
※本記事は2026年10月時点の情報に基づいて解説しています。
「母が元気なうちに、家族信託をしておきたいんです。実家は、母が亡くなったら兄と私と弟の3人で均等に。そのほうが公平ですし、誰も文句を言わないと思うので。」
家族信託のご相談では、このようなお話をよくうかがいます。
きょうだいを分けへだてなく扱いたい。親御さんも、お子さんたちも、その思いはとても自然なものです。
ただ、先に結論をお伝えします。実家の権利をそのまま「3等分」にする家族信託は、後になって「誰も動かせない実家」を生みやすい設計です。 公平にすること自体は大切です。けれども、「公平に分けること」と「権利を細かく分けること」は、同じではありません。
この記事では、きょうだいで実家の権利を分け合う家族信託に、どんな落とし穴があるのか。そして、公平さを保ちながら困らないようにするには、どう設計すればよいのかを、順にお話しします。
結論:「均等に分ける」は、後で「決められない」になりやすい
最初に、この記事の要点をまとめておきます。
- 家族信託では、実家の名義は受託者(管理を任された人)一人になります。そのため「共有の問題はない」と思われがちです
- けれども、実家から生まれる利益や価値を受け取る権利(受益権)をきょうだいで分けると、大事なことを決めるときに、全員の足並みがそろわないと進まない場面が出てきます
- さらに、きょうだいの誰かが亡くなるたびに、権利を持つ人が増えていくおそれがあります
- 信託が終わったときの渡し方を決めていないと、最後は実家がきょうだいの共有名義になり、信託をしなかった場合と同じ悩みに戻ってしまいます
「公平」は、お金の分け方で実現する。「決める人」は、なるべくはっきりさせておく。これが、私がお勧めしている考え方です。
「受益権をきょうだいで分ける」とは、どういう形?
家族信託の登場人物を、簡単におさらいしておきます。
- 委託者:財産を預ける人(この例ではお母様)
- 受託者:財産を預かって管理する人(たとえば長男)
- 受益者:財産から生まれる利益を受け取る人
最初はお母様ご自身が受益者になり、お母様が亡くなった後は、子ども3人が受益者になる。これが、冒頭のご相談で思い描かれている形です。
このとき、実家の登記簿上の名義は、受託者である長男一人です。ですから、見た目の上では「共有」ではありません。
しかし中身を見ると、実家の価値を受け取る権利は、3人で3分の1ずつ持ち合っている状態です。家を貸せば家賃を3等分し、売れば売ったお金を3等分する。言いかえると、実家の「財布」を3人で共有しているようなものです。
権利の持ち方には、細かく言うと「3人それぞれが3分の1の受益権を持つ形」と、「一つの受益権を3人で共有する形」があります。どちらになるかで当てはめる法律の条文が少し変わりますが、どちらの形でも、3人の意見がそろわないと進まない場面が出てくる点は同じです。
家族信託の基本的な仕組みについては、こちらの記事で詳しくご説明しています。
▶ あわせて読みたい:家族信託とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説
落とし穴① 大事なことは「受益者全員」で決めるのが原則
信託法には、受益者が2人以上いるときの決め方について、次のような決まりがあります。
受益者が二人以上ある信託における受益者の意思決定は、すべての受益者の一致によってこれを決する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。(信託法105条1項。一部省略)
つまり、契約で別の決め方を定めていなければ、受益者として何かを決めるときは「全員一致」が原則です。ただし、帳簿の閲覧や報告を求めることや、重要な理由があるときに受託者の解任を裁判所に申し立てることなどは、受益者が一人でもできます(信託法92条)。
委託者と受益者の合意や同意が必要になる場面としては、たとえば次のようなものがあります。
- 信託契約の内容を変更するとき(信託法149条)
- 受託者を解任したり、辞任を認めて新しい受託者を選んだりするとき(信託法57条・58条・62条)
- 信託を途中で終わらせるとき(信託法164条)
たとえば、受託者の長男が忙しくなって、管理を次男に代わってほしくなった。お母様が亡くなった後に、こうした変更をしようとしても、長女が「納得できない」と言えば話が止まってしまいます。さらに、お母様の委託者の立場を相続人に引き継がないと定めた契約では、お母様が亡くなると、いま挙げた条文の一部がそのままでは使えません。契約に定めがなければ、受託者の辞任や解任に裁判所の手続きが必要になったり、話し合いだけでは信託を終わらせられなかったりします(信託法57条6項・58条8項・164条4項)。お母様の亡き後の受託者の交代や信託の終わらせ方は、契約に書いておくことが大切です。
きょうだいの誰かが認知症になったら
もう一つ、見落とされがちなことがあります。受益者になったきょうだいの誰かが、将来、認知症などで判断が難しくなった場合です。
その方は、全員一致の話し合いに加わることができません。現在の制度では、その方のために成年後見人を家庭裁判所に選んでもらわなければ、手続きが進まないことがあります。
なお、成年後見制度は見直しが決まっています。2026年6月に成立した「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)により、後見・保佐の制度は補助の制度にまとめられ、本人に必要な範囲で利用する形に変わる予定です。施行は公布(2026年6月24日)から2年6か月以内の政令で定める日とされ、2028年12月までの見込みです。制度が変わっても、本人に代わって判断する人を家庭裁判所に選んでもらう手続きが必要になる場面は残ると考えられます。
親の世代だけでなく、子の世代の「もしも」まで考えておく。きょうだいで受益権を分けるときには、ここが大切になります。
落とし穴② 実家を売るとき、意見がまとまらない
お母様が亡くなり、実家が空き家になった。そんなとき、きょうだいの考えが分かれるのは、とてもよくあることです。
- 長女:「固定資産税もかかるし、傷む前に早く売りたい」
- 次男:「思い出のある家だから、しばらく残しておきたい」
- 長男:「売るより、人に貸したほうがいいのでは」
どれも、もっともな意見です。だからこそ、まとまりません。
法律上、受託者には信託財産を管理し、処分する権限があります(信託法26条)。契約で売却の権限をはっきり与えておけば、受託者の判断で売ること自体はできます。
一方で、親御さんの家を守るために「実家を売るときは受益者の同意を得る」と契約に書いているケースも少なくありません。親御さんがお元気なうちは安心につながる定めですが、お母様の亡き後は、その同意を3人全員から取らなければならないことになります。
同意を条件にしていない場合でも、受託者は受益者のために誠実に、ていねいに仕事をする義務を負っています(信託法29条・30条)。きょうだいの反対を押し切って売れば、「なぜその値段で売ったのか」と責められ、関係が悪くなることもあるでしょう。
決まらないまま時間が過ぎれば、家は傷み、税金や管理の費用はかかり続けます。
費用を誰が払うかでも、もめやすい
固定資産税や修繕費は、本来、信託した財産の中から払います。ところが、信託に入れたのが実家だけで、お金がほとんど入っていないと、「誰が立て替えるのか」「家賃収入がないのに払うのか」でもめることがあります。実家を信託するときは、管理費用にあてるお金もあわせて信託に入れておくと安心です。
落とし穴③ 次の相続で、権利を持つ人が増えていく
信託契約で「子の誰かが亡くなったら、その受益権は誰に行くのか」を決めていないと、その受益権は、亡くなった子の相続人に引き継がれるのが原則です。
たとえば、お母様の亡き後、次男が亡くなったとします。次男の受益権は、次男の奥様とお子さんたちに分かれて引き継がれるかもしれません。
最初は3人だった受益者が、5人、6人と増えていきます。その中には、実家に住んだこともなく、思い入れもない方がいるかもしれません。遠方に住んでいる方、未成年の方がいることもあります。
先ほどお話しした「全員一致」が、どんどん難しくなっていくのです。
信託法では、受益者が亡くなったら次は誰、その次は誰と、順番に受益者を指定しておくこともできます(信託法91条)。ただし、信託をしてから30年を過ぎた後は、新しく受益権を取得できるのは一度きりという期間の制限があります。いずれにしても、次の世代のことまで、最初に決めておくことが大切です。
落とし穴④ 信託が終わると、実家は「共有」になる
家族信託は、いつか終わります。終わったときに残っている財産は、契約で決めておいた人(帰属権利者)に渡されます(信託法182条)。
ここで「残った財産は、子3人に均等に」としか決めていないと、どうなるでしょうか。実家が不動産のまま3人に渡され、登記簿上も3人の共有名義になることがあります。
共有の不動産は、扱いがとても難しい財産です。
- 実家全体を売るには、共有者全員の同意が必要です
- 建物を大きく建て替えるような「変更」にも、原則として全員の同意が必要です(民法251条)
- 話し合いがつかなければ、裁判所に分け方を決めてもらうことになります(民法256条・258条)。土地や建物は簡単に切り分けられないため、誰かが買い取ってお金を払う方法や、最終的には競売になることもあります
2023年4月の民法改正で、行方の分からない共有者がいる場合などの手続きは少し使いやすくなりました。けれども、「全員の同意がないと売れない」という基本は変わっていません。
つまり、信託で一時的に共有を避けても、出口の設計をしていなければ、最後に共有の悩みがそのまま戻ってくるのです。
相続で実家の名義を誰にするかについては、こちらの記事でもお話ししています。
▶ あわせて読みたい:亡き父の実家、名義は「母」か「子」か?後悔しない選び方
「公平」と「動かしやすさ」を両立させる設計
では、きょうだい仲よく、公平に、しかも困らないようにするには、どう考えればよいのでしょうか。代表的な方法を4つご紹介します。
① 実家の受益者は一人に、ほかのきょうだいにはお金で
実家を継ぐ方、あるいは管理を担う方を一人決めて、お母様の亡き後の実家の受益者はその方だけにします。ほかのきょうだいには、預金や生命保険などで、バランスを取ります。
決める人が一人なので、売る・貸す・直すの判断がすっきりします。
ただし、実家の価値が大きく、ほかのきょうだいへのお金が足りない場合は、遺留分(法律で守られた最低限の取り分)の問題が出てくることがあります。
▶ あわせて読みたい:家族信託で遺留分は避けられる?「実家は長男に」を信託で考えるときの注意点
② 「売って、お金で分ける」と最初から決めておく
「実家は誰も住む予定がない」というご家庭では、最初から売ることを前提にした設計が向いています。
- 受託者に、実家を売る権限をはっきり与えておく
- 売る時期の目安(お母様が施設に入られたら、亡くなられたら、など)を決めておく
- 売ったお金を、きょうだいで3等分して渡すと決めておく
- 信託が終わるときも、不動産のままではなく、売ったお金で分けると決めておく
こうしておけば、「公平」はお金で実現しつつ、実家が共有で動かなくなることを防げます。
③ 受益者が複数のままなら、「決め方」を契約で決めておく
どうしても受益者を複数にしたい場合は、全員一致に頼らない仕組みを契約に入れておきます。
- 決め方を定める:信託法105条1項のただし書を使い、多数決で決める、特定の人の判断に従う、などと定めておく
- 受益者代理人を置く:受益者代理人とは、受益者に代わって権利を使う人です(信託法138条・139条)。信頼できる方を受益者代理人にしておけば、その方の判断で手続きを進められます。ただし、受益者代理人がいる間は、受益者本人は一部の権利しか自分で使えなくなるため(信託法139条4項)、誰にお願いするかは慎重に考える必要があります
④ 次の受益者と、最後に受け取る人まで決めておく
子の誰かが亡くなったときの受益権の行き先、そして信託が終わったときに財産を受け取る人(帰属権利者)を、最初から決めておきます。
権利を持つ人が雪だるま式に増えるのを防ぐには、ここがいちばん大切です。
そして何より、どの方法を選ぶにしても、きょうだい全員が設計の中身を知っていることが、後のもめごとを防ぐ一番の近道です。
当事務所で設計するとき、最初に確認すること
当事務所では、きょうだいが複数いらっしゃるご家庭の家族信託をお手伝いするとき、まず次のことを一緒に確認します。
- 実家に、将来住む予定のお子さんはいらっしゃるか
- 実家を「残したい」のか、「いずれ売ってお金で分けたい」のか
- 実家以外の財産(預金・保険など)で、きょうだいのバランスを取れるか
- 受託者になる方と、ほかのきょうだいの関係や住まいの距離
- 次の世代(お孫さん)まで見すえて、権利の行き先をどうするか
「均等に」というお気持ちを大切にしながら、10年後、20年後にも動かせる形を一緒に考えていきます。
まとめ
- 家族信託では名義は受託者一人になりますが、受益権をきょうだいで分けると、実質的には実家を「共有」しているのと同じ悩みが生まれます
- 受益者が複数いると、契約で別の定めをしない限り、受益者の意思決定は全員一致が原則です(信託法105条1項)
- 売るとき、受託者を代えるとき、契約を変えるときに、一人の反対や認知症で話が止まることがあります
- 次の受益者を決めていないと、相続のたびに権利を持つ人が増えていきます
- 信託が終わったときの渡し方を決めていないと、最後は実家が共有名義になることがあります
- 「受益者は一人に、ほかはお金で」「売って分ける前提で」「決め方や受益者代理人を定める」など、公平さと動かしやすさを両立させる設計が大切です
よくある質問
- きょうだいで受益権を均等に分ける家族信託は、してはいけないのですか?
-
してはいけないわけではありません。ただし、受益者が複数いると、契約で別の定めをしない限り、受益者の意思決定は全員一致が原則になります。均等に分けるなら、決め方や、信託が終わったときの渡し方まで、あわせて決めておくことが大切です。
- 受託者が一人なら、実家を売るときにほかのきょうだいの同意はいりませんか?
-
契約の内容によります。受託者には信託財産を処分する権限がありますが、契約で「売るときは受益者の同意が必要」としていれば、受益者全員の同意が必要です。同意を条件にしていない場合でも、受託者は受益者のために誠実に判断し、説明する責任を負います。
- 受益者になったきょうだいが認知症になったら、どうなりますか?
-
その方は受益者としての話し合いに加われなくなり、成年後見人などを選んでもらわないと手続きが進まないことがあります。成年後見制度は2028年12月までに見直される見込みですが、あらかじめ受益者代理人や決め方を契約で定めておくと備えになります。
- 家族信託が終わったら、実家はどうなりますか?
-
契約で決めておいた人(帰属権利者)に渡されます。帰属権利者を複数にして不動産のまま渡すと、実家がその方々の共有名義になり、売るには全員の同意が必要になります。「売ったお金で分ける」と決めておくなどの工夫が必要です。
- 受益者を一人にすると、ほかのきょうだいに不公平になりませんか?
-
実家以外の預金や生命保険などで、ほかのきょうだいとのバランスを取る方法があります。ただし、ほかのきょうだいの遺留分に届かない場合は、お金での支払いを求められることがあるため、財産全体を見て設計することが大切です。
西宮・阪神間の家族信託は、シアエスト司法書士・行政書士事務所へ
「きょうだいで公平に分けたいけれど、どう設計すればいいのか分からない」「実家を残すか売るか、まだ決めきれていない」。そうしたご相談も、どうぞそのままお聞かせください。ご家族それぞれのお気持ちをうかがいながら、将来困らない形を一緒に考えます。
シアエスト司法書士・行政書士事務所は、阪急西宮北口駅から徒歩3分。西宮市・芦屋市・宝塚市・尼崎市など、阪神間の皆さまからのご相談をお受けしています。
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出典・参考
- 信託法(平成18年法律第108号)26条・29条・30条・57条・58条・62条・91条・92条・105条・138条・139条・149条・164条・182条
- 民法(明治29年法律第89号)251条・256条・258条・264条
- 法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について

