成年後見の首長申立て(市町村長申立て)とは?身寄りのない方の後見、件数の推移・費用の負担・西宮市の窓口と、元気なうちにできる備え【西宮の司法書士が解説】

※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。

「近所で一人暮らしをしている高齢の方が、最近お金の管理ができなくなっているようだ。親族とは連絡がつかないらしい」
「自分には頼れる家族がいない。認知症になったら、誰が手続きをしてくれるのだろう」

判断能力が衰えた方の財産や契約を守る成年後見は、本人や家族が家庭裁判所に申し立てて始まるのが基本です。けれども、身寄りがない、親族がいても連絡がつかないなどの事情で、申し立てる人がいないことがあります。そのようなときに、市町村長が本人に代わって申し立てるのが「首長申立て(市町村長申立て)」です。西宮市では「市長申立て」と呼ばれています。

この記事では、首長申立ての仕組み、どんな場合に使われるか、件数の推移、費用と後見人の報酬の負担、西宮市の窓口、そして元気なうちにできる備えをお話しします。成年後見の費用全体については、次の記事で説明しています。

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目次

先に結論:申し立てる人がいないとき、市町村長が申し立てます

  • 本人や親族が申し立てられない場合に、福祉のため特に必要があると認めるときは、市町村長が後見・保佐・補助の開始を家庭裁判所に申し立てることができます(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健福祉法51条の11の2)
  • 2025年に市区町村長が申し立てた事件は10,139件で、申立人全体の約23.7%でした。2021年から2024年までは、申立人の中で最も多くなっていました(最高裁判所「成年後見関係事件の概況」)
  • 申立ての費用は申し立てた市がいったん負担し、本人に資力があれば本人の負担とするよう家庭裁判所に求めることがあります。後見人の報酬は本人の財産から払い、財産が乏しい場合は市の助成があります
  • 西宮市では、65歳以上の方などは「くらし支援課」、知的障害・精神障害のある方などは「障害福祉課」が窓口です。身近な相談先として地域包括支援センターや権利擁護支援センターがあります
  • 本人が元気なうちであれば、任意後見・遺言・死後事務委任などで、自分の意思で備えておくことができます

1. 首長申立て(市町村長申立て)とは

申し立てられる人は、法律で決まっています

成年後見(後見・保佐・補助)の申立てができるのは、本人、配偶者、4親等内の親族、検察官などです(民法7条・11条・15条)。本人の判断能力が衰えていて、申し立てられる親族もいなければ、手続を始められません。

そこで、福祉の法律が、市町村長にも申立てを認めています。

法律対象になる方条文
老人福祉法65歳以上の方32条
知的障害者福祉法知的障害のある方28条
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律精神障害のある方51条の11の2

いずれも、「市町村長は、…その福祉を図るため特に必要があると認めるときは」、後見開始・保佐開始・補助開始などの審判を請求できる、と定めています。東京23区では区長が申し立てるため、統計では「市区町村長」と書かれています。

市町村には、後見人を担う人を育てる役割もあります

老人福祉法32条の2などは、市町村が、後見などの仕事を適正に行える人材の育成や、家庭裁判所への推薦などに努めることも定めています。西宮市でも、権利擁護支援の担い手を養成する研修が行われています。

2. どんな場合に首長申立てが使われるか

西宮市の取扱いでは

西宮市の「市長申立に関する取扱要綱」(2026年4月1日施行)では、市長申立てができる場合として、次のものが挙げられています。

  1. 本人に配偶者や2親等内の親族がいないとき
  2. 親族がいても申立てをしない状況にあるとき、または本人と親族が音信不通のとき
  3. 親族による虐待やそのおそれがあるとき
  4. そのほか、本人の福祉を図るため特に必要があるとき

対象となるのは、認知症や知的障害、精神障害などのために日常生活を営むのに支障がある方や、家族などから虐待を受けている(またはそのおそれがある)方などです。

親族の調査

市は申し立てる前に、本人の健康状態などとあわせて、配偶者と2親等内の親族(親・子・兄弟姉妹・祖父母・孫など)がいるかを調べます。親族がいれば、まず親族に申立ての必要性を説明して、親族による申立てを促します。2親等内の親族がいなくても、3親等・4親等の親族で申立てをする人がはっきりしているときは、市長申立ては行わないとされています(西宮市の要綱、厚生労働省の考え方)。

厚生労働省の資料では、親族が申し立てる意向を示さないことや、親族の同意が得られないことを理由に、市町村長申立ての手続を止めず、迅速に進めるよう求められています。虐待など急ぐ事案では、調査を簡略にして進めることもあります。

どの市町村が申し立てるか

原則は本人の住所地の市町村ですが、他の市の施設に入っている方などは、介護保険や障害福祉サービス、措置を受け持つ市町村が申し立てることがあります(西宮市の要綱・厚生労働省の資料)。

申立ての後に始まる支援

成年後見の申立ての動機は、全体では「預貯金等の管理・解約」が最も多く、「身上保護」「介護保険契約」「不動産の処分」と続きます(最高裁判所「成年後見関係事件の概況」令和7年)。身寄りのない方の場合も、施設に入る契約や、年金・預金の管理、悪質な訪問販売などの被害を防ぐことが、後見人の大切な仕事になります。

3. 数字で見る:首長申立ての件数の推移

最高裁判所が毎年公表している「成年後見関係事件の概況」では、市区町村長が申し立てた件数は次のとおりです。

年件数申立人全体に占める割合
2015年(平成27年)5,993件約17.3%
2021年(令和3年)9,185件約23.3%(申立人の中で最多)
2022年(令和4年)9,229件約23.3%(最多)
2023年(令和5年)9,607件約23.6%(最多)
2024年(令和6年)9,980件約23.9%(最多)
2025年(令和7年)10,139件約23.7%(本人に次いで2番目)

10年前と比べると、件数は約1.7倍になりました。2025年は、本人が申し立てたもの(約24.8%)がわずかに上回り、市区町村長は2番目でしたが、件数そのものは増え続けています。なお、前年の件数は、翌年の資料で少し直されることがあります(2024年は、2025年の資料では9,979件)。

神戸家庭裁判所の管内では

同じ資料の家庭裁判所の管内別の数字では、2025年の神戸家庭裁判所の管内(兵庫県)は、申立て2,363件のうち市区町村長の申立てが281件(約11.9%)で、全国の割合より低くなっています。市区町村ごとの件数は公表されていません。

背景にあること

厚生労働省の資料では、認知症の高齢者は2022年に約443万人と推計され、2040年には約584万人になると見込まれています。いっぽうで、低所得の方の申立て費用や報酬を助成する事業は、市町村によって実施の状況が違うことも指摘されています。首長申立てが増えていることは、身寄りのない方を支える仕組みが動いている表れでもありますが、本人が元気なうちに自分で備えておく大切さも示しています。

4. 費用と後見人の報酬は、誰が負担するか

申立ての費用:市がいったん負担します

家庭裁判所の手続の費用は、原則として申し立てた人が負担します(家事事件手続法28条1項)。首長申立てでは、申し立てた市が負担することになります。

西宮市の要綱では、市長が負担できる費用として、申立手数料、郵便切手などの送達・送付費用、後見登記手数料、鑑定費用が挙げられ、必要に応じて診断書の作成費用も負担できるとされています。

ただし、後見人などが選ばれた後、本人に資力がある場合は、家庭裁判所に「費用を本人の負担とする」よう求める申立て(家事事件手続法28条2項)をして、後見人を通じて本人に請求(求償)することがあります。本人が生活保護を受けている場合や、家庭裁判所が本人の負担と認めなかった場合などは、請求しないとされています。

後見人の報酬:本人の財産から払います

後見人などの報酬は、申立てをしたのが誰であっても、家庭裁判所が金額を決め、本人の財産から支払われます(民法862条)。首長申立ての事件では、親族の候補者がいないことが多いため、専門職などが後見人に選ばれることが多いと考えられます。

本人の財産が乏しく、報酬を払うのが難しい場合は、市町村の成年後見制度利用支援事業による報酬の助成があります。西宮市では、市長が申し立てて資産・貯蓄が乏しい方や生活保護を受けている方などを対象に、在宅の方は月額28,000円、施設に入っている方は月額18,000円を上限に、報酬を助成しています(2026年10月1日改正の要綱)。

費用首長申立ての場合
申立手数料・登記手数料・郵便切手市がいったん負担。本人に資力があれば本人の負担とするよう求めることがある
鑑定費用同じ
診断書の作成費用必要に応じて市が負担できる
後見人などの報酬本人の財産から。財産が乏しければ市の助成の対象になりうる

専門職が後見人に選ばれた場合の報酬の目安は、次の記事で詳しく説明しています。

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5. 西宮市の窓口(2026年10月時点)

西宮市の公式ページで確かめられた窓口は、次のとおりです。

相談したいこと窓口
身寄りがなく、申立てができない(65歳以上の方など介護保険の被保険者)西宮市役所 くらし支援課(市役所南館)
身寄りがなく、申立てができない(知的障害・精神障害のある方など)西宮市役所 障害福祉課(市役所本庁舎)
高齢の方の暮らしの相談お住まいの地域の地域包括支援センター
障害のある方の相談お住まいの地域の基幹相談支援センター
成年後見の利用や権利擁護の専門的な相談西宮市高齢者・障害者権利擁護支援センター(西宮市総合福祉センター内。後見人などの候補者の紹介や申立ての相談、弁護士・司法書士・社会福祉士などによる無料の専門相談会(予約制))

ご近所の方や、ケアマネジャー・施設の職員などが「この方は申立てが必要かもしれない」と気づいたときは、まず地域包括支援センターや市の窓口に相談するのが一般的な流れです。市長申立てをするかどうかは、市が本人の状況や親族の有無を調べたうえで判断します。

西宮市にお住まいの方の申立ては、神戸家庭裁判所尼崎支部が受け持ちます。

6. 身寄りのない方が、元気なうちにできる備え

首長申立ては、申し立てる人がいない方を守るための大切な仕組みです。ただ、後見人を選ぶのは家庭裁判所で、本人が知らない人が選ばれることもあります。判断能力があるうちなら、自分で選んだ人に、自分で決めた内容を頼んでおくことができます。

任意後見契約

将来、判断能力が衰えたときに備えて、財産の管理や介護・施設の契約などを任せる人と内容を、元気なうちに決めておく契約です。公正証書で結び(任意後見契約法3条)、判断能力が衰えた後に家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から効力が生じます(同法2条1号・4条)。頼れる家族がいない方が誰に頼めるかは、次の記事で説明しています。

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見守り契約・財産管理の契約

任意後見が始まるまでの間、定期的に連絡を取って様子を確かめてもらう「見守り契約」や、体が不自由になったときに財産の管理を頼む契約を、任意後見とあわせて結んでおく方法もあります。

遺言

身寄りのない方が遺言を残さずに亡くなり、相続人もいない場合は、財産は家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人の手続を経て、最後は国のものになることがあります。お世話になった方や団体に財産を残したいときは、遺言で決め、遺言の内容を実現する遺言執行者も指定しておきます。

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死後事務委任契約

葬儀、納骨、役所への届出、住まいの片付けなど、亡くなった後の手続を頼んでおく契約です。今の制度では、成年後見人が本人の死亡後にできることは、相続財産の保存や火葬・埋葬の契約など一部に限られています(民法873条の2)。亡くなった後のことまで考えておくと安心です。

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費用をかけにくい場合は、つながりを持っておく

専門家との契約には費用がかかります。費用をかけにくい場合でも、地域包括支援センターや社会福祉協議会、民生委員などの身近な相談先とつながっておくと、困ったときに早く支援につながりやすくなります。西宮市の権利擁護支援センターの無料の専門相談会も、成年後見の利用を考えるときの相談先になります。

7. 改正法でどう変わるか(施行前)

2026年6月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)で、成年後見制度は大きく変わります。法務省の概要資料によると、首長申立てや身寄りのない方に関わる主な変更は次のとおりです。

  • 「補助」に一本化:後見・保佐は廃止され、本人に必要な事項について補助人に権限を付ける制度になります。制度を使う必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、利用を終えられます(新しい民法12条)
  • 市区町村長への意見の聴取:家庭裁判所が必要と認めるときは、市区町村長などに、本人の心身の状態や生活の状況について意見を求められることが明確になります(新しい家事事件手続法120条)
  • 申立てを任せる人を指定できる:本人が公正証書で指定した人も、任意後見契約を発効させる申立てや、補助開始の申立てができるようになります。親族でなくても、自分の生活を知っている人に、将来の申立てを託せるようになります
  • 亡くなった後の手続:補助人にも、本人の死亡後の火葬・埋葬の契約などの権限が認められます(新しい民法876条の26)

あわせて、関係する法律を整える法律(令和8年法律第46号)も成立しています。市町村長申立ての根拠となる福祉の法律の条文も、新しい制度に合わせて整えられる見通しです。

施行は「公布の日から2年6か月を超えない範囲で政令で定める日」で、2026年10月時点では日付が決まっていません。改正の全体像は、次の記事でまとめています。

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8. 備えのチェックリスト

  1. 頼れる人を書き出す:親族、友人、知人のうち、将来のことを頼める人がいるかを考えます
  2. 任せたいことを書き出す:預金の管理、介護や施設の契約、入院の手続、亡くなった後の手続など
  3. 任意後見を考える:任せたい人がいれば、任意後見契約と見守り契約を検討します。いなければ、専門職や法人に頼む方法も含めて考えます
  4. 遺言を書く:財産を誰に残すか、遺言執行者を誰にするかを決めます
  5. 死後事務を頼む:葬儀・納骨・片付けなどを誰に頼むかを決め、契約や費用の準備をします
  6. 相談先とつながる:地域包括支援センターや権利擁護支援センターの場所と連絡先を控えておきます

よくある質問

首長申立てと市長申立ては、同じものですか?

同じ仕組みです。法律では「市町村長」が申し立てると定められていて、一般に「首長申立て」「市町村長申立て」と呼ばれます。西宮市では市長が申し立てるため「市長申立て」と呼ばれています。

親族がいるのに、市長が申し立てることはありますか?

あります。親族がいても申立てをしない場合や、音信不通の場合、親族による虐待やそのおそれがある場合などです。ただし、3親等・4親等の親族で申立てをする人がはっきりしているときは、市長申立ては行わないとされています。

首長申立ての費用は、市がすべて負担してくれるのですか?

申立ての費用は市がいったん負担しますが、本人に資力があれば、家庭裁判所に本人の負担とするよう求め、後で本人に請求することがあります。後見人の報酬は本人の財産から払い、財産が乏しい場合は市の助成の対象になりえます。

近所の一人暮らしの高齢の方が心配です。どこに相談すればよいですか?

西宮市では、まずお住まいの地域の地域包括支援センターや、市のくらし支援課に相談するのが一般的です。市長申立てをするかどうかは、市が本人の状況や親族の有無を調べたうえで判断します。

身寄りがありません。首長申立てにならないよう、今できることはありますか?

判断能力があるうちなら、信頼できる人と任意後見契約を結んでおく、遺言を書く、死後事務を頼んでおくなどの方法があります。自分で選んだ人に、自分で決めた内容を頼めるのが、元気なうちに備える一番の利点です。

まとめ

首長申立て(市町村長申立て)は、身寄りがない、親族が申し立てないなどの事情で申し立てる人がいない方のために、市町村長が家庭裁判所に成年後見などを申し立てる仕組みです。2025年は全国で10,139件、申立人全体の約23.7%を占め、10年前の約1.7倍に増えています。申立ての費用は市がいったん負担し、本人に資力があれば本人の負担とされることがあります。後見人の報酬は本人の財産から払い、財産が乏しければ市の助成があります。

首長申立ては大切な安全網ですが、誰が後見人になるかは家庭裁判所が決めます。元気なうちであれば、任意後見・遺言・死後事務委任などで、自分の意思にそった備えをしておくことができます。

任意後見や遺言、死後事務など、身寄りのない方の将来に向けた備えのご相談や、成年後見の申立書類の作成のご相談は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。何を誰に頼みたいかの整理から、順を追ってご案内します。

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出典・参考

代表司法書士・行政書士 今井 康介

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