※本記事は2026年10月時点の情報に基づいて解説しています。
「自宅の土地建物は単独名義、前の道路は近所と共有。同じ日に同じ人へ売るなら、申請書は1枚にまとめられますか?」
「共有者全員の持分を移すとき、物件ごとに持分の割合が違っても一括申請できますか?」
登記の現場で、よくいただくご質問です。結論から言うと、どちらも条件がそろえば1件の申請(一括申請)でまとめられます。ただ、条件が一つでも欠けると申請を分ける必要があり、登記の目的の書き方にもコツがあります。
まずは結論を、ひと目でわかる形でお伝えします。
- 所有権移転と持分全部移転が混ざる場合:権利者・義務者・登記原因とその日付が同じで、移す持分に抵当権などの第三者の権利の登記がなければ、1件で申請できます。登記の目的は「所有権移転及び何某持分全部移転」のように書きます。
- 物件ごとに持分が違う場合:当事者・原因・日付が同じなら1件で申請できるとされています。権利者の欄に「持分後記のとおり」と書き、不動産の表示に物件ごとの持分を書く方法が一般的です。
- 共有者全員持分全部移転:共有者全員がそろって同じ相手に持分を移す場合は、1件で申請できます(昭和35年の先例)。ただし、一部の共有者の持分にだけ抵当権などが付いている場合は、分けて申請する扱いになります。
- まとめられない例:管轄の法務局が違う、原因の日付が違う、売主(義務者)が物件ごとに違う、などの場合です。
ここから、根拠となる条文と先例、申請書の書き方を順番に見ていきましょう。
一括申請とは?「1物件1申請」の原則と例外
不動産登記は、原則として「1つの不動産ごとに申請情報(申請書の中身)を作る」決まりになっています。これを実務では「一件一申請情報主義」と呼んでいます。
その例外が、不動産登記令4条ただし書です。条文は次のとおりです。
(不動産登記令4条)申請情報は、登記の目的及び登記原因に応じ、一の不動産ごとに作成して提供しなければならない。ただし、同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるときその他法務省令で定めるときは、この限りでない。
ここでいう「一の申請情報で申請する」ことを、実務では「一括申請」と呼んでいます。
条文の最後にある「法務省令で定めるとき」は、不動産登記規則35条に列挙されています。主なものを挙げると、次のとおりです。
- 8号:同じ登記名義人の氏名・住所の変更(更正)登記を、同じ管轄内の複数の不動産についてまとめて申請するとき
- 9号:同じ不動産について、登記の目的・登記原因とその日付が同じ2つ以上の権利の登記を申請するとき
- 10号:同じ債権を担保する抵当権などの登記を、同じ管轄内の複数の不動産について申請するとき(登記の目的が同じ場合)
所有権移転や持分移転を複数の不動産でまとめるときに使うのは、主に令4条ただし書の本体部分です。抵当権の抹消をまとめる場合については、別の記事で詳しく解説しています。

一括申請できる要件(所有権・持分の移転)
所有権や持分の移転を1件でまとめられるかは、次の5つがそろうかで判断します。
| 要件 | ポイント | 根拠 |
|---|---|---|
| 同じ登記所の管轄内にある | 物件が別の法務局の管轄にまたがると、まとめられません | 令4条ただし書 |
| 登記の目的が同じ | 「所有権移転」「何某持分全部移転」など。両者の混在は、条件付きで認められています(後述) | 令4条ただし書・先例 |
| 登記原因とその日付が同じ | 同じ日の売買、同じ人の相続など | 令4条ただし書 |
| 当事者(権利者・義務者)が同じ | 買主と売主が物件ごとに違うと、まとめられません | 先例(条文には明記なし) |
| 移す持分に第三者の権利の登記がない | 抵当権・差押えなどが一部の持分にだけ付いていると、分けて申請する扱いになります | 先例・登記研究 |
少し補足します。条文そのものには「当事者が同じであること」とは書かれていません。ただ、実務では、当事者が違えば登記原因も同じとはいえないと考えられており、たとえば「Aが土地をBから、建物をCから同時に買った」ケースでは、1件で申請できないとした先例があるとされています(昭和48年12月17日民三第9170号回答)。当事者の一致も、事実上の要件と考えておくのが安全です。
「所有権移転」と「持分全部移転」は1件で申請できる?
単独名義の土地建物(所有権移転)と、共有の私道の持分(持分全部移転)を、同じ日に同じ買主へ売る。こうした場面はとても多いのですが、登記の目的が「所有権移転」と「持分全部移転」で違うため、まとめてよいか迷われる方が少なくありません。
この点について、登記研究には次のような質疑が掲載されています。
登記権利者・登記義務者・登記原因が同一であり、かつ、持分の移転について第三者の権利に関する登記(処分制限の登記及び予告登記を含む。)がなされていない限り、所有権移転登記と共有持分全部移転登記は、同一の申請書で申請することができる。(登記研究第470号97頁)
つまり、当事者と原因が同じで、移す持分に抵当権や差押えなどの登記がなければ、1件で申請できるということです。司法書士の実務解説でも、同じ日に自宅(所有権)と道路の共有持分を同じ相手に贈与するケースで、一括申請できると紹介されています。
相続の場合も同じ考え方です。
同一の被相続人名義となっている不動産の共有持分と他の不動産所有権は、同一の申請書をもって相続を登記原因として登記申請をすることができ、この場合の登記目的は、「何某持分全部移転・所有権移転」とし、持分の表示は申請書の不動産の表示中に記載すればたりる。(登記研究第353号115頁)
法務局が公開している相続登記のチェックリスト(佐賀地方法務局)でも、「複数の不動産で、所有権全部を移転するものと持分を移転するものがある場合は、『所有権移転及び○○持分全部移転』と記載します」と案内されています。
なお、似ているようで扱いが違うのが「所有権移転」と「所有権一部移転」の組み合わせです。こちらは同じ申請書ではできないとされています(登記研究第423号125頁)。
共有者全員持分全部移転は一括申請できる?持分が違う場合は?
共有者全員がそろって同じ相手に移す場合
甲と乙が共有している不動産を、丙が丸ごと買い受ける。この場合、甲の持分と乙の持分がそれぞれ丙に移りますが、申請は1件でまとめられます。根拠は次の先例です。
数人共有の不動産の所有権を第三者に移転する場合には、同一の申請書によって申請することができる。また、共有者の一人が他の共有者数人の持分を取得する場合も同様である。(昭和35年5月18日民甲第1186号民事局長回答)
この場合の登記の目的は「共有者全員持分全部移転」と書きます。共有者全員の持分がすべて移るので、登記が終わると、丙はその不動産の単独所有者になります。
物件ごとに持分の割合が違う場合
たとえば、土地Aは甲3分の2・乙3分の1、土地Bは甲2分の1・乙2分の1というように、物件ごとに持分が違うケースです。
結論として、甲と乙の顔ぶれ、買主、原因とその日付がすべて同じであれば、どの物件も登記の目的は「共有者全員持分全部移転」で同じになり、令4条ただし書の要件を満たします。全員の持分がすべて移るため、どの物件でも買主は単独所有者となり、持分の違いが申請の妨げになるものではないと考えられます。
もっとも、この「共有者全員」のケースで持分の違いを正面から扱った先例は、今回の調査では確認できませんでした。なお、一人の持分を移す場合については、物件ごとに持分が違っても、登記原因と当事者が同じであれば1件で申請できると、司法書士の実務解説でも紹介されています。
一部の持分にだけ抵当権などが付いている場合
注意したいのは、共有者のうち一人の持分にだけ抵当権や差押えの登記がある場合です。この場合は「共有者全員持分全部移転」として1件にまとめることはできず、「甲持分全部移転」「乙持分全部移転」のように分けて申請する扱いとされています(司法書士の実務解説による。根拠となる先例の原典は未確認)。物件の登記事項証明書(登記簿)で、持分ごとの権利の登記を必ず確認しましょう。
持分の一部を移す場合の登記の目的の書き方
持分の移し方が共有者ごとに違うときは、登記の目的の書き方に気をつけます。
甲が4分の1、乙が4分の1、丙が4分の2を共有する物件について、乙が持分全部、丙が持分4分の1を甲に移転する場合、登記の目的を「乙持分全部、丙持分4分の1移転」として、一括申請できる。(登記研究第437号)
甲、乙、丙各3分の1の共有となっている場合、各共有者の持分のうち各6分の1を同一契約でA、B、Cに各6分の1移転する場合、登記の目的は、「共有者全員持分一部移転」とするべきではなく、「甲持分6分の1、乙持分6分の1、丙持分6分の1移転」とするのが相当である。(登記研究第546号152頁)
「共有者全員持分一部移転」とまとめて書いてしまうと、誰の持分がどれだけ移ったのかが登記記録から読み取れなくなります。誰の持分を、どれだけ移すのかが分かるように書く、と覚えておくとよいでしょう。
売買契約書が2通に分かれていてもまとめられる?
「物件ごとに契約書を作ったから、申請も分けないといけない」と思われがちですが、そうとは限りません。
二個の不動産について、それぞれ別個に売渡証書が作成されている場合であっても、売渡人・買受人が同一であり、売渡日付が同一であるときは、一の登記申請書により申請することができる。(登記研究第342号)
契約書の通数ではなく、当事者・原因・日付が一致しているかで判断する、というのがポイントです。相続の場合も、同じ被相続人から同じ相続人が受け継ぐのであれば、土地・建物を問わず1件で申請できます(登記研究第353号)。
申請書の書き方(記載例)
ここでは、一括申請のときに迷いやすい部分だけを、一般的な形でご紹介します。氏名・日付・持分はすべて架空のものです。実際の申請では、管轄法務局の記載例もあわせてご確認ください。
例1:所有権移転と持分全部移転を1件で申請する(売買)
土地1は甲野太郎の単独所有、土地2(私道)は甲野太郎が持分3分の1を持っている場合です。
登記の目的 所有権移転及び甲野太郎持分全部移転
原 因 令和8年10月1日売買
権 利 者 持分後記のとおり (住所)乙野花子
義 務 者 (住所)甲野太郎
(不動産の表示)
土地1 所在・地番・地目・地積
土地2 所在・地番・地目・地積
(移転する持分 3分の1)
- 権利者の欄に「持分後記のとおり」と書き、移す持分を不動産の表示の中に書く方法が、法務局や司法書士の解説で紹介されています。
- 課税価格は全物件の評価額の合計で、持分を移す物件は持分に応じた価格を使います。合計額の1,000円未満は切り捨てます(佐賀地方法務局のチェックリストより)。
例2:共有者全員持分全部移転(売買)
登記の目的 共有者全員持分全部移転
原 因 令和8年10月1日売買
権 利 者 (住所)丙山三郎
義 務 者 (住所)甲野太郎
(住所)乙野次郎
複数の物件をまとめる場合は、物件ごとに共有者の顔ぶれが同じであることを、登記事項証明書で必ず確認してください。
例3:相続で持分全部移転と所有権移転を1件で申請する
登記の目的 甲野太郎持分全部移転及び所有権移転
原 因 令和8年5月1日相続
相 続 人 (被相続人 甲野太郎)
持分後記のとおり (住所)甲野一郎
登記研究353号では「何某持分全部移転・所有権移転」という表記で紹介されており、法務局のチェックリストでは「所有権移転及び○○持分全部移転」の順で案内されています。どちらの順でも、所有権と持分のどちらを移すのかが分かることが大切です。
先例・登記研究の早見表
この記事で取り上げた先例・登記研究を一覧にまとめました。「確認状況」は、2026年10月時点で、司法書士の実務解説や法務局の資料により内容の裏付けが取れたかどうかを示しています。
| 先例・登記研究 | 内容 | 確認状況 |
|---|---|---|
| 昭和35年5月18日民甲第1186号 | 共有不動産を第三者に移す・共有者の一人が他の持分を取得する場合は1件で可 | 確認済み(司法書士の解説) |
| 登記研究342号 | 契約書が別でも、当事者・日付が同じなら1件で可 | 確認済み(司法書士の解説) |
| 登記研究353号115頁 | 相続で持分と所有権を1件で可。目的は「何某持分全部移転・所有権移転」 | 確認済み(司法書士の解説・法務局資料) |
| 登記研究437号 | 「乙持分全部、丙持分4分の1移転」として1件で可 | 確認済み(司法書士の解説) |
| 登記研究470号97頁 | 第三者の権利の登記がなければ、所有権移転と持分全部移転は1件で可 | 内容は確認済み(号数は原典未確認) |
| 登記研究546号152頁 | 「共有者全員持分一部移転」ではなく「甲持分6分の1、乙持分6分の1…移転」 | 確認済み(司法書士の解説) |
| 登記研究423号125頁 | 所有権移転と所有権一部移転は1件では不可 | 司法書士の解説による(原典未確認) |
| 昭和48年12月17日民三第9170号 | 売主が物件ごとに違う場合は1件では不可 | 司法書士の解説による(原典未確認) |
登記研究の質疑応答は、法務局の見解を知る手がかりとして実務で広く使われていますが、通達そのものではありません。迷うケースでは、管轄の法務局に事前に相談しておくと安心です。
一括申請できない主なケース
最後に、1件にまとめられない代表的なケースを整理しておきます。
- 物件が別々の法務局の管轄にある
- 売買の日付が物件ごとに違う
- 売主(義務者)や買主(権利者)が物件ごとに違う
- 一部の持分にだけ抵当権・差押えなどの登記がある
- 所有権移転と所有権一部移転を組み合わせる
まとめられない場合でも、同じ日に続けて申請する「連件申請」にすれば、手続を一度に進められます。
よくある質問
- 不動産登記の「一括申請」とは何ですか?
-
本来は1つの不動産ごとに作る申請情報を、複数の不動産についてまとめて1件で申請することです。不動産登記令4条ただし書により、同じ管轄内の不動産で、登記の目的・登記原因・その日付が同じときに認められています。実務では当事者が同じであることも必要と考えられています。
- 所有権移転と持分全部移転は、1件で申請できますか?
-
権利者・義務者・登記原因とその日付が同じで、移す持分に抵当権や差押えなどの第三者の権利の登記がなければ、1件で申請できるとされています(登記研究470号)。登記の目的は「所有権移転及び何某持分全部移転」のように書きます。
- 共有者全員持分全部移転で、物件ごとに持分が違う場合も一括申請できますか?
-
共有者の顔ぶれ、買主、原因とその日付がすべて同じであれば、どの物件も登記の目的は「共有者全員持分全部移転」で同じになり、まとめて申請できると考えられます。ただし、一部の共有者の持分にだけ抵当権などが付いている物件があると、分けて申請する必要があります。
- 共有者の住所変更登記は、まとめて申請できますか?
-
同じ登記名義人の住所変更であれば、複数の不動産をまとめて申請できます(不動産登記規則35条8号)。共有者全員が同時に同じ住所へ引っ越した場合も1件で申請できるとする登記研究(440号80頁ほか)がある、と司法書士の実務解説で紹介されています(原典は未確認です)。なお、2026年4月1日から住所変更登記は義務になっています。
- 一括申請できない場合は、どうすればよいですか?
-
申請書を分けて、同じ日に続けて申請する「連件申請」にするのが一般的です。分けたからといって登記ができなくなるわけではありませんので、迷ったときは無理にまとめず、分けて申請するのも一つの方法です。

まとめ
- 一括申請の根拠は不動産登記令4条ただし書。同じ管轄・同じ登記の目的・同じ原因と日付が条件で、実務では当事者の一致も必要です。
- 「所有権移転」と「持分全部移転」は、当事者・原因が同じで、移す持分に第三者の権利の登記がなければ1件で申請できます。目的は「所有権移転及び何某持分全部移転」。
- 物件ごとに持分が違っても、権利者欄に「持分後記のとおり」と書き、不動産の表示に持分を書けば、まとめて申請できます。
- 共有者全員持分全部移転は1件でできますが、一部の持分にだけ抵当権などがある場合は分けて申請します。
- 持分の一部を移すときは、誰の持分をどれだけ移すのかが分かるように登記の目的を書きます。
一括申請は、ほんの少しの条件の違いで「まとめられる・まとめられない」が分かれる、意外と奥の深い分野です。

