登記事項証明書を見て、「古い仮登記が残っている」と気づくケースは少なくありません。
仮登記があるだけで、不動産の売却や融資が止まることがあります。
この記事では、仮登記の基本から、抹消の方法、名義人が亡くなっている場合の対応、さらには「売買予約」「混同」「時効」など、実務で迷いやすい論点まで、順を追って分かりやすく整理します。
1. 仮登記とは?まずは「本登記」との違いから
登記には2種類あります。
一つは本登記、もう一つが仮登記です。
- 本登記
売買や相続などによって権利が確定したときに行う正式な登記。
これが終わると、法律上も正式な所有者になります。 - 仮登記
本登記のための条件(許可・契約書・支払いなど)がまだ整っていないときに、将来の権利を守るためにする“予備的な登記”です。
たとえば、農地法の許可待ち、売買の約束だけがあり代金未払の状態、死因贈与の効力がまだ始まっていない——こういったときに使われます。
仮登記をしておけば、あとから他の人が登記をしても、将来本登記をしたときに「自分の方が先だった」と主張できるという仕組みです。
つまり、仮登記とは「登記の順番取り」だと考えると分かりやすいです。
2. なぜ仮登記を抹消しなければならないのか
仮登記は一時的なものなので、本登記に進むか、不要なら抹消する必要があります。
古い仮登記を放置すると、
- 不動産の所有関係が不明確になる
- 売却や融資の審査で止まる
- 買主・銀行から「この土地、権利関係が怪しい」と敬遠される
というトラブルが生じます。
ですから、仮登記は「残しておくと困る登記」なのです。
3. 仮登記を抹消する3つの方法(不動産登記法に基づく)
(1)共同申請(原則)
不動産の所有者(登記権利者)と、仮登記の名義人(登記義務者)が一緒に申請します(不動産登記法60条)。
添付書類は以下のとおりです。
- 仮登記名義人の登記識別情報(または登記済証)
- 印鑑証明書
例:所有者Aの土地に、Bが「所有権移転請求権仮登記」をしている場合。
AとBが共同で法務局に抹消を申請します。
(2)仮登記名義人の単独申請(例外)
仮登記名義人が単独で抹消申請を行う方法です(不動産登記法110条前段)。
添付書類は、上と同じく
- 登記識別情報(または登記済証)
- 印鑑証明書
仮登記をした本人が「もうこの権利はいらない」と判断した場合などに利用されます。
(3)利害関係人の単独申請(もうひとつの例外)
所有者や抵当権者など、登記上の利害関係人が単独で申請することも可能です(不動産登記法110条後段)。
この場合、
- 仮登記名義人の承諾書(実印)+印鑑証明書
を添付します。
この方法では、権利証がなくても申請が可能です。
古い仮登記で登記済証を紛失している場合などに有効です。
4.よくある場面別の対応方法
(1)仮登記名義人の住所や氏名が変わっている場合
古い仮登記では、名義人の住所や氏名が現住所・現氏名と異なることがあります。
この場合、登記の変更は不要ですが、「同一人物であること」を証明する書類を添付します。
たとえば、住民票の除票や戸籍の附票、不在住・不在籍証明書などです。
(2)仮登記名義人が死亡している場合
仮登記名義人が亡くなっている場合、原則として相続登記を行い、相続人と共同で抹消登記を申請します。
ただし、仮登記の原因となった権利が時効や混同によって名義人の生前にすでに消滅している場合は、相続登記を経ずに直接抹消できるケースもあります。
(3)混同による抹消
「混同」とは、権利と義務が同じ人に帰属して消滅することをいいます。
たとえば、仮登記名義人が後にその土地の所有者となった場合、所有権移転請求権は不要となり、混同によって消滅します。
このときは「混同を原因とする抹消登記」を行います。
(4)所在不明・協力が得られない場合
仮登記名義人が行方不明であったり、抹消に協力してくれない場合は、裁判所に「仮登記抹消請求訴訟」を提起することができます。
判決が確定すれば、それを添付して抹消登記を申請することが可能です。
5.売買予約と予約完結権の時効
仮登記の原因で多いのが、「売買予約」に基づくものです。
これは、将来、買主が希望すれば売買契約を成立させられるという約束です。
買主が持つこの権利を「予約完結権」といいます。
売買予約の段階ではまだ所有権は移転していません。
ただし、買主が「買います」と意思表示をすれば、契約が自動的に成立します。
6.予約完結権の消滅時効(2020年民法改正)
予約完結権は「債権」です。
したがって、民法166条により、一定期間行使しないと時効により消滅します。
2020年3月31日以前に締結された契約は、10年間行使しないと時効消滅します。
一方、2020年4月1日以降の契約については、「権利を行使できることを知ったときから5年」または「行使できるときから10年」で消滅します。
つまり、改正後の契約は、実務上5年間行使しないと権利が失われる可能性があるということです。
民法第166条
- 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
- 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
- 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
- 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。
- 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
7.予約完結権が時効消滅した場合の扱い
仮登記そのものには時効がありません。
しかし、仮登記の基礎となる予約完結権が消滅すると、それを根拠とする「本登記請求権」もなくなります。
その場合、売主(またはその相続人)が「時効の援用」を行い、「時効消滅を原因とする仮登記抹消登記」を申請することができます。
8.農地の売買予約と時効の関係
農地の売買は、農地法の許可がなければ効力を生じません。
このため、売買予約に基づく仮登記では、「条件付き所有権移転仮登記(条件:農地法の許可)」がされることがあります。
農地法の許可を得るまで、買主は「農地法の許可申請協力請求権」という債権を持っています。
この権利も、改正民法により5年(旧契約は10年)で時効消滅します。
つまり、許可を得ないまま5年が経過すると、所有権移転請求権も失われ、仮登記の根拠がなくなります。
時効を防ぐためには、
- 売主と「確認書(念書)」を交わす
- 農地法の許可申請協力訴訟を提起する
などの方法で時効を中断させることができます。
なお、時効期間が経過しても、売主が時効を援用しなければ権利は消滅しません。
9.まとめ
仮登記は、将来の権利を守るための制度ですが、放置しておくと売却・融資・相続に大きな支障をきたすことがあります。
特に、売買予約や農地法許可を条件とする仮登記では、予約完結権や許可申請請求権がすでに時効消滅しているケースも多く見られます。
古い仮登記を整理するには、時効消滅・混同・承諾書添付など、ケースに応じた柔軟な方法が必要です。
登記事項証明書に「仮登記」とある場合は、早めに司法書士へ相談し、「残すべき仮登記」か「抹消すべき仮登記」かを確認することが、将来のトラブルを防ぐ一番の近道です。
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