
※本記事は2026年10月時点の情報に基づいて解説しています。
「父が亡くなりました。数年前に家族信託をして、私が受託者になっています。葬儀は何とか終えたのですが、信託のほうは、これから何をすればいいのでしょうか。」
家族信託を始めて何年かたつと、こうしたご相談をいただくようになります。始めるときは親御さんと一緒でも、終わるときは、残されたご家族だけで進めることになります。不安に思われるのは当然です。
先に結論をお伝えします。
親御さんが亡くなって信託が終わったら、受託者だった方が「後片付け」をして、契約で決めておいた方に財産を引き渡します。 信託に入っていた財産は、契約どおりに引き継がれるので、その分について遺産分割の話し合いをする必要は、原則としてありません。
ただし、登記や銀行の手続き、税金の申告は必要です。この記事では、やることを順番にまとめました。
結論:受託者だった方が後片付けをして、決めた方へ引き渡します
家族信託が終わったときの後片付けを、法律では「清算(せいさん)」といいます(信託法175条)。
清算をするのは、信託が終わったときの受託者です。法律上は「清算受託者」と呼ばれます(信託法177条)。多くの場合、親御さんの財産を管理してきたお子さんが、そのまま清算受託者になります。
清算受託者の仕事を一言でいうと、
- 残っている用事を片付け、支払いを済ませ
- 残った財産を、契約で決めた方に引き渡し
- 最後に「こうしました」と計算を報告して、承認をもらう
という流れです。この3つが終わるまでは、信託はまだ続いているものとみなされます(信託法176条)。
まず、契約書の3か所を確認しましょう
手続きを始める前に、信託の契約書(公正証書になっていることが多いです)を手元に用意して、次の3つを確認してください。
① 本当に、信託は終わったか
契約書の「信託の終了」の条文を見ます。「委託者(受益者)が死亡したときに終了する」と書いてあれば、親御さんが亡くなった時点で信託は終わっています(信託法163条9号)。
ただし、契約によっては、「父が亡くなったら、次は母が受益者になる」と決めていることがあります。その場合、父が亡くなっても信託は終わらず、お母さまのために続いていきます。この記事の手続きは、お母さまが亡くなって信託が終わったときに必要になります。
② 後片付けをするのは誰か
ふつうは受託者がそのまま清算受託者になりますが、契約で別の方を決めていることもあります。受託者だった方が先に亡くなっている場合は、次の受託者が誰になっているかも確認します。
③ 残った財産を受け取るのは誰か
契約書には、信託が終わったときに財産を受け取る方が決めてあるはずです。法律では「帰属権利者(きぞくけんりしゃ)」などと呼びます(信託法182条1項)。
もし契約に定めがない場合は、委託者(親御さん)の相続人などが受け取る、と法律で決められています(同条2項)。この場合は、相続人の間で調整が必要になることがあり、手続きが複雑になりがちです。
手続きの全体の流れ
おおまかな順番は、次のとおりです。
| 時期の目安 | やること |
|---|---|
| 亡くなってすぐ | 契約書の確認、受け取る方・関係者への連絡 |
| 亡くなった月の翌月末まで | 税務署への「受益者別調書」の提出(必要な場合) |
| 数か月以内を目安に | 支払いの整理、実家などの名義の変更(登記)、預金の引き渡し |
| 引き渡しが済んだら | 最終の計算をして、受け取った方などの承認をもらう |
| 亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内 | 相続税の申告(必要な場合) |
以下、順番に見ていきます。
支払いを済ませてから、財産を引き渡します
先に「払うべきもの」を払う
清算受託者は、信託に関わる支払いを済ませてからでなければ、残った財産を引き渡してはいけない、とされています(信託法181条)。支払いに必要なお金を取り分けておけば、先に引き渡すこともできます。
たとえば、次のようなものです。
- 信託に入っている不動産の固定資産税
- マンションの管理費・修繕積立金
- 賃貸物件があれば、預かっている敷金を受け取る方へ引き継ぐことや、借りている方への、貸主が変わることの連絡
- 信託の中で借入れをしている場合は、その返済や引継ぎの相談
親御さん個人の支払いは、別のこともあります
注意していただきたいのは、親御さん個人の入院費や施設の利用料、葬儀費用などを、信託のお金から払ってよいかどうかは、契約の書き方によることです。信託の外にある親御さんご自身の支払いは、相続の手続きの中で扱うのが原則です。迷ったら、払う前にご相談ください。
受け取る方は、清算中は「受益者」と同じ立場です
財産を受け取る方(帰属権利者)は、清算が終わるまでの間、受益者とみなされます(信託法183条6項)。清算受託者に対して、報告を求めることなどもできる立場です。手続きの進み具合は、こまめに伝えておくと安心です。
実家の名義と、預金を引き渡す
実家などの不動産:2つの登記を同時に
信託に入っている不動産は、登記簿の上では受託者の名義になっています。これを受け取る方の名義に移すために、
- 受託者から受け取る方への所有権移転の登記
- 信託の登記の抹消
を、同時に申請します(不動産登記法104条1項)。受託者だったお子さんが、そのまま受け取る方でもある、という場合も同じ手続きです。
登記には、信託が終わったことを示す書類(亡くなったことが分かる戸籍など)や、契約書の内容を確認できる資料が必要になります。
預金:信託口口座などからの引き渡し
受託者名義の口座(信託口口座など)にあるお金は、受け取る方へ引き渡し、口座を解約します。銀行によって、必要な書類や手順がかなり違います。早めに銀行へ連絡して、何が必要かを確認しておきましょう。
税務署への「受益者別調書」
信託が終わったとき、受託者は、終わった月の翌月末日までに、税務署へ「受益者別調書」という書類を出す必要があります(相続税法59条3項3号)。信託財産の価額が50万円以下の場合などは、出さなくてよいとされています(相続税法施行規則30条7項)。
葬儀や相続の手続きで慌ただしい時期ですので、期限を忘れないよう注意してください。
最後に「計算」を報告して、承認をもらいます
引き渡しまで済んだら、清算受託者は、信託の事務についての最終の計算をして、受け取った方などに承認を求めなければなりません(信託法184条1項)。
具体的には、「信託が終わったときに、どんな財産がいくらあったか」「何にいくら払ったか」「誰に何を引き渡したか」をまとめ、通帳の写しや領収書と一緒にお渡しする形が一般的です。
承認を求められてから1か月以内に異議が出なければ、承認したものとみなされます(同条3項)。承認されると、不正がない限り、清算受託者としての責任は免除されたものとみなされます(同条2項)。
これは、受託者を務めたお子さんご自身を守るための大切な区切りでもあります。ふだんから帳簿や記録をつけておくと、最後の計算がぐっと楽になります。
税金:登録免許税・不動産取得税・相続税
相続税:亡くなった方から「遺贈」で受け取ったと扱われます
信託が終わって財産を受け取った方は、税金の上では、亡くなった親御さんから遺贈(遺言でもらうこと)によって受け取ったものとみなされます(相続税法9条の2第4項)。
ですから、ほかの相続財産と合わせて相続税の基礎控除を超える場合は、相続税の申告が必要です。期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。
信託に入っていた自宅について、小規模宅地等の特例(自宅の土地の評価を下げる特例)が使えるかどうかも、要件を満たせば検討の対象になります。税理士とよく相談してください。
登録免許税:条件を満たせば「相続」と同じ税率に
不動産の名義を移す登記には、登録免許税がかかります。
- 原則:不動産の価額の2%(登録免許税法 別表第一1(二)ハ)
- 次の条件をすべて満たすと、相続と同じ0.4%(登録免許税法7条2項)
- 信託が始まったときからずっと、委託者(親御さん)だけが受益者だったこと
- 受け取る方が、信託が始まったときの委託者の相続人であること
これに加えて、信託の登記の抹消に、不動産1個につき1,000円がかかります(登録免許税法 別表第一1(十五))。
いちばんよくある「親御さんが委託者兼受益者で、亡くなったら終わり、お子さんが受け取る」という一代限りの信託なら、0.4%で済むことが多いと考えられます。名古屋国税局の文書回答(平成30年12月18日)でも、そうした形の信託で、受託者兼受け取る方になったお子さんの登記に0.4%が使えるという見解が示されています。ただし、その事例では、契約で「委託者の地位」もお子さんが引き継ぐ形になっていました。
一方で、父が亡くなった後に母が受益者になる形や、相続人ではない方(お孫さん、お子さんの配偶者など)が受け取る形では、2%になることがあります。契約の書き方で結論が変わりうるところですので、信託をつくる段階から確認しておくことが大切です。
不動産取得税:かかるかどうかは、県の判断です
不動産取得税にも、同じような考え方で税金をかけない定めがあります(地方税法73条の7第4号)。ただ、条件がこまかく、契約の形によっては税金がかかることもあります。かかるかどうかを判断するのは、不動産のある都道府県です。
兵庫県内の不動産なら、受け取る前に県税事務所へ確認しておくと安心です。
税金は「つくるとき」に確かめておくのがいちばん
ここまでの税金は、どれも契約の書き方しだいで結論が変わりうるものです。親御さんが亡くなってからでは、契約を直すことはできません。
ですから、税金の見通しは、信託をつくる段階で、税理士や県税事務所とあわせて確かめておくことをお勧めします。すでに信託をしている方は、終わるときに慌てないよう、一度契約書を見直しておくと安心です。
信託の外にある財産も、忘れずに
家族信託に入れていたのは、実家と一部の預金だけ、という方がほとんどです。信託に入っていない財産は、ふつうの相続の手続きになります。
- 遺言があれば、遺言のとおりに
- 遺言がなければ、相続人全員で遺産分割の話し合いをして
分けることになります。信託の手続きと相続の手続きが同時に進みますので、どちらの財産がどちらの手続きなのか、最初に一覧にして整理しておくと混乱しません。
また、信託で特定のお子さんに財産が集まった場合、ほかのお子さんから遺留分を請求される可能性があることも、知っておいてください。
▶ あわせて読みたい:家族信託で遺留分は避けられる?「実家は長男に」を信託で考えるときの注意点
当事務所でお手伝いできること
信託が終わったときの手続きは、登記・銀行・税金・相続と、いくつもの手続きが重なります。当事務所では、次のようなお手伝いをしています。
- 契約書を読み解き、「何を、誰に、どの順番で」引き渡すかの整理
- 不動産の名義変更(所有権移転と信託の登記の抹消)
- 最終の計算書づくりのお手伝い
- 信託の外の財産の相続手続き、遺産分割協議書の作成
- 相続税の申告が必要な場合の、税理士へのおつなぎ
また、これから家族信託を始める方には、「終わるときに、ご家族が困らない契約」をご提案しています。受け取る方の決め方ひとつで、終わるときの税金や手続きの手間が変わるからです。
まとめ
- 親御さんが亡くなって信託が終わったら、受託者だった方が「清算受託者」として後片付けをします
- まず契約書で、①本当に終わったか、②後片付けをするのは誰か、③受け取るのは誰か、を確認します
- 支払いを済ませてから、実家の登記や預金の引き渡しをします
- 最後に計算を報告して承認をもらえば、清算受託者の責任は区切りがつきます
- 受け取った財産は相続税の対象です。登記の税率は、信託の形によって0.4%か2%に分かれます
- 信託の外の財産は、遺言や遺産分割で、別に手続きをします
よくある質問
- 親が亡くなったら、家族信託は自動的に終わりますか?
-
契約に「委託者(受益者)が亡くなったら終了する」と定めてあれば、亡くなった時点で終わります。ただし、「次は母が受益者になる」などと定めている場合は、信託は続きます。まずは契約書の「信託の終了」の条文を確認してください。
- 信託に入っていた財産も、遺産分割の話し合いが必要ですか?
-
原則として必要ありません。信託の財産は、契約で決めた方に引き継がれます。ただし、契約に受け取る方の定めがない場合は、相続人などが受け取ることになり、調整が必要になることがあります。信託に入っていない財産は、遺言か遺産分割で分けます。
- 信託が終わって受け取った財産に、相続税はかかりますか?
-
かかります。税金の上では、亡くなった親御さんから遺贈で受け取ったものとみなされます(相続税法9条の2第4項)。ほかの財産と合わせて基礎控除を超えれば、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に申告が必要です。
- 実家の名義を変える登記の税金は、相続のときと同じですか?
-
信託が始まったときから親御さんだけが受益者で、受け取る方が親御さんの相続人なら、相続と同じ0.4%になることが多いです(登録免許税法7条2項)。ただし、契約の書き方によっては2%になることもあるため、信託をつくる段階での確認をお勧めします。このほか、信託の登記の抹消に不動産1個につき1,000円がかかります。
- 受託者だった私が、最後にしなければならないことは?
-
信託の事務についての最終の計算をして、受け取った方などに承認を求めます(信託法184条)。求めてから1か月以内に異議がなければ、承認したものとみなされます。あわせて、信託が終わった月の翌月末日までに、税務署へ受益者別調書を出す必要があるかも確認してください。
西宮・阪神間の家族信託は、シアエスト司法書士・行政書士事務所へ
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「親が亡くなって、信託の手続きをどう進めればいいか分からない」「これから信託を始めるので、終わるときのことまで考えておきたい」。そう思われたときが、ご相談のタイミングです。まずはお気軽にお問い合わせください(TEL 0798-31-5930)。
出典・参考
- 信託法163条・175条・176条・177条・181条・182条・183条・184条
- 不動産登記法104条
- 相続税法9条の2・27条・59条
- 相続税法施行規則30条
- 登録免許税法7条・別表第一
- 地方税法73条の7
- 名古屋国税局 文書回答事例「信託の終了に伴い、受託者兼残余財産帰属権利者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」(平成30年12月18日)
- 東京国税局 文書回答事例「信託契約の終了に伴い受益者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」(平成29年6月22日)

