家族信託で後悔しないために、契約前に確認すべきこと【西宮の司法書士が解説】

家族信託で後悔しないために、契約前に確認すべきこと

※本記事は2026年10月時点の情報に基づいて解説しています。

「母の物忘れが増えてきたので、家族信託をしたいんです。ネットで調べたら、契約書のひな形もありました。これで進めても大丈夫でしょうか。」

家族信託のご相談では、このように、すでに「やる」と決めて来られる方が少なくありません。ご家族のことを真剣に考えて、よく調べていらっしゃるのだと思います。

ただ、先にお伝えしたいことがあります。家族信託は、契約書に判を押した日からが本番です。 受託者になるお子さんは、何年、ときには何十年も、親御さんの財産を預かり続けます。契約の中身によっては、税金や口座、親御さんが亡くなった後の分け方まで、思わぬところに影響が出ます。

この記事では、契約書を作る前に、ご家族で確認しておきたいことを8つにまとめました。専門家に相談するときに「これは説明してもらいましたか?」と確かめるチェックリストとしても使っていただけるようにしています。

目次

契約書を作る前に確認したい8つのこと

まずは一覧でご覧ください。

確認することひとことで言うと
①そもそも家族信託が合っているか遺言や任意後見のほうが合う場合もある
②信託に入れられない財産はないか年金・農地などは入れられない
③税金はどうなるか受益者の決め方しだいで贈与税も
④お金を入れる口座は作れるか金融機関によって扱いが違う
⑤受託者の負担を本人が分かっているか帳簿・報告・書類の保存は法律上の義務
⑥ほかの家族への配慮はできているか遺留分の問題は信託でも残る
⑦どう終わるか、終わったら誰のものか「終わらせ方」の決め方に注意
⑧費用はいくらかかるか最初の費用と、続く費用の両方

日本弁護士連合会が2022年12月にまとめた「民事信託業務に関するガイドライン」でも、信託以外の制度を検討すること、受託者になる人に「重い義務」を説明すること、口座の可否を事前に金融機関に確認すること、遺留分を検討することなどが、専門家の守るべきこととして挙げられています。家族信託は、それだけ「契約前の確認」が大切な仕組みなのです。

当事務所では、契約書の案を作る前に、ご家族と一緒にこの8つを順番に確認し、結果を書面でお渡ししています。

① そもそも、家族信託が合っていますか

家族信託は万能ではありません。目的によっては、ほかの方法のほうが簡単で、費用も抑えられることがあります。

  • 亡くなった後の分け方だけを決めたい → 遺言で足りることが多いです
  • 財産管理だけでなく、介護施設の契約なども任せたい → 家族信託ではできません。任意後見を組み合わせます
  • 財産が預金だけで、金額もそれほど大きくない → 信託口口座の手間を考えると、ほかの方法が合う場合もあります

家族信託が力を発揮しやすいのは、「親が認知症になっても、実家の売却やアパートの管理を止めたくない」といった場面です。

なお、成年後見制度は大きく変わろうとしています。2026年6月に成立した改正法(令和8年法律第45号)により、2028年12月までに、後見・保佐・補助の3つの類型が「補助」に一本化され、必要な範囲で使い、必要がなくなればやめられる制度になる予定です。任意後見も、家庭裁判所が必要ないと認めれば、任意後見監督人を選ばずに裁判所が直接監督できるようになるなど、使いやすくなる方向です。「後見は使いにくいから信託」と決める前に、こうした動きも踏まえて比べてみてください。

▶ あわせて読みたい:家族信託と任意後見の違いと選び方

② 信託に入れられない財産、入れないほうがよい財産

「全部の財産を信託に」と考える方もいらっしゃいますが、入れられない財産があります。

  • 年金を受け取る権利:法律で、人に譲ることができないとされています(国民年金法24条など)。年金は親御さんの口座に入り、そこから必要な分を信託に移す形になります。
  • 農地:信託の引受けで農地の権利を取得することは、農地法上、許可されません(農地法3条2項3号)。田畑をお持ちの方は、別の方法を考える必要があります。
  • 預金そのもの:預金は、銀行の承諾なしに人に譲れないのが普通です。そのため、預金を払い戻して「お金」にしてから、受託者の口座に移します。

このほか、ローンが残っている不動産は金融機関の承諾が必要になることがある、上場株式は証券会社が対応しているかどうかで扱いが変わる、といった点もあります。

③ 税金はどうなるか

家族信託の税金は、「名義」ではなく「誰が利益を受けるか(受益者)」で決まります。

  • 親が委託者で、受益者も親 → 利益を受ける人が変わらないので、信託をしただけでは贈与税はかかりません
  • 受益者を親以外の人にする → 対価を払わずに受益者になった人は、贈与を受けたものとみなされます(相続税法9条の2第1項)
  • 親が亡くなって次の受益者に移る → 相続(遺贈)と同じ扱いで、相続税の対象になります(同条2項)

このほか、受託者には税務署への書類の提出があります。原則として毎年1月31日までに「信託の計算書」(所得税法227条)を出し、信託が始まったときや受益者が変わったときには、財産の額が小さい場合などを除き「受益者別調書」(相続税法59条3項)を出します。

注意したいのは、信託だと使えない、または扱いがはっきりしない税金の特例があることです。

  • 信託した賃貸不動産の赤字は、ほかの所得と相殺できません
  • 親が亡くなった後に信託が終わって実家を受け取り、その空き家を売るとき、「空き家の3,000万円特別控除」は、現在の制度では対象になっていません。国土交通省が2026年8月、令和9年度の税制改正要望で「相続・遺贈と同視し得る民事信託の終了」による取得も対象にするよう求めている段階です

家族信託の税金は、国の公式な見解が出ていない部分も残っています。契約書を作る前に、税理士の確認を受けておくと安心です。

④ お金を入れる口座は作れるか

信託したお金は、受託者自身のお金と混ざらないように管理しなければなりません(信託法34条)。そのために使われるのが、「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」と呼ばれる専用の口座です。

ところが、この口座は作れる金融機関が限られていて、条件も金融機関ごとに違います。公正証書で契約することが条件になっていたり、契約書の文言を事前に確認されたりすることもあります。

契約書が完成してから「この内容では口座を作れません」と言われると、作り直しになりかねません。日弁連のガイドラインでも、契約書を作る前に金融機関へ確認することが望ましいとされています。

⑤ 受託者になる人は、負担を分かっていますか

家族信託のご相談で、私がいちばん気にかけているのが、ここです。

受託者は、親御さんの財産の「名義人」になるだけではありません。法律上、次のような義務を負います。

  • 他人の財産を預かる者として、ていねいに注意を払って管理すること(信託法29条。「善良な管理者の注意」と呼ばれます)
  • 信託の財産と自分の財産を分けて管理すること(同34条)
  • 帳簿をつけ、毎年1回、財産の状況をまとめて受益者に報告すること(同37条)
  • 書類を原則10年間保存すること(同37条)

受託者を引き受けるお子さんご本人が、この負担を理解し、納得しているかどうか。そして、そのお子さんに万一のことがあったとき、次に誰が受託者を引き継ぐか(後継受託者)も、契約書で決めておく必要があります。受託者がいない状態が1年続くと、信託は終わってしまうからです(同163条3号)。

⑥ ほかのご家族への配慮はできていますか

家族信託は、受託者になるお子さん一人と親御さんだけで話を進めてしまいがちです。けれども、親御さんが亡くなった後に財産を誰が受け取るかを決めるなら、それはほかのご兄弟にも関わる話です。

信託を使っても、遺留分(兄弟姉妹以外の相続人に法律が保障している最低限の取り分)の問題はなくならない、というのが多くの専門家の考え方です。ほかのご家族に知らされないまま進めた信託は、後になって「本当に親の意思だったのか」と争いの種にもなります。

できれば、親御さんご本人の言葉で、ご家族に方針を伝える場を持っていただきたいと思います。

▶ あわせて読みたい:家族信託で遺留分は避けられる?「実家は長男に」を信託で考えるときの注意点

⑦ どう終わるか、終わったら誰のものになるか

始め方ばかりに目が行きがちですが、終わり方も契約前に決めておくべき大切なことです。

  • いつ終わるか:「親が亡くなったとき」「受益者が全員亡くなったとき」など、契約で終了の時期を決めます(信託法163条9号)
  • 終わったら誰のものになるか:残った財産を受け取る人(帰属権利者)を決めておきます。決めていないと、原則として委託者の相続人などに帰属することになり(同182条)、遺産分割の話し合いが必要になることがあります
  • 途中でやめられるか:法律上は、委託者と受益者が合意すれば、いつでも信託を終わらせることができます(同164条1項)

気をつけたいのは3つ目です。契約で「受託者の同意がなければ終わらせられない」といった制限を入れることもできますが、日弁連のガイドラインは、こうした制限は通常、委託者の利益になるとは考えられず、安易に入れるべきではないとしています。

さらに、2026年6月17日の最高裁判所の決定は、委託者と受益者による終了を制限する条項が効力を持つのは、それが信託の目的を達成するために合理的に必要と認められる場合に限られる、と判断しました。制限を入れるのであれば、「なぜ必要なのか」が契約書の目的から読み取れるように書いておく必要があります。

「親の気持ちが変わったら、やめられるのか」。この点は、必ず説明を受けてください。

⑧ 費用はいくらかかるか

家族信託の費用は、大きく分けて2種類あります。

  • 最初にかかる費用:契約書を作る専門家への報酬、公正証書の手数料、不動産の名義を変える登記の費用(登録免許税と専門家への報酬)など
  • 続けてかかる費用:信託監督人などを置く場合の報酬、税理士への依頼、受託者に報酬を払う場合はその分

最初の費用だけを比べて決めると、後で「こんなにかかるとは思わなかった」となりかねません。何年続く見込みかを考えて、合計で比べてみてください。

まとめ

  • 家族信託は、契約してからが本番です。契約書を作る前の確認が、後悔しないためのいちばんの近道です
  • 確認したいのは、①信託が合っているか ②入れられない財産 ③税金 ④口座 ⑤受託者の負担 ⑥ほかの家族への配慮 ⑦終わり方 ⑧費用 の8つです
  • 専門家には「この8つについて説明してもらえますか」と、遠慮なく聞いてください
  • 契約の「終わらせ方」を制限する条項は、2026年6月の最高裁判所の決定もあり、特に慎重な検討が必要です

よくある質問

ネットのひな形で家族信託の契約書を作っても大丈夫ですか?

お勧めしません。ご家族ごとに財産や目的が違ううえ、口座を作る金融機関から文言を確認されることもあります。税金や終わり方の決め方によっては、後で困ることもあります。

家族信託をすると、贈与税がかかりますか?

親が委託者で、受益者も親という一般的な形であれば、信託をしただけでは贈与税はかかりません。受益者を親以外の人にすると、贈与を受けたものとみなされて贈与税の対象になります。

信託に入れられない財産はありますか?

年金を受け取る権利や農地は、信託に入れることができません。預金は、払い戻したお金を信託に入れる形になります。

受託者になる子どもは、どんなことをするのですか?

信託した財産を自分の財産と分けて管理し、帳簿をつけ、毎年1回、財産の状況を受益者に報告します。書類の保存や税務署への届出もあります。法律上の義務なので、引き受ける前に内容を確認しておくことが大切です。

契約した後で、家族信託をやめることはできますか?

法律上は、委託者と受益者が合意すれば、いつでも終わらせることができます。ただし、契約で終了を制限していることもあります。2026年6月の最高裁判所の決定で、こうした制限が有効になるのは、信託の目的のために合理的に必要な場合に限るとされました。契約前に必ず確認してください。

西宮・阪神間の家族信託は、シアエスト司法書士・行政書士事務所へ

当事務所は阪急西宮北口駅から徒歩3分。西宮市を中心に、芦屋市・宝塚市・尼崎市・神戸市など阪神間で、家族信託・相続・遺言・成年後見のご相談を承っています。

「うちの場合、家族信託が本当に合っているのか」「契約の前に、何から確認すればいいのか」。そう思われたときが、ご相談のタイミングです。まずはお気軽にお問い合わせください(TEL 0798-31-5930)。

出典・参考

  • 信託法29条・34条・37条・163条・164条・182条
  • 相続税法9条の2・59条、所得税法227条
  • 国民年金法24条、農地法3条2項3号、民法466条の5
  • 最高裁判所 令和8年6月17日決定(信託法164条1項の適用を排除する条項の効力)
  • 日本弁護士連合会「民事信託業務に関するガイドライン」(2022年12月)
  • 国土交通省「令和9年度税制改正要望事項 空き家の発生を抑制するための特例措置の拡充及び延長」
  • 法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」
代表司法書士・行政書士 今井 康介

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