なうちなら、任意後見・家族信託・代理人の指名などで備えられる

「もう少し様子を見ようかな」「うちの親はまだ大丈夫」「キャッシュカードがあれば…」。そう思ったときが、本当はいちばん準備がしやすい時期です。

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そんなときは、どうぞ一度ご相談ください。ご家庭にとっていちばん安心できる形を、一緒に考えていきます。

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代表司法書士・行政書士 今井 康介

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