親が認知症になると預金も実家も“凍結”される?銀行の対応のしくみと成年後見、元気なうちにできる任意後見・家族信託の備え【西宮の司法書士が解説】

※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。

「母の物忘れが進んできた。施設に入るお金を母の預金から払いたいけれど、銀行で手続きできるだろうか。」

親の判断能力が落ちてきたと感じたとき、多くのご家族が気にされるのが、預金や不動産が事実上“凍結”されるという問題です。

この記事では、なぜ「凍結」が起こるのか、すでに判断能力が落ちたときに何ができるのか、そして元気なうちにできる備えを順にお話しします。

目次

先に結論:認知症と財産の「凍結」で押さえておきたいこと

  • 「認知症になったら口座を凍結する」という法律はありません。預金を下ろすには本人の意思の確認が必要なため、銀行が本人の判断能力の低下を知ると、取引に応じなくなることがあります。これが「凍結」と呼ばれる状態です
  • 全国銀行協会は2021年に、成年後見制度を使っていない場合に限った「極めて限定的な対応」として、本人の医療費の支払いなど本人の利益になることが明らかな場合に親族の依頼に応じる考え方を示しています。応じるかどうかや条件は銀行ごとに違います
  • 実家の売却は本人の契約です。判断能力が十分でなければ、成年後見などを使い、住まいの売却には家庭裁判所の許可が要ります
  • 任意後見・家族信託・遺言は、本人に判断能力があるうちでなければ準備できません
  • 成年後見は2026年6月に改正法が成立し、必要な範囲・期間で使える「補助」に一本化されます。施行は公布から2年6か月以内の政令で定める日で、それまでは今の制度です

1. 「凍結」は法律ではなく、銀行の対応で起こる

預金は本人の財産。家族でも勝手に下ろせない

銀行の預金は、口座の名義人ご本人の財産です。全国銀行協会がまとめた考え方でも、預金を払い出すには本人の意思確認が必要で、家族であっても本人の預金を払い出すことはできない、という整理から話が始まっています。

また、民法には、意思表示をしたときに意思能力がなかった人の法律行為は無効とする決まりがあります(民法3条の2)。判断能力が十分でない状態で定期預金の解約などをすると、あとでその取引が無効だと争われるおそれがあります。銀行が慎重になるのはこのためです。

銀行はどうやって知るのか

銀行が名義人の判断能力の低下を知るきっかけは、窓口でのやりとりや、ご家族からの相談などさまざまです。銀行に知られる場面や、凍結されたあとの具体的な対処は、別の記事で詳しく取り上げています。

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全国銀行協会の考え方(2021年)

全国銀行協会は2021年に「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方」をまとめています。要点は次のとおりです。

  • 認知判断能力が低下した本人との取引では、ご家族に成年後見制度などの利用を促すのが一般的
  • 成年後見人・任意後見人などの代理人がいれば、その人と取引する
  • 本人が元気なうちに銀行に代理人の届出をしている場合は、その代理人と取引することも可能
  • 代理権のない親族からの払出しの依頼に応じるのは、本人の判断能力が低下し、かつ成年後見制度を使っていない(使えない)場合の「極めて限定的な対応」。本人の医療費の支払いなど、本人の利益に適合することが明らかな場合に限り、依頼に応じることが考えられる
  • 銀行として、より厳しい対応をとることや、取引を断ることもありうる

つまり、「医療費なら家族が下ろせる」と決まっているわけではありません。どこまで応じてもらえるかは銀行や事情によって変わり、まとまった額の引き出しや定期預金の解約、投資信託の解約などは、より慎重に扱われると考えておくのが安全です。

2. 実家も「売れない」「貸せない」状態になる

不動産の売買は本人の契約

介護施設の入居費用のために実家を売ろうとしても、売主は名義人であるご本人です。子どもが代わりに売ることはできません。ご本人に契約の内容を理解する力がなければ売買契約は結べず、司法書士も登記の手続きの前に、ご本人の意思を確かめる必要があります。

成年後見人が売るには家庭裁判所の許可

判断能力が不十分になったあとに実家を売るには、家庭裁判所に成年後見人などを選んでもらい、その人が本人に代わって売ることになります。さらに、本人の住まい(居住用の建物や敷地)を売る・貸す・抵当権を付けるには、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。

場面元気なうち判断能力が不十分になったあと
預金の引き出し・解約本人ができる。代理人の届出をしておくこともできる銀行が応じないことがある。成年後見人などが手続きする
実家の売却本人が契約する成年後見人などが売る。住まいなら家庭裁判所の許可が要る
賃貸・リフォームの契約本人が契約する成年後見人などが契約する
遺言・任意後見・家族信託準備できる原則としてできない

申立てから成年後見人が選ばれるまでにも時間がかかるため、「今月中に施設費用が要る」という場面には間に合わないことがあります。

3. 成年後見を使うときに知っておきたいこと

申立ての先と流れ

成年後見(後見・保佐・補助)の申立ては、本人の住所地の家庭裁判所にします。西宮市にお住まいの方なら、神戸家庭裁判所尼崎支部です。申立てができるのは、本人、配偶者、4親等内の親族などです(民法7条)。

一般的な流れは次のとおりです。

  1. 医師の診断書を用意する
  2. 申立書や財産目録、収支の資料などをそろえる
  3. 家庭裁判所に申し立てる(面接や、必要に応じて鑑定)
  4. 家庭裁判所が成年後見人などを選ぶ
  5. 成年後見人などが財産を引き継ぎ、家庭裁判所に報告しながら管理する

家族が選ばれるとは限らない

成年後見人を選ぶのは家庭裁判所です。申立書に候補者としてご家族を書くことはできますが、財産の額や内容、親族の間の意見の違いなどによっては、司法書士・弁護士などの専門職が選ばれることがあります。専門職が選ばれると、家庭裁判所が決める報酬が続けてかかります。

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「本人の財産を守る」ための制度

成年後見は、本人の財産を本人のために守る制度です。相続税対策のための贈与や、孫の学費の援助など、本人以外のための支出は、原則として認められにくくなります。また、今の制度では、本人の判断能力が回復するか亡くなるまで続き、「実家を売る」という目的が済んでもやめることはできません。

2026年の改正で変わること

2026年6月17日に「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、6月24日に公布されました。法務省の概要資料によると、成年後見については主に次の見直しがあります。

  • 後見・保佐を廃止し、本人に必要な事項について代理権や取消権を与える「補助」に一本化する
  • 判断能力が回復していなくても、制度を使う必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、利用を終えられる
  • 補助人を選ぶときに本人の意見を重く見る。本人の利益のため特に必要があるときは補助人を交代できる
  • 任意後見契約などの見直しも含む

施行は公布から2年6か月を超えない範囲で政令で定める日とされていて、2026年10月の時点では施行日はまだ決まっていません。施行までは今の制度が使われます。

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4. 元気なうちにできる備え

判断能力があるうちに準備しておけば、ご本人が選んだ人や方法で財産を管理できます。主な方法を比べると次のとおりです。

方法何ができるか始まる時期注意点
任意後見契約将来、判断能力が不十分になったときに、選んでおいた人が契約の範囲で財産管理や介護・施設の契約をする家庭裁判所が任意後見監督人を選んだとき公正証書で作る。監督人の報酬がかかる
家族信託(民事信託)信託した預金や不動産を、受託者(信頼できる家族)が契約の範囲で管理・売却する契約したときから信託した財産だけが対象。介護や施設の契約などの身の回りのことはできない
銀行の代理人の届出・財産管理の委任契約元気なうちから、子どもなどが代わりに手続きする届出・契約のときから本人の判断能力が落ちたあとの扱いは銀行や契約による
遺言亡くなったあとに、誰に何を引き継ぐかを決める亡くなったとき生きている間の財産管理には使えない

任意後見契約

将来に備えて、ご本人が自分で選んだ人(任意後見受任者)と、任せたい事務と代理権の範囲を決めておく契約です。法務省令で定める様式の公正証書で作ります(任意後見契約に関する法律3条)。判断能力が不十分になったとき、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から効力が生じます(同法2条・4条)。

誰に任せるかを自分で決められる点が、家庭裁判所が選ぶ法定後見との大きな違いです。施設への入所契約や介護サービスの契約といった、身の回りの契約も任せられます。

家族信託(民事信託)

親(委託者)が、信頼できる子など(受託者)に、預金や不動産の管理・処分を託しておく仕組みです。親が認知症になっても、受託者が信託契約で決めた範囲で、預金の管理や実家の売却をすることができます。「実家を売って施設費用にあてる」といった使い方を、契約の段階で決めておけます。

ただし、信託そのものに節税の効果はなく、介護施設との契約などの身の回りのことは対象外です。信託用の口座を作れるかどうかは金融機関によって扱いが違うため、早めに確かめておくと安心です。受託者は、信頼できるご家族などにお願いすることになります。

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遺言

亡くなったあとに、誰にどの財産を引き継ぐかを決めておくものです。任意後見や家族信託は「生きている間の管理」、遺言は「亡くなったあとの引継ぎ」と役割が違うため、組み合わせて考えると、認知症になったときと亡くなったときの両方に備えられます。

5. 元気なうちに家族で確かめておくことのチェックリスト

  1. 親の預金口座がどの銀行に何口座あるか、通帳や届出印の保管場所
  2. 年金の振込口座と、公共料金・施設費の引落口座
  3. 不動産(実家・貸している土地など)の名義と、住宅ローンや抵当権が残っていないか
  4. 実家を将来どうしたいか(住み続ける・売る・貸す・誰かが継ぐ)
  5. 介護が必要になったとき、どこで暮らしたいか、費用をどこから出すか
  6. 財産の管理を誰に任せたいか、ほかのきょうだいはそれに納得しているか
  7. すでに遺言や任意後見契約を作っていないか

この整理をしておくと、任意後見・家族信託・遺言のどれが合うかの見通しがつけやすくなります。

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6. すでに判断能力が落ちてきたとき

まずは医師と、契約ができる状態かを確かめる

物忘れがあっても、契約の内容を理解して判断できる状態であれば、任意後見や家族信託、遺言を作れることがあります。一方で、内容を理解できない状態で作ると、あとで無効が争われるおそれがあります。かかりつけ医の意見を聞きながら、公証人や専門家と相談して判断します。

認知症と診断されたあとの家族信託の考え方は、別の記事で取り上げています。

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契約が難しいときは成年後見(補助・保佐・後見)

判断能力の程度が軽いうちは「補助」、もう少し進むと「保佐」、常に判断能力を欠く状態なら「後見」と、今の制度では程度に応じて3つに分かれています。「補助」は本人の同意のもとで、必要な行為についてだけ補助人に代理権などを与える仕組みで、改正前の今でも使えます。

日々のお金の管理の相談先

日常的なお金の出し入れや支払いの手伝いについては、市区町村の社会福祉協議会が行う日常生活自立支援事業などもあります。地域包括支援センターも相談の入口になります。

よくある質問

認知症と診断されたら、すぐに口座が凍結されますか。

診断されたことで自動的に凍結される仕組みはありません。銀行が本人の判断能力の低下を知り、本人の意思が確かめられないと判断したときに、取引に応じなくなることがあります。どの段階でどう対応するかは、銀行や本人の状態によって違います。

親の医療費や施設費なら、家族が引き出せますか。

全国銀行協会は、成年後見制度を使っていない場合の極めて限定的な対応として、本人の医療費など本人の利益になることが明らかな場合に親族の依頼に応じる考え方を示しています。ただし、応じるかどうかや必要な書類は銀行ごとに違い、断られることもあります。取引のある銀行に早めに相談してください。

すでに親の判断能力が落ちています。家族信託はできますか。

家族信託も任意後見も、契約の時点で本人に判断能力が必要です。契約の内容を理解できる状態かどうかは、医師の意見も聞いて慎重に判断します。難しい場合は成年後見(補助・保佐・後見)の利用を考えることになります。

きょうだいのうち1人が受託者になると、ほかのきょうだいは不公平に感じませんか。

受託者は財産を自分のものにするのではなく、契約に従って親のために管理する立場です。契約書に管理や報告のルールを決めておき、必要に応じて受益者代理人や信託監督人を置くと、ほかのご家族にも管理の様子が見えやすくなります。契約の前に家族で話し合っておくことが大切です。

成年後見の改正が施行されるまで待ったほうがよいですか。

施行日はまだ決まっておらず、待っている間に判断能力が落ちると、任意後見や家族信託を選べなくなることがあります。今すぐ財産の管理が必要な場合は今の制度で進め、元気なうちであれば、任意後見・家族信託・遺言の準備を先に考えるのが一つの方法です。

まとめ

親が認知症になったときの預金や実家の「凍結」は、法律で一律に決まっているものではなく、本人の意思が確かめられないために銀行や取引の相手が手続きに応じられなくなることで起こります。全国銀行協会は医療費などに限った親族の払出しの考え方を示していますが、あくまで限定的な対応で、銀行ごとに扱いが違います。

判断能力が不十分になったあとは、成年後見(2026年の改正で「補助」に一本化される予定)を使い、住まいの売却には家庭裁判所の許可が要ります。元気なうちであれば、任意後見・家族信託・遺言を組み合わせて、ご本人が選んだ人と方法で財産を守る準備ができます。

親御さんの認知症への備えとして、任意後見契約・家族信託・遺言のご相談や、家庭裁判所に出す成年後見の申立書の作成は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。「何から始めればいいか分からない」という段階でもご相談ください。

出典・参考

代表司法書士・行政書士 今井 康介

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